悪を裁く審判の歌 part13
決戦前に色々あるのは代表者達だけではない。
むしろ、代表者達が一方的に「決着をつけよう」と考えているだけであって、事件を起こす当事者達にとっては「自分たちの行動を続けているだけ」でしかない。
昨日も集まっていながら、とあるカラオケボックスの一室には男3人が集まっていた。
「明日の最終確認だ」
カラオケボックスに集まってるとはいえ、いつも通り歌うことはない。その代わり、リーダー格の男は、残り2人の男にそう言った。
実のところ、鎌田を退学に追い込む作戦を立て実行した時、黒山がそれを阻止しようと介入してきてたことをきっかけに、リーダー格は警戒心が強くなった。
その1つとして、計画実行の前日に最終確認を行うことが習慣付いたのだ。
「俺はいつも通り、金子花奏と共に路上コンサートを行なう。その間、もしくはその直後にターゲットを仕留めること。いいな?」
「ああ、わかってる!」
「……ヒヒッ」
「…………」
やる気に満ちてるのか、眼鏡をかけた男は右手の拳を握って、はっきりと返事した。
しかし、猫背の男は返事をしなかった。肯定でも否定でもなく、ある意味特徴的な笑いをこぼしただけだった。
とはいえリーダー格は、猫背の男が「誰かを攻撃する」ことだけを確信していた。そしてその相手はターゲットではないかもしれないが、「心が浮かれている相手」であることには間違いがないので、それで良しにした。
眼鏡の男は不満があったようだが。
「……リーダー。本当にこの男、大丈夫?」
「問題ないだろう。こいつは攻撃する相手をちゃんと選ぶ。……浮かれている愚かな相手をな」
「それはそうだろうけど……」
「もし、こいつがそうでない相手を攻撃したら、俺がこいつを悪とみなして裁きを下す。だからお前は自分の責務を果たせ」
「了解。リーダーがそう言うならね」
「ああ、頼んだぞ」
「……だけど、転校生が邪魔してきたらどうする? この前は偶然だったかもしれないけど、あいつなら今回も邪魔して来そうな気がする」
眼鏡をかけた男の言う「転校生」とは、黒山のことだ。
現在の瑠璃ヶ丘高校の生徒にとって、黒山は既に「転校生」という特別な存在ではなくなっているが、鎌田の一件以降、学校に行っていない彼にとって、今も得体の知れない黒山は「転校生」扱いだった。
眼鏡をかけた男は「自分では黒山に太刀打ち出来ない」と自覚している故、リーダー格にそう尋ねたのだ。
「確かにその可能性は高いな。だがそうなった時には、すぐに連絡してくれ。俺が相手をする」
「本当に言っているのかい!? あいつは……転校生は本当に強いんだよ!?」
「わかっている。だが、俺達は正しいんだ。負けるはずがない」
「そ、それは……」
眼鏡の男は口籠った。彼は黒山の強さを直に味わった経験があるので、リーダー格の言っていることを「現実的ではない」と感じたのだが、リーダー格の真っ直ぐな視線に負けて、渋々納得した。
「大丈夫だ。そもそも俺達の目的は、悪を裁くことだ。それさえ出来れば問題ない」
「う、うん。わかった……」
「よし……。罪深き悪人に『スリー・オブ・ジャッジメント』による裁きを!」
「裁きを!」
「…………」
続いて言ったのは眼鏡の男だけだった。
彼らの間で、裁きを下す前にはこれを言うのが習慣の1つだが、猫背の男は「言う時と言わない時」がある。
今回は言わなかった。いまいち団結力に欠けるが、それでも彼らは実行する。
自分達が掲げる「正義」の名の下、悪人への裁きを。
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1月19日 金曜日。
学生達は放課後を迎え、帰宅ついでに街へ遊びに出掛ける者。「誰よりも上手くなろう」と部活動に励む者。お金を稼ぐ為にアルバイトに勤しむ者。
それぞれが、それぞれの「やるべき事」を全うする中、駅前では今日も路上コンサートが開かれた。
現代において「路上コンサート」や「路上ライブ」というのは、迷惑扱いされ、禁止されることが多い。
それは、色んな人が「アーティストとして活動する」という夢を叶える為、人通りの多い場所を選んできた結果として禁止されているわけだが、一方で、都会に比べて人通りの少ない田舎では、行おうとする者がいないのではっきり「禁止」と書かれているわけではない。
もっとも、だからといって「営業妨害だ」と近隣の店から訴えられれば、黙って退散していくしかないのが現代なのだが、この街は「都会よりは少ないが、人口密度が低いわけではない」という場所な上に、近隣の店から営業妨害の訴えがないので、路上コンサートを開くにはもってこいの場所だと言える。
……ように見えるが、それは金子花奏の歌い声が大衆にとって「美しい」と思えるものだったから、なのかもしれない。
代表者達が街へ着いた時は、丁度歌が始まったところだった。
音楽の女神・ミューズ(ムーサ)の祝福を得たかのような歌声に、黒山と奏太を除いた代表者達(+2人)も心と耳を奪われた。
奏太はというと、歌声の美しさは認めるものの、その歌声が「姉のもの」と知ってしまったが故に、恥ずかしさの方が勝っており、素直に感動出来ない状態だった。
黒山は言うまでもなく、心が乏しいだけだ。
奏太は恥ずかしさを紛らわすと共に、黒山以外の代表者達の意識を歌から逸らす為にわざと大きく咳払いをした。
「ごっほっ……っく! さて、さっさと取り掛かるぞ」
奏太の言葉に皆一斉で頷き、打ち合わせ通り、2グループに分かれてヤイバ男と清村を探し始めた。
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対ヤイバ男のメンバーは、戦闘要員として奈月。情報収集の要員として沙希と、同伴を希望した奏太。そして、戦闘が始まった時、周囲の人間を巻き込まない為の対策に連れてきた、奈月や沙希と同じ紅ヶ原女子高等学校の1年生・美喜。以上の4人だ。
4人は、路上コンサートが開かれている近くを通って行った。その時。
(そういえば……)
ふと、奏太は歌っている姉の横で伴奏をしている男が視界に入り、昨日の朝のことを思い出した。
姉の記憶を読み取った際に見えた、姉と「ぺーやん」のSNSでのトーク。そこに今日の路上コンサートの予定が書かれていたわけだが……。
(もしかしたらあの男か? ……ちょっと覗いてみるか)
奏太は自身の能力『集められる為の硝子棚』を発動し、伴奏をしている男の情報を見た。
(え、マジかよ……!?)
そして驚愕した。ヤイバ男の捜索を始めてすぐに『スリー・オブ・ジャッジメント』の存在と、その男……石田航平が黒幕だった事実を知ってしまったからだ。
そして彼も「重度の中二病患者」だということに。
だが今回の計画に、ぺーやんこと石田航平が「何かを起こす」という話は無い。
一応、黒山への対応を考えているような情報も読み取れたが、演奏中の彼が黒山の相手をしに行けるとは思えない。
よって奏太はヤイバ男との遭遇を優先した。
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一方。
対清村に対応するのは、戦闘要員として黒山と鎌田。そして周囲の人間を巻き込まない為の対策要員としてもう1人……。
「ったく、なんで僕が!!」
「まぁいいじゃねぇかよ! てめぇとしても、相手が清村なら願ったり叶ったりだろ?」
「それはそうだけども……」
周囲の人間を巻き込まない為の対策要員として連れてきたのは、かつて爪使いの男と組み、デパートで詩織を襲った男だ。
彼はあの後、本来なら治療で能力を失うところだったのだが、雪消(瑠璃ヶ丘高校先代)と針岡によってそのままにされた。
理由は、彼の能力『しまい込む為の玩具箱』が「重度の中二病患者」を取り締まるのに有用だと判断されたからだ。
相棒だった爪使いの男(デパートの話での表現では『手慣れた男』)はセオリー通りに治療され、フリーターとして働いている。
彼らは、かつて清村によって陥れられた身だ。彼ら自身、自分のしてきたことを反省しているものの、清村に多少なりとも恨みがある。
もっとも、当時に比べたら、時間が経っていることもあって言うほど恨んでいるわけではないのだが。
ただ、彼を協力させるには良い餌になったことに変わりはないだろう。
鎌田と男が「あーだこーだ」と話しながら歩いている途中、先頭を歩いていた黒山が急に止まった。
「あぁ? どうした、透夜?」
「……思ったより早かったな」
3人の目の前には、男の中では割と身長が低く、眼鏡をかけた男……清村卓也が立っていた。
「やっぱり邪魔しに来たんだね、転校生」
「……そういうあんたこそ、中々懲りないようだな。それに、今回はあんたにとっても因縁深い相手が2人もいるぞ?」
「……ふーん」
黒山にそう言われて、清村は興味なさそうな顔をしたが、鎌田と巻き込まない要員の男は敢えて黒山の前に立った。
「久しぶりだね、清村。君のおかげで、僕達の人生は滅茶苦茶になってしまったよ」
「……自業自得じゃん」
巻き込まない要員の男の言葉に清村は、ただそれだけ返した。
だが、続く鎌田への反応は違った。
「清村ぁ!!」
「大声出さなくても聞こえてるよ鎌田君。それで? 君は退学について怒っているの?」
「ちげぇよ……。俺がなぁ! てめぇによぉ! 怒ってのはよぉ! 関係のねぇ奴を巻き込んだことだぁぁ!!」
「うん? 僕には鎌田君が何を言っているのか、ちょっとよくわかんないや」
「んだと!? てめぇ……!」
鎌田が怒っているのは、かつて「鎌田を退学させる為に、鎌田と仲の良かった2年生5人を巻き込んで病院送りにしたこと」だ。
退学を宣言された会議室では、普段真面目な清村の話を信じるばかりで鎌田の主張を何も信じようとしなかった教師と、母と離婚してからずっと気に入らなかった父親に怒りをぶつけることに熱中してしまい、清村のことが頭から離れてしまっていた。
だが、今回は違う。鎌田は清村にあの時の仕返しをすることが出来る。
結果的に言ってしまえば「清村を倒すこと」だが、鎌田にとっての仕返しとは「目的を阻止すること」だ。
「さて。どうやら鎌田君達をどうにかしないと、僕の目的は達成出来ないようだね。……だけど転校生。君の相手は僕じゃあ、ない」
「何? どういう意味だ?」
清村は「ニヤリ」と腹黒さ全開の笑みを浮かべ、携帯電話を取り出し、電話をかけた。
しかし、電話をかけていながら携帯電話を耳に当てていない。微かな「プルルルル」という音が、対峙する3人の耳にも届く。
「リーダーから命令されててね。君が現れたことを報告しているんだよ」
「……そのリーダーがここへ応援に来ると?」
「いや、それは無理だろう。……だけど、彼は君の気を引く為に周囲の人を巻き込むんじゃあないかな」
「何だと?」
「急いだ方がいいと思うよ? 現代人にとって特に、彼の能力は『頭が痛い』からね」
「くっ……!」
(どうするか……? 鎌田と協力すれば清村など、どうということもないが……)
黒山が顔を歪めて悩んでいると、それを察した鎌田は「はんっ!」と鼻で笑って、胸の前で左手のひらに右手の拳を激しくぶつけた。
「おい透夜ぁ! ここは俺たちがどうにかすっから、てめぇはこいつのリーダーってのを探して止めて来い!」
「……しかし」
「うるせぇ! つーか、てめぇは俺がこの野郎に負けるとでも思ってんのか? あぁ!?」
「……わかった。ここは頼むぞ」
「合点承知ってなぁ! おっし! 行くぜぇ!!」
黒山は踵を返し、能力によって自身の限界を『拒絶』して全速力で探しに行ったのを確認してから、巻き込まない要員の男は『しまい込む為の玩具箱』を発動し、黒山を除いた4人を別次元へと飛ばした。
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清村は真面目なだけでなく、多少なりとも頭が切れた。
リーダー格である男・石田航平が駅前で演奏していることを知っていたが、それを黒山に知らせなかった。
敵に塩を送りたくない、ということもあるが、1番は「黒山が航平を探す為に走り回る」こと自体が、十分な時間稼ぎになると思ったからだ。
それに加え、彼ら『スリー・オブ・ジャッジメント』の打ち合わせの中で、航平への報告手段について指定が無かったにも関わらず、咄嗟に「電話を鳴らす」という方法を取った。
最良は航平が電話に出ることだが、演奏中は出ることが出来ない。それを織り込み済みで、電話を鳴すだけで察するだろうと判断できたのだ。
そしてその狙い通り、清村から着信を受けた航平は、演奏中にも関わらず、携帯の振動だけで「清村が黒山の妨害を受けた」と判断した。
(なるほど、やはりか。……だが)
(このまま、演奏を続ける)
航平は、そこで自身の能力『裁かれる為の罪悪感』を発動せず、演奏を続けることで自ら時間稼ぎを担うことにした。
彼が下したこの判断は、決して間違っていなかった。
しかし、彼は気付かないうちに「運が悪かった」とも言えるミスを1つ。既に犯しているのだった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
すみません、戦闘に入るつもりが入れませんでした……。
次回こそは戦闘に入りつつ……といった形になると思いますが……。
ようやく、鎌田と清村の決着が書けると、私はウキウキしています。鎌田はご存知の通り、戦闘特化の「重度の中二病患者」ですが、清村は戦闘特化ではありません。
彼がどんな戦い方をするか、予想できる方は予想できるかもしれませんが、楽しみにしていただけると幸いです。
このように以前出したキャラを出すとき、キャラの特徴を結構忘れてしまっているので、出てきた話を読み返すのですが、その時に何かしら「間違い」が見つかってしまいます。
実際のところ「毎週読んでるよー!」って方が何人いて下さるのかは、非常に残念ながら私はわかっていませんが……。
「指摘して下さってもいいじゃないですかー!(泣)」
嘘です。
申し訳ありません! ちゃんと毎回確認します、はい……。
悪ふざけはここまでとして、来週もお楽しみに! また読んでくださると嬉しいです!
……と終わらせたかったのですが、どうしても伝えたかったことがあります。
「うおっ、鼻血……」
最近、どうも鼻血が出やすいんですよね……。
それでは改めて、また来週をお楽しみにして下さると嬉しいです!




