表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「決別する転校生」
176/222

決別する転校生 part16

『虚像』と『青』の武装型を使用した青木を相手に、前回とは異なってアディシェスはなかなかに苦戦していた。


 脱皮によって攻撃を躱して反撃しようとするも、他の青木がカバーして金棒を振り下ろす。4人いる青木のうち、3人が『虚像』で作られた存在だとしても、そのポテンシャルが劣ることはない。



「「「「どうしたどうしたぁ!? そんなもんかよ、ええ? アディシェス!?」」」」


「……うるさいな」



 4人が一斉にブレることなく同じことを言うものだからアディシェスは少しばかり表情を歪めた。しかし、それも一瞬だけのもの。出来るだけ青木の戦力を崩そうと灰色のオーラを放つ。



「させるかよ! ええ? アディシェス!」



 青木も『青』のオーラを放つ。互いのオーラが干渉しあって本来の効果を発揮しない。その結果を見届けることなく、アディシェスは左手の蛇を『青』のオーラを放っている青木に噛み付かせようと走り出した。


 それに反応して他の青木が応戦しようと立ちはだかる。縦に振られた金棒を左に跳んで躱し、横に振られた金棒をしゃがんで躱す。金棒の威力は想像出来ない程に高いものなのだろうがその分、速度が無いので身軽なアディシェスにとって避けることに困難はない。


 青木は量で速度の遅さを補っている。しかし、それは4人のうち1人でも攻撃するタイミングがズレてしまえば必ず隙が出来る。いくら自身の能力によって生み出された分身とはいえ、自分達の攻撃によって同士討ちになることもある。


 そうして躱し続けるうちに隙を見出そうとするが、青木も冷静に対処している為、なかなか隙を見せない。青木の集中力が切れてしまうか、アディシェスに疲れがきて動きが鈍くなるかでこの一手が決まる。


 金棒を振るにも体力を消耗する。実際の金属ではなく、能力によって生み出されているものなので多少は重さも軽減されているが、それでもやはり消耗はしてしまう。青木の息も荒くなってくるが、躱し続けているアディシェスも流石に息を切らしてきている。


 この駆け引きで負けてしまったのは青木だった。1人の青木が焦ったばかりに次の青木によるフォローが送れた。その隙を突いて『青』のオーラを放つ青木の首をアディシェスの左腕にいる蛇が噛み付いた。


 噛み付かれた青木は戦意を失って項垂れる。直後、横薙ぎの金棒が戦意を失った青木もろともアディシェスを窓の外へ打ち飛ばした。


 アディシェスの蛇が噛み付いたのは分身。つまり、外れだった。一緒に打ち飛ばされた青木は既に姿を失っており、アディシェスはそのまま無表情・無関心で地面へ落下していく。



「はぁ……はぁ……。俺の勝ちか? ええ、アディシェス?」



 金棒を引きずり、重い1歩を踏みながら青木はアディシェスが落下していった窓に近付く。下がコンクリートだったら顔を真っ青にしているところだが、幸いにも草木が生い茂った場所だ。草木がクッション代わりとなってくれるだろう。


 しかし、青木の背中には冷たい汗が流れた。落下していったはずのアディシェスが青木と同じ目線の場所で宙に浮いていたからだ。



「なっ……? は? ええ? アディシェス?」


「…………」



 青木がどうにか床を蹴って後方へ跳んで距離を取る。そうしてアディシェスの姿を観察すると、先程までのアディシェスとは少しばかり違っていた。灰色の鱗を持ったドラゴンに跨り、両腕が蛇に変わっている。白き翼を背中に持ち、悪魔なのか天使なのかわからない姿をしていた。



「ド、ドラゴン……? メルヘンじゃねーか、ええ? アディシェス?」



 動揺を隠せないまま金棒を再び構えると、アディシェスのドラゴンが勢いよく突っ込んできた。とても窓を潜り抜けられるような大きさではないので、ドラゴンは大きな音をたてて建物とぶつかった。



「のわっ!?」



 激しく揺れる廃病院。青木はバランスを崩さずに立っているのがやっとだった。



「このまま建物ごとやるつもりか!? お前の仲間もやられちまうぞ! ええ? アディシェス!?」


「どうでもいい……」



 《クリフォト》は仲間意識で集まった集団ではない。もしかしたら、友情が芽生えているメンバーもいるかもしれないが、アディシェスは『無感動』。誰にどう被害があったとしても彼にとっては、どうでもいいことだ。


 流石に「まずい」と思った青木は、次の攻撃がくる前に自身も窓から飛び降りた。直後、残った2人も窓から飛び降りて青鬼の姿に変わる。相手と動揺、全身武装型で応戦することにした。外へ出たのは味方に被害がないようにしたいからだ。



「ダイニラウンドダゼ。エエ? アディシェス?」


「…………」



 青木は金棒の先をアディシェスに向け、宣戦布告をしたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 黒山はBグループに遅れる形で地下室へ入って行った。先行したBグループと同様に突入隊のなかには地下の只ならぬ気配に怖気づいている隊員もいた。黒山自身もその空気を感じていたが、だからといって止まるという選択肢は無い。少しも躊躇う様子を見せず、いつの間にか隊員よりも前を歩いていた。



(……ん?)



 黒山はその道中で違和感のようなものを感じた。いや、違和感というほど抽象的なものではない。それはまさしく能力の痕跡だった。はっきりとした『水』の気配。水流迫の能力によって誰かが戦っていることを知らせている。


 そこでも留まることなく先を急ぐ。Bグループと鉢合わせると突入隊に説明するのが少々厄介だが、途中で遭遇する《クリフォト》のメンバーを相手できる人材が増えれば、それだけ詩織達の救出も楽になる。黒山はBグループと合流するつもりで進んでいった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アディシェスを青木に任せたAグループは3階に向かって歩いているが、一応各病室を見回っている。というのも、挟み撃ちによる混戦を防ぐためだ。普段から一緒に戦っている息の合ったメンバーならともかく、彼等は目的が一緒なだけで行動しているのに過ぎないので互いにどういう戦い方をするのか知らない。


 そうなれば勝率が下がる事さえ考え得る。仮にAグループが全滅してもBグループや黒山がいるのでそこまで気負う必要はないのかもしれない。けれども彼等は誰1人として負けることなど考えていなかった。


 そんな中、とある病室で───。


 窓から入ってくる風になびく髪。戦場となっているにも関わらず、水商売の女性を連想させる姿で現れたのは『色欲ツァーカム』だった。病室を開けて訪れた来客に半身振り返り、妖しい笑みを浮かべた。



「あら? 若い男女が沢山ねー? これは楽しめそうだわぁ!」


「不埒な女がいたものだな」


「あ、可愛くない」



 ツァーカムに呆れた様子を見せる赤羽根。それに対してツァーカムは赤羽根に関心を失ったかのように呟く。その直後、アディシェスによって発生した揺れが彼等を襲った。突如の揺れに敵味方関係なく驚いてよろめいた。



「な、なんだ!?」



 鎌田が驚いた声を上げる。奏太以外のメンバーは戦闘系の能力を持っているので自ずと転倒しないようにしゃがんだりバランスを取ったりしたが、奏太はそういった反応が出来ずに尻餅をついた。



「痛っ……」



 それに対しツァーカムも転倒はしていない。貶してきた赤羽根と無様に尻餅をついた奏太を除外し、鎌田と黄泉路の2人を唇に右手の人差し指を当てながら物色した。



「うーん、どちらもイイカンジだけど、そこのイケメンボーイの方が美味しそうかなー」


「…………」



 ツァーカムが唇から離した指をさして選んだのは黄泉路だ。黄泉路は背中が凍るような勢いで寒さを感じたが、鎌田は選ばれなかったことに心の何処かで安堵を感じていた。選ばれた黄泉路が前に出る。



「はぁ……。優璃を助ける為に相手してる場合じゃないんだ。悪いけど、彼女達の居場所を教えて貰えるかな?」


「あら、妬いちゃう。そんなに教えて欲しければ、あたしを満足させることね。あたしに勝てばご褒美をあ・げ・る!」


「はぁ……」



 殆どの健全な男子ならツァーカムの色気に惹かれていただろう。それ程までに彼女の体型はグラマラスそのものであり、顔も整っている……ように見える。(誰も彼女のすっぴんを知らない)


 それでも黄泉路は彼女に対し魅力を感じなかった。彼は他ならぬ優璃を愛し、優璃との生活に不満を何ひとつとして感じていないからだ。


 心の中で優璃に「助けが遅くなること」を謝罪して、他のメンバーに告げる。



「そういうわけだから先に行って欲しい。出来るだけ早く追い付くようにするけど、気を付けてくれ」


「……わかった。ここは黄ぃに任せて行くぞ」



 黄泉路の強さを知る赤羽根は彼にツァーカムを任せて先を急ぐことにした。鎌田と奏太も赤羽根の後に続いて病室を後にする。


 去り際、赤羽根が振り向いて黄泉路の名を呼んだ。



「黄ぃ」


「何かな?」



 黄泉路はツァーカムの方を見たまま赤羽根に振り向かない。それだけ油断出来ない相手だということを直感的に悟っていた。


 だからこそ、赤羽根は1つだけ心配していることがあったのだ。



「やり過ぎるなよ」


「……わかっている、つもり」


「お前がやり過ぎると洒落にならないからな。いつでもそれを忘れないように頼むぞ」


「善処するよ」



 赤羽根はその返答に満足しなかったようだが、このまま続けても意味がない。それ以上は問い続けることをせず、今度こそ病室を後にした。


 黄泉路は相手を警戒しているが、だからといってすぐに攻撃するつもりはない。まずは少しでも情報を引き出してみることを試みた。



「貴女達は一体、彼女達をどうするつもりだ? 重度の中二病患者が彼女達のような存在を襲う例は珍しくないが、何か目的があるのかな?」


「意外とお喋りなイケメンボーイね。言葉よりも身体に教えてあげたくなるわぁ。……そんなわけで、あたしの名前はツァーカム。本名があった気がするけど、忘れてしまった憐れな女よぉ」


「……俺は黄泉路。貴女を倒し、優璃を連れ戻す!」



 ツァーカムは自身の頭上に大きな突起状のものを呼び出した。黄泉路にもその形に何処か見覚えがある。



「いや、それは───」


「これ? 立派でしょう? タケリタケっていうのを参考にして作ってみたの。こいつの威力、味わってご覧!」


「……断る」



 黄泉路は「出来るだけ早く追い付くようにする」という言葉を有言実行とするために最初から全力でいった。ツァーカムの前には先程のイケメンボーイではなく、生理的嫌悪を感じてしまうくらいの死神が宙に浮いて睨んでいた。魂を刈り取る大鎌が、反射したツァーカムの顔を写す。



「減点ね。さっきのヤンチャボーイにすれば良かったわぁ」



 ツァーカムが死神に向かって指をさす。その直後、巨大なタケリタケが死神に向かってピストン運動を始めた。先端が死神を襲うが、何も語ることなく死神は冷静に大鎌を振り回して攻撃を捌く。



「まだまだよぉ!」



 まるで死神に抱擁を求めるかのように腕を広げると、追加で6本のタケリタケが増えた。形は様々であり、余計に死神となった黄泉路を白けさせた。


 見た目こそはお世辞にも良い形ではないが、しかし威力と速度は申し分ない。これで死神を一気に倒して、ヤンチャボーイこと鎌田に戦いを挑むところまでツァーカムは考えた。


 全部で7本の大きなタケリタケがそれぞれ違うタイミングで死神を襲う。流石の死神でもこれは捌けないだろうと思われたが、先程とは異なって全てのタケリタケを大鎌で切り倒した。驚くほどの切れ味。死神……黄泉路はタケリタケの命を遠慮なく黄泉へと送った。



「ば、化け物じゃないのよぅ!」


「…………」



 死神は「次はお前の番だ」と言わんばかりに大鎌の切っ先をツァーカムに向ける。正直なところ、優璃を連れ去った者が誰であろうと黄泉路は《クリフォト》に対して怒りを爆発させていた。


 もし、ツァーカムが素直に居場所を教えていたら、黄泉路がここまで怒ることはなかったかもしれない。


 一方、ツァーカムは黄泉路に対してかなり恐れを抱いていた。彼女の『色欲』には、それを連想させる武器を武装型として使用するだけでなく、本来は「自分を相手にとっての性的な対象にすることで攻撃の意思をなくさせる」という効果がある。しかし、黄泉路には残念ながらそれが通用しなかった。それは黄泉路の一途さが『色欲』に勝ったということだ。



「悪いけど、あたしもまだ負けるわけにはいかないの。後でちゃぁんとあの子達を美味しく頂くまではねっ!」


「…………!」



 それは自分自身を鼓舞する為の独り言のようなものだったが、黄泉路の怒りを更に燃やすには十分過ぎた。言葉を発することはなくとも、大鎌を持つ手が震えるほどに怒りを露わにしていた。



「あ、怒ってる? ……ふーん、余程大事な相手があの中にいるってことねぇ」



 死神が露わにした素直な感情がツァーカムの戦意を呼び起こす。自身の外見に絶対的な自信を持つツァーカムにとって、この場で他の女に目を向ける黄泉路を許すことが出来なかった。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


本を読む時間がなかなかありません。読書することも、小説を書いていく上でモチベーションになり得ることだと知っていても。


権力がある人間でも、権力を行使出来ない場合がある。権力を持つ人間は、その人が周りから「権力がある」と認識されない限りは誰も言うことを聞かない。

水戸黄門なんか、わかりやすい例かもしれません。彼が水戸光圀公であることを知らない限り、悪事を働く彼等は言うことを聞かないですからね。


最近、そんなことを思いました。



それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ