悪を裁く審判の歌 part15
沙希が電話を切ってから奏太が黒山に電話をするまでにそこまでの時間はかかっていない。
しかし、黒山は自身の限界を『拒絶』して走っているので、進んだ距離は短くなかった。
徐々に駅から離れて敵のリーダー格を探している中、電話が鳴ったことにすぐ気が付いた。
画面に表示された
「……奏太か?」
『ああ、そうだ。それで透夜、俺の力が必要ってどういうことなんだ?』
沙希が黒山と通話して来たとき、ヤイバ男が変刃さんだと知って驚愕していたのと同時に、かつて能力を使って『見た』相手にも関わらず、正体がわからなかったことに衝撃を受けていた奏太は、沙希と黒山がしていた会話の内容を聞いていなかった。
つまり、黒山が沙希と自分にどんな情報を求めてきたのかを横で聞いていて知っているはずなのに、知らない。しかし、黒山はそれを責めたりはしなかった。
今現在も走りながら息を切らさず話を続ける。
「清村とヤイバ男の行動は、誰かリーダー的存在に指示されたものだということがわかった。
そして、清村はそのリーダー格に連絡をし、俺を邪魔させない為だけに無関係の人を巻き込もうとしているようだ。……俺はそれを阻止したい」
『…………。
敵のリーダー格の名前は石田航平。駅前の路上コンサートで伴奏をしている男だ』
奏太から返答がくるまで少しの間があったが、黒山は「奏太がヤイバ男の過去を能力で見た」と思ったので気にならなかった。
それよりも、黒山は奏太からもたらされた情報に衝撃を受けた。
黒山の予想では「居たとしても、観客に紛れ込んでいる。あるいは見つからないように逃げ続けている」と思っていた。
それはつまり、言い方を変えれば「絶対に演奏者が犯人ではないと、思い込んでいただけだった」ということになる。
黒山は相手を見ただけで「重度の中二病患者」かどうかをわかるが出来る。
歌を歌っている金子花奏は既に見ているが、その斜め後ろで伴奏をしている者はどうだったのかというと。
「くっ……盲点だったな……」
見ていなかった。
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黒山が衝撃を受けている時、実は奏太も衝撃を受けていた。
ヤイバ男……変刃さんを探し始めた時、駅まで路上コンサートをしていた姉の姿と、伴奏をしていた石田航平の情報を『見た』時は「石田航平が今日、犯行に関わってくる」という情報は得られなかった……というより、無かった。
(お、俺の能力は……相手の記憶にある情報を集めることが出来る能力……けど)
それにもかかわらず、情報には無かったはずのことが起きている。
(なのに、何故? 何故、その情報を得られなかったんだ!?)
まるで自身の能力『集められる為の硝子棚』を否定されるかのように起こっている現実と直面し、奏太は絶望的な感情を強く感じた。
すぐ近くで奈月と変刃さんが戦っているにも関わらず、その音が徐々に遠ざかっていく。
まだ繋がっている電話を持った右手がぶらりとさがり、黒山の声も聞こえない。
やがて全ての音が全く聞こえなくなり、溢れ出そうな気持ちを抑えるのに精一杯になっていた。
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電話の向こうで、奏太がそんな複雑な心境になっているといざ知らず、黒山は自身が感じた衝撃を振り払うかのように『拒絶』し、全力で駅前へと引き返し始めた。
「……とりあえず、敵のリーダー格についてはわかった。俺はすぐ駅前へ行くから、電話を切るぞ?」
『…………』
返事はない。
再度の確認はせず電話を切り、人を避けて行くのに集中する。
目で追えない程のスピードは出せないが、陸上競技をやっているわけでもない1高校生が出せるスピードではないので、出来るだけ人目がつかない道を選んで走り続ける。
人通りの多い大通り等はもちろん、このような目立たない脇道もよく知っていた。
だから、わざわざ道を選ぶことに頭を割く必要はない。黒山はその分、敵のリーダー格……石田航平の狙いを考えていた。
冷静に考えてみると、引っかかる点はいくつかある。特に大きいのは「何故、自分も重度の中二病患者だというにも関わらず、能力を使わないのか」だ。
能力を行使して人を襲っているヤイバ男や清村は、代表者達にとって十分、制圧対象となっているが、能力を使っていない石田航平は微妙なところ。
石田航平が代表者達の存在を知っていたのなら、今まで自らが能力を使わなかったのかは納得出来るが、それはそれで「どうやって2人を行動させたのか」という点が謎だ。
2人を行動させるに至らせた能力があるのであれば別だが、そうなると清村が言っていた「現代人にとって特に頭が痛い」の意味がわからない。
答えが見えてこない。
だが、考えることはやめない。
……それは黒山の良い点でもあり、悪い点でもあった。
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「うらぁっ!!」
猛々しい声と共に、鎌田は全力でコピー人間を右手で殴った。
しかし相手は「炎盾」を使った直後にコピーされた自分。その攻撃もあっさり受け止め、回し蹴りで反撃をしてくる。
「う……ぉりゃっ!!」
鎌田はその回し蹴りを間一髪でしゃがみ、回避した。
そんな鎌田とコピー人間の戦闘を見て、清村はあからさまに「面白くない」という顔をした。
真顔ではなく、鎌田本人を睨むかのような鋭い視線だったが、鎌田はそれに気付いていた。
だが、だからといって鎌田は動揺しない。
なかなか倒せない強敵となったコピー人間が相手だということに、心の底からこのバトルを楽しんでいたからだ。
少年漫画的に燃えるこのシチュエーション。男として、鎌田は興奮せずにいられなかった。
楽しんだりすると、鎌田に宿る怒りの炎は消えていくが、意外にも「悔しいぜ、負けてらんねぇ! 俺自身も超えてやるぜ!!」という気持ちが微量にも火種となっていた。
特に攻撃してこない清村は最早視界にはなく、鎌田の意識は全てコピー人間に向いている。
「おらおらおらおらおらぁっ!!!!」
肘と拳から炎を瞬間的に出すことで、ラッシュのスピードを上げる。
鎌田的に言えば「流石は自分」と言ったところか。
攻撃のほとんどを受け流し、被弾しても簡単に倒れたりしない。
隙を突かれて鎌田も攻撃を受けるが、持ち前の打たれ強さで耐える。
「ならよぉ、こいつはどうだぁっ!?」
(炎拳……剛波ぁっ!)
右手に炎を込め、大きな一撃を放った。
しかし、対するコピー人間も「炎拳剛波」を「炎盾」で防ごうとせず、同じ「炎拳剛波」で対抗してきた。
大きな炎の拳が、場違いにも狭い脇道でぶつかり合う。
こうなれば、もう力比べしかない。
「うおおおおおおあああああっ!!!」
「…………っ!!」
2つの大きな炎の拳は、押したり押されたりで互角の状態が保たれている。
コピー人間で戦闘に特化させている故、声を発することは出来ない。しかし、それでも鎌田はコピー人間の気合がこもった猛々しい声を心で感じている。
(負けっかよぉ! 負けっかてんだよぉ!!!)
鎌田が力と炎を更に高める。
(……あぁ!?)
……が、高めすぎた「炎拳剛波」は形を崩し、軽く爆発を起こして2つとも消え去り、その衝撃で鎌田もコピー人間も後方へ吹き飛ばされた。
もちろん、ひ弱な清村も例外ではなかった。
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奏太が絶望に打ちひしがれていても、奈月と変刃さん(ヤイバ男)の戦闘は続いていた。
普段は相手の心へ侵入し、行動内容を奈月の心に伝える形で支援をしている沙希だが、今回は残念ながら役に立てずにいた。
相手の心が上手く読めないのだ。
だが、沙希は奏太と違って絶望は感じていない。むしろ、自分が相手の心を読めない理由が大体わかっている。
変刃さんの動きは、今までの敵と違って、かなり野性的だ。
自分がどう動いて相手を倒そうかといったことは考えず、その場その場で思いついた動きをしているに過ぎない。
(奈月……相手の動きが野性的すぎて上手く読めないわ)
(そっか、了解!)
(こうなれば、後は奈月次第になってしまうのだけれど……)
(大丈夫! やっぱりなかなかのやり手だけど、ボクはちゃーんと反応出来るから!)
一時的に心をリンクし、テレパシーのように会話をした。
一見、かなり便利な使い方だが、その分代償が重い。短時間ならまだ戻るに苦労しないが、あまり長時間リンクしていると、リンクしている同士で混ざり合ってしまう危険がある。
沙希は奈月の返事を聞くと、すぐに能力を解除した。
実を言うとこの時、既に沙希は奏太が能力を使って『見た』変刃さんと、奈月と戦っているヤイバ男が違っている理由がわかったのだが、奈月の戦いを見守る役に徹することにした。
「エヤァァァァァッ!!」
奈月が高く凛々しい声を上げてから放った四連撃に対し、ヤイバ男は躱しつつ、最後の一撃をヤイバで受け、握っていたヤイバが砕かれた。
しかし、すぐ後ろへ下がりながらヤイバを成形することで体制を立て直し、サーカス団並みの身体能力で自在に動き、自在な角度から奈月へ斬りかかる。
だが、そんな攻撃も全て反応し、輝いた竹刀で受け止める。
……ように見えるが、実際はヤイバ男がヤイバと竹刀が触れる直前で動きを止めて、別の角度を試みている。
「どうしたのかなー? これじゃあ、埒があかないじゃん!」
「……そうだな、ならば……これは、どうだ」
ヤイバ男は、奈月から少し離れたところで正面に立ち、以前、真悠にも使った技を披露した。
縦一列に23本。横一列に22本の合計55本のヤイバを十字になるよう空中で成形し、奈月の方を指差して……。
「いけ」
とだけ言うと、一気に奈月へ向かって発射された。
一方、奈月は。
嬉々としていた。
「いいね、いいね! これぐらいじゃなきゃ、面白くないよ!」
奈月の竹刀のリーチが伸びることはない。なので、55本のヤイバを一撃で落とすことはまず不可能だ。
「えええええいっ!!」
奈月はしゃがみ、大きく上へ切り上げた。
リーチが長くならなくとも、スピードは「剣士としての技量」なので、能力で早くなる。
残った横のヤイバは無視。追尾性能も警戒してた奈月だが、その様子が見られなかった為、無視したのだ。
その場で止まらず、すぐに距離を詰めてヤイバ男相手に問答無用で斬りつけようと踏み込むが、それを感知したヤイバ男が横に移って回避し、すぐ反撃をした。
「おっとっと!!」
奈月は持ち前の反射神経で見事、それに対応して回避して、再び攻撃をした。
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一方、黒山は既に駅前の路上コンサートをやっている場所へ到着していた。
「ここか。……あいつが、石田航平?」
伴奏をしていると男を……石田航平を見ると、彼はどちらかというと影の薄いようなキャラをしていると黒山は思った。
一方、石田航平も黒山の存在に気付いた。そして「ニヤッ」とこちらを見て、伴奏を急に止めた。
やがて、花奏と観客が揃って、異変に気付いて石田航平の方へ注目した。
彼は右手を出して、指揮者のやる「二拍子」の動きを1回行なうと、花奏を除いた近くの人達が頭を抱えて地面にうずくまった。
能力による攻撃が迫っているとすぐに気付いた黒山は、すぐさま『拒絶』した。
「待っていたぞ、黒山透夜。いきなり本題で笑いが出ないところだろうが、俺たちの計画をお前に邪魔されるわけにないかない」
「お前が、石田航平か?」
「……! まさか、名前を知られていたとはな。驚いた」
「そんなことはどうでもいい。周囲の人に何をした?」
そんな黒山の質問にわざとしく首をかしげると、右手の指を鳴らして答えた。
「特別だ、教えてあげよう。俺の能力は『罰する為の罪状』といって、使った相手の心に秘めたる罪を呼び起こし、激しく自らを責めさせるというものだ。彼らは今、自分がかつて起こした罪を思い出し、頭を抱えて苦しんでいる……と言ったところか」
「…………」
清村の言っていた「現代人には特に頭が痛い」というのは、こういうことだったのか、と黒山は納得した。
法令が確立された今だからこそ、1つの行動が罪になるかならないかは、法律を調べればわかることだ。
しかし、それは「知る人ぞ知る」という部分もあるわけだし、法律では罪とならないことでも、一人一人に「後ろめたいことがある」というだけで、石田航平の能力『罰する為の罪状』の発動条件が満たされるということだ。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
私は普段、土日に続きを書いてしまう人間ですが、今回は土日両方とも仕事で忙しかったのでぎりぎりとなってしまいました。
本当は休もうかとも考えたのですが、継続は力なり。続けていくしかないでしょう!! ということで書かせていただきました。
というわけで、今回はあまり気の利いたお話は出来そうになさそうです。申し訳ありません……!
それでは、また来週も読んでくださると嬉しいです!




