4章15 ウメダ 銀行強盗(10)
俺は、ある暴力団事務所に所属していた。どこにも行き場のない俺たち3人を拾ってくれたのが、この事務所の社長だった。
毎日、町でブラブラとせこい悪さばかりやっている時に、組員だったリュウのアニキに誘われたのがきっかけだ。
俺たちのボスは決して善良な人間じゃあなかった。というか、犯罪ばかりやっていた。
それでも、俺たちのことを自分の弟のように大切にしてくれていた。毎日、同じ釜の飯を食い、夜には酒を酌み交わした。
アニキは料理を教えてくれた。ボスはいろんな賭け事を教えてくれた。
楽しかった。仲間の一員として生きてるって実感したのは、この時だけだ。
だが、その仲間たちは全員殺されてしまった。
ある時、俺とマツ、タケは事務所で留守番をしていた。
組員は、会社の金を横領したっていう重役を脅しに出かけていた。そこで何者かの襲撃を受けたらしかった。
リュウのアニキ1人だけが、血まみれで帰って来ると、俺をつかんで「逃げろ!」と言った。俺たちは隠してあった武器を持ってアニキを病院に運んだ。
しかし手遅れだった。事務所に戻らず、直接病院に行っていれば助かったかもしれない。
アニキは、なんで戻って来たのか?
ボスたちはなんで殺されちまったのか?
分からないまま、俺たちは泣きに泣いた。
後になって事務所に戻ると、そこは滅茶苦茶に荒らされており、金目のもの、武器になるものは全て持ち去られていた。
夢のような記憶の断片が、コーヒーに溶けるミルクのように薄まり、目の前に光が広がってきた。
目の前の緞帳がゆっくり上がると、俺は喫茶店の床に座っている。マツとタケが、血だらけの肩を押えて苦しそうにしている。
女に心臓を撃たれたことを思い出した。
自分の胸を見ると、シャツが赤く染まっている。
「い、生きてい……」
俺が声を出そうとすると、店員の娘が「しっ!」っと言って、指を俺の唇に当てた。そして顔を近づけて、囁くように言う。
「静かに……。彼女はウメダさんのこと死んだって思ってる……」
「アニキ……」
「アニキ、生きてて、ホント良かった」
マツとタケが涙目で俺を見つめる。
「マツ……、タケ……」
「ウメダさん。危ないから、もう少し、死んだふりしてて」
「あ、ああ……」
「ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
「ああ」
「あのウメダさんたちが持ってた拳銃ってみんな本物?」
「もちろんだ」
「弾も?」
「ああ、実弾だ。強盗前に試し撃ちもしてる」
「ありがと……」
娘は遠くを見て考えているようだ。
俺も考えていた。
俺はあの時、死んでいたはずだ。でも、こうして生きている。奇跡と言ってもいい。
なぜ、俺は銃で撃たれて生きている?
何のために生きているんだ?
……。
俺は、何のために生きてきたんだ?