4章1 マスター 喫茶イコイ(8)
『殺し屋Gの転職』の最終章。
(前編)(中編)の続きです。
これまでのあらすじ
商店街にある喫茶店イコイは、営業中、密かに害虫駆除を業者に依頼していた。
殺し屋Gと裏組織(JMI)のクロスギは、殺しの打ち合わせのため、
文学部2年のケンイチは、同人サークルの知人経由でマンガのシナリオを依頼されて、その打ち合わせのため、
芸術学部2年のケンジ(ケンイチの双子の弟)は、家のネズミの駆除のため、業者に会いに、
それぞれ、イコイにやって来た。
それぞれ初対面であり、偶然が重なって、彼らは目的の相手を誤解して話を進めてしまう。
殺し屋Gはケンジを裏組織(JMI)の人間と、
ケンジは殺し屋Gを害虫駆除業者の社長と、
裏組織(JMI)のクロスギはケンイチを殺し屋Gと、
ケンイチはクロスギをマンガのシナリオの依頼者と。
そんな状況の中、ウメダたち銀行強盗犯は警察から逃れるため、イコイに飛び込んで来た。
ひと悶着あったのち、銀行強盗犯が店をあとにしようとする段、突然、女性客が拳銃を取り出し、銀行強盗犯を撃ったのだが……。
私とアマミがカウンターの中で片づけをしていると、クロスギ様と女性客が戻って来た。彼は窓際の通路、女性はカウンター前の通路を歩いて奥へ進んでいった。
作業の手を止めずに見ていると、突然、その女性客が自分のカバンから拳銃を取り出して、出入口とトイレの間でブラブラしていた2人の強盗犯を拳銃で撃った。彼らは右肩から血を流し、叫び声をあげた。
わたしはアマミの首根っこをつかんでしゃがみ込ませた。カウンターの陰に隠れて見えないが、何か、叩く音、滑る音、走る音、テーブルや椅子の動く音、うめき声が聞こえてくる。
何ということだ。
私はアマミにこのまま伏せているように囁いてから、ゆっくりカウンターの上に頭を半分出して店内の状況を確認した。横を見るとアマミもそうしている。まったく、この子は…。
女性は両手に拳銃を持ち、トイレの方と客席の奥の方に気を配っている。トイレはカウンタ横の通路を奥に2,3メートル入った所にあるのでここからは見えない。彼女は私たちがいるカウンターの中には目をやらなかった。店内は小さなうめき声と、BGM、今はベートーベンの悲愴2楽章が聞こえるだけになった。
次の瞬間、女性はトイレに向って「銃を下に置きなさい」と言うと、「お前! マツに何をしやがった!」とウメダの声が聞こえて来た。
そして彼女はトイレに向って一発撃った。どさっと誰かが倒れる音と共に女性は銃を撃った先に飛び込んだ。
「アニキー!!!」
マツは、肩の激痛に耐えながら壁にもたれ掛かっていたが、ジリジリとトイレのウメダの方へすり寄って行って、ここから見えなくなった。
トイレの方からは、「カシッ、カシンッ、カシッ、カシンッ」と金属が擦れる音と、「アニキー、アニキー」とマツの叫ぶ声が聞こえて来た。
ウメダの声は聞こえない…。
ま、まさか、殺されてはいないよな…。