悪を裁く審判の歌 part2
瑠璃ヶ丘高等学校で3学期の始業式が執り行われた同日。
近隣にある学校の1つ、琥珀ヶ関工業高等学校でも同じくして始業式が執り行われた。
琥珀ヶ関工業高等学校には、機械科・電子機械科・電気科・情報技術科の4科がある。建築・土木・化学・材料などの学科はこの辺りより少し離れた工業高校や商業高校と併設される形で存在しているが、琥珀ヶ関には存在していない。
琥珀ヶ関の代表である金子奏太は情報技術科に所属している。
しかし、実は奏太が情報技術科を選らんだ理由に本人の意思はあまり関係していない。
中学時代、高校進学先を決める時に、奏太の父が「今の時代はIT(information technologyの略)社会だ。かつて、諸葛亮孔明が『天候を制する者は戦を制する』と言ったように、情報を制する者は社会を制する。情報を活用出来るだけの技術を身に付けなさい」と言ったことが進学先を決めるきっかけとなった。
琥珀ヶ関の情報技術科に進学する為には、それなりに良い成績でなければ進学希望の権利すら無いが、幸いにも奏太の成績は良かった。自身が持つ重度の中二病による能力の性質がもたらす「記憶力の良さ」が学力にも影響したのだ。
さて、奏太が情報技術科で「いつも通り」に戻ろうとしている一方……。
同学校の電気科に転校生がやってきた。
その転校生の名は鎌田浩二。昨年の10月くらいまで瑠璃ヶ丘高等学校に通っていた男だ。
普通科である瑠璃ヶ丘から、琥珀ヶ関の電気科へ転校するというのはかなり異例……というよりも、実のところ無理がある。
普通科から普通科へ。もしくは、電気科から電気科への転校であれば、1年時の2学期までに履修しなければならない内容を履修出来ているので問題はないが、今回の場合、転入試験とプラスして電気科1年2学期までの内容を急いで履修しなくてはならなかったので、かなり忙しくなる羽目となった。
それでもこうして転校出来るまでに至ったのは「鎌田本人が意外と向いていた」という点も否定出来ないが、見えない力……つまり、瑠璃ヶ丘の校長が琥珀ヶ関の校長へ作ったという貸しが大きかったのだ。
新たな道を歩ませてくれた校長に感謝しつつ、新しいクラスメイト(男だけしかいない)に鎌田は挨拶をした。
割とオープンな性格が功を成したのか、その日にはクラスに馴染めた鎌田だった。
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そんな鎌田と奏太が学校で話せたのは、放課後になってからだった。
お昼休みはクラスメイトが思ったより仲間に入れてくれたので孤立することが無かった……というより出来なかった。
とはいえ、放課後になれば部活に行く人間が多かった。危うく勧誘されるところではあったが「学校を見て回りたい」などと適当に理由をつけて回避してきたのだ。
2人は下校しながら話をしていた。
「琥珀ヶ関はどうだ、浩二?」
「おぉ……なんつーか、校舎のデカさにもビビったが、クラスメイトの心のデカさにビビったぜ」
「ははっ、まあ、ここはそういう奴らが多いからなー。お前だからいいけど、これでモテモテ透夜なんて転校してきたら、最初は良くても後々の状況は最悪だったろうな」
「はっ! ちげぇねぇや!!」
「話は変わるんだが、俺はあんまり他の科の人と関わる機会が無いからわからないんだけど、電気科はどうだった?」
この質問に鎌田は最初「さっきと質問が同じじゃねぇか?」と感じたが、すぐにその質問の意図に気付いた。
「あ? ……それっぽいのはいねぇな。けど、すれ違う上級生とかにはちっとばかし怪しい奴はいる感じがすんなぁ」
「なるほど、上級生か。名前は……ってもわからないよな」
「あー、わっかんねぇけど、1番怪しい奴は見ただけでわかるんじゃねぇか? ほら、歩き方からして変だし、ハブられてんじゃん?」
鎌田の言ったその特徴で、誰のことを言っているのか奏太はすぐにわかった。
そしてその可能性を否定した。
「ああ! 『変刃さん』のことか!」
「ヘンジンさん?」
「ああ、そうだ。あの人は確かにかなり変だが、俺が『見た』感じ、目覚めたような過去は無かったから、ただの変な人だぜ? ……ちなみにだが」
奏太はその人が『変刃さん』と呼ばれているきっかけを鎌田へ話した。
変刃さんは、入学当初から挙動が不審だった。
最初はちょっとした脳に異常を抱えた人なのだと思われていたが、どちらかというと元からではなく「何かに取り憑かれた」ような印象を受けたようだ。
そして、それはストレスからくるものなのかは不明だが「ヤイバが……ヤイバ……」と呟き出すんだそうだ。
そこから変人→変刃と呼ばれるようになったわけだが、これがまた不思議なことに、基本的に普通な時は普通で「ヤイバ……」と呟き出した時はまるで別人のような目つきになる。
そんな彼をからかってきた人は何人もいたが、呟きだした変刃さんの目を見た瞬間、自ら関わることをやめたという。
この「変刃さんの由来」という話は、彼の学年である2年はもちろん、部活などを通じて、先輩から後輩へ警告の意味を込めて伝えられた。
そして、1年生の中でも広まっていき、奏太の耳にも入ってきたのだった。
奏太は「もしかしたら……」と思い、変刃さんの過去を覗いたが、至って特別なことは無かった。
だが、何も無かったというわけではなく、むしろ「他の人より得られる情報が少ない」ということに違和感を覚えたが、奏太はそれを誰にも言っていないし、得られた情報上、変刃さんが何か事件を起こす可能性が無いので放っておくことにしたのだ。
「はーん? そんなヤバめな人がここにいて大丈夫なのか?」
「ん? それってどういう意味だ?」
「あ? そりゃ、そんなヤバいひとがちゃんとした点数取れるのかよ?」
「ああ、そういうことか。うーん……特別成績が悪い話は聞かないから大丈夫なんじゃないか? それに授業中は静からしいからな」
「はっ、そいつぁ確かに変だな!」
「ま、そんなわけであの人は変だが、有害じゃない。……それに、沙希と奈月が前に言っていたことが気になってまた見てみたが、襲った記憶も襲われた記憶も出てこなかった」
「あ? あのなんか襲われた……ってやつか?」
「そう。ちょっと特徴が似ていたからな。……まあ、また気になる人がいたら教えてくれよ?」
「おうよ!」
既に別れ道へと来ていたので、2人はそこで別れてそれぞれの家へと向かうのだった。
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「突然何?」って感じの話かもしれないが、本当に悪を裁ける存在とはなんなのだろうか?
現在、人類には法というものがあり、一般的には法に背いた者を悪として定義し、罰する。
中には更生の余地があって、やがては牢屋から出ることのできる人もいれば、更生の余地が無くて、牢屋の中で生涯を終える人もいる。
そして、死という罰を受ける人だっている。
日本では、悪と疑わしき人を見つけて、善か悪かを審判し、裁くという役割を1人が担っているわけではない。
悪人1人を裁くのに数多くの人が関わっており、それを構成する1つひとつを仕事….…生業としている人がいるのだ。
裁かれる悪人は、本当に罪を償えているのだろうか? そもそも、罪を償うというのはどういうことなのか?
それはきっと誰にもわからないだろうし、人によって答えは違うんだと思う。
何故、私がそのようなことを考えることになったのかというと、1月11日。木曜日のことだった。
私と真悠は真っ直ぐ家に帰らず、帰りが遅くなることを親に連絡して街へ出てみることにしたのだ。
瑠璃ヶ丘の近くはあまり遊べる場所が無い。だが、電車を利用してほんのちょっと遠くへ行くと、お店が沢山並ぶ街へと来ることが出来る。
私と真悠の他にも、色んな学校の高校生がこの街へと遊びに来ているようで、制服姿の高校生があちらこちらと色んなところにいる。
だが、今回は少し様子が違った。
遊びに来ているという目的は変わらないのかもしれないが、駅を出てすぐのところに人だかりが出来ていたのだ。
「あれ、なんか人が集まってない??」
「あっ、ほんとだー! ちょっと見に行ってみる?」
「そうね。ちょっとだけ……」
こうして私と真悠はその人だかりへ近付いていくと、人だかりの中心は見えないものの、その人の声が聞こえて来た。
「わぁー! 皆んな、今日も集まってくれてありがとう! それじゃあ、聴いてください」
女性の声だった。どうやら一礼をしたらしく、少し間があいてから拍手が湧いた。
「すぅっ」と息を吸い込む音をマイクが拾い、その音が私たちの耳にも伝わる。
アカペラから始まるその歌は、路上でやるには珍しくバンドによるものでは無かった。
歌い手である女子高生と、その斜め後ろにキーボードで伴奏をする男子高校生の姿がようやく人と人の間から見えた。
そして私は、彼女の歌声を聴いて鳥肌がたった。
彼女の声は透き通って綺麗で、なおかつその声量はそこらを走る自動車の音さえ耳に入って来なくなるほどだった。
そしてその歌詞の内容。
聴いたことのない歌だったので、おそらく自分で作った歌なのだろう。
「罪とは罰せられるものではなくて、自ら反省し、償っていかなければならないもの」
彼女はそう歌っていた。
こうして、その歌を聴いた私は、罪と罰。裁きについて考えさせられることとなったのだ。
美しい歌声で歌われた歌は、考え込んでいるうちに終わってしまっていた。
「ありがとうございました。またぜひ、聴きに来てね?」
拍手喝采。
彼女らが一礼をし、片付け始めたことで人だかりは解散していった。
撤収作業に勤しむ彼女をぼうっと眺めていると、隣で発された真悠の声で私は我に返った。
「すっごく綺麗な歌声だったねー!」
「えっ、あ、うん! 本当に綺麗な声だった……」
「ん? どうしたの、しーちゃん? あの子の歌声に惚れた?」
「んー、歌声も凄いけど、私は歌詞の内容に驚かされたなーっと思って。なんか、考えさせられるものがあった」
「あー、確かにねー……!」
私の感想に真悠は激しく同意してくれたようで、首を縦に何度も振った。
気付けば、歌っていた彼女も撤収していたので、私と真悠もその場を離れて目的地へ向かう為に歩き出した。
歩いている最中も、私と真悠は彼女のことを話していた。
「あの子の制服……どこのだったっけな? あー、最近見た気がするんだけど……」
「あれは紅女の(紅ヶ原女子高等学校の)だねー! 沙希ちゃんや奈月ちゃんと同じ!」
「あっ、そうか! じゃあ、2人ならあの子のこと知ってるのかな?」
「どーだろー? 紅女は制服じゃ学年がわからないからねー。リボンの色は自由だし、そもそもリボンじゃないといけない校則もないみたいだし」
「へぇ、そうなんだ?」
「うん! また機会があれば聞いてみたらー?」
「そうだね。さて、今日は久々に楽しむとしますかな!」
「うんっ!!」
私と真悠は彼女のことを取り敢えず置いておいて、本来の目的を楽しむことにした。
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その翌日、1月12日の金曜日。
黒山は学校へ登校してきてすぐ針岡に呼び出された。
場所は職員室。鞄が置かれていないデスクがある辺り、まだ通勤してきていない先生がいるのだろう。
針岡はこれを絶好の機会だと思っていたが、黒山からすれば、何故呼び出されているのかがわからなかった。
「……提出物を忘れた記憶は無いが?」
「何言ってるんだー。そもそもお前はそういうのすぐに出す人間だろうー? んなことより、新年早々事件だー」
「場所は?」
「ここから電車で行ける距離に街があるのは知ってるよなー? まぁ、見廻り場所だから知らないわけないと思うがー」
「ああ、そうだな」
「事件って言ったがー、公的には未遂となっているー。……というか、被害者の言っていることの意味がわからなくて警察はあまり真剣に取り合ってないんだわー」
「……? 意味がわからないぞ?」
「被害者の話によるとー『自分が金属パイプを持って追いかけ回してくる』だそうだー」
「確かに言っている意味が……まさか!」
もう1人の自分が夢の中ではなく、目の前に現れる現象……前回とは多少異なるが、それを起こした犯人が清村だと黒山は思ったのだ。
かつて、鎌田を退学まで追い込ませたその能力は、対象のコピーを作り出し、命令を与えて行動させる。ただし、そのコピーは自ら考えて行動する能力が無い為、言葉を話すことが出来ない。
しかし、針岡の発した次の言葉でその可能性が半分否定されることとなった。
「ああー。おそらく、今回の件にもあいつが関わってるかもしれんなー。……けどなー」
「けど?」
「どうやらなー、自分が追いかけ回してきたのは『歌を聴いた後』らしくてなー」
「歌を聴いた後?」
「ああー。その日、駅前で路上ライブをやっていたらしくてなー。その歌を聴いた後、帰るために歩いていたら……ってならしいぞー?」
「それが歌という形で発動する能力……あるいは、歌っている最中に能力を発動させていると?」
「そういう可能性もあるとされてるー。今日から調査を進めといてくれー。そんで来週、定例報告会を開くからそこでこの件と一緒に報告してくれー」
「わかった」
「んじゃ、呼び止めて悪かったなー」
「失礼しました」
黒山は形式上退出時の言葉を発してから、職員室を出て教室へと向かった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
先にちょっとした変更点を。
先週、瑠璃ヶ丘高等学校の始業式が1月8日に行われていることになっていましたが、1月8日は成人の日でお休みですね。
今年のカレンダーで言えば、始業式をするのは1月5日か1月9日となりますが、かつて学生であった立場からすると、たかが1日学校へ行って三連休というのは嫌だったので、始業式を1月9日に変更いたしました。
社会人になっても週休2日とはいえ、学生の頃のように祝日=休みというわけではないので、いつが休みなのかわからなくなってきてしまいますね(笑)
私自身、1月8日は仕事していたのですっかり忘れていました。
さて、今までの話は犯人が実にわかりやすかったので、黒山達が事件勃発から解決までの調査や戦闘のみの描写となっていましたが、一体犯人は誰なのか? どういった計画をして実行に移しているのかというのを予想してもらえる内容にしていければなと思いました。
それではまた来週、次回をお楽しみに!




