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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「決別する転校生」
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決別する転校生 part20

 紫雲寺の本気───。紫とは、赤と青を混ぜた色……間の色である。紫雲寺は自身が目覚めた能力が『紫』だと認識し、赤と青……つまり、赤羽根と青木の能力を見た瞬間、2人の能力の下位互換のような能力も使えるようになっていた。



「妾に本気を出させた事、誇りに思うが良い」


「…………!」



 バチカルは黙ったまま紫雲寺に走って突っ込む。しかし、その途中で「何か」に気が付いて横に跳んだ。



「なんだ? 炎か!?」


「ふむ」



 先程までバチカルがいた場所には青色の炎が宙に浮いて燃えている。そんな効果を前にバチカルが驚いている一方、紫雲寺は少し不満げに頷いた。



「まだまだ足りぬ。もっとじゃ、もっとじゃ」



 紫雲寺が右手に持った直刀を緩やかに動く秒針のように振った。すると、その剣線をなぞるように青い炎が「ぼうっ、ぼうっ」と次々に現れていく。



「どれ。妾の本気、逃げ切れるかの?」


「へへっ、やってやらぁ!」



 バチカルとしてはなかなかに見られない光景で驚いたが、気付けば少しだけワクワクしてきていた。


 紫雲寺が剣先をバチカルに向ける。その直後、攻撃の司令を受けた青い炎が一斉にバチカルへ向かって宙を走り出した。



「おっしゃぁっ!」



 バチカルが気合いを入れて拳を青い炎にぶつけていく。すると、青い炎は拳に燃え移ることなく弾けて消えた。



「おらおらおらおら!」



 バチカルはどんどんと青い炎を拳で消し去っていった。しかし、紫雲寺に焦る様子はない。それどころか、むしろバチカルの方が焦りだしてきた。



「おらぁ! おらっ! ……どうなってんだ!?」



 拳を振るって青い炎を消していくが、数が減っていく気配がない。数を減らしているはずが、逆に増えていっているように見えるのだ。


 青い炎に任せ切るだけでなく、紫雲寺もバチカルを攻撃しようと近付いては直刀を振る。流石にそのままやられるバチカルでもなく、紫雲寺からの攻撃をきっちりガードするが、その隙を突かれて青い炎の集中攻撃に襲われた。



「ぐおおっ!」



 熱さはない。火傷するような痛みもない。


 だが、バチカルの中に恐怖が募っていく。単なる炎を前に臆する性格ではないが、不思議とその青い炎には「人が大きな火を恐れる要因」が詰まっているように思えるのだ。


 熱さや火傷の痛みのような、わかりやすい感覚がないからこそ、知らないうちに生命を脅かす結果へ繋がってしまう未来が予想できてしまう。



「恐れ、(おのの)け! 妾を本気にさせたことを悔やむが良い!」


「…………ちっ!」



 生命を脅かす結果を想像した時、それが現実となるかのように痛みが生まれていく。紫雲寺はそんなバチカルを慈しむこともなく、さも当然かのような僅かに誇った表情で膝をつくバチカルを見下した。


 更に青い炎がバチカルを包んでいく。次々と青い炎を作り出しては飛ばす紫雲寺が止まらない限り、バチカルは青い炎によってその精神を蝕まれていくだろう。


 そこでバチカルは1つの決心をした。本人としては、あまり好まない方法で紫雲寺と戦うことを決めたのだ。



「ウガァァァァッ!!」


「何っ!?」



 バチカルが人のものではない、まるで悪霊や悪魔に取り憑かれたような雄叫びをあげた瞬間、バチカルを包んでいた青い炎が吹き飛ばされた。吹き飛ばされた青い炎は彼の周囲に落ちて、水の地面にも関わらず燃え続けていた。


 しかし、紫雲寺がバチカルの姿を見た時、そこに熱血漢の姿はなかった。黒く大きな翼を広げ、ゴツゴツとした黒いツノのような鱗が体を覆っている。噛み付いた万物を粉々にしてしまえるような強靭な牙を剥き出し、目は真っ赤になっていた。


 サタン……悪魔の王が、青い炎の中で大きな雄叫びをあげ、紫雲寺はその存在に目を見開く。



「何じゃ……? こんなもの……」



 青い炎を再び作り出し、直刀を構え直す。本気と本気がぶつかり合う瞬間だが、正直なところ紫雲寺は「勝てる気」を失いかけていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 距離を置いて無効化する方法を考え始めるが、相手はそんな暇を与えてくれやしない。そうやって考えている間にもツァーカムが召喚した屈強な戦士は死神を倒そうと左手の棍棒を振り下ろし、後ろへ下がった死神に追撃する為、右手の槍を突き刺す。


 更にそれを横に移動して避けるが、屈強な戦士は間髪入れずに攻撃を続ける。死神……黄泉路からしても、ここまで戦闘に特化し、相手を打ち倒すことだけに集中する存在は珍しく感じた。


 故に適切な対処がわからない。能力の使い方としては生命の光を操作する方法が好ましいが、この屈強な戦士が相手では光がないので通用しない。


 相手はツァーカムの能力によって生み出された非生命体。ならば、純粋に大鎌で切り刻み、戦闘不能にさせるのを狙うしかないだろう。


 死神は軽々と大鎌を振り回しては構え直し、屈強な戦士へとすばやく接近した。驚く様子も見せずに屈強な戦士は右手の槍で攻撃を仕掛けるが、死神は軽やかな動きを駆使して間一髪で攻撃を避け、すばやく大鎌を振って一閃。大鎌による鮮やかな袈裟斬りは、確かに屈強な戦士の肉を切り裂いた。



「…………」



 ダメージは通っている。その証拠に出血こそないものの、動きが少し鈍くなった。不思議なことに切り裂いた肉からは人体の中身が何も見えない。


 このまま続けて切り裂きたいところではあったが、ツァーカム本人による巨大なタケリタケの攻撃も無視できない。屈強な戦士が立ち直るまでの僅かな時間を稼ごうと攻撃を仕掛けてくる。


 それに対して死神は躱すことをせず、大鎌で生命の光を死へ導く。そうすることで削るうちに立ち直った屈強な戦士が棍棒を横へ薙ぐ。



「オオオオ!」


「…………」



 気合いを入れて攻撃する屈強な戦士に対し、死神は黙々と対処していく。この時点で既に勝利の糸口を掴んでいた。


 人のように怪我をしない癖に、屈強な戦士は痛みによる怒りを攻撃に乗せて力強い攻撃を仕掛ける。当たれば死神も一撃でダウンすることさえあり得るが、大振りな攻撃であるが故に隙も見つけやすい。それは、屈強な戦士が大鎌を扱う敵との交戦経験が殆どないという点が死神を有利にしていた。


 大振りな棍棒の振り下ろしを横にずれて避け、続く槍の横薙ぎも下を滑り込むようにして躱し、大鎌を下から上へと振り上げる。


 死神はその結果を確認することなく、屈強な戦士に与えたダメージが「せいぜい怯ませている程度」と低く見積もって、すぐさまツァーカムへと向かって移動を始めた。


 当然、先程と同様に巨大なタケリダケによる攻撃は再度行われる。しかし、今度は大鎌でそれを処理することなく回避し、ついにツァーカムの懐へと潜り込み、すれ違いさまに大鎌でツァーカムを斬りつける。今度はツァーカムの生命の光をほんの少しだけ死へと近付け、意識を刈り取った。


 死神はすぐに「武装型」を解除して黄泉路の姿に戻ると、倒れそうになったツァーカムを支えた。敵といえども黄泉路のなかにある紳士の心はそう簡単に失われない。


 黄泉路が倒れそうになったツァーカムを支え、ゆっくりとその場に寝かす頃には屈強な戦士も消え去っていた。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


ここ最近の土日は想定外の出来事に見舞われ、なかなか執筆や他の趣味が出来ずにいました。


いつも言っているような気がしますが、来週は執筆の時間を取れそうな感じがします。また急遽、家庭の事情が舞い込んでこなければ……ですが。


家庭の事情……といっても、世帯的に言えば私の問題ではありません。勝手に巻き込まれているだけなのですが、本当に困ったものですね。巻き込まないで欲しい。


それではまた次回。来週もよろしくお願い致します!

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