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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「痛々しい転校生」
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痛々しい転校生 part4

予め……


触手注意!(ただし、悪用はされません。)

私達を拘束したよりも多くの触手が黒山を襲う。


黒山は、触手が迫ってきているにも関わらず、立ち止まったまま右掌(みぎてのひら)を前に出して、こう言った。



「俺は……お前からの害意を『拒絶』する。」



すると、黒山を襲った触手は全て、彼の前で一度止まり、先端から徐々に消えた。


私は目を疑った。


しかし、この中で1番驚いていたのは、間違いなく下崎だろう。


下崎は、目の前に起きた現象に動揺した。



「な、な、な、なんだ今のは!? どうして僕の『結ばれるための赤い糸』が消えた!?」


「……お前に答えてやる義理はない。これで、お前の目的は潰えた。力を解除しろ。」


「まだだ!!! まだ僕の目的は潰えていない! 予定は狂ってしまったが、お前とその女をまとめて始末すれば、僕の恋は成就する!!!」



下崎は、私と黒山を殺す気でいるのか、更に多くの触手を影から呼び出す。



「……ならば仕方ない。武装型でお前を『拒絶』させてもらう。」



黒山の影からは、黒い煙のようなものが現れ、黒山の両手に集まる。


すると黒い煙のようなものは、指先から肘にかけて固まり、禍々しい形を成す。



「……覚悟はいいか? 下崎。多少痛い思いをするかもしれないが、自業自得だと思ってくれ。」


「はははっ……あまり調子に乗らないでよ、転校生? 僕と真悠さんが結ばれるのは運命だ! その運命を前にして、君が僕に敵うはずがないだろう!? ……君の方こそ、後悔するなら今のうちだよ??」



黒山は、下崎の言葉を鼻で笑うと、視線を下崎から真悠へと移す。



「……おい、栗川!」


「は、はい!」


「危険だから、梶谷と一緒に離れていろ!」


「う、うん! わかった! しーちゃん、大丈夫?」


「ご、ごめん、ちょっとふらつくから、肩貸して……」


「いいよ……! こっち!」



私と真悠は、教室の角で腰を下ろし、2人の戦いを見守る。


黒山は、私と真悠が離れたのを確認すると、禍々しい両手を構えて、人間離れした速さで移動し、接近戦へと持ち込もうとする。


しかし一方で下崎は、黒山を近付かせまいと触手を機関銃のように放った。



「さあ、転校生! まずはお前からだ!!」


「……。」



無数の触手に対して、たった2本の腕で攻撃を裁く黒山。


しかし、数が多すぎる上に、机や椅子が邪魔でなかなか下崎に近付けない。



「あはははははは!! どうした転校生!? まさかそんな程度で、僕と真悠さんの邪魔をしたのか!? 自重するべきだったなぁ! 転校生!!!」


「……うるさいな、下崎。そういうお前こそ、それだけ気持ち悪い触手があるくせに、俺1人も倒せないとはな。」


「あっははは! 口だけは達者だな!! でも悪いんだけどさ、僕にはまだこれからやらなきゃいけないことがあるから……そろそろ本気でいかせてもらうよ!!!」



下崎は、無数にある触手を1本に集めて、電柱の2倍くらいの太さをした、極太な赤い触手を作り上げる。



「あっはははは!!! さよならだ! 転校生!!」



極太な赤い触手は、黒山を貫こうと勢いよく迫る。


一方、黒山は右手に黒いオーラを纏わせ、極太な赤い触手を迎え撃とうとする。



「……下崎、お前に1つ教えてやる。お前が本気を出しても、俺は本気を出すつもりはない。」


「な、なに!? どういうことだ、転校生!?」


「馬鹿なお前にもわかりやすくしてやる。つまり、お前のちゃちな触手など、やろうと思えば簡単に……」



黒いオーラを纏った黒山の右手の拳と、極太な赤い触手がぶつかった瞬間、極太な赤い触手は、先端から徐々に消えていった。



「消せるということだ。」


「だ、だが! 消したからといってなんだ!? 僕はまだまだ赤い糸を出すことができ……っ!?」


「……させると思うか?」



下崎は、再び触手を呼び出そうとするが、すでに目の前に来ていた黒山に右手で殴り飛ばされ、背中を壁にぶつけた。



「がぁっ!? く、くそ……まだ、ぼ……くは……っ。」



必死に立ち上がろうとする下崎だが、背中を壁にぶつけた衝撃で、軽い脳震盪(のうしんとう)を起こして気絶した。



「武装型を解除。これであとは……。」



黒山は、禍々しい両手を人間の両手に戻すと、こちらへ近付いてきた。



「……梶谷、栗川を少し借りる。」


「ちょ、ちょっとあんた、何をす……る気……?」


「安心しろ、梶谷。俺は……お前たち2人が明日も楽しく過ごせるようにしておくだけだ。」


「そう……。信じていいのよね……?」


「ああ……。今この時だけでいい、俺を信じてくれ……。」


「ん……。わかっ……た。」


「……しーちゃん? しーちゃん!! 私の声、聞こえる!? やだよ、起きてよ!! しーちゃん!!」



聞こえてるよ、真悠。でも私、眠いんだ。だから、少しだけ……。




私はその場で気を失った。



------------------



次に目を覚ました時、私はベッドの上で目覚めた。



「ん……ん〜?」


「あ……! しーちゃん!! 良かったぁ……目を覚ましたんだね……!」


「ん……? 真悠? ここ、どこ……?」


「ここは、保健室だよ! ちょっと待って! すぐ針岡先生を呼んでくるね!」



真悠が、先生を呼ぶために急いで出て行くのを見送った後、私は記憶の整理をすることにした。


下崎に襲われているところを、黒山に助けてもらい、信じてくれと言われて、真悠から愛称を呼ばれたのが最後。その後の記憶がない。


黒山は真悠を少し借りると言っていたけれど、あの後、真悠は何もされてないだろうか……?


そんなことを考えていると、真悠が針岡先生を連れて戻ってきた。



「よう、梶谷ー! 気分はどうだー?」


「……どちらかというと、最悪ですかね?」


「ああ、冗談言えるくらいなら、もう大丈夫だろー? ……さて、俺は帰るかな。」


「ちょっと、せんせー! 生徒が目覚めたから帰るって無責任だと思いまーす!」


「えぇ……? 俺はさっさと帰りたいんだよ!」


「私たちに、ちゃんと説明することと、もう時間が遅いので、家に送っていくぐらいの義務はあると思い……ます!」


「はぁ……申し訳ないんだが、説明はまたの機会に……だ。それに今は、大人の出る幕じゃないさ……。」



針岡先生は、意味ありげなことを言ってから、私と真悠を置いて保健室から出て行った。


すると真悠は、ずっと泣くのを堪えていたのか、急に私に抱き付いて泣きだした。



「しーちゃん、ごめんね……? 私のせいで、しーちゃんを危険な目に合わせちゃって……ごめんね……?」


「……真悠、あんたのせいじゃないわ。私は、自分であんたを守ると決めて一緒に行ったの……。むしろ私の方こそ、口ばっかりで守ってあげられず、ごめん……。」


「そんな……しーちゃんが謝ることない! しーちゃんのお陰で、私は下崎君に自分の気持ちをそのまま伝えることが出来たんだよ……? ありがとう、しーちゃん……!」



私は、しばらく真悠と抱き合っていると、ふと、黒山の事を思い出した。



「そういえば、真悠! あんた、黒山に変な事をされなかった!?」


「え? 黒山君? ううん、黒山君はむしろ、私たちを助けてくれたんだよ? しーちゃん、憶えてないの……?」


「いや、助けてもらったことは憶えてるんだけど、その後の事よ! 真悠を少し借りてくだのどうのって……。」


「ああー! あの後のことね……!」



……どうやら私は、下崎からの脅威が去った安心感で気を失ってしまっていたらしい。


真悠は、私が気を失った後の事を細かく話してくれた。



------------------



「……やだよ、起きてよ!! しーちゃん!!」


「……梶谷は、安心して気を失っただけだ。呼吸はしてる。」


「ほんとに? しーちゃん、大丈夫なの??」


「ああ、大丈夫だ。……ところで今後、下崎がお前たち2人に危害をくわえないようにしたい。そこで栗川、お前の力を貸して欲しい。」


「え、どういうこと……? 私、力なんて何も持ってないよ……?」


「言い方が悪かったな。力……と言っても、栗川の想いの力だ。」


「想いの力……? 私は、どうしたらいいの?」


「まずは、俺と一緒に下崎が寝ているところまで来て欲しい。」



黒山君の言っていることはよくわからないけれど、私は、しーちゃんの事が心配で離れられなかった。



「だけど、今はしーちゃんから離れられないよ……しーちゃん、気を失っちゃってるし……。」


「ああ、それなら……」



黒山君がそう言いかけると、いつの間にか空き教室の扉が開いていて、そこから声がした。



「よー、栗川ー! ……それと透夜、どうやら片付いたみたいだなー。」


「え……針岡先生……?」



やる気のないような話し方は間違いなく、私たちの担任の先生である、針岡先生だった。


黒山君は、普段からは想像できないほどの大声で怒鳴った。



「……あんたは、いつもいつも遅いんだよ! 少しは教師としての自覚を持ったらどうなんだ!?」


「うるせいうるせい、俺は非戦闘員なんだから仕方ないだろー? それより、栗川! 梶谷は俺が保健室へ連れて行くから、終わったらすぐ来てくれー。」


「え、えっと、わかりました!」


「そんで透夜ー、お前は終わったら、下崎を連れて報告しに行けよー? それ以降は俺がなんとかするわー。」


「わかったから、さっさと行け。」


「はいはい、退散しますよーっと。」



針岡先生がしーちゃんを連れて空き教室を出て行くのを見送ってから、黒山君は左手で、私の右手を握って歩き出し、気を失って倒れている下崎君の近くで止まると、右掌(みぎてのひら)を下崎君へ向けた。



「あ、あのー、黒山君? 私の手なんか握ってどうしたの……?」


「……すまない、栗川。時間が無いので、必要なことだけ言う。」


「え、う、うん……。これって、手を繋いで無いと駄目なの?」


「ああ、これは必須だ。……いいか? 告白に対しての答えを、もう一度下崎に伝えるから、お前の想いを強く、正しく、心の中で言うんだ。」


「うん……わかった……!」



私は目を閉じると、しーちゃんと楽しい時間をこれからも一緒に過ごしていたいことと、その為に今は、誰ともお付き合いする気はないことを心の中で言った。



「よし、始めるぞ? ……少し、不快感を感じるかもしれないが、我慢してくれ。」


「う、うん……。」



黒山君がそう言うと、私の心には不思議な気持ちが流れ込んできた。


驚いて目を開けると、下崎君は薄い青色の光に包まれ、やがて彼を包んでいた光は消えた。



「……よし、これでいいだろう。俺はこいつを連れて行くから、お前は一刻も早く、梶谷の元へ行け。」


「う、うん……! え、えっと、どこに連れて行かれたんだっけ?」


「……? 保健室だが?」


「あ、ああ、そうだよね! ごめん、行くね……?」


「……栗川。」


「え、えっと、何?」


「梶谷が目覚めたら伝えておいてくれ。明日からはもう、俺に関わるなと……。」


「え……? ああ、うん、わかった……?」


「……早く行け。」


「うん……。」



私は繋がれた手を離すと、急いで保健室へ向かった。



------------------



……こうして、今に至るらしい。


気になる点はまだいくつかあるが、真悠が黒山に何もされていなくて安心した。


しかし、真悠の顔を見ると、どこか悲しそうな表情をしていた。



「……? 真悠? どうしたの?」


「うん……えっとね? 黒山君って、あの力を使うのは多分、初めてじゃないよね?」


「そりゃそうでしょ? 気持ち悪い触手を一瞬で消したし、両手だって悪魔みたいになってたしね。それがどうかしたの?」


「うん……。もしかしたら黒山君は、あの力を使うたびに毎回、あんな思いをしているのかな……。」


「あんな思い……?」


「最後に私の手を握って力を使った時、なんて言えばいいのかな……? 寂しい? いや、悲しいかな……? なんだか、すごく涙が出てしまいそうな、そんな気持ちが流れてきて……。いつも、あんな思いをしているのかな……って。」


「寂しい……悲しい……かぁ。」


「もしそうなら黒山君、かわいそうだな……。」


「でも別れ際に『明日からまた、俺には関わるな』って言ってたんでしょ? それって、黒山のそういう気持ちが、あんたに流れてきただけなんじゃないの?」


「うーん……そうなのかなぁ?」


「どっちにせよ、私たちだけではわからない。それより今日はもう疲れたし、帰りましょっか!」


「う、うん……。」



真悠と一緒に昇降口を出ると、すでに外は暗くなっており、時計の針は7時半を指していた。


私たちより先に保健室から出て行った針岡先生は、車を出して待っていてくれていたようで、家まで送ってくれた。


明日の準備をしてから、ご飯を食べて、お風呂に入り、寝る支度をし、真悠に少しメールを送って、私は眠った。



------------------


翌日、会社見学当日。



朝、いつも通り学校へ行くと、私と真悠は、下崎に体育館裏へと呼び出された。


しかし、昨日とは違って澄んだ目をしていた下崎からは、敵意を感じなかった。



「それで下崎。昨日の今日で、一体私たちに何の用?」


「……梶谷さん、栗川さん、昨日は本当にごめんなさい!」


「……え?」



私と真悠は、下崎から受けた予想外の謝罪に、目を合わせて驚いた。


「し、下崎君……? 私の気持ち、わかってくれたの……?」


「うん……。僕が間違っていた。今すぐに、君を諦めろと言われても難しいけれど、君の気持ちを知った今の僕なら、少しずつだけど、前に進める気がするよ。」


「あんた昨日、私たちに何をしようとしたか憶えてる!? そんな簡単に許せるわけが……」


「しーちゃん!」


「真悠……?」



どうやら真悠は、下崎のことを許したいらしい。しかし私は、そう簡単に割切れる事などできなかった。




「ところであんた、また触手なんて使われたら困るんだけど?」


「……僕にはもう『結ばれるための赤い糸』は使えない。だけど、君たちに犯した罪の意識は消えることがないだろうから、僕はカウンセラーの先生と一緒に、自分の心と向き合っていこうと思ってるんだ。」


「カウンセラーの先生?」


「そうだよ。僕には、なぜあんな力があったのかわからなかったけど、先生の話によれば、僕は心の病に罹っていたらしい。」


「それって……。」


「2人とも、もうそろそろショートホームルームの時間だ。 ……これを機に僕はもう、君たちとは関わらないことにするつもりだよ。」


「そ、そんな……! 今度こそ友達としてでも……。」



下崎は真悠に、今まで見せたことのない優しい笑みで首を横に振って言った。



「栗川さん……僕が君に恋をして振られた以上、けじめをつけなくてはならない。これが、僕にとっての新しい第1歩なんだ! ……それじゃあ、僕はもう行くよ。お互い、黒山君には感謝だね。」



下崎が去って行くのを見守った私と真悠は、急いで教室に戻った。


--------------------


朝のショートホームルームが始まる前には教室へ戻ってこれた。


隣に座っている黒山は、何事もなかったかのように、いつも通りにしている。


教室に入ってきた針岡先生もいつも通り、やる気があるのかないのかわからないテンションで、朝のショートホームルームを始めた。



「おー、みんな、おはよう! 今日はついに待ちに待った会社見学だ! ……頼むから、失礼の無いように大人しく見学してくれよ……? ほんと頼むから。」



一見、学校と生徒の為に言っているように見えるが、みんなはわかっている。


この担任は、自分の立場が危うくならないように言っているのだと。


そんな先生にクラス一同は、朝の苦笑いを送って差し上げた。



「さて、これからみんな校庭に出て、1年生全体の朝礼をした後に、各企業ごとのバスに乗って行く。予定だと午後には終わるはずだから、終わって学校に戻ってきたところで、感想やまとめを書いてもらう……ってのが、今日1日のスケジュールだー。いいな? しっかりメモってくるだぞ?? それじゃあ、解散! すぐに校庭へ向かえよー!」



みんなは、ダラダラと校庭へ向かうおうとする中、私と真悠は、昨日のことを説明してもらいたい為、針岡先生の元へ行った。



「針岡先生、少しお話が……」


「あー、だいたい想像はつくが……とりあえずは会社見学だ。放課後に進路指導室に来てくれ、そこで説明してやる。……黒山のこと、頼んだぞ?」


「うっ……はい……。」


「おーし、それじゃあ、さっさと行くぞー?」



私と真悠は、おそらく今回のことを説明できる人物が……針岡先生と黒山の2人だけだと確信していた。


特に黒山は、誰も助けに来られないであろう状況に現れ、私と真悠を助けてくれた上に、下崎に対して『待っていたのは俺の方だ。』とも言っていた。


しかし、彼に問い質したところで答えてくれるはずも無いので、下崎と私が気絶した後で現れた針岡先生も、何が起こったのか知っているだろうと睨んだ。


学生の本分というのは、あくまで勉強ではあるが、私は昨日のことで頭がいっぱいだった。



--------------------



校庭に出て、1年生全体の朝礼を済ますと、各企業ごとのバスに乗り込んだ。


席順は予め決められていたわけではないので、私は当然、真悠と隣で座った。


一方、友達のいない黒山は見事に溢れたので、針岡先生の隣に座っていた。


2人の会話から何か情報を得ようとしたが、2人は話す様子もなく無言だった。




お菓子工場に到着すると、さっそく中を案内してくれた。


私は先日、先生にお願いされた通り、私と真悠と黒山の3人で行動していた。



そして、見学の途中に設けられた休憩時間での事……。



「あっ! しーちゃん、見て見て! あそこに私の大好きなお菓子が……! あそこにも!!!」


「こらこら真悠! 大人しくしていなさい。」


「だってしーちゃん!! こんなに大好きなお菓子が辺り一面にあって、黙ってなどいられますか? いえ、できません! ここはまるで、宝物庫ですぞー!!!」


「やれやれ……。黒山君より、真悠の方がよっぽど問題児ね……。」


「……。」


「……ところで、黒山君。」



私が話し掛けると、彼は無言で私の方を向いた。



「今朝、下崎が私たちに謝罪して来たわ……もう、私たちには関わらないって。」


「そうか……。」


「その……それも含めてなんだけど、助けてくれてありがとう……!」


「……礼には及ばない。」


「でも私、情けないよね……。真悠を守るって言っておきながら、何もできなかったし……。」


「そんなことはないさ。」


「……根拠は? ただの慰めならいらないわよ?」


「……あの時、お前が栗川の側にいてくれなければ、事態は最悪の展開を迎えていただろう。」


「最悪の展開って……?」


「下崎は最初、お前のことを邪魔者扱いしていたはずだ。そして、俺が現れた時点で邪魔者は2人になった。……つまりあの時、お前が栗川の側にいなければ『結ばれるための赤い糸』によって、栗川は強制的に下崎のものにされていただろうな。」


「つまり私は、真悠の隣にいただけで、下崎から真悠を守れていた……って事?」


「そうだ。お前が栗川と一緒にいてくれたおかげで、今日もお前たち2人は楽しそうに一緒にいられている。」


「でも、黒山君が来てくれてなかったら、今の私たちはなかったと思うな……。」


「俺は、2人の手伝いを勝手にしただけだ。……でも。」


「でも……なに?」



黒山は、目を逸らして続きを呟いた。



「2人が無事で良かった……。」



「え……? え、なんだって?? 黒山君、よく聞こえなーい!」


「な、何でもない……。とりあえず、今後はもう俺に話し掛けるな。」



実は聞き取れていたのだが、彼の優しい一面を初めて見た私は、少しからかってみたくなってしまった。しかし、結局いつも通りに拒絶の言葉で会話が終わってしまう。




黒山 透夜……中二病で、普段多くを語らなければ、会話すらも拒絶してしまう故に

友達がいない、痛々しい転校生。


しかし、今回の事件をきっかけに私の中での彼の印象に少し……と言っても、本当に少しだけ優しいが書き加えられた。


まあ、席が隣なんだし? 本人が拒んでも話し掛けてあげるくらいならしてやってもいいかな?



……と思う私だった。

ついに、第1章「痛々しい転校生」が終わりました! 夏風陽向です。


ごめんなさい、展開的にまとめを書ききれませんでした……。悪気はなかったんです、信じてください。


それからなんと、100人もの方にこの小説を読んでいただけました!

皆さま、本当に……本当にありがとうございます!!


さて、次回の予告を少しだけさせていただくと、次回の始まりは、会社見学を終えた放課後、詩織と真悠が進路指導室へ行くところから始まる予定です。変更があれば、また活動報告で報告させていただきます。


今回から能力名を付けましたが、実は今回、下崎の能力名『結ばれるための赤い糸』しか能力名を出していません。それに伴い、part3にも『』を付けました。


次回の更新は、7月5日(水) 午前2時の予定です!

また次回もよろしくお願い申し上げます。

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