求愛と破壊のすれ違い part12
先週はおやすみありがとうございました!
今回からまた通常運行ですので、よろしくお願いします!
颯太にとってよくわからない状況であることに間違いはないが、それでも戦意がないというわけでもない。
むしろ「唯香を守る」という観点から言えば「いつも通り」であり、それだけで戦う理由は既に出来上がっている。
が、しかし……。
(唯香の前で戦うわけには……)
颯太が唯香の『謎の体質』を知っていても、唯香は颯太の持つ能力について何も知らない。
今までこの能力を使って戦ってきたことさえ知らず、颯太はそれを隠し続けてきた。
何故、隠す必要があるのか? その答えは至って単純。「恐かった」からだ。
自分が唯香の『謎の体質』を受け入れられたとしても、唯香が自分の能力を受け入れられるとは限らない。
ずっと一緒にいた存在だからこそ、幼馴染だからこそ、これからも一緒にいたいと思える相手だからこそ、それを打ち明けて拒絶されるのが恐かった。
「ちっ……! 唯香、逃げるぞ」
「え、あ、うん!」
「……させるとでも?」
相手は躊躇うことなく、颯太を目掛けて刃物の形をした右手を振り下ろしてきた。
「ちっ!」
颯太は舌打ちをしつつ、唯香の身体に手を回してこけないように支えながら後ろへ跳んで攻撃を避けた。
「唯香! ここは俺がどうにかするから、お前はさっさとバス停へ向かえ!」
「で、でもふーたは……?」
「後から追いつく! 早く行け!」
「う、うん!」
唯香は颯太を置いて逃げることに躊躇いながらも、どうにか足を動かして相手を避け、バス停へと走って坂道を下っていった。
「逃がさない」
相手は背中を見せて走り去る唯香を追いかけようとしたが、何かを投げつけられたのに気付き、それを右手で切り落とした。
「これは……」
真っ二つに割れたものを見た後、颯太の足元に注目すると、先程まで普通に敷かれていたコンクリートが壊れていた。
「てめぇの相手は俺だろうがよ。言っとくが、女の尻を追いかけてられねーほど、てめぇにとって俺は厄介な相手となるぜ?」
「面白い。では君を倒して、彼女に僕の方が相応しいことを証明してみせよう」
相手は颯太の言葉に堂々と胸を張って応えたが、一方で颯太の顔は怒りで歪んでいた。
「はあっ!」
刃物の形をした右手が振り下ろされると、普通ではあり得ない、斬撃が飛んできた。
颯太はそれに気付きながら避けようとせず、右手を前に出すだけだった。
「威勢の割に、黙って切られるだけとは……」
「ふんっ!」
颯太の行動に落胆の顔を向けたが、その顔はすぐに驚愕へと変わった。
斬撃が颯太の右手に触れた瞬間、切り裂くと思いきや、斬撃の方が砕け散ってしまったからだ。
「そ、そんな……」
「あぁ? この程度でビビってんじゃねーよ。今すぐてめぇの右手を粉々にしてやるから、そこで待ってろ」
「くっ!」
相手は撤退を選択せず、敢えて颯太に向かって走り出した。
右手だけではなく左手も刃物の形に変えて、素早い斬撃を颯太に浴びせようとする。
当たり前の話だが、颯太は今までの人生で素早く刃物を扱って攻撃してくる相手との戦闘経験が無い。
だから相手の攻撃に反応しきれず、回避はしているものの、どうしても躱しきれない攻撃は受けてしまう。
「そらそらそらそら!!」
「…………」
絶えず続いた攻撃に翻弄されたように見える颯太。実際、相手も自分の攻撃が颯太を翻弄していると思えた。
攻撃の手を止めて距離を取り、様子を見ると相手は驚愕よりも絶望を覚えた。
あれほどの斬撃を受けたはずの颯太は無傷だったのだ。それどころか、左右の刃物が刃こぼれを起こしていた。
「なんだこれは……!?」
「あーあ、残念になぁ!!」
唯香と一緒にいた時には想像できないほど、颯太の顔には殺意の表情が浮かんでいた。言葉とは裏腹に、憐れみなど微塵も感じさせない表情と声色でゆっくり近付いてくる。
「てめぇの手刀も大した強度を持ってやがるが、俺に傷1つも付けられないんじゃ、なまくらも同然だよなぁ!」
「くっ……!」
「まあ、そう自信を失うことねーよ。相手が俺じゃなきゃ、きっとやれてただろうからなぁ。今後は相手を間違えないってことだ」
「これは完全に見逃されるパターンだろう」と相手は思い、ほっとした。今後は己の挑戦心を制して、能力の使用を控えようと反省もした。
しかし。
「まっ、次があれば、だけどな」
「っ!?」
気付けば目と鼻の先にいた颯太に刃物状の右手を掴まれたと思えば、刀身の腹に力がかかった。
「何を……?」
「ははっ! 喧嘩売られて、ただで帰すわけねーだろうがぁっ!!」
刀身にヒビが入ると同時に、右手が激痛に襲われた。
「ああっ、ああああああああっ!!!」
「ははははははっ!!!」
相手はその激痛に声を上げられずにはいられない。しかし颯太は悲痛を前にして、爽快感を味わっていた。
颯太の能力『全てを覆す為の破壊』は名前の通りに、全てを壊すことが出来る効果を持っている。物はもちろん、使った相手が抱え『ている』感情をも壊すことができる。
ただし、記憶のような「現在そこにあるわけではないもの」は壊すことができない。実に曖昧な線引きとなっているが。
そして、その代償として要求されるのは「破壊の爽快感」。
それを満たそうと、颯太の性格・意思に関係なく破壊し始めるのだ。
実を言うと、この代償の間は颯太の意識は放心状態に近くなっている。目の前の光景はちゃんと記憶しているが、不思議とそれを止めようとは思えないし、後日もこれを気にするということはない。
「か、彼女にはもう、手出しをしない……から」
「だからなんだぁ? 命乞いですかぁ? ざまぁねーなぁ!?」
颯太は相手の右手を破壊する力を強めようとしたが、視線の奥に見えた少女の顔を見て反射的に力を止めてしまった。
少女がか細い声で彼の名を呼ぶ。
「ふーた……?」
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時はほんの少し巻き戻り。
唯香は颯太の言う通りに走ってバス停へ向かったが、その途中である事に気付いた。
颯太が負けると思っているわけではないが、それでも危険だということに違いはない。そもそも、特別な力を持たない普通の人がまともに戦える相手であるはずがない。
よって唯香は足を止めて警察に通報することにした。
電話をかけている場所がすぐにわかるよう、位置情報をオンにし、110番にかけるとすぐに繋がり、今置かれている状況を説明する。
「……というわけで、友達が危険な状態なんです!!」
「はぁ」
最初こそ丁寧な対応だったものの、途中からぞんざいな扱いとなった。
だが、それも無理はない。「手を刃物の形に変えて、男が襲ってきた」という話を、普通でまともな人間が信じるわけがない。
警察からすれば、通報している相手が未成年の女の子であり、危機に面しているのがそんな彼女の友人とあれば、その話自体を「悪戯」だと疑わずにはいられなかった。
このまま鼻で笑われて終わってしまう。唯香はそう思って絶望しかけたが、通信司令室の担当は予想外の行動に出た。
「我々ではあまりお力添え出来ない内容だと思われますので、専門の者をそちらに向かわせます。よろしいでしょうか?」
「あ、はい! それでお願いします!」
その対応を聞いて安心し、結論に焦った唯香は電話を切ってしまい、このことを知らせようと元来た道を引き返した。
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その直後のこと。
電車を降りて、詩織を家まで送って帰宅しようと考えていた黒山に電話が掛かってきた。
その相手は針岡だ。
無視できないと思い、詩織に「すまない」と断ってから電話に出た。
「どうかしたのか?」
『あー、お前どこにいる?』
「瑠璃ヶ丘の駅を降りたところだが?」
『そうかー。じゃあまずは話を聞いてくれー。……一連の事件とは関係ないだろーが、右手を刃物のような形に変えた男に襲われた……って通報が警察の方にあったようでなー。現場の地図データを送るから、すぐに向かってくれー』
「…………」
実を言うと、こういった「常識的にあり得ない、信じられない」と思われる事件は、この地域でいうと針岡の元へ対応を依頼される流れとなっている。
基本的には事件が起こった地域担当の代表者が向かうことになっており、唯香が通報した地域は紅ヶ原女子高等学校の担当となっているのだが、奈月と沙希は両者とも高速移動ができる能力の使い方は出来ないので、急を要する内容は黒山の対応になることが多々ある。
今回もそれが適応されたのだった。
「わかっているとは思うが、俺は瞬間移動が出来るわけではないんだぞ?」
『わーかってるってー。けどなー、2人に行かせるよりお前さんの方が早いんだわ、頼む』
「……仕方がないな」
『じゃあ、頼むわー』
黒山は通話を切ると、わざとらしく大きな溜息を吐いた。
その様子から、詩織は何となく「重度の中二病患者関係の内容だ」と悟った。
「行って来なよ! あんたには助けないといけない人がいるんでしょ?」
「どうやらそのようだ。俺としては梶谷を家まで送って行きたかったのが……」
「私は大丈夫。もしピンチになっても、そっちをすぐに片付けて助けに来てくれるでしょ?」
その信じ切った詩織の発言と表情に、黒山は目を見開いた。
その信頼は、不思議と嫌な気がしないもので、応えてあげようと思わされたものだったが、そう思わせた詩織の言葉と、そう思った自分自身に驚きを隠せない。
「いざとなったら、御守りを使って逃げろ」
「うん、わかってる」
「じゃあ、俺は行く」
「うん、行ってらっしゃい」
黒山はその場に詩織を置いて足早に駅を出て、針岡から送られてきた地図データを頭に叩き込み、自身の限界を『拒絶』して猛スピードで現場へと向かった。
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目の前の光景を信じられないと言わんばかりな顔をしている唯香を見て、急に颯太の正気は戻った。
「あ……? 唯香?」
「ふ、ふーた……これって……」
「あぁ?」
颯太が正気に戻って手を離した直後、左手はもちろん、相手のひび割れた刃物のような右手も人間の手に戻った。
どうやら刃物が受けたダメージはそのまま普通の手に反映されるようで、骨にヒビが入ったのだろう。かなり痛そうに右手を抑えている。
それをやった颯太自身は不思議にも「ああ、確かに俺がやったんだなぁ」とまるで他人事のような感覚で相手と唯香を見た。
だからこの時は唯香の驚いた顔の意味がわからなかった。
「普通の人なら勝ち目のない相手だったよね……? ふーたにも、不思議な力があったの?」
「ああ」
今までは隠し、誤魔化してきたがこの瞬間は素直に答えた。だが、唯香はまっすぐ颯太の顔を見てるにも関わらず、颯太は気まずさに似た何かを遅れて徐々に感じ始め、たったひらがな2文字の返事をする時には唯香の顔をまっすぐ見れなくなっていた。
とはいえ、いつまでもここに居座ろうと思う颯太ではない。
「そいつはもう放って置いて大丈夫だろ。さっさと帰るぞ」
「待って! この人、怪我してるんでしょっ!?」
今度は颯太が驚きに満ちた顔をする番だった。
元はと言えば、自分を連れ去ろうとした相手に対して抗った結果だというのに……敵だというのに、唯香は怪我の心配をしたのだ。
颯太からすれば、相手の末路は「自業自得」そのものだった。
「そいつが俺たちと敵対しようとさえ思わなきゃこうならなかったんだから、俺たちが助けてやる義理はねーだろ」
「それでも放って置けないよ! ふーた、手を貸して!」
「……はぁ?」
颯太は本気で唯香の言うこと・思っていることがわからなかった。理解出来なかった。
「お人好しもほどほどにしたらどうだっての。そいつは敵だろーが」
「…………」
何を言っても颯太が手を貸すとは思えなかったのだろう。唯香はどうにか相手を助けようと、声をかけ始めた。
せめてもの、相手が唯香の優しさに漬け込んで欲望に従って変なことをしないよう、颯太は相手の頭に手を当てて能力を使った。
当然ながら、唯香は颯太が何をしているのかわからなかった。何かしらの力が作用していることくらいは何処と無く直感で感じたが、中身はどうなのか聞かずにはいられなかった。
「ふーた、一体何を……?」
颯太の力を目の当たりにした相手は「今度は頭をやられる……!?」と危機を感じて細かく暴れたが、颯太は気にせずに目的を果たすまで頭から手を離さなかった。
やがて完了し、両手をズボンのポケットに手を突っ込んでそっぽ向いた。
「煮るなり焼くなり好きにしろ。けど俺は、そいつを許せねー」
「そうだよね、それでそれは私の為だもんね、ありがとう。だけど、これも私の為だと思って手伝って?」
「…………」
颯太が迷っていると、全速力でやってきた黒山が到着した。
その黒山の勢いに、颯太も唯香も相手も驚いた。
そんな顔を向けた颯太と唯香の存在に気付いた黒山は、この瞬間に限って、1番まともに感じた唯香にゆっくり近付き、状況確認を始めた。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
相手に対し、圧倒的な力でねじ伏せるキャラが割と好きだったりします。
でも、相性とかの問題で勝てない相手には勝てないというくらいが、ちょうどいいんじゃないかなと思っていますので、主人公だろうと黒山はどっかで苦戦させたいです。
話は変わりますが、前回の内容で結構真剣に高校卒業後の進路について書きました。
私が高校生の時をそのまま反映している感じなので、ある程度成績は上の方でキープし、欠席日数は3年間で10日以内になるよう計算して休んだ高校生活を送ってました。
結局、先のこと先のこと……と考えて自制していかないといけない世の中ですので(楽しかったから後悔していないという人は別かも)生きにくい世の中だな、と常々思ってます。
それではまた来週! 次回も読んで下さると嬉しいです!




