行き過ぎた反抗期 part1
今回から新章!
私も一時期、来ていたものですが、皆様はどうでしょうか?
会社見学を終えた放課後。
今朝、針岡先生に「放課後に進路指導室に来てくれ」と言われた通り、真悠と2人で進路指導室へ行った。
進路指導室へ入ると、進路指導担当の先生が使っているデスクが4つあった。
その奥に応接室があるわけだが、針岡先生はそこにいた。
「おーい、2人ともこっちだー。」
「はーい、せんせー!」
「……失礼します。」
「おう! 座ってくれー。」
私と真悠は針岡先生に言われた通り椅子へ座ると、針岡先生は珍しく真面目な顔をして話しだした。
「先に言っておかないといけないことがある。」
「なんですか? 改まって……。」
「おう。実は本来、昨日起きた事についての記憶は消さなければならないんだ。」
「えー! 何でですか、せんせー?」
「そりゃお前さん、男子生徒について行ったら触手に襲われました。……なんて、誰が信じるんだよ? 被害者なのに、頭のおかしいやつだと思われるだろ!」
「うっ……。確かに……。」
「だが、転校して来たばかりの透夜にとっては、校内の勝手がわかる人が味方にいるに越したことはないからな。そこで提案なんだが……。」
「なんですか?」
「今日の話を聞いた上で、今後の透夜に協力してやって欲しいんだ。情報の提供だけでいい! できるか、できないかは明日の放課後までに決めてくれ! ちなみにできない場合は記憶を消させてもらうけどな。」
1日で決めろというのは幾ら何でも短い。しかし、この教師に抗議したところでいつも通り「異論は認めん!」の一言で終わってしまうのだろうと思った。
真悠はそんなことも考えずに、どうやら話の続きが気になるらしく猶予の短さそっちのけで質問をした。
「せんせー、記憶を消すってどうやって??」
「ああ、その話も後でする。……2人とも、覚悟はいいか?」
私と真悠が無言で頷くと、針岡先生は話を続けた。
「2人は『中二病』って知っているか?」
「中二病? それってどんな病気ですかー?」
「えっ、真悠知らないの? 1番いい例は、黒山ね。自分の中の設定に従って、言動が痛々しくなるやつよ!」
「へー! そんな病気があるんだね? 私、知らなかった……。」
「あれは病気ではないわ。だいたい中学2年生くらいになると多く見られる現象だから、中二病って呼ばれるだけで、医学的には病気じゃないの。」
「え! 病気なのに、病気じゃないんだね!? んー、難しいな……。」
「……それで、中二病に何の関係があるんですか?」
「梶谷の言った通り、中二病は病気じゃない。……一般的にはな。」
「どういうことですか?」
「人間は案外、考えられる事は実現可能だったりする。飛行機とかそうだよな? 人も鳥みたいに飛べたらいいなって考えて研究や試行錯誤をした結果に乗り物として出来た代物だ。」
「……それで?」
「中二病もまた同じ。自分の中で強く信じている、特別で理想的な力を持った自分を、思い描いていたのとは少し違った形で実現させてしまう少年・少女が現れたんだ。……だけど、医学的にも科学的にも証明が出来ないもんだから、事件が起きても解決ができないんだ。」
「確かに私と真悠の場合も、黒山君が助けてくれたから良かったものの被害にあってからでは誰に言っても信じてもらえないでしょうね……。」
「そうなんだよなー。だからカウンセリングによる心のケアから始めてみたんだけど、力を制御できないやつも多かった。……そこで、目には目を! ってことで、力を制御できるやつには無力化をお願いしているんだ。」
「……もしかして、黒山君も?」
「ご察しの通り。こっちの世界では透夜や下崎の様な力を発現してしまったやつらのことを『重度の中二病患者』と呼んでる。……結局、重度の中二病が原因である心の病気とされいるからな。」
「……ちなみに、校内には『重度の中二病患者』がどれくらいいるんですか?」
「わからん。無力化できる協力者は透夜だけなんだけど、どうやらあいつは、誰が発症しているのかを見ただけでわかるらしい。」
「なるほど……。それで黒山君は、告白の時から下崎を気にしていて、無力化するために下崎が力を使う瞬間を待っていたわけですか。」
「そういうことだな! ちなみに俺も若い頃は、重度の中二病患者だったんだぜー? 今は後遺症として力の一部……『忘却』を使えるって感じでな、それで記憶を消してる。」
「えっ!? 先生も痛々しかったんですか?」
「思い出すと恥ずかしい話だけど俺の場合は、自分の狙ったタイミングで気配を消すことができる。その名も『忘れさせられるための暗示』……まあ、実際は名前の通り、暗示することで自分や相手の何かを忘れさせられることのできる力で、使い方によっては今まで培ってきた無意識を忘れさせることもできたから、俺を認識している感覚を忘れさせられたので時に家族以外に使った。」
「なんで家族以外なんですか?」
「だってしーちゃん! 家族から忘れ去らちゃったらかなし……」
「俺の分の飯が無くなる。」
「……。」
私と真悠は、同じことを思っただろう。
ああ、この人は元からこういう人なんだな……と。
「とりあえず、説明はこんなところだが……他に質問とかあるか?」
「はーい! せんせー!!」
「はい、栗川さん。」
「黒山君と先生は、いつから知り合いなんですかー?? 教室とか以外では下の名前で呼んでますよね?」
「あー……。あいつと初めて会ったのは、確か5年前だったか? お前らはまだ小学5年生の時だ。その時はもう、あいつの力は発現していたなー。」
「えー! 黒山君って、そんなに前から中二病だったんですかー!?」
「いや、おそらくもっと前からだろうなー。俺があいつと会ったのは、あいつの力が暴走したのが原因だったからなぁ……。」
「暴走……?」
「とある事件がきっかけで、あいつの力が暴走したらしい。事件の内容は俺も知らないが、暴走の被害にあった奴らはしばらく目を覚まさなかった。梨々香っていう他の患者がいたからなんとかなったが……あの時は、本当に大変だったぜ。」
「まさか、その記憶も全部……?」
「消してやったぜぇ! うるせーモンスターペアレントもいたからなー。あんだけ苦戦したのは初めてだった……。その分、透夜にはしっかり働いて貰わないとだなぁ?」
(うわ、先生の顔がゲス顔に……)
「ちなみに黒山君は、下崎の時に本気を出していなかったらしいですが、本気出すとどうなるんですか?」
「……周囲にいた人はみんな、二度と目覚めない可能性が出る。あくまで仮説だがな。」
「えっ!?」
「目覚めないって言っても、死ぬわけではないんだ……いわゆる昏睡状態ってやつだな。自分の中にある生きようって気持ちを自分で拒絶してしまう現象に陥るらしい。それが暴走の時に起こった現象なんだがな。」
「黒山君……危険人物じゃないですか。」
「でもしーちゃん。黒山君は心が優しいから、きっと大丈夫だよ!」
「わかってるわよ……。ところで黒山君本人に暴走時の記憶はあるんですか?」
「ああ、もちろんだ。今回の下崎もそうだが俺たちはあくまで被害者の記憶は消すけど、加害者の記憶は消さねー。」
「え? また力を使って事件を起こされたら困るのでは……?」
「いや逆だ。力を使われた事件は法律じゃ裁けねー……。じゃあ重度の中二病患者が事件を起こしたら誰が裁くか? って言ったら、自分自身しかいない。だから俺たちは加害者の記憶は消さずに『常日頃から罰が有る無しに関わらず、罪を犯せる力を持った自分を律する精神』を持たせてやる。それが本来の目的なのさ……。」
「じゃあ黒山君は、今も罪の意識を……?」
「持ってるだろうな。だから2人には、透夜のことを助けてやって欲しいんだわ。考えておいてくれよな?」
「わかりました……。」
「ああ、そうだ! 重度の中二病患者が力を使う時のデメリットも話しておかねーとな!」
「デメリットがあるんですか?」
「あるさー。そりゃ何をするにも代償は付き物だからなぁ」
自らで夢想し、実現した自分の力なのに使用時に代償が必要とは。……代償と言われると怖ろしいものが想像されるが。例えば、生命力とか。
そしてそんな怖ろしい想像を打ち消す様に先生は説明をしてくれた。しかしその内容は、第3者からすればたいしたことなく聞こえるが、本人や関わる人には辛いものだった。
「力を使うとその都度発生する代償は人それぞれなんだ。透夜の場合は確か……『自分が最も拒絶したい記憶が鮮明に蘇る』だったな。多分、栗川は少し体験したんじゃないかー?」
「た……確かに最後、黒山君と手を繋いで下崎君へ力を使った時に、何か悲しいような寂しいような感覚が流れてきたけど……。
「私はてっきり、黒山君が私たちを拒絶してる気持ちが流れ込んできたもんだと思ってましたが?」
「記憶そのものは流れてこなくても、透夜が鮮明に蘇ってきた拒絶したい記憶を見たことによるあいつの感情が流れてくる現象。これも透夜特有のものなんだよなー。」
「なるほど、それで……。ちなみにせんせーの代償は??」
「俺はちなみにかよ……。まあそれはいいとして、俺の場合は『最も忘れたくない大切な記憶を少しずつ思い出せなくなってしまう』だな。今でも代償はあるから思い出せないことも多くなっちまった。」
使う度に代償が発生する。重度の中二病患者全てがそれを受けていると考えると哀れに思ってしまう。
特に、身近にいる黒山がそんな代償を発生させながら戦っているのを想像すると胸が痛い。
これ以上想像するなと忠告するかのように下校時間を告げるチャイムが鳴った。
「さて、もう下校時間だから帰るぞー? 俺もさっさと仕事終わらせて帰らねーとな!」
進路指導室を出てから先生と別れた後、帰ろうと昇降口へと向かうと、ちょうど下校しようとしていた黒山がいた。
「あっ……黒山君。」
「……? なんだ2人とも、どうかしたのか?」
「えっと……しーちゃん、お願いします!」
「えっ、私!? ……黒山君、針岡先生から話は聞いたわ。その、大変なのね……?」
「ちっ、クソ教師め……。余計なことを……。」
「黒山君は辛くないの? 私たちで良ければ、力になるけど……?」
「2人ともよく聞いてくれ。その必要は無いから明日必ずクソ教師に記憶を消してもらえ。そもそも2人が巻き込まれる必要はない。……だから今後、俺にはもう関わるな。」
黒山はそう言うと、私たちを置いて帰ってしまった。
「しーちゃん……。」
「……私たちも帰ろ、真悠。」
「私たち、黒山君に何かしてあげられないのかな?」
「お互い、一晩よく考えてみましょう。」
そうして私と真悠はまっすぐ家に帰って、一晩考えることにした。
私たちも黒山の事が心配ではあるが、実際に協力することで、下崎の時みたいな危険があると考えれば、薄情かもしれないけれど、断って忘れた方が賢明なのかもしれない。
きっと、黒山自身もそれを望んでいるだろう……私はそう思ったのだった。
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そして翌日。
私は、一応断る方向で考えながら通学路を歩いていた。
しかし、断った方が賢明なのはわかっていても、やはり心がもやもやして迷ってしまう。
どうしたらいいものか……と悩んで歩いていたら、前を歩いている人とぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさ……」
「あぁ? ……ちゃんと前を見て歩けよ、ブスが。」
「なんですって!? だいたい、あんたがちんたら歩いてるのが悪いんでしょ! もっと早く歩きなさいよ!」
「んだと、このアマ!」
「あ、しーちゃん! おっはよー! ……ってなんか、ヤバイ感じ!? どうしよ、どうしよ……」
真悠が横に見えているが、私は相当頭にきていてそれどころではなかった。
相手は同じ1年生で、確か同じクラスにいたような気がするが名前が出てこない。
相手が男だからと言って、引き下がるわけにはいかなかった。
「なによ? やる気??」
「上等だ! ……俺はなぁ、女のくせにしゃしゃり出てくるやつが嫌いなんだよ!」
「あんた、女のくせにとか……!」
「2人ともそこまでだ。」
私と男がヒートアップしてる中、間に入ってきたのは黒山だった。
「なんだ、てめぇ?」
「俺はただの転校生だ。……しかし、女のくせにとかいう発言は正直気に入らないな」
「あぁ? 転校生? ……新参者が邪魔すんじゃねぇ。それともまずはてめぇから片してやろうか?」
「望むところだ……と言いたいところだが、遅刻するのはごめんだ。2人を連れて先に行かせてもらう」
「はっ! ビビってんのかよ転校生? ……まあいい。腰抜けに用はねぇからさっさと行けよ!」
「ああ……。2人とも、行くぞ。」
「う、うん……!」
「ちょっと! まだ私は……!」
「しーちゃん!!」
「……わかった、わかった。」
黒山の介入によって喧嘩が中断されたところで、私たちは学校へ向かった。
校門近くに来たところで、真悠が口を開いた。
「黒山君、2人を止めてくれてありがとう! 私、どうしたらいいか困ってて……。」
「礼には及ばない。……それより栗山、さっきの男は誰だ?」
「えーっと、彼は同じクラスの鎌田 浩二君だね! ……結構欠席することが多いらしくて、このままじゃ出席日数に影響して留年なんじゃないかって言われてた気がする。」
「なるほど! 通りで私も名前が出てこなかったわけか! 黒山君、もしかして……?」
「情報に感謝する、栗山。……だがこれ以上は関わるな。ちゃんと針岡に記憶を消してもらえよ?」
そう言うと黒山は、また先に行ってしまった。
私は下駄箱で上履きに履き替えると、教室に向かう途中で真悠に叱られた。
「もう、しーちゃん! 頭にくるのはわかるけど喧嘩はだめだよ?」
「だって真悠! あの野郎、私に向かってブスとか女のくせにとか言ってきたのよ? 出来ればボコボコにしてあげたかったわよ!」
「でも鎌田君、結構喧嘩強いらしいよ? 流石に女の子には手をあげないと思うけど、今後は喧嘩しちゃだめだよ?」
「へいへい、わかりやしたよ!」
「もう! しーちゃん!!」
真悠にはわかったと言っておきながら、内心は「いつか絶対、真悠のいないところで決着つけたる!」と思った。
教室に着いてから真悠と話をしていると、針岡先生が教室に入ってきた。
針岡先生は、久々に登校してきた鎌田を見ると、出席簿を落として「嘘だろ……?」と呟いていた。
その反応はどうかと思うわ、先生。
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授業中の様子を見てると、実に目立つ。
と言うのも、堂々と授業中に寝て、各教科担任に怒られていた。
中には言い方がきつい先生もいるのでその先生が怒り出すと、鎌田も気に入らなかったのか立ち上がって先生と衝突して授業が終わった。
……暴力沙汰にならなかったのが奇跡だったと思わされる程の争いだった。
休み時間は教室にいなかった。真悠の話によると、他のクラスでやんちゃをしている人と、どこかへ行ってしまうらしいが。
黒山はその間を狙って他のクラスメイト達に鎌田の事を詳しく聞き回っていたが誰1人答えてくれなかった。(もしくは答えられなかった)
そしてお昼休み。お弁当を食べながら真悠と雑談をした後でお互いにどんな結論へ至ったかを話し合った。
「結局、真悠はどうするの?」
「え? 欲しい服を買うかどうかって話? でもお小遣いが……。」
「違くて、放課後の話!」
「ああー! そっちね!! ……私は協力してあげたいな。この前、助けてもらったし……! それに、いつも1人で戦うなんてきっと辛いよ……。しーちゃんは?」
「私は、断ろうと考えてた。下崎の時の様に真悠へ危険が及ぶことがあるだろうと考えたらね。……だけど、昨日の話を聞いた上に今日の様子を見せられると、助けてあげたくなってしまうわよね。」
「私は大丈夫だよ!! ……戦いになれば黒山君が私たちを守ってくれる。私たちには戦う事はできないけど、別の形で助けられると思ってるの!」
「そう……。なら私も協力するわ! 一緒に頑張りましょ?」
「うん!!!!」
真悠が協力したいと言うなら、私もそうしようと思った。
逆に考えてみれば、戦うことができる黒山の側にいることで、真悠が他の『重度の中二病患者』による被害を受けない可能性が高くなるのではないかと思うし、何よりもこの前の恩返しができる。
たった1人で戦う黒山の事を考えると、何度も胸が痛くなった。
午後の授業が終わり、清掃の時間。
相変わらず黒山は真面目に掃除をしているが、その瞬間を狙って今度こそ! という輩は減るどころか増える一方だった。
今日はこんなのがあった。
床を箒で掃くために、机と椅子を動かしているところを狙って、あえて足を出して転ばせるというものだが……。
仕掛人が足を出して、机と椅子を持った黒山が足につまずくところまでは作戦通りだったが、黒山は「あ、すまない。」と棒読みで言うと、持っていた机と椅子を仕掛人へとパスし、仕掛人は受け取れなかった机と椅子に倒されていた。
ちなみに黒山は転んでおらず、次の机と椅子を運んでいた。
本人曰く……「こうしてゴミを片付けた後で(略)」だそうだ。
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そして放課後。
私と真悠は再び、進路指導室の応接室へと向かった。
昨日と同じようにそこには針岡先生が座っていた。しかしその横に、昨日はいなかった黒山の姿があった。
「おー、来たな! 2人ともー。」
「失礼します。……ってあれ? なんで黒山君が?」
「…………」
「まあ、とりあえず2人とも座ってくれー。」
黒山は、高校受験の面接官と同等かそれ以上の威圧感を出してこちらを見ている。
私と真悠が座ると、針岡先生が話を始めた。
「2人とも、決意は決まったか?」
「はい! 私としーちゃんは、これから黒山君の手助けをしていきたいと思います。」
「なっ……!? 本気で言っているのか?」
私と真悠が無言で頷くと、黒山は珍しく怒鳴った。
「何を考えているんだ!? また下崎のような危険があるかもしれないんだぞ!?」
わかっている。黒山の言う通り、協力すれば必ずどこかで危険な目に遭うかもしれない……。
それでも私と真悠は、1人で戦う黒山の助けになりたいという結論に至ったのだ。
「黒山君……それでも、私と真悠はあなたの力になりたいと思うわ。」
「しーちゃんの言う通り! ……私たちには戦う力はないけれど、それ以外の事で力になれるはずだと思ってる!」
「俺にはわからない……。お前たちは一体何を考えているんだ!?」
「だから、黒山君の助けになりたいと……!」
「余計なお世話だ! 戦う力の無いお前たちの様な足手纏いは必要ない!
「なんですって!? 私と真悠はね、あんたの為を思って協力するって言ったのよ!? 戦う力が無いからってそれを……」
「それが余計なお世話だと言ってい……るん……」
目の前の光景を見た瞬間、黒山の言葉は途切れた。
私が彼の前で涙を流してしまっていたからだ。
涙の理由は彼が怒鳴ったからではない。私と真悠の彼を思う気持ちを「余計なお世話」とか、事実ではあるが「足手纏い」という言葉の次には「いらない」とまで言われ拒絶されてしまったのが悔しかった。
「ああそう! そこまで言うのならこれまで通り1人でやればいいじゃない!! あんたに助けてもらったことなんてとっとと先生に記憶を消してもらって忘れてやるわよ! あんたの事なんて嫌い……大嫌いよ!」
「……それでいい」
「え……?」
「俺はこれまで通り1人でやる。だからお前たち2人もこれまで通りに楽しい高校生活を過ごしてくれ」
黒山は静かに立ち上がると部屋から出て行った。
彼の表情は目が前髪で隠れてよく見えなかったが私はわかっていた。黒山は本心でそう言った訳ではなく、あくまで私と真悠を危険な事に巻き込みたくないから拒絶したのだと。
ならば私はもう彼に協力しようとは思わない。彼の望み通りに記憶を消してもらってこれまで通りの楽しい時間を過ごす道を選ぼう。
しかし、真悠の考えは違っていた。
「しーちゃん。黒山君はああ言ったけど、それでも私は協力したいよ。」
「真悠、あんた本当に言ってる? あいつは私たちの思いやりを酷い言葉で拒絶したのよ……?」
「そうだね、酷いよね……。でも黒山君は優しいから、きっと私たちが二度と危険な目に遭わないように敢えて拒絶したんだと思うんだ……。だからね、黒山君が拒絶しても私は諦めずに何度でも寄り添いたい!」
「そう……。私はもう黒山に協力したいとは思わない」
「しーちゃん……」
「でも真悠は黒山に協力するつもりなんでしょ? ……なら私は、黒山に協力する真悠を手伝うわ」
私は涙を拭ってそう言うと、針岡先生は最終確認をしてきた。
「……手を引くなら今の内だぞ?」
「いいえ! 真悠が黒山君に協力する道を。私は彼に協力する真悠を手伝う道を選びました。彼はまた拒絶するかもしれませんが、それでも……」
「わかった! そこまで言うのなら協力をしてもらうぜ? ……そこで早速だが」
これまた珍しく真剣な顔になった先生は、協力者になったばかりの真悠(とそれを手伝う私)にお願いをしてきた。
「うちのクラスにいる、鎌田って知ってるよな?」
「え、ええ……」
(なんだよ、あいつかよ! あんなやつどうなったところで私にはどうでもいいし!)
「実は今朝、女子生徒と登校中に喧嘩をしていたと……」
(あ、まずっ……)
「せんせー! その女子生徒は、しーちゃんです!)
「ちょっ、真悠! 言うなし!!!」
「……梶谷。お前だったのか?」
「うっ……あ、はい。そうです……」
「はぁ……まさか喧嘩していたのは、うちのクラスの生徒2人だったか。……聞かなかったことにしよっと」
先生、私的には助かるが、教師としてそれはどうなんだ!?
「まぁ、それはそれとして。……朝見てわかったと思うが、相当な問題児でな」
「さっさと退学にしてしまえばいいんじゃないですかー?」
「ちょっと! しーちゃん!!」
「ふんっ!」
「まあ、そう言いなさんなって! ……で本題だが、鎌田の親父さんが学校に来た」
「ええ!? 好き勝手やってるのはあいつなのに、何かクレームでも!?」
「いやどっちかってーと、むしろどうにかしたいんだそうだ。……あいつの家、今は親父さんしかいないからな」
「へー。それで、真悠(とそれを手伝う私)に何を頼みたいんですか?」
「まあ、これも透夜の手伝いだと思って欲しいんだが……。まずはあいつの動向だな、そもそも普段は何やってるかわからないしな」
「相手が女子ならともかく、男子ですから難しいですよ?」
「噂とかでいい! 実際、見張りは透夜がするだろ」
「は、はあ……。」
「んじゃ2人とも、よろしく頼んだぞ! そろそろ下校だから、帰れよー? じゃないと、俺が帰れん」
「はーい、失礼しましたー!」
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涙を流す恥ずかしいところを見せてしまったが、こうして私たちは鎌田の情報を集めることとなった。
黒山の反応からして間違いなく『重度の中二病患者』の様だが、果たしてどんな力を使ってくるのか。
関わりたくないのが本音だが、1人で戦おうとしている黒山の背中を想像してしまうと本当に仕方なく調査だけならしてやろうと思った。
ちなみに、黒山に協力したい意思を貫く真悠だが、私を泣かせたことはどうしても許せないようで、それはそれで何かしら復讐を企んでいるらしい。
さて、黒山と下崎が持っていた力に関して説明されました。
下崎の力について詳しいことはあまり書いていませんが、彼に発生した代償はご想像にお任せします。
話は変わりますが、新しい女子の名前がちらっと出ましたが、彼女の登場はいつになるのか?
お楽しみに!