求愛と破壊のすれ違い part9
真剣な目をしたまま、なかなか続きを言おうとしない唯香に、颯太は我慢しきれず、ついに突っ込みを入れた。
「んだよ! 早く言えよ!!」
「うん……。私ね、本当はふーたの双子の姉、なんだよ?」
「…………は?」
颯太は唯香の突然なカミングアウトに開いた口が塞がらなかった。
というのも、そんな新事実に驚いたというわけではなく、唯香がすぐに嘘だとわかることを言い出したからだった。
「意味わかんねーよ。だいたい、お前はお前んとこのお母さんそっくりなくせに、なんで俺は似てねーんだよ! お前んとこのお父さんにも似てねーわ!」
「えっ!? 私ってお母さんとそっくりに見えるの……!? っていうか、私の渾身のジョークをあっさり否定するだなんて、面白くなーい!」
颯太の反応が気に入らなかったのか、唯香は器用に唇を尖らせている。
一方で颯太は、唯香の母親の顔を思い浮かべていた。
唯香とその母は、外見がかなり似ている。しかし、性格はほとんど反対だと言えるかもしれない。
というのも、唯香が少し天然の入った平和主義な娘だが、唯香の母親は割と攻撃的な性格をしている。
言いたいことをすぐに、はっきりと言ってしまうところがあるので、唯香の父はなかなかに気苦労しているという話を、唯香の父に直接聞いたことが颯太にはあった。
唯香の父は、かなり落ち着いた人ではあるが、怒ると唯香の母とは違った意味で恐い。
母が攻撃的であれば、父は逆に静かで威圧的な怒りを雰囲気でだすという。
では、唯香の性格は誰の影響によるものなのだろうか。
「ふーたの家は喧嘩とか、ほんとに無さそうだよねー」
「あ? まあ、確かにねーな。そもそも母さんが全然怒らねーし」
「いいよね、優しいお母さん」
「俺もそう思う……けど、うちの母さんの場合は優しいっていうか、ネジが抜けてるんだよな」
「こらっ! お母さんにそんな悪口言っちゃダメでしょっ!?」
「へいへい」
颯太の母は、かなりと言っていいほど温厚である。
それこそ本当に「天然」と言えるほどで、他人の悪意に気付かず、人見知りもしないから、誰とだって話す。
だから、学生時代には色んな男子生徒に勘違いさせたという伝説が、本人の知らないところであったわけなのだが。
そういった意味では、直接的な原因は違えど、唯香と颯太の母は「異性に好かれる」という点は共通していると言える。
一方で颯太の父は、熱血漢である。
どんな時でも全力であり、趣味は筋トレ。学生時代には勉学と運動を常に自らの全力で挑んでいた為、成績は良い方ではあった。
曲がった事が嫌いな性格である故、どこかどこかで性格が捻くれた颯太と喧嘩することもあるが、颯太の母と喧嘩することは一切ない。
方や「狙わずの平和主義」で、方や「ベタ惚れ」なので、夫婦仲は結婚して20年以上経った今でも、変わらずに良好である。
実は、息子としてはそれが鬱陶しく感じることもあるようだが、それは颯太の心の中で留められている本音だ。
(ん……? 待てよ)
颯太は、自身の両親を思い浮かべて、唯香の性格が誰の影響なのかが閃きかかった。
閃きかかったものの、まだ確証は得られていない。だがそれでも、颯太は唯香に尋ねてみた。
「我ながら変なこと言うけど、もしかしてお前、母さんみたいになろうと思ってないか?」
「うん? 別に変なことではないと思うよー? だって実際に目指してるし……」
「ま、マジか」
「どれだけ自分の母に自信があるんだよっ!」と心の中で思いながらした質問だが、唯香は馬鹿にしたような表情を見せず、それどころか「当たり前」とでも言うかのような8割がた真剣な表情でそれに答えた。
その答えに、言うまでもなく颯太は頭を痛めた。
「唯香……悪いことは言わん。今からでもやめとけ」
「えー、なんでー?」
「むしろ俺の方が聞きたいわ! どう見たって、我が母ながら頭のネジが飛んでるぞ!?」
「そんなことないもん! あんなに優しい微笑みを向けられるだなんて、女性の鑑でしょっ!」
「そうかー? 俺からすれば、お前のお母さんのような、強い人の方がすげえと思うぞ?」
「いやだって、お母さんの言葉は乱暴だからやだもん!」
実のところ、唯香は自分の母の性格をあまりよく思っておらず、気付いた時には反面教師にしていた。
颯太の母を見て「同じ女の人でも、こんなに違うんだなぁ」って思った日のことは忘れられない。
とてもお互いに接点のなさそうな性格を持つ母親同士だが、性格がほとんど真逆だったからこそ、再会してからも仲良くやれているのかもしれない。
ふと、そんなことを考えていた唯香だが……。
「別に、俺は今のままがベストだと思うけどな」
「えっ……!」
颯太による不意打ちをくらって、わすが1秒も経たないうちに、考えていたことが一掃されてしまった。
「無理に理想へ近付こうとしなくても、今のお前が1番お前らしい。だから、俺は今の方がいいと思うぜ?」
「そ、そう? ……あ、ありがと」
颯太的には、特に狙いがあって褒めたわけではない……というより、別に褒めたつもりはなかった。
しかし、唯香の中での解釈は「今の私がいい」→「今の私が好き」となっているので、顔を赤くして俯いた。
実際に自分の顔が赤くなっているかはわからないが、颯太の言葉を聞いて顔が熱くなったので、おそらく赤くなっているだろうと思ったから俯いたのだ。
その予想は的中していたが、顔が赤くなっていること自体は颯太に隠しきれておらず、そんな表情の唯香を見て、颯太も顔を赤くした。
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颯太と唯香の雰囲気が良くなっている一方で、詩織は自分の携帯とにらめっこをしていた。
まずは誘ってみよう、と決心がついたところまでは良かったのだが、いざ誘ってみようとすると、どうやって誘えばいいのかがわからなかったのだ。
「普通に暇だから……って誘うのは、いくら黒山相手でも失礼な気がするしなぁ。かと言って、他に理由なんて思いつかないし……」
詩織が1人であれやこれやと悩んでいると、急に携帯が鳴り始めた。
「うわっ、びっくりしたー……! 誰だろ?」
着信を掛けてきている相手を見て、詩織は更に驚いた。何故なら、その相手が黒山だったからだ。
1つ、大きく咳払いをして声の調子を整え、着信に応じた。
「もしもし、どうかした?」
『それはこちらの台詞だ。栗川から、30分以内に電話が無かったらしてあげて……と言われたので、こちらから電話した。何かあったのか?』
「えっ? い、いや、特に何かあったってわけではないんだけど……」
流石は長年一緒にいた幼馴染というべきか。
真悠は詩織が、自分から黒山へ電話を掛けられないことを予見していたのだ。もちろん、デートに誘う理由作りに苦戦していることも想定していた。
だから真悠は予め、黒山に電話をした。
敢えて詩織の用件を伝えなかったのは「そこは、どうにか自分で頑張って欲しい」と願ったからだった。
そんな真悠の願いを完全に理解出来たわけではないが、それでも詩織は、真悠の気遣いを無駄にしなかった。
「けど、えっと……。今日、予定が空いているから、一緒に遊びに行けないかなーって……」
『…………』
黒山は少し黙った。
それは、彼が悩んでいるからだということくらい詩織にもわかる。
だが、笑って誤魔化して、話を無かったことにするような真似はせず、自分の心臓の高まりを感じながらも、黒山の結論を待った。
これ以上にないくらいの心拍。恥ずかしさ故に汗ばんでくるが、決して嫌な恥ずかしさではない。
事実、黒山が悩んだ時間は20秒にも満たないが、不思議と詩織には長く感じられた。
『ああ、わかった。丁度俺も予定が空いているからな。集合時間・場所はどうする?』
「えっ、あ……ありがとう! それじゃあ、駅前に集合! 12時くらいにして、お昼を食べてから遊ぼ?」
『了解した』
黒山はそう言って、すぐ電話を切った。
通話中、いつもでは考えられないくらいの緊張を感じていたのだが、黒山にはそんな気配が無かった。
彼が2人の女子から想いを寄せられていることを知っているので「誘われることに慣れているのかな」と詩織は思った。
そこには本人にもよくわからない切なさと、重度の中二病患者の癖にモテることに対する怒りがあったが、出かける頃には不思議とそれが無くなっていた。
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1月の時と同様、黒山は先に来ていた。
詩織の「ごめん! 待った?」という言葉に「いや、ほとんど俺も到着したばかりだ」と黒山は答えた。
かつては沙苗から釘を刺されてそう答えた黒山だが、今回は気を遣ったわけではなく、本当に到着してから時間がそこまで経っていないだけだった……というのは、答えた本人にしか知らない事実だ。
挨拶はその程度にしておいて、2人はすぐに移動を始めた。昼食を食べる場所を探していたわけだが、たまたま見かけたお店にパスタがあったため、特に議論を交わすことなく、昼食はパスタに決まった。
どこか西洋を思わせるお店の奥側にある席に腰掛け、大して迷うことなく決まったスパゲティが届いてから、ようやく2人の会話が始まった。
「ところで、栗川とはいつ合流するんだ?」
「え?」
ボンゴレスープのパスタを食べようとした手を止め、詩織は凍り付いた。
「黒山君。今日は真悠、来ないんだけど……」
「そうか」
「えっと……嫌だった?」
黒山の反応を見て、思ったことを特に考えることなく質問をした。
「いや、そんなことはない。ただ、2人が別行動するのは珍しいと思っただけだ。確かに、栗川は自分も行くとは言ってなかったしな」
「そ、そう?」
詩織は実際、自分が黒山のことを好きなのかどうかを、まだはっきりとわかっていない。
好意があることには変わりないんだろうが、それを知らず知らずのうちに否定しているのが、今の詩織だ。
そしてこの時を経て、詩織は今まで考えもしなかったことに気が付いた。
詩織が今まで見てきた中で、最も異性にモテた人は紛れもなく真悠だ。
真悠が誰か異性に好意を寄せるところは一度も見たことがなかったが、この先もずっとそうとは限らない。
ーーもし、好きな人が真悠と同じ人だったら? 三角関係になってしまったら?
そんな未確定な可能性に気付いた詩織は、ミートソースのパスタを頬張る黒山をただ無意識に見つめていた。
そして、そんな彼女の変化に気付かない黒山ではなかった。
「梶谷、どうかしたのか?」
「あ、いや、えっと……ごめん、大丈夫!」
「そうか。疲れているのなら、休んだ方が……」
「ううん、大丈夫! そんなことより、黒山君の話を聞かせてよ」
「……俺の、話?」
黒山は戸惑った。かつて今まで、自分の過去をこと細かく誰かに教えたことがなかったからだ。
断片的に、その時一緒に行動していた者なら、その時のことはわかるだろうが、わざわざ1から説明した経験はなかった。
というか、喋ってはいけないこともあるが。
「そもそも、黒山君はどんな女の子が好みなの?」
詩織は質問しつつ「我ながら攻めたなぁ」と思った。
一方、黒山は珍しく困った顔をした。
「好み……というのがよくわからないな。必要ないとまでは言わないが、俺には今のところ恋人の必要性を感じていない」
「そっか……前に、孤高でいたいって言ってたもんね」
「ああ、そうだ。そうでなければ、俺は今頃戦えていないだろうしな」
「……そもそも、なんで黒山君は戦う必要があったの? 確か2つの能力を持ってるんだよね? どんなきっかけで目覚めたの?」
「ああ、それは……」
そう言いかけて、黒山は一時停止した。そこには、決して話してはいけない内容があったからだ。
結果、黒山は話せる範囲で断片的に話すことにした。
「『孤高となる為の拒絶』はあまり憶えていないが『全てを覆う為の黒』に目覚めた時のことに関しては憶えていないが、理由はわかる」
「へー、どんな?」
「意外かもしれないが、目覚めるまでは白……白河とはすごく仲が良かった。俺はあいつを友達として信じていた」
「…………」
「けど、裏切られた。とある事件をきっかけに目覚めたんだと思うが、何せ最初の発動が暴走だったから、よく憶えていないんだ」
「そんな悲しいことが……」
「そうだな。今でも、あの時の悲しみは忘れられない。『孤高となる為の拒絶』の代償は、最も忘れたい記憶を当時のように思い起こさせる、というもので毎回その記憶が選ばれる。だから余計に忘れられない出来事なんだ」
「あ、ごめん。質問の内容が無神経だったね……」
「いや、いい。過ぎたことだからな」
そう言って、2人はパスタを食べることを再開した。
読んで下さり、ありがとうございます! 夏風陽向です。
すいません、また予約投稿しかけたところで寝落ちてしまいました……!
今回の更新内容、少し補足させていただきますと、黒山に想いを寄せている女の子は、詩織を除いて実は3人です。
詩織は、奈月と沙希の2人と会ったことがあるので知っていますが、梨々香とは接点がないので知らないのです。
文章に正確な人数をいれようか悩んだのですが、詩織目線の人数にしました。
次回も読んでくださると嬉しいです! それでは、また来週!




