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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「求愛と破壊のすれ違い」
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求愛と破壊のすれ違い part14

 通りすがりの全く知らない男にちょっかい出されやすくなるという『謎の体質』を持つ唯香(ゆいか)に対し、颯太(ふうた)は触れたものを選別して破壊することができるという能力。


 普通の人の基準で考えれば、人の骨をも簡単に砕くことができる颯太の能力はグロテスクに相当するものである。「不気味」という意味でも「残虐的」という意味でも。

 だから、人によっては目の前で能力の行使を見れば吐き気を感じる人だっていてもおかしくはない。


 唯香は言う時には言うが、基本的に争い事を嫌う女の子だ。


 長い間それを見てきた颯太にとって、自分の能力は「唯香からすれば、生理的に受け付けられないもの」だと思っているので、能力の行使を見られたということは、彼女の中で自分は生理的に受け付けられない存在になってしまったのだろうと……つまりは、嫌われてしまったと決め付けた。


 それが理由で、唯香との仲直りは絶望的だと落ち込みながらも判断したのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 颯太と唯香の2人がそれぞれ落ち込んでいる一方で、浮かれていた人がいた。


 他でもない、詩織(しおり)である。


 詩織と黒山(くろやま)は電話番号は交換しているものの、SNSでの連絡先は交換していない。


 そもそも、彼等は連絡先を交換しても毎日やりとりはしないだろう。詩織はともかく、黒山がそもそもそういった類のものを本当の意味で連絡用にしか使っていないので、年相応のやり取りは不可能だといっても過言ではない。


 もっとも、詩織は黒山がSNSを利用する人だとは思っていないので、黒山が自ら利用していることを伝えない限りは交換の「こ」の字も出ないことだろう。


 そんな黒山とデートした後であるが、詩織は黒山ではなく真悠(まゆ)とやり取りをしていた。


 いつもは大体どうでもいい内容なのでチャットでやりとりするが、今回は真悠の要望で通話だった。



『で、どうだったの? ちゃんとデート出来たの?』


「おかげさまでねっ!」


『うっふふふ!!』



 この2人も幼馴染でずっと一緒にいるので、声1つで相手の機嫌を把握することができる。


 先述の通り詩織は浮かれ気味だが、一方で真悠もそれなりに満足そうだった。元はと言えば、2人のデートは真悠が提案したものであり、黒山から連絡するよう、きっかけを作ったのも真悠だったからだ。


 そんな満足そうな真悠に、詩織はほんの少し癪に感じたが、この場は黒山とデート出来たという浮かれた気持ちが勝った。



『やっぱ、しーちゃんは黒山くんのことが好きなんじゃなーい?』


「んー……そうなのかな、よくわかんない」


『おやおやぁ? ちょっと前まで、そんなわけない! って言ってたのに……妬けますなぁ!』


「うっさいわねぇ! そんなこと言って、真悠の方こそまた暴走したりしないでよ?」


『ちょっ! それはもう忘れてよ〜!』


「あっはは! ……でもさ、私が黒山君のことが好きだったとしても、黒山君が私を……誰かを好きになることあるのかな」


『んー? なんでー?』


「だってさ、小学生の時だったとはいえ沙希(さき)奈月(なつき)がいて、2人ともその時からずっと黒山君のこと想い続けていたのに、黒山君は振り向いてないわけだし……」


『2人とも可愛いけど、黒山くん相手には押しが足りなかったんじゃないかなぁ? 黒山くんはかなり普通じゃないものねー』


「うーん、そうなのかなぁ」


『でも私が思うに、黒山くんは転入してきた時に比べれば、色々話してくれるようになったと思うよ? それは間違いなく、しーちゃんの影響だも思うけどなぁ?』


「え、そう? 確かに少しは話しやすくなった気がするけど、それは馴染んできたからじゃない?」


『しーちゃん……』



 真悠は自覚のない詩織の言葉を聞いて呆れた。


 かつては人の悪意にかなり鈍感だった真悠だが、重度の中二病患者に目覚めて以来、ほんの少しだが周囲の人間が誰か1人に対して向ける感情の類がわかるようになった。


 転入して以来、ずっと周囲の人間を拒絶し続けてきた黒山の評価はあまり変わっていない。言うまでもなく嫌われている方だ。


 女子から恐れられ、男子からは疎ましく思われている。


 これは詩織と真悠には知り得ないことだが「黒山は面食いの女たらしだ」という認識もされている。

 瑠璃ヶ丘高校2年生のコミュニティはよく出来ていて、黒山に近い人間であれば近いほど、周囲が思っている黒山の悪い像がわからないようになっていた。


 ただそれでも、真悠には黒山が少しずつ良い方向に変わってきていて、それは周囲の評価を気にせずに接し続ける詩織の影響があってこそだと断言できる。



「そういえば、黒山君ったら、真悠も一緒にくるものだと思ってたみたいだけど、その辺は説明しなかったの?」


『えーっ! まあ、確かに説明しなかったけどぉ……。この状態で普通、私も一緒だと思うー? だいたい私が一緒なら、わざわざ黒山くんがしーちゃんに連絡する必要ないのにね』



 純粋に面白かったのか、笑いながら問いかける詩織に対し、真悠は少し困ったように笑いながら答えた。


 黒山の筋金入りな鈍感さに困ってはいたが、実は真悠にとってこの黒山の感覚が大事だった。


 黒山の中で「梶谷と栗川はいつも一緒」という認識がある以上、仮に黒山と詩織が付き合うことになったとしても、真悠に対して詩織を独り占めすることはない。


 真悠が最も恐れているのは「詩織に彼氏ができる」ではなくて「詩織に彼氏ができることで、自分に構ってもらえなくなる」ということだ。

 真悠が詩織の恋を応援しているのは、詩織と真悠をワンセットに考えている「黒山くんが相手ならならいいかな」と思ったからだ。


 困ったように笑いつつ、内心では嬉しく感じているのだった。



「うん、本当にね」


『しーちゃんと黒山くんがどこまで行くか、私は楽しみだなぁ!』


「あんまり変な期待しないでよ!」


『えっへへ〜!』



 その後、割と細かなデート内容を話して真悠のお腹がいっぱいになったところで、通話は終了した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 明けて日曜日。


 先日がほとんど休みだと見なされる黒山は、勤勉にも沙苗に同伴して事情聴取に来ていた。



「言っとくけど、事情聴取じゃなくてカウンセリングだからね!?」


「……わかった」



 重度の中二病というのは、それぞれ能力があるので後天的な進化によるものだと思われがちだが、実際は心の病である。


 その為「目には目を!」という考え方で、同じ重度の中二病患者が、力の制御ができずに暴走した重度の中二病患者を能力に合ったあらゆる手段で無力化し、そしてカウンセラーによるカウンセリングで解消している。


 黒山達が来ている場所は『心の相談室』といって、基本的には心が不安定な青少年が道を違わぬように、カウンセリングをしている所だ。


 実を言うと、現在瑠璃ヶ丘高校のスクールカウンセラーを担っている沙苗は、この『心の相談室』から派遣されている人材である。

 だから、学校内で出た重度の中二病患者にも対応できるのだ。


 中へ入っていき、黒山は取り敢えず沙苗とは別行動をとることになったわけだが――――



(……これは失敗したな)



 黒山はここに来て後悔した。


 先程述べたばかりの通り、ここは『心の相談室』であって『取調室』ではない。

 個人の悩みを聞く場所だという性質上、カウンセラーでないと相手に接触できない。


 つまり、黒山はカウンセリングが終わるまで暇となってしまった。


 自販機のある飲食スペースで缶コーヒーを飲みながら周囲を見回していると、黒山にとって少し意外な人物がこちらへやってきた。



「んおー? 透夜(とうや)じゃねーかー?」



 そう言って近付いてきたのは針岡(はりおか)だった。


 針岡は高校の教員免許を持っているとはいえ、メンタルケアカウンセラーの資格は無い。



「こんなところで何やっているんだ?」


「そりゃ、こっちの台詞だなー。お前さんの方こそ、重度の中二病患者から卒業したいと思わない限り、ここに用はねーはずだろー?」


「俺は昨日の被害者のカウンセリング結果待ちだ。そっちは?」


「んーまあ、俺も似たようなもんだなー。俺ってば、3校の担当をしてるもんだから、瑠璃ヶ丘意外の生徒相手でもここに来ないといけねーこともあるんだわ」


「そうなのか? それは知らなかったな」


「お前さんも、この道を歩くなら知っておいた方がいいぞー? っていうか、待つくらいなら家で休んでりゃいいじゃねーかー。俺みたいに、いないといけないわけでもねーだろー?」


「まさか、カウンセリング中は締め出されると思ってなかったんだ」


「ほー? けど、正直意外なもんだなー」


「何がだ?」



 針岡は自販機で自分が飲む缶コーヒーを買うと、黒山の正面に座って答えた。



「お前さん、あんましこういうことには関心なかっただろー? お前さんと初めて会った以来、ここで顔を合わせた記憶がねーからなー」



 針岡の言う通り、針岡が黒山と初めて会ったのはこの場所だ。

 暴走し、当時のクラスメイトが無意識に持つ「生きよう」という気持ちを『拒絶』し、生と死の境目に引きずり落とした事件。

 梨々(りりか)の協力によって解決した後、黒山はここへ連れて来られ、呼び出された当時大学生だった針岡は黒山と出会った。



「…………」


「あん時のクソガキが、今や重度の中二病患者を取り締まる立場かよー。まあ、1番驚いたのは、お前さんが虹園(にじぞの)先生と面識があったことだがなー」


「ああ、一時期だが、俺は虹園先生がいる施設にいたからな。それ以来、どうなったのかは知らんが」



 現在、黒山が奈月と一緒にいた施設はどうにか残っているものの、虹園はもういない。

 詳しい理由は明かされていないが、その関係者の俗説では「元の教え子達と再会し過ぎたからだ」と言われている。



「俺も虹園塾の生徒だったからなー。あの塾はかーなーりのスパルタで厳しかったが、通い始めてから気付けば重度の中二病患者になっていたなー」



 当時、我が子を強くて賢くしようと通わせていた虹園塾だが、後になって「実は重度の中二病患者を生み出していた病原菌のような場所」だという説が浮かんできた。


 辛い現実にも立ち向かえるように、という願いで教育がされる一方、その厳しさに耐えられずに現実逃避することで「理想的な自分を描いて、その姿で自分定義する」というメカニズムで重度の中二病患者が生まれたのではないかと言われている。


 かつての塾生にはわからないことだが、塾生がそんなスパルタ講師を敬っているのは、考え方の押し付けが一種の洗脳になってしまっており、物事の考え方が一緒になっていった塾生は、自分の一歩先を行く虹園を尊敬してしまうからだ。


 既に「スパルタ講師」という肩書きを捨てた虹園を見ていた黒山には、全く共感し難い内容だったが。



「……俺は虹園先生の影響で重度の中二病患者が続出したなんて考え方は出来ないな。あれは、人によってというものだろ」


「そいつには同感だがー、そうはいってもここ最近、重度の中二病患者による事件は多くなっていってるー。俺はこれが、ストレスの感じやすい時代になったからじゃないかと思うがなー」


「……? 俺達の世代よりも、針岡達の世代の方が理不尽によるストレスが多かったと思うが?」


「まあ、そいつは否定できねーなー。けどな、先生ではなく俺一個人の意見として言わせてもらうなれば、今の世の中はグレることが許されねー。ちょっとでも問題を起こせば、停学や退学になっちまうからなぁ。今は『正しい生き方』ってのが目に見えて決められちまってる」


「真面目に学生生活を送ることだなんて当たり前のことだろ? 昔の生徒はそういうのを強要されていたんじゃないのか?」


「ああ、そうだ。指導っていう形でな。だからこそ、人によっては理不尽に強要する先生に歯向かえることも出来たんだが、今は処分の方がすぐに出てきちまう。ったく、学校って場所はほんと何なんだろうなー」


「…………」


「っと、変な話になっちまったな。こいつは人生の先輩としてお前さんにアドバイスしておくが、高校生として真面目に生きる生き方がそのまま社会に出ても通用するとは思うなよー? 今はその生き方が大事でも、社会に出てからは上手い事『手を抜いても大丈夫なところ』を見つけなきゃならねー。それが効率ってーのに繋がるんだわ」


「……せっかくのアドバイスだ。覚えておく」


「はっ、素直でよろしいことで。んじゃま、俺は行くわー。また明日なー」


「ああ」



 針岡は飲み終えた缶を捨て、業務用の携帯に届いていたメールを確認してから、その場を去った。


 それからしばらくしないうちに沙苗がやってきて、カウンセリングの結果を教えてくれることとなった。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


80部分目です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます! これからもぜひ、お付き合いいただければなと存じます!


改行、使ってみてますが、読み辛くないでしょうか??


それではまた来週。次回もよろしくお願いいたします!!

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