行き過ぎた反抗期 part5
「えっ!? 案内人って下崎!?」
「そだよ?」
真悠は「それがどうかしたの?」と言いたげな顔で即答した。
続いて下崎が自ら説明をし始めた。
「僕は浩二と同じ中学の出身で、クラスも一緒だったからね。何回か遊びに行ったことがあるから知っているんだ。……でも、まさか栗川さんがこの事を知っているとは思わなかったけれど」
「えっへへー!!」
真悠は腰に手を当てて胸を張り、私に向かって「すごいでしょ」アピールをしてきた。
我が友ながら、若干うざかったので思った事を正直に言ってあげた。
「……他にいなかったの? 同じ中学の出身ならまだ数人はいると思うけど?」
「残念ながら、同じ中学で同じクラスだった生徒は僕と1組の清村だけなんだ。……だけど、清村は浩二のことが苦手みたいで、あまり関わりが無いんだよね」
それなら確かに下崎が適任かもしれない。
ましてや、下崎が鎌田を下の名前で呼び捨てをするほどなのだからきっと仲が良い……となると、鎌田の家を知っているから案内人としても合格だし、鎌田を警戒させない為にも最適だ。
私と真悠を危険な目に合わせた下崎を頼るのはかなり癪だが、今回は素直に案内役を頼むことにした。
「人選の理由はわかったわ。下崎、今回はよろしくね?」
「まかせて! ……これで罪滅ぼしになるとは思っていないけど、精一杯務めさせてもらうよ」
「それじゃ、しーちゃんが納得したところで主発進行ー!!」
「……。」
元気よく腕を上げて出発の号令を掛けた真悠だが、私と下崎が乗らずに無言で歩き出したのが気に入らなかったのか、拗ねて頰を膨らませていた。
私としては、そんな真悠の相手をしている場合ではないので先を急ぐことにした。
……「親友なんだから乗ってやれよ」だって? 親友だからこそ、無理に合わせたりしないのよ。
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靴を履き替え、昇降口前で合流した私と真悠、そして下崎は学校を出る為に校門へ向かう。
校門を出て歩いていると、ふと気になったことがあった。
前を歩いているのが下崎……ではなく、真悠なのだ。
「ちょっと真悠。下崎が案内人でしょ? なんであんたが1番前を歩いているのよ?」
「あっ! そうだった……! 下崎君、前をお願いします……」
「はい。お願いされました!」
「だいたい下崎もなんで突っ込まないのよ!」
「道は間違ってなかったし、間違ってたら言えばいいかな? って……」
「あっそう。でも真悠を先頭に歩くと、『知ってる道を歩いていたはずが、知らない道を歩いていた』なんてこともあるわよ?」
「えっ!?」
「そ、そんなことあるわけ……ないでもないかも……」
真悠は否定しようとするが、できない。実際、今まで真悠と一緒にいた中で、真悠について行った時に限って起こった現象なのだ。
真悠の記憶にもちゃんと残っていたようでなによりだ。
私が「真悠と道に迷ったこと」を思い出していると、切り替えの早い真悠は突然、下崎に先程とは何も関係のない質問を投げかけた。
「ねぇねぇ、下崎君」
「なにかな、栗川さん?」
「なんでたくちゃんは、鎌田君の事が苦手なの?」
「ああ、それはね……」
下崎は歩きながら、鎌田と清村の関係を少し言いづらそうに教えてくれた。
清村は中学時代もいじめられていた。
元々、人と接するのが苦手だった清村は、誰か特別な人と仲良くなることはなく、いつも1人で読書をしていた。
そんな大人しい性格であるが故に、色んな男子にいじめられ、更に成績が良いことから妬みの的ともなっていた。
物を隠されてしまったり、宿題を何人分もやらされたり、運動音痴なのをいいことに、わざと転ばされたりした。
そんな時、彼を助けたのが鎌田だという。
鎌田は、清村をいじめてくるやつ全てを敵とみなして、清村を守っていった。
やがていじめのターゲットは、清村から鎌田へと移るがすべて返り討ちにしたという。
鎌田はいじめを許さない人間らしく、いじめを見るとすぐに止めに入ったため、最終的にはいじめが無くなった。
助けてもらってから少しの間こそは、清村は鎌田を慕っていたが、何故か次第に苦手意識を持つようになってしまったのだそうだ。
「なんで清村は、鎌田に苦手意識を持つようになったんだろ……?」
「それは誰にもわからない。でも、噂によると浩二が清村に言った一言が原因だったとか……。何を言ったかまではわからないけど」
「そう……なんだ」
「っと、ここだ!」
そうこう話をしている間に、私達は鎌田の自宅に着いていた。
新築……というには壁のあちこちの変色が気になってしまうが、比較的新しい家のようだった。
玄関先に立ち、インターホンを鳴らそうとすると、後ろから声を掛けられた。
「おや? お客さんかな??」
声を掛けてきた男は、スーツを着て、髪型を七三分けにして眼鏡をかけた細身の中年男性だった。
「ご無沙汰しております、おじさん。僕の事、憶えていますか?」
中年男性はにっこりと笑って「もちろん」と言うと、すばり当ててきた。
「下崎君だね? 大きくなってもわかるよ。……そちらの可愛いお嬢さん達は?」
「ああ! 紹介します。2人は浩二のクラスメイトで、梶谷さんと栗川さん。」
私と真悠が同時にお辞儀をすると、中年男性は先程と同じ笑顔のままで「初めまして」と言ってくれた。
「2人とも、この方は浩二のお父さんだ」
「えっ!?」
顔は割と似ているので薄々そうなのではないかと思ってはいたが、気性が荒い息子に対して、この温厚な父はありなのか!? と驚いてしまった。
……本来なら「温厚な父に対して、気性の激しい息子はありなのか!?」というのが正しいが。
「はっはっはっは! その反応もすごく久々だよ、なんだか懐かしいね」
「確かにそうですね! ……ところでおじさん。浩二は家にいますか?」
「謹慎を受けてしまったからね、きっと部屋にいると思うな。すぐに呼んできてあげるから、少し待っていてくれ」
「すいません、お願いします!」
鎌田の父は家の中へ入り、息子を呼びに行った。
こうして下崎の対応を見ていると「案内人が下崎で良かった」と思わされる。
「下崎」
「なんだい、梶谷さん?」
「あんたが案内人で良かったよ、ありがと……」
「どうしたしまして……と言いたいところだけど、礼を言うのはちょっと早いかなぁ。浩二が出てきてくれるとも限らないしね?」
「確かにそうね……」
私が下崎にお礼を言っているのを見て、真悠は私の前に立って手を挙げ「私は? 私はー??」と聞いてきた。
正直、ため息が出てしまうが、真悠の人選が正しかったのも事実。
素直に褒めてあげることにした。……頭を撫でながら。
「はいはい、真悠の人選あってこそよね! ナイスチョイスよ、真悠!!」
「えっへへー!!!」
身体をくねくねさせることで、まるで母親に褒められた子供……もしくは、飼い主に撫でられた犬のように、喜びを伝えてくる。
私は不覚にも「こういうところ、ちょっと可愛いな……」と思ってしまった。
そんなやりとりをしていると、鎌田家の扉が開かれる。そこから出てきたのは、不機嫌そうな顔をした鎌田だった。
「やあ、浩二! 遊びに来たよ!!」
「他の2人はともかく、照……お前は、俺が親父のこと嫌いなのを知ってたよな? あんまし話をさせるんじゃねぇよ」
「ごめん、ごめん……!」
「ったく……んで、可愛いお嬢さん達2人って誰のことだ?」
「私達のことよ!!」
わざとらしくキョロキョロした鎌田に私は、ちゃんと視線に入るよう、目の前に仁王立ちしてやった。
すると鎌田は、私達(主に私)を見てこう言った。
「可愛い!? ……あの親父、ついに目まで年を食っちまったか!?」
「ちょっとそれ、どういう意味よ!?」
鎌田は答えずに、下崎の方へ視線を戻した。
「で? 実際のところ何の用なんだよ?」
「僕は特にこれと言った用はないんだけど、栗川さんから案内して欲しいと頼まれたから案内したのさ」
「お前、人の家をホイホイ教えるんじゃねぇよ」
鎌田は下崎を睨んでそう言うと、再び私と真悠の方を向いた。
「鎌田、朝のことのなんだけど……」
鎌田の顔には「早く終わらせてくれ」と書いてあったので、単刀直入に用件を言いかけたが、鎌田はだいたい言いたいことがわかったのか、頭を掻きながら遮った。
「あのなぁ、別にお前じゃないことはわかってるぜ? 庇ってくれたしな。……まぁその……だからよ」
「え、なに?」
恥かしげに、私から視線を逸らして言葉を続ける。
「この前は『女のくせに』とか『クソ女』なんて言って悪かった……」
「ふふっ!」
「あぁ!? なんで笑いやがる!?」
心配して訪ねてみれば、まさか謝られるとは思ってなかった。
ましてや、あの強気な鎌田が謝るだけでも笑えると言うのに「悪かった」という言い方が余計に可笑しかった。
鎌田はいじけた顔をして目を逸らしたままだったが、私はそんな鎌田の姿に笑いが止められずにいた。
「し、しーちゃん、笑いすぎだよぉ……?」
「だ、だって! 鎌田ったら……はははっ!」
「ちっ……!」
そんな姿を見て下崎も笑っているが、真悠は笑いすぎている私を必死に止めようとする。
ようやく笑いが止まったところで、私は鎌田に宣言する。
「ねぇ、鎌田」
「あぁ?」
「あんた、思ったより面白くていい奴ね!」
「なっ! う、うるせーよ!」
「だからね……鎌田が1日でも早く復活できるように、無罪だという証拠を私が見つけてあげる!」
「もちろん、私も!!」
「お前ら、馬鹿なんじゃねぇの? ……俺みたいなやつにそんなことをするなんてさ。そんな奴、他にはいないぜ……?」
鎌田の嬉しさと寂しさが混ざった表情を見た真悠は、俯いた鎌田の顔を覗き込んで言った。
「それはきっと、みんな鎌田くんがいい人だって知らなかったんだね……でも、まだ高校生活は始まったばかり。絶対に鎌田くんの良さが伝わるよ!」
「その為にも私と真悠がちゃんと証拠を見つけてきてあげるから、少しだけ謹慎を我慢してて?」
鎌田は顔を上げて、私と真悠に微笑んで「悪いな……よろしく頼む」と言って、家の中へと戻っていった。
「さて、私たちも帰ろ? 下崎、案内ありがとね」
「こちらこそ。浩二のあんな顔、久々に見たよ……君たち2人は、何か持っているのかもしれないね」
「……あんたみたいな中二病患者が言うと洒落にならないから、やめてくれない?」
「元……だけどね? さ、帰ろうか!」
下崎は、知っている道まで私と真悠を案内してくれると、帰る方向が違うのでそこで別れた。
下崎の姿が見えなくなるまで見送ってから、私と真悠も歩き出す。
「ねぇ、真悠」
「なにー??」
「鎌田にああ言ったのはいいけど、どうやって証拠を集めようか?」
「うーん……やっぱり2人だけじゃ難しいと思うから、黒山くんにも協力してもらお?」
「あいつ、協力してくれるかな……?」
「大丈夫だよ、きっと!」
「だといいんだけど……」
私は明日、黒山になんて頼んだらいいのかを考えながら真悠と家路を辿る。
……私たちに忍び寄る悪意にも気付かずに。
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一方その頃。
主婦は家で夕飯を作り始め、定時退社に成功した退勤中の社会人や、下校中の児童や生徒で街中は賑わっていた。
この街にはかつて「虹園塾」という塾があった。
しかしその塾は、あまり目立たない場所にあり、塾の存在もあまり知られていなかった。
というのも、この塾は名前に反して「スパルタ」だった為、あまり目立つわけにはいかなかった。
それでも、当時その塾が存続出来ていられたのは、生徒の大半が「お金持ちの家」だったからだ。
次期当主として教育される子供達に虹園塾のスパルタ教育を受けさせることで、学力アップと強い精神を待たせるという狙いがあった。
この教育に耐え抜き、卒業した者は頭脳的にも立場的にも強くなれるので、誰もが我が子をこの塾に通わせた。
しかしある日突然、塾の講師・虹園先生はこの場を去った。
それ以降空き家となり、現在は1人の高校教師が管理している。
そんな建物に、管理人である男・針岡 達夫が入ってきた。
彼は当時のままにされた教室の教卓に置いてある1つの写真を手に取り、呟いた。
「先生……もうあれから10年です。俺は俺で、自分の道を信じて進んでいます」
目を瞑り、頭を下げるとまた誰か入ってきた。
入ってきた男はいつもの定位置へ座り「……まだ、俺だけか?」と針岡に聞いた。
「いつも通りお前が1番のりだなー、透夜」
「やはり集団行動というのは、俺に合わないみたいだな。あいつらを待つ時間が無駄だ」
続いて、竹刀袋を肩にかけた少女と人形の様に美しく、腰まで長い髪の少女が入室する。
「レディー相手にそんなことを言っちゃいけないと思うなぁ? ……そう思わない? 沙希ちゃん?」
「奈月。透夜相手に何度言っても無駄なことよ? ……逆に無駄でなかったのなら、今頃こんなに冷めたやつになっていないわ」
「それもそうだね! ボクが悪かったよ」
2人の少女は、紳士らしさのかけらも無い黒山を憐れみの目で見る。
そんな視線が気になるのか、黒山は2人を睨み続けていた。
やがて2人の少女は見つめられていると勘違いしたのか頰を赤くし、目を逸らす。
その直後、男がまた1人入室する。
入室と同時にその様子を見てしまった私服を着た男は「透夜、死すべし」と呟いて席についた。
入室した4人の若者が席についたところで、針岡が確認する。
「さて、4人揃ったなー? それじゃあ、定例報告会を始めるぞー?」
現在、この「旧・虹園塾」は4人の協力者とこのエリア担当の職員である針岡が「定例報告会」の会場として利用している。
そもそも、定例報告会とはなんなのかと言うと……
「瑠璃ヶ丘高等学校」
「紅ヶ原女子高等学校」
「琥珀ヶ関工業高等学校」
以上の3校付近で起こっている「重度の中二病患者が絡んでいると思われる事件」をそれぞれ報告し合う会だ。
普段はバラバラだったり、報告が無い学校もあるが今回は違った。
「えーっと、まずは透夜から」
指名された黒山は立ち上がり「鎌田に喫煙の疑いがかけられている事件」について報告をした。
後書き
読んでくださり、ありがとうございます! 夏風陽向です。
ついにユニーク数310人を突破! こんなに沢山の方に読んでいただけたとは……
嬉しくて嬉しくて嬉しくて堪りません!
読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます!
まだまだ頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。
さて、新しく黒山が所属している組織(?)が出てきました。
この組織に名前はありません。なぜ無いのか? というのは、近いうちに書かせていただこうと思っております。
他の3人については、また次回紹介させていただきます。お楽しみに!!
それから、高校名にうまく読み仮名をつけてあげられませんでした、ごめんなさい……!