4章10 マスター 喫茶イコイ(9)
男性客と、銃を持った女性が交渉をしている。
「金を全部渡したら、これ以上誰も傷つけないで、この場を去ってくれるのか?」
「ええ、もちろん……」
私は、鼻から上をカウンターの上に出してそれを見ていた。その時、
「異議あり!!」
と、アマミの声が響いた。
ちょ、ちょっと、アマミさん……、あなたは何をしようとしているの?……。撃たれた人の手当てはどうしたのかな?……。
彼女がカウンター右の壁から前に進み出て、姿を現した。
銃の女性が、不思議そうな顔でアマミを見る。私はアマミに声をかけた。
「アマミさん。これ以上、出しゃばらないで……。大人しく、手当でも続けてて……」
「店長、大丈夫です。それよりも、このおばさんに言っておきたいことがありますっ」
「ああっ!? おばさん!? この身の程を知らない小娘! 死にたいようね」
女性は応える。
「あなた、お金が目的じゃなかったんでしょ」
「はあっ!?」
「というか、お金は、もののついでじゃなかったのかしら?」
「どうして、そう思うのかしら?」
「あなたが持っていた銃はシグザウエルP226だったわね。各国の軍隊や、特殊部隊で採用されている拳銃のはずよ」
「あら、よく知っているわね」
ア、アマミさん。あなた何でそんなこと分かるんですか!? ふつうの短大生のアルバイトでしたよね!
今まで、喫茶店の看板娘として働いてくれていた、彼女のイメージが崩れていく。
「自慢じゃないけど、わたし、ミステリーファンなの。武器だってある程度知ってるわ」
な、なるほどね。私はちょっと安心した。
「おい! あんまり刺激するな」
コマキ様が言うと、アマミはすかさず答える。
「いいえ、言わせてもらうわ」
ほどほどにお願いします……。神様、どうぞ、あの子が、暴走しませんように……。
と、私は静かに祈り、彼女は続ける。
「お前の企みなんて、まるっと、お見通した!」
アマミは、左手を腰に当てて、右手で銃の女性を指さし、ポーズを決めた。
ああーっ、神様っ!!……。
私は頭を抱えた。 女性の顔がひくついた。
「あなた、いい度胸してるわね。ちょっと静かにしていてくれないかしら?」
女性は銃をアマミに向けようとすると、コマキがあわてて言う。
「待て! 撃つな! 撃てば、金を灰にするそ!」
私は神に祈り、女性はため息をつく。
「燃やしたら、皆殺しにするわよ」
「まあまあ、とりあえず、話だけでも聞くってのは、どうだ?」
女性は、舌打ちをし、やれやれといった感じで、銃を下ろす。
「じゃっ、遠慮なく」
アマミは後ろに手を組み、店内を歩き始めた。
「ふっ、ふっ、ふっ……、はあっ、はっ、はっ……、オーホッ、ホッ、ホッ!!」
アマミは不敵に笑う。
どうも、彼女の、変なスイッチが入ってしまったようだ。
血を見たせいか!? 恐怖か、ストレスのせいか!?
早く、事件が解決して、もとの真面目で可愛い女の子に戻りますように……。