痛々しい転校生 part3
予め……
触手注意!!!(微ですので、そこまでひどくはならないと思いますが……)
昼休み明けの4時間目は「科学と人間生活」だった。
現代の高校授業には、高等学校学習指導要領の改訂により「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」という科目は存在しない。
その代わり、同じ趣旨の科目として「科学と人間生活」が存在している。
ただし、「科学と人間生活」を履修する場合は「生物基礎」「化学基礎」「地学基礎」「物理基礎」の4科目のうち1科目を履修する必要があるので、当校の場合は「科学と人間生活」の他に「生物基礎」の授業が組み込まれている。
つまり、何が言いたいかというと、1日に科学を2時間やる日が当たり前にあるということだ。
……なんで知ってるかって? 最初の授業で教科担任がそんな話をしていたからよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
5時間目は体育だった。
体育は、男子と女子を分けて授業が行われるため、この時間だけは身体が動かせて楽しいし、何より男子(特に黒山)がいないため、安心できる……が。
残念なことにこの時期は「水泳」なのでプールでの授業となってしまう。
当校のプールは、50mプールをコースロープによってプールを縦に分けられているので、男子と女子、半分にして50mを使えるようになっている。
しかし、プールに入ってしまえばこっちのものだが、プールに入るまでの男子からくる視線が結構気になってしまう……。
稀に男子が悪ノリして絶対不可侵領域(コースロープで分けられた女子側)に進入してくる輩がいるが、そんな輩にはきちんと女子から侮蔑の視線と教科担任からの制裁が入るので安心!
ちなみに、男子の教科担任は針岡先生である。(普段やる気が無いように見えるが、制裁を入れる時だけ楽しそうにしている)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
6時間目は家庭科だった。
近々、調理実習があるので事前に作るものを決めるのと、その際気をつけなければならない事や調味料の説明、班内での分担が行われる。
しかし、水泳後の授業なのでちらほら寝てしまっている人も見受けられるし、そもそも普段料理をしない人は当日忘れる。
私は料理をするのかって? するわ!
───たまにだけど。
今回、黒山は私と同じ班だが、黒山の分担は片付け。
当然、話し合いにも参加しない、させない状態なので本人の希望は聞かずにこちらで勝手に決めさせてもらった。
--------------------
6時間目が終わると、清掃になる。
中学生の時には、誰もが真面目に清掃をさせられたと思うが、高校生にもなれば話は別。
うちのクラスで言えば、私と真悠以外に清掃をしている人はいない。
注意されるクラスもあるらしいが、うちの担任は「アレ」なので注意はしないし、そもそも清掃中に見かけたことがない。
ここでまた意外なことに、黒山は1人で真面目に清掃をしていた。
本人曰く「清掃もまともにできないとは、とても同じ生活をしている人間だとは思えないな。だらしがない……あと、俺に話しかけるな」だそうだ。
ちなみに、彼が一生懸命ほうきで清掃しているところを狙って、バケツを投げ当てようとする人達がいたが、投げた全てのバケツをほうきで見事に打ち返され、返り討ちになっていた。
他にも、彼がほうきを片付けているところを後ろから押して清掃用具箱に閉じ込めようとする作戦を実行する人もいたが、ここぞというところで躱され、逆に閉じ込められるというオチもあった。
黒山を味方するわけではないが、返り討ちにあっている人たちを見るのは実に愉快だった。
------------------
掃除の時間を終えると、帰りのショートホームルームまで少し時間がある。
いつもは、教室で真悠と話しているとショートホームルームが始まるが、珍しく清掃の時間から真悠の姿がなかった。
隣の席には黒山の姿もない。まさかと思い、教室から急いで廊下に出ると……。
───そこには、廊下の窓から見える夕陽に向かって缶コーヒーを飲みながら、黄昏ている黒山の姿があった。
「フッ………。」
「……あんた、何やってんの?」
「こうしてゴミを片付けた後で、缶コーヒーを飲みながら夕陽を見ていると、明日も頑張ろうと思わせ……って、梶谷には関係のないことだ」
「それさ。別に、わざわざショートホームルーム前じゃなくても放課後で良くない……?」
「…………」
「そんなことより、真悠を見なかった?」
「栗川のことか? 栗川ならちょうど今、こっちに向かってるのが見えてるぞ? あと、俺に……」
「あ、ほんとだ! ちょっと真悠! どこに行ってたの??」
「…………」
「しーちゃん……! んん〜っとね、うん……他のクラスの人とお話ししてただけだよ……?」
「ああ、そうなんだ? そういえば、真悠は夏休み前から他のクラスにいることが多くなったわね……?」
「あ、えっと、それはね……」
話しにくいのか、真悠はなかなか中身を語ろうとしない。少しずつ話してくれると思いきや、残念なことに邪魔者が入った。
「あー、お話中悪いが……3人とも、席について貰えるかなー? そろそろショートホームルーム始めたいんだわ」
真悠が何かを言おうとしていたが、知らないうちに教室で待っていた針岡先生に話を中断されてしまったので教室へ入り、席に着いた。
「よーし、皆んな席に着いたな? それじゃあ始めるぞー? 明日の2時間目と3時間目の2時間を使って、会社見学についての説明と希望を取るー。見学させてもらえる会社は限られているので、こちらの指定した会社から選んでもらうことになるぞー。リストは後ろに掲示しておいたから、希望を考えておけよー? まあ、そう深く考えず、興味のあるところを選べばいいけどな。それじゃあ、今日は解散ー。」
先生から解散を言い渡されたところで、それぞれ席を立ち、次の行動に移る。
私は、真悠と一緒に会社見学の希望を決めようとしたが、またも残念なことに針岡先生に呼び止められてしまう。
「おーい、梶谷。ちょっと頼みたいことあるから職員室に来てくれー」
「えー。わかりました……。真悠、ごめんだけど、ちょっと行ってくるわ」
「あ、うん……行ってらっしゃい……」
「それから、黒山君。あんた、真悠に近づくんじゃないわよ? もし、何かしたって報告があったら……」
「……何もしないから、早く行け。」
「ふんっ!」
私は2人にそう言い残すと、言われた通り職員室へ向かった。
しかし、いつもより真悠に元気がなかったのがすごく気掛かりだった。
--------------------
1学期にも何回か職員室に来ていたが、まだなれる気がしない。この重圧、どうにかならないものか……。
「失礼します……」
そう言って入っていくと、入って1番右奥に1年生4クラスの担任が使っている机と椅子が4つ固まっている。
その中の1つに針岡先生が座っていた。
「おー、梶谷ー、よく来てくれたなー。んじゃまあ、さっそく本題に入らせてもらうが……お前さんは、黒山のことを級長としてどう思う?」
「どう思うって……?」
「んー……俺の見た感じだと、あいつはあんまりクラスに馴染めてない気がするんだよなー……友達とかもいなさそうだしー?」
「それは最早、本人の人格に問題があるかと思われますが?」
「まぁ、そうなんだろうけどなー? 昔はあそこまで人を拒絶することはなかったんだけどなー」
「え、昔から知ってるんですか?」
「っと、口が滑っちまった! ……と言っても、痛々しさはあんまり変わらないけどな!」
「へぇ、そうなんですか……」
「そこでだ、頼みがあるんだが……今度、会社見学があるだろー? そこで、梶谷と栗川……それから黒山を一緒の班にさせて欲しいんだわ」
「えっ!? 真悠は一緒なので問題はありませんが、黒山君はちょっと……」
「頼むー。お前さんしか頼める相手がいないんだー。黒山とまともに話せるのはお前さんと栗川だけなんだわ……後々のことも考えるとこの会社見学は、穏便に済まさないといけない……問題があれば、3年生の就職にも響きかねないしなー」
「黒山君の希望はどうなるんですか? とてもじゃなく、私達は黒山君の希望に合わせることはできませんよ?」
「それなら問題ないぞー? 黒山には俺の方から2人に合わせるように話をしておくから……よろしく頼む」
「はぁ……わかりましたよ、真悠とも相談してみます……」
「助かるー。当日は3人の属する班を俺が引率できるようにしておくから、何かあれば俺も対応するわー」
「わかりました……ところで先生、こんなことして教師として大丈夫なんですか?」
「あー、問題ないぞ? むしろ、何か問題を起こして迷惑をかけることの方がやばいからな? 上手に監督するのも俺たちの仕事さ……」
「そうですか、それではもう用がないなら失礼しますが?」
「ああ、悪いなー。 気をつけて帰れよー?」
「はい、失礼しました。」
職員室を出ると、急いで教室へ向かった。
--------------------
教室へ戻ると、真悠の姿はなかった。
いたのは、イタイタ転校生の黒山だけで、他の人は誰もいない。
「あれ? 真悠は?」
「……誰かに呼び出されたらしく、教室を出て行った」
「誰だろう……他クラスの友達かな?」
「探すなら、早い方がいいかもしれないな」
「どういうこと?」
「栗川を呼び出したのは、どうやら男らしい……他の低脳クラスメイト共も、栗川がそいつに連れられ出て行ったところを追いかけて行ったな……」
「そ、それってもしかして……告白とか?」
「……さあ? 俺は興味ないから知らないが、まだ出て行ってから時間は経っていない。場所は確か……裏庭だったか?」
「私、ちょっと行ってくる!!!」
「…………」
(しまった……! 黒山から守ることでいっぱいで他クラスの男子を警戒してなかった……)
私は全力で裏庭へ向かった。
--------------------
裏庭へ着くと、知った顔や知らない顔……色んな人が、2人を中心に囲っていた。
「おいおい、2組の下崎が3組の栗川にまた告るらしいぜ?」
「えー、ほんとー? 下崎、玉砕決定じゃなーい?」
「下崎も身の丈を知らないな……」
「ちょっとごめん! 通して!」
私はどうにか隙間を通っていくと、真悠と下崎が向かい合ってるのが見えた。
すると、いつの間にか私の隣に黒山がいた。
「あんた、なんでいるのよ!? 興味なかったんじゃないの?」
「……そんなことより、あいつは誰だ?」
「1年2組の下崎照って奴で、1学期の6月くらいに1度、真悠に告白したの……結果は振られて終わったけど、その後も何回か話しかけてきたわ。まさか、まだ諦めていなかったとはね……!」
「そうか……」
「なに、あんた何か気になるの?」
「あの男……いや、なんでもない」
黒山が下崎のことをじっと見ていると、告白が始まった。
「あ、あの、栗川さん……! 僕、どうしても君の事を諦められなくて……振られてからも、あなたのことばかりを考えていました! 付き合ってください!」
外野からヤジが飛ぶ。
「ヒューヒュー!」
「あいつ、懲りずにまたいったよ!!」
「果たして結果は……?」
冷やかしの声を相手することなく、すぐに返事の時間に切り替わった。
「……前にも言ったけれど、今の私は恋愛とかする気はないの……ごめんなさい」
真悠が返事をすると、周りの人達が爆笑した。
「あっはははは! また振られた!」
「下崎じゃ無理無理!」
すると、下崎は真悠に向かって言葉を続けた。
「なんでだよ……僕は! 僕は君の事をこんなにも想っているのに!」
「ごめんなさい……」
「僕は、諦めない! 必ず……必ず君を手に入れて見せる!」
そう言うと、下崎は去っていった。
周りも注目の告白タイムが失敗に終わったのを見届けると、それぞれ散ったので、私は真悠の元へ走っていく。
「真悠!」
「あ、しーちゃん……! 見てたの?」
「うん……断る方も辛かったでしょう? 帰りにアイスを奢ってあげるから、一緒に帰ろう……?」
「うん……! ありがとう……」
今にも泣きそうな顔をしている真悠の肩を抱いて、この場をできるだけ早く去った。
--------------------
私は、真悠を連れて学校を出ていくと、家の近くにある、アイスが美味しいことで有名なお店へ入った。
「えーっとー、どーれにしよっかなっ!」
「どれでもいいわ、好きなのを選んで!」
「わーい! やったー! じゃあ、これにするっ!」
「ほんと? じゃあ、私はこれにしよっかなー!」
2人分の会計を済ませてアイスを受け取ると、ちょうど空いている席に向かい合って座った。
「わーっ! しーちゃんのストロベリー抹茶も美味しそうだね! ひと口ちょーだいっ!」
「はいはい……! 真悠のトロピカル・エクストラ・なんとかも美味しそうだね! 私もひと口貰うわね!」
「トロピカル・エクストラ・サマーエディションね! これ、すっごく美味しいんだよ! あのね、食べる場所によって味が違うんだよー?」
「あ、ほんと! 美味しい! ……別の方向からもうひと口……!」
「あっ! ずるーい! 私も、しーちゃんからもうひと口……って、2回とも同じ味だよぉー!」
「ふふふ!」
「あはは!」
2人で笑い合っていると、真悠が急に真顔になって話しだした。
「……実はね、夏休み前からなんだけど、2組の前を通るといつも話しかけてきたり、他の友達と話し終えてから教室に戻ろうとしても、呼び止められたりしてて……」
「それで、なかなか教室に戻れないでいたのね……?」
「うん……私ね、今度は普通に友達として見てくれてるのかなって思ったの、でも違った……」
「真悠……」
私は、ずっと前から気になっていたことを真悠に聞いてみることにした。
「ところで、あんたはいつも告白を断ってるわね? どうしてなの??」
「えっと、それはね……彼氏ができると、当然デートとかするでしょ?」
「うん、そうね……」
「でもその分、しーちゃんと一緒にいられる時間が減ってしまうでしょ? ……私ね、しーちゃんと一緒にいられる時間が大好きなの! 今までずっと一緒だったから、これからもずっとずっと一緒にいたいの! こうして一緒に笑っていたいの! だから……」
「そう……。 私もね、真悠と一緒にいられる時間が大好き! だからこれからも、ずっと一緒に楽しい時間を過ごしていこうね! 約束……!」
「うん! 約束! えへへへ……」
指切りをした私達は、アイスを食べてからそのまま家に帰った。
--------------------
そして翌日。
朝のショートホームルーム前に、真悠と会社見学の場所を一緒に決めた。
「真悠、どこがいいと思う?」
「んー、そうだねー……私は、お菓子工場が気になるな」
「まあ、確かにこの中を見ると、お菓子工場よね……」
他の会社を見てみても、工場が主で、基本的には金属加工と皮革加工ばかりだった。
一応他にも、雑誌編集などが1社ずつくらいならあったが……。
「そういえば真悠……」
「ん? なーに?」
「昨日、先生から頼まれたんだけどね……黒山君って、クラスメイトと仲良くないじゃない? そこで私達と同じ班にすることで、今回の会社見学を平和的に終わらせたいと考えているらしいのよね……真悠はどう?」
「私は、大丈夫だよ! むしろ、そっちの方が楽しそう!」
「私にとっては、予想もしなかった最悪の事態だけれどね。まあ、真悠がそれでいいなら、いいんだけど……」
「うん! 会社見学、楽しみだね!」
「ああ、うん……そうね……!」
希望の会社も決まったところで、ショートホームルームが始まった。
「おー、みんな、おはようー。昨日も言ったが、今日の2、3時間目は来週の会社見学について説明するから、体育館へ集合だー。遅れるなよー? それじゃあ、解散」
……いくら「ショート」ホームルームだといっても、短すぎる気がするが。とはいえその分、授業までの時間が出来るのでむしろ都合がいい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1時間目は音楽なので、真悠と準備をして一緒に音楽室に向かっているときのこと……。
昨日、真悠が言っていた通り、2組の前を通ると、下崎が話しかけてきた。
「あ、あの、栗川さん! おはよう……!」
「ああ……おはよー、下崎君……」
「こ、これから音楽? いいなぁ、僕も栗川さんの歌声を聴きたいよ……」
「え……あ、そう……? あはは……」
私は、明らかに困っている真悠に助け舟を出した。
「ちょっと、下崎! 昨日振られておいてよくもまあ、真悠に話しかけられるわね!」
「か、梶谷さん!? その僕は……」
「あんたさ、いい加減に諦めたら? はっきり言って、真悠も私も迷惑してるの!」
「……いくら栗川さんの大親友である梶谷さんでも、僕の恋路を邪魔するのならただではおかないよ……?」
「へ、へぇ、上等じゃない! 今後また真悠にちょっかい出すようなら、こっちだって本気であんたをぶっ潰すからね! ……真悠、行こう?」
「う、うん……!!」
「真悠……私が真悠を守ってあげるからね?」
「うん! ありがと……!」
私は、真悠の手を握って音楽室へ向かった。
2、3時間目の説明も無事に終わり、私達は希望通りに、お菓子工場を見学することとなった。
--------------------
それから6日が経ち、会社見学を前日に迎えた放課後のこと……。
ついに、事件が起きる。
この約1週間、下崎が真悠にちょっかい出すアクションは度々あったが、その都度私が撃退していた。
しかし、この日の放課後、また真悠は下崎に呼び出されてしまう。場所は空き教室。
この空き教室は、学生の間では「こっそり告白するため」に使われているが、授業では進学者クラスの移動教室として使われている。
「私……ちゃんと、自分の気持ちを下崎君に伝えるね……!」
「うん! 真悠なら大丈夫よ! 私もついてる。隣で応援しているからね……!」
「ありがとう、しーちゃん……!」
私は、今回も下崎から真悠を守るために、手を繋いで一緒に向かった。
「や、やあ、栗川さん……! 最近は、あまり話すことが出来なかったけれど、来てくれたんだね! 僕、とても嬉しいよ!」
「下崎君……何度言われても、私の答えは変わらないよ……?」
「ま、まあ、待ってよ! もう一度だけ言わせてほしいんだ、君への愛の言葉を……」
「はっ! なーにが、愛の言葉よ? 気持ち悪い! さっさと言って、さっさと振られれば?」
「……梶谷さんには、何も言っていないんだけどね? 別にいいんだけどさ……そ、それよりも栗川さん……!」
「は、はい……」
「ぼ、僕は二度振られても、君への気持ちは変わらなかった……だから、今度こそ僕と付き合ってほしいんだ……! 一緒に楽しく毎日を過ごそうよ……!」
「ごめんね、下崎君……やっぱり、私の答えは変わらない! 今の私は、しーちゃんと一緒にいたいから、恋愛をする気にはなれないの……だからね、下崎君の気持ちには答えられない。私を諦めてください……!」
真悠は、前回よりも自分の気持ちを正しく、多く伝えて、頭を下げていた。
───そして、下崎は。
「そう……それなら、仕方がないよね」
「……! じゃあ、諦めてくれるの?」
「いいや……僕は、僕の力で無理矢理にでも君を奪い去る! 大丈夫、怖いのは最初だけだよ……?」
そう言った、下崎の周りに目を疑ってしまうほどの信じられない現象が起こる。
下崎の影から、赤い「触手」が出てきたのだ……それはもう、沢山の。
触手は、真悠へと狙いを定めると手足を拘束し釣り上げる。
「し、しもざきく……? な、なにを……?」
「これはね……僕の恋を叶えるための力。つまり、栗川さん……いや、真悠さんと僕を『結ぶための赤い糸』さ! これからは、僕が君を守ってあげるからね……?」
「ちょ、ちょっと、下崎! 真悠を離して! じゃないと……」
「じゃないと……なにかな?」
「くっ……」
「君はいつもそうだ……最初に告白した時からずっと! 僕達の邪魔をしてきた! だからね……これから、僕達を邪魔しないように! させないように! 君をここで排除しておかないとね……!」
「な、なによ! その気持ち悪い触手で私のことを殺すつもり!?」
「いやいやいやいや……そんなことをしたら、僕の大事な真悠さんが悲しんでしまうだろう……? 君を殺したりはしないさ……ただ、女の子としては殺してしまうことになるかもしれないけどね!!」
下崎が私の方を指差すと、触手は真悠と同じように私を捉え、足や胸の方に触手を這わせる。
「やっ、やめてよ! 気持ち悪い! いやっ、そんなところ……」
「あはははははははははは! やめないよぉ! 言っただろう? 君には痛い目を見てもらうって。君が悪いんだ、そう……君が悪い!」
「し、しーちゃん! 私はいいから、逃げて!」
(……真悠を守るって自分で言ったのに……私にはなんの力もなく、守ることができなかった。それだけじゃない、自分がやられてしまったら、世話ないよね……)
「うははははは! この瞬間を待っていたんだっ! 僕の手が最初に汚す人が君になったのは想定外だったけど、とても……とても楽しいよ!」
(気持ち悪い……嫌だ……誰か、誰か助けて……!)
私は、元あった強気を完全に失って、心の中で必死に助けを求めていた。
誰も助けにくるわけがない。どこかで諦め掛けていたその時───。
「……悪いが、待っていたのは俺の方だ。」
聞き覚えのあるような声がすると、意識が朦朧とするなか、私と真悠は触手から解放された。
(だ、誰……?)
「だ、だ、だ、誰だ!?」
「俺か? 俺はただの転校生だ。……あと、俺に話しかけるな。気持ち悪い……」
「なんだと、転校生! お前から話しかけておいて……! ああ、そうか。お前も……お前も、僕達の邪魔をするのかぁぁぁぁ!」
「黒山くん! 逃げて!」
真悠が必死に叫んでいた。
私達を拘束していた触手よりも、多くの触手が彼を襲う。
……しかしこの時、下崎の触手が発現した時よりも驚きの光景を目にすることになる。
こんばんは! 夏風陽向です。
バトル展開を書こうと思ったのですが、予想以上に書きたいことが多くなってしまったので、バトル開始まで書かせていただくことにしました!(これでもだいぶ削りました)
また2、3時間目の説明会に関しては、実際に参加してる側も退屈でしょうから、カットしました。
針岡先生と黒山の関係性はまたいずれ、話に入れるつもりですので、それまでもその先も読んでくださると嬉しいです!
次回は、バトルはもちろん、この章のまとめに入りたいと思います。
ちなみに、科学と人間生活に関しては事実そのままです。また、科学と人間生活を履修しない場合は、「科学基礎」「地学基礎」「物理基礎」「生物基礎」のうち、3科目を履修しなければならないそうですが、皆さんはどうでしたか?
次回の更新は、6月28日の水曜日 午前2時です。
また、次回もよろしくお願い申し上げます。
2021年9月16日 修正済。




