痛々しい転校生 part2
本当は来週にしようと考えていましたが、part1が短いかなと思い、投稿させていただきました!!
みなさんの土日の中で、私が書いた小説を読んでいただく時間が少しでも有意義な時間になってくださればなと思っております。
ちなみに、私は土日休みですが仕事になってしまいました。
始業式である今日は授業がなく、ほぼホームルームで終わろうとしていた。
今日1日を締める、ショートホームルームでのこと。
「さて、これから2学期が始まるわけなんだが……普段の勉強と更に、進路について考えてもらわないといけなくなってくるんだー、うん。 そんなわけでまずは、いくつかの班に分けて会社見学を行なうことになったー。まぁ細かいことは後ほど連絡するから、覚悟しとけよー?」
針岡先生が進路の話をすると、周りからブーイングが飛んでくる。……私もその中の1人だけど。
「うるさいうるさーい! 恒例なんだから仕方ないだろー? 俺だってめんどくせーよ……」
(教職員がそんなこと言っていいのか、おい……)
「あー、そんじゃまあ、気をつけて帰れよー。 今日から部活あるやつは頑張れー。はい、解散ー!」
帰る人、部活に行く人はすぐさま教室を出ていき、戸締りの時間まで残る人は残る。
「さて! 真悠、私達も帰ろっか!」
「うんっ!」
私が真悠を連れて帰ろうとすると、残念ながら針岡先生に呼び止められてしまった。
「ちょっと待て、梶谷ー」
私はとてつもなく嫌な予感がした。出来れば関わりたくないので、体半分だけを先生に向けた。
「な、何ですか、先生?」
「転校生の黒山だが……まだこの学校の中がよくわかってないだろうから栗川と一緒に案内してやってくれー」
「えっとぉ……私今日は……」
「あれ? しーちゃん、なんか今日用事あったっけ?」
「うぐっ……ないです……行きます……」
「頼むぞ、級長ー。栗川もフォローしてやってくれよなー?」
「はーい、せんせー!」
何を隠そう、我がクラスである1年3組の級長は……この私だぁ!
まあ、誰も立候補しないからくじ引きで決まってしまったという完全なるハズレだが……。
渋々引き受けた私は黒山の方を見た。どうやら彼はまだ帰り支度をしていたようなので、そこで話しかけることにした。
「黒山君、ちょっといい?」
「……何だ?」
「まだ、校舎の中がよくわかってないだろうから案内しようと思うんだけど……」
「せっかくだが、遠慮させてもらう。この俺にかかれば校舎内など、どうということではない。……あと、俺に構うな」
(はー、キレそー!)
私はまだ教室にいる先生の方を向いて、状況を伝える。
「……先生、彼はこう言っておりますが?」
「無理矢理にでも連れてけー。 黒山ー、どーせ迷うのは目に見えてるんだから行ってこーい。 異論は認めん」
「…………」
黒山は、左斜め下を見つめてばかりで何も言おうとしない。沈黙が続くかと思っていたが、ついに真悠が声を掛けてしまった。
「ね、黒山君! 私、栗川真悠っていいます! これからよろしくね! せっかくなんだから一緒に行こうよ!」
「いや、だから俺は……」
「ね、行こうよ……」
頑なに断ろうとする黒山に対して、真悠は悲しそうな顔をした。それを見た黒山の反応にはどこか焦りを感じる。
「わ、わかった。それじゃあ、よろしく頼む……」
「やったぁ! それじゃあ、3人で行こう!」
真悠のおかげで、級長としての役目を全うできることにほっとするが、同時に黒山と真悠が関わりを持たないように気を付けていたのが失敗に終わってしまったことに対して不安を覚える。
(こうなったら、私がちゃんと真悠を守ってあげないと……!)
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校内の案内をすること30分。ようやく一通り案内が終わり、私達は校内に設置された自動販売機の前に来ていた。
私は彼に案内をすると同時に、彼の行動を監視していたが、特に真悠へちょっかいを出すような様子は見られなかった。
……時折「なにか」を凝視してブツクサ言っていたけれど。
「あっ! 私、飲み物買ってくるー!!」
そう言って真悠が飲み物を買いに自動販売機へ行くと、黒山が私に話しかけてきた。
「なあ梶谷。栗川って……」
「なによ?」
「いや……なんでもない」
「言いたいことあるなら、言いなよ」
「……最近、変わったことはなかったか?」
妙なことを聞いてくる。私は直近の真悠がどうだったかを思い浮かべる。
「変わったこと……? 別にないけれど……」
しかし、夏休み中も何回か会ったが変わった様子はなかった。
「そうか……俺が言うことではないと思うが、ちゃんと一緒にいてやれよ?」
「別に、あんたに言われなくたってそうするわよ!」
「そうだよな……それならいいんだ。」
何だか気味が悪い。私は一応、釘を刺しておくことにした。
「あんた……真悠に変なちょっかいを出さないでよ?」
「……? なにを言っているのかさっぱりわからないが、肝に命じておく」
「もし、あんたが真悠になにかしたら、私はあんたを真っ先に潰しに行くからね!?」
「わかった。……ならば尚更、今後俺には近付くな。 それを栗川にも伝えておいてくれ。それじゃあ、俺は帰る。案内ありがとう」
黒山が下校するのを見届けたところで、真悠が戻ってきた。
「しーちゃん! 黒山くーん! 飲み物買ってきたよー! ───ってあれ? 黒山くんは??」
「あいつなら帰った」
「えー! せっかく3人で何かお話しようかなって思ったのになぁ。むぅ……」
「真悠。あんた、そんなに男に対して優しくするとまた勘違いされるよ?」
「勘違い?」
「あれ? この子、俺にこんなに優しくしてくれるなんて……もしかして俺に惚れてる? ……なんて勘違いするやつがまた出てくるよ? って話」
「あー……でも、黒山くんはそういうのしない人だと思うな」
「なんでそう思うのよ?」
「んー。なんとなく? 勘かな?」
「んもう! しっかりしてよね!」
「ごめんなさーい!」
真悠は「テヘッ」と茶目っ気を見せているが実際に中学の時も今年の1学期も真悠の好意を勘違いして受け取ってしまう輩が多くて告白される回数は少なくなかった。
毎回断ってはいるけれど、中にはストーキングしてくる人もいれば、振られたことを逆恨みしてくる人もいたので真悠のことが心配だ。
(何事もないといいんだけど……)
この時私は、何か無性に嫌な予感がしていた。
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翌日。
私は極力、黒山が真悠に関わらないよう壁となることにした。
「おはよう、黒山君。」
「…………」
挨拶は返されなかった。
(挨拶さえも返さないだなんて、最早人として終わってるわね……)
そんなことを思っていると、今日も元気いっぱいに真悠は挨拶をした。
「黒山くん、おっはよー!」
「あ、真悠」
「…………」
(流石に真悠相手にも返さないか……)
それでも真悠は諦めずに黒山と挨拶を交わそうとする。
「ねぇねぇ、黒山くん! 人が挨拶したら返すものだよね? さあ、もう一回行くよ! 黒山くん、おっはよー!」
「…………」
「ねぇねぇ、黒山くん……」
黒山は真悠を鬱陶しく感じたのか、怒りを少し感じさせる声で私の名を呼ぶ。
「おい、梶谷!」
(え? っていうか、私?)
仕方なく、真悠を黒山から引き離す。
「あー、はいはい! 真悠、黒山君が迷惑してるでしょー?」
「えぇっ……でも! あうっ!?」
私は力づくで真悠を引き離し、彼女の席へと連行した。
「真悠、昨日言ったでしょ? あんまり優しくすると勘違いされるよって!」
「でも、私は挨拶しただけだよー? 挨拶したのに返されないなんて私が悲しいな……」
(まぁ、それもそうか……)
「はいはい、後で私が本人に直接苦情を言っておくから!」
「むぅ……」
ちょうど、朝のショートホームルームの鐘が鳴ったので私も自分の席に着いた。
いつの間にか教室にいた針岡先生が、いつも通りのやる気がない声でショートホームルームを始める。
「うーい、みんなおはよー。今日から授業が再開されるわけだが、皆の衆しっかり勉学に励めよー? あと、連絡事項だが……各教科の宿題は今日、提出だそうだー。ついては各教科の係が回収して教科担任に渡すことー。いいな? それじゃあ、解散」
昨日、宿題を持ってきたのはいいものの回収されていなかったが、今日提出することになったようだ。
転校生である黒山も、事前に宿題を渡されてやってきているんだろうが、ここでまた1つ問題が起きた。
───そう、あまりの痛々しさ故、誰も黒山に話しかけようと思わないのだ。気持ちはわかる。
各教科の担当が宿題を回収しに来るのだが、誰も黒山に話しかけようとしない。そのうちの1人が私の方へやってきた。
用件は容易に予想できる。
「あのー、梶谷さん? もし良ければ黒山君から宿題を回収して貰えるかな……?」
……やはり、頼ってきたか。まあ、予想の範囲内ではあるのでそれくらいなら朝飯前よっと。
「わかったわ! 後で渡しに行くね!」
「あ、ありがとう!」
係の人が去っていったところで、私は黒山に話しかける。
「黒山君、なんとなく聞こえてたと思うけれど、宿題を提出して欲しいの」
「ふっ……そのようなもの、俺には必要はない。無駄足だったな」
どうやらこの男はかなりの馬鹿らしい。私は威圧感を持って彼に迫る。
「……出してくれる?」
「わ、わかった……」
私からの猛烈な殺気を察してくれたのか、素直に渡してくれた。パッと見てみると、意外や意外。彼の字は男子にしてはかなり綺麗なのだ。
「あんた……まさか、誰かにやってもらったとか?」
「どこからそんな疑惑が出てくる? そんなことあるわけないだろ」
「じゃあ、なんでこんなに字が綺麗なの? こう言ってはなんだけど、男子がこんな綺麗な字を書くわけないと思うけど?」
「ふっ……梶谷の世界は狭いな。俺にかかれば綺麗な字を書くことぐらい容易い」
そう言うと、彼は紙とペンを出して驚くほど綺麗な字で文字を書き始めた。ちなみに、その内容はというと……
(なになに? お前のような馬鹿を相手している時間が惜しい……?)
「……あんたって、どうしてそんなにいちいちむかつく男なわけ?」
「梶谷には関係のないことだ。わかったなら早くその宿題を、あの臆病者に持っていってやれ」
「ええ、そうしますよ! あとね、挨拶くらいちゃんと返したら? 真悠が悲しがってたわ」
……むかつく。
私は黒山の側を離れ、係の人に宿題を渡してから真悠の席へ向かおうとした。
「……あれ?」
席には真悠の姿がなかった。元々、真悠は他のクラスの人たちからも人気だったからそっちの方へ行っているのかなと思い、1時間目の準備をすることにした。
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午前中の3時間は、現代文・英語・数学と続いたわけだが、転校生ということもあるのか、問題を出されると黒山は3時間連続で指名された。
ここでまた、クラスの一部からは反感を買うことになってしまうのだが、しっかり正解していたあたり、学力だけはいいらしい。
お昼になると、私はまた真悠の席へ向かって近くの人の席をくっつけ、一緒に食べていた。
「黒山くん、結構頭がいいんだねー??」
「まぁ、そうね。またそこがむかつく部分なんだけど……」
「しーちゃん、黒山くんと仲がいいね! 黒山くんとあそこまで話せるの、しーちゃんくらいだってクラスのみんなから英雄扱いされてるよ!」
「え、マジで? 初耳なんですけど……。っていうか、あいつと仲良くないし! はっきり言ってむかつくし! どっちかというと嫌い!!」
「そんなこと言ってー。ほんとはもっと仲良くしたいんでしょ? 私はしたいな!」
「やーめとき、やめとき! 絶対一生後悔するわ! あんなやつに関わらない道があるならその道を選ぶべきよ!」
「そ、そこまで言う……?」
「それにあいつ、いつも言うよね? 俺には関わるな、だとか、近付くな、だとか……はんっ! こっちから願い下げよ」
「あはは……それにしても、なんで黒山くんはあんなに他人を避けるんだろうね?」
「興味ないし、どうだっていいわよ! あんなんだから友達が1人も出来ないのよね。そこは哀れだとほんの少しだけ思うわ」
「しーちゃん、黒山くんに対しては手厳しいね……」
「そう? そんなことないと思うけど。……ってそれより、真悠! 朝のショートホームルーム後にどこ行ってたの? 愚痴聞いてもらおうと思ってたんだけど」
「えっ!? あ、えーっと……ちょっと、他のクラスの人に呼ばれてただけだよ! うん!」
「……? そう? ならいいけど。あんた、人気者だものね! 私も幼馴染として嬉しい限りよ!」
「そ、そんなことないよー! 私はただ、いろんな人と仲良くなって、色んな話をしたいだけなの。……そうすれば、しーちゃんとの会話の幅も広がると思うしね……!」
「あんたって……あんたって子はもう! なんでそんなに可愛いのかしらっ! どっかのイタイタ転校生にも聞かせてあげたいわー! そんな可愛い子には、私のタコさんウィンナーあげちゃう!」
「わーい! やったぁ!」
我ながらこんな微笑ましいやりとりをしていたのだから、こんな日々がずっと続いていくのだと思ってた。
しかし、この日から危機は少しずつ、確かに私達へ近付いていた。
だから私は、黒山が言っていた言葉を本当の意味で気付くべきだったと、後になって後悔することとなった。
たぶん、次回戦闘シーンかなと思います。
また次回もよろしくお願いします!!
2021年9月16日 修正済。




