行き過ぎた反抗期 part4
月曜日。
今まで生きてきた人生のうちに何回も経験してきているはずの月曜日だが、休み明けの憂鬱感を克服することが未だにできない。
朝、決まった時間に起き、長い坂道を登り、退屈な授業を6時間も受け続けることを考えると何故かお腹が痛くなってきたので、左手でさすりながら歩く。
黒山が「重度の中二病患者」なら、私は「軽度のイヤイヤ病患者」なのだろう……。
我ながらくだらないことを考えていると、後ろから、休み明けの憂鬱感を全く感じさせない元気な挨拶が聞こえた。
「しーちゃん、おーはよっ!」
「おはよ、真悠!」
「しーちゃん、お腹を押さえてどうしたの? お腹痛いの?」
「大丈夫、ただのイヤイヤ病だから……。そういうあんたは月曜日でも元気よね。」
「うんっ! しーちゃんが元気ないなら、私の元気を分けちゃう!」
真悠はそう言うと、急に目の前に立ってほっぺをぐりぐりしてきた。
「いででで! や、やめーぃ!」
「元気出た?」
「出た! 出たからやめてー!」
私が「いかにも元気」とガッツポーズで伝えると、ようやく離してくれた。
お陰で軽い腹痛がなくなり、眠気も吹っ飛んだ。……真悠パワー恐るべし。
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玄関で上履きに履き替え、教室に入ると教室内がざわついていた。
青春真っ只中を生きる高校生なので、学校全体的にざわついているのは当たり前なのだが、今日のざわつきは雰囲気が違う。
その原因を探る為、たまたま近くにいた女子クラスメイトに何があったかを聞いてみた。
「何の騒ぎ?」
「あ、梶谷さん……。さっき鎌田君が教室に入ってきたんだけど、すぐ先生に呼ばれて……。」
「出席日数のこと? そんなの今更……」
「喫煙……らしいの」
「へ?」
「金曜日、鎌田君が喫煙していたところを見たって人がいて……」
「それで!? 鎌田は何処に呼ばれたの!?」
「え、えっと……確か職員室だったような?」
鎌田は煙草を吸わない。
吸うように見えて、実はペロペロキャンディを舐めていただけ。
それは金曜日にこの目で見たことだ。
「しーちゃん……」
真悠が心配そうに見ている。
私は、教えてくれた女子クラスメイトにお礼を言うと、真悠の手を引いて職員室へ向かった。
「そういえば、しーちゃん。黒山君に言わなくて大丈夫かな?」
「あいつなら多分、職員室にいるはずよ。」
職員室の前に着いたので、一度止まってから深呼吸をし、2回ノックをして入室する。
「失礼します!」
職員室内には、担任である針岡先生・容疑者の鎌田・数学教科担任の先生・何故か黒山の4人がいた。
他の先生はきっと、授業の準備をする為、各教科の研究室にいるのだろう。
私と真悠が入室したのに気付いた4人。その中で針岡先生が私と真悠に話しかけた。
「あれ? お前さんら何か用かー?」
「鎌田君が喫煙で職員室へ呼ばれたと聞きまして」
「……今、お前さんらには関係のないことだろー? 教室に戻ってくれ。」
「何か言い返さねば!」と言葉を考えていたが、言葉が出てこない。
そもそも「鎌田が喫煙をしていない場面」を見るには「昼休みに校外へ出る」という校則違反が必須となる。
私が見たことをこの場で話せば、助けに来たところか、私と真悠がピンチになってしまうのだ。
すると、意外にも黒山が助け舟を出してくれた。
「先生、彼女らも何かを知っているかもしれません。普段の鎌田はガラの悪い連中とつるんでいますが、最近はこの2人と話しているところも見かけます。」
「おい転校生! 人のダチをディスってんじゃねぇぞ!?」
「ディスっていない。とりあえず外見上の事実を言ったまでだ。中身については何も言っていないだろう?」
「……ちっ!」
黒山の助け舟からの、鎌田と黒山のやりとりを見届けると、針岡先生は私と真悠に質問をしてきた。
「2人はさ、何か知っているのか?」
「……私は鎌田君が喫煙をしたということは知りませんが、彼が喫煙者でないことを知っています。」
「んー……栗川は?」
「私もしーちゃんと同じです! 彼が喫煙者という事実は知りませんが、吸わないことはよく知っています!」
鎌田は味方がいて嬉しかったのか、俯いてぼそっと「お前ら……!」とだけ呟いた。
すると、数学教科担任である先生が怒鳴り気味で言った。
「そんな馬鹿な! 私のクラスにいる男子1人が『確かに見た』と言っていたんだぞ!?」
「それは誰なんですか!?」
この質問は悪かった。先生が答えるわけないのだ。
確かに、告発の信憑性を確認するなら証人の名前を言ってしまえば早い話ではある。しかし、噂が広がって告発した人が鎌田の仲間に後々いじめられる可能性も出てくる。……となれば、誰の情報かを言うわけにはいかない。
しかし「私のクラスにいる男子1人」という発言と、この教師は1組の担任であることから、告発した人間は1組の男子だとわかった。
どうやら、数学教科担任の先生は鎌田に犯行を認めさせたいようだ。
「いい加減認めたらどうだ、鎌田?」
「だからやってねぇつってんだろ!?」
「普段の行いから、お前の言うことが信じられると思うか?」
「ふざけんじゃねぇ! やってねぇもんはやってねぇんだよ!!」
「これを見てもそう言えるのか?」
数学教科担任の先生は、持っていたファイルから1枚の写真を取り出した。
そこに写っていたのは「喫煙をしている鎌田」だった。
「はぁ!? これ、俺じゃねぇだろ!?」
「いいやお前だ。今回は謹慎で済むようにしてやるから認めろ。」
「ふざけやがって……! ああ、もうわかったよ! てめぇらみたいなクズに何を言っても無駄だってことがな! 謹慎? 上等じゃねぇか! だがよ、俺を疑ったこと、後悔してもしらねぇぞ!?」
「わかったからさっさと行け!」
「ちっ! ゴミクズが!!」
鎌田は職員室のドアを蹴ってから退出すると、そのまま学校を去っていった。
その姿を見届け、数学教科担任の先生は満足したのか、1組の教室へと向かっていった。
すると針岡先生は、黒山に残された写真を渡して問う。
「透夜、どう思う?」
「写真自体は本物だな。」
黒山の発言から私は、鎌田は本当に喫煙をしてしまっていたのかと肩を落とした。……しかし、黒山の言葉はまだ続いていた。
「……だが、おそらく鎌田は偽物だな。」
「え、どういうこと?」
「よく見てみろ、この鎌田には感情が無い。」
「んん……?」
「ああ! ほんとだ! この鎌田君、変だね。」
私にはよくわからなかったが、真悠にはわかったらしい。
しばらくその写真を見つめていたが、気付いたらショートホームルームの時間を過ぎてしまっており、授業に向かわねばならなくなったので、鎌田の件は一旦保留にした。
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時は進み、お昼休み。
数学の授業で、教科担任の気分が上がっている一方で、私の機嫌は最悪だった。
そんな様子を察したのか、真悠が1つ提案をしてきた。
「しーちゃん。本当はいけないことなんだけど、ちょっと鎌田くんの様子を見に行かない?」
「え? でも真悠。あんた、鎌田の家を知ってるの?」
「ううん、知らない。」
「……あんた、どうやっていくつもりだったのよ」
「知っている人に案内して貰えばいいんだよ!」
「……知ってる人?」
「それは放課後のお楽しみ!」
「ふーん……」
流石に無実で謹慎処分では鎌田が可哀想だった。
クラスメイトとして、級長として、今後どうするかを聞いておきたかった。
鎌田の事については放課後に行動するとして、もう1つ気になったことがある。
お弁当を食べてから真悠を連れて、いつも通り自分の席に座っている黒山に話しかけた。
「あんた、いい加減友達の1人でも作ったら?」
「俺には友達など必要ない」
「なんでそう思うの? せっかくの高校生活、友達がいないなんてもったいないわ。」
答えはどうせ「梶谷には関係のないことだ」でしょうけど。
……と思っていたのだが、意外と素直に答えてくれた。
「俺は『孤高』でありたいんだよ」
「しーちゃん。」
「何、真悠?」
「孤高って、どういう意味?」
黒山の意外と素直な答えに対して、真悠の予想外な質問に、私はもちろん、黒山も呆れていた。
「……真悠にもわかりやすく言うと、つまり『集団の一部』じゃなくて『自分1人』でいたいってことよ」
「でもそれって、寂しくないの?」
「んー……どうなの、黒山君?」
黒山は、視線を私と真悠から外して、窓の外を眺めながら独り言のように答えた。
「……2人には関係の無いことだ」
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放課後。
一応、昼休みに黒山も誘ったが「俺は別行動で調べることがある」と言って、誰よりも早く放課後になって教室を出て行ってしまった。
その後、私と真悠も教室から出て、案内人と合流することにした。
正直な感想……私にとっては特に「げっ!?」という案内人だった。
案内人である男は、2組の教室前で待っており、私と真悠を見つけると話しかけてきた。
「やあ、栗川さんと梶谷さん。会社見学の朝以来かな?」
男の名は下崎 照。私と真悠にとって最初の加害者だ。
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時を同じくして、とあるカラオケボックスの一室。
それぞれ違う制服を着た男が3人。同じくらいの間隔を開けて、コの字に置かれたソファに座っていた。
周りの部屋では、学校帰りに寄っていっているらしい他の生徒や、平日休みの社会人等の色んな人が色んな歌を歌っている様で、聞いたことのあるメロディも聞こえてくる。
しかしこの部屋では誰も歌わない。……というより、そもそも歌うためにこの部屋に入ったわけではなかった。
3人のうち、リーダー格と思われる男が眼鏡をかけた男に質問をした。
「鎌田はどうなった?」
「……残念ながら退学ではなく謹慎処分で落ち着いてしまったよ。うちの担任が甘すぎる結果だね。」
眼鏡をかけた男の向かい側に座っている男が口を挟む。
「喫煙じゃあ、退学にはならないだろ? 常習犯で、改善の余地なしだったら話は別かもしれないけど……初回だからな。」
「さて、どうしたのか……」
リーダー格と思われる男が、腕を組み目を瞑って考えていると、眼鏡をかけた男が余裕そうな態度で次の行動を提案する。
「謹慎処分中ということは、外出はできない。……つまり、外出をさせてそこを先生に見つけさせるというのは?」
「……注意だけで終わるんじゃないか?」
「それなら、プラスして暴力沙汰にしてみようか。被害者は……」
「被害者を誰にするか」という話し合いに切り替わる。すると、リーダー格の男は、眼鏡をかけた男にとって最悪の提案をする。
「最近、鎌田と関わったという女子2人。彼女らがチクったことにしろ。」
「それは出来ない……彼女らは僕に優しくしてくれた善人だ。善人を傷付けてしまったら僕達の正義が揺らいでしまう」
「……ならば誰にする? それともお前がいくか?」
「いいよ。そっちの方が確実に進みそうだし、上手くやれば鎌田の仲間も一網打尽に出来るだろうからね。」
「いいだろう。……上手くやれよ?」
「任せて」
今後の方針が決まると、一度口を挟んだ以降全く喋っていなかった影が薄めの男が「ヒヒッ!」と短い、悪趣味な笑いをこぼす。
そして3人は立ち上がり、向かい合ったちょうど真ん中で手を合わせて、リーダー格が恒例の言葉を言う。
「この力を、この世に害を為す者達を裁くために……! そう、俺たちの存在そのものが3つの裁き『スリー・オブ・ジャッジメント』だ!」
実はリーダー格以外の2人は初めて名前らしきものを聞いたが、「響きがかっこいいから、それでいいや」と誰も突っ込まなかった。
読んでくださり、ありがとうございます! 夏風陽向です。
スリー・オブ・ジャッジメント(笑)が本格活動するのは次の章か、次の次の章にしようかと思ってます。
もっとまともな名前をつけられなかったのか……と悩みましたが、これで勘弁して下さい! 彼らも中二病ですから!
次回もよろしくお願いいたします!