表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「決別する転校生」
167/222

決別する転校生 part7

「修学旅行? そんなの中止に決まってるじゃん?」



 真悠はさも「当たり前」だと思っているかのような口振りだ。彼女はそもそも詩織と一緒でなければ修学旅行に行く価値がないと思っているので、詩織がいない今となっては大した問題ではない。



「そうか」



 一方、黒山も特に思うことはないようだ。強いて言うならば、つい3日程前まで修学旅行を楽しみにしていた詩織と真悠の話す姿が脳裏に浮かび、その光景が黒山の心をチクリと刺した。



「出来るだけ早く取り戻さないとな……」


「もちろんだよー。白河くんもだけど、協力した人達も絶対に許さない」



 無邪気そうな表情とは裏腹に、真悠は「相手をどうやって刻んでやろうか」と考えていた。真悠の戦闘力は黒山が認めるほどであり、それは黒山にとっても「あてにできる戦力」ではあるが、こうして思考回路が些か物騒になってきてしまっているのは間違いなく悪い傾向と言えるだろう。



「いずれにせよ、まだ情報が足りない。どうやって情報を得たものか。取り敢えずは、定例報告会だな」


「あ、私も呼んでねー? 参加するからー!」


「わかった」



 その後、黒山は真悠から少しだけ学校の様子を聞き、会計を済まして真悠を家まで送り、家に帰宅した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「修学旅行を中止にする」と、ひと言で言ってもそんなに簡単な問題ではない。


 実に理不尽な話ではあるが、瑠璃ヶ丘の教職員は開催した説明会のなかで2つの意見を突きつけられた。


 1つ目は、修学旅行の積立金である。修学旅行に行くにも保護者から積立金を徴収しているわけだが、たった1人の生徒が誘拐されて行方不明になっているというだけであって、その1人の為に修学旅行を中止にするのはどうなのか、という話だ。当然ながら、宿泊予定日ギリギリでのキャンセルとなるわけだから、キャンセル料は発生する。それによって積立金が全て無くなるわけではないものの、積立金の一部が無駄になってしまうことに変わりはない。


 2つ目に、危険と不謹慎である。修学旅行を中止にしてしまうのは反対したいところではあるが、旅行先でまた生徒のうち誰かが誘拐の被害者になってしまう可能性があるということ。もしも、積立金の問題から修学旅行を予定通りに実施したところで安全が確保されていなければ、やはり行かせることは出来ない。そして、生徒の1人が誘拐で行方不明になっている状況下で他の生徒が修学旅行を満喫するのは不謹慎であるという意見だ。


 説明会のなかで出された相反する2つの意見。長く議論された結果として、安全が保証されていないことに加え、同時期に起こった3件の誘拐事件が今回の事件を含めて連続誘拐事件であるという警察の見解もあって中止の方向で話が決まった。


 流石に異例の説明会だということもあって、いつもは何事にも動じない校長でさえ困っていたようだ。当然、同席した針岡も例外ではない。


 説明会が終了し、会場を片付けた後に針岡は校長室に呼ばれた。



「針岡先生、進捗状況はどうかね?」


「あー、これと言っては何もー」


「ふむ。だが、この状況をいつまでも続けるわけにはいかん。犯人の目的もいまだわからないが、最悪の事態に繋がる前に解決する必要がある」


「わかってますよー、もちろんー」


「そうは思えんがな。臨時で報告会を開き、代表者の総力を以ってこの件に当たるよう」


「わかりましたー」



 針岡は恭しく校長に頭を下げた後、校長室を後にして早速各代表者にメッセージを送った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 本来であれば修学旅行となっていた当日。金曜日だということもあって、2年生は通常通りに授業を受けた。


 教科担任としては何も準備していないのに授業を出来るはずもないが、状況が状況なので「無理だ」と言っても「どうにかしろ」と言われてしまうだけなので、仕方なく授業を行なう。


 とはいえ、全ての教科担任がすぐに授業できるわけではないので、中には結局、何かしらのビデオを見せるだけで終わる授業もあったのはいうまでもない。


 修学旅行が中止になったことに不満を言う生徒は決して少なくなかったが、それでも大声で不満を語る生徒が表立っていなかったのは、中止になった原因である被害者の詩織が、学校1の人気を誇る真悠の幼馴染みであることが大きかった。わざわざ大声で不満を言って、真悠を悲しませたり、敵に回そうと思う生徒は誰1人としていない。


 真悠は詩織のことを心配しながらも、取り敢えずは普段通りの自分でいた。昼休みの昼食も黒山と2人で食べる気が起きなかったので、他にいる大勢の友達から適当に選んで一緒に食べる。


 そして休み時間。臨時の報告会を開催する旨のメッセージを受け取った黒山は、それを真悠に伝えると、真悠は得意げな笑みを浮かべて首を縦に振った。


 訪れた放課後。黒山と真悠。ついでに充と青木も一緒に「旧・虹園塾」へと向かう。彼等が到着する頃には、他の代表者が既に着席していた。


 重々しく流れる空気。黒山がこの場所に顔を出すのはかなり久しぶりのことではあるが、普段の奈月(なつき)沙希(さき)はまず、黒山に話しかけるだろう。しかし、起こっている事件を噂と奏太(そうた)の能力によって把握していた2人は大人しく着席したままだった。


 全員が揃ったことを確認し、針岡がいつもよりは多少やる気のある声で報告会の開催を宣言する。



「揃ったようだし、始めるぞー」


「あー、皆ももう知っていることだろうがー、梶谷を含め4人の女子高生が誘拐されたー。犯人は白河と協力者がいるとされているが、これを解決するよう上から言われたー」



「上から命令された」という理由だけであれば、普段なら皆が針岡に対して白い目をしていたことだろう。しかし、今回は命令があろうとなかろうと代表者達としても解決に協力したい案件であるので、至って真面目な顔で話を聞いていた。


 こうして臨時の報告会が開催されて黒山は「手間が省けた」と思った。仮に黒山が奏太へ個人的に協力をお願いしたところで、角が立って断られる可能性が十分に考えれる。


 それに比べ、代表者としての仕事であれば決して文句は言わないだろう。陰で言うかもしれないが、断る真似はしない。


 やはり針岡も同じ考えだったようで、情報収集に長けた能力を持つ奏太の方を見た。


 一方、奏太も頼られることがわかっていたのだろう。右手で頬を掻きながら小さく息を吐いてから口を開く。



「情報がないわけではない。けど、明確ではないんだよな」


「場所の特定が出来てなくても構わない。少しでも情報があるなら欲しい」


「…………」



 確かな情報ではないのにそれを欲しがった黒山を見て奏太は意外感を感じた。確かに、普通の人間であれば藁にも(すが)る思いで情報提供を望むだろう。しかし、奏太の中では、黒山透夜という人間は如何なる時であっても確実性に欠けた情報を求めない。不確かな情報に翻弄されることを嫌うイメージがある。


 そうした「人間らしさ」が見えず、それに加えて『拒絶』によって彼の情報が得られないから奏太は黒山のことが苦手だった。だが、今の「人間らしい黒山」を見て奏太は特に反論することなく首を縦に振って立ち上がり、針岡の立つ教壇の方へ歩き出した。



「地図」


「お、おー」



 今度は針岡が、素直に協力する奏太を見て驚愕を隠せなかった。当然、そんな自分に対して針岡が驚いていることもわかっているし、奏太自身も自分の行動に驚いている。


 それでも望まれるなら、やらないわけにはいかない。


 チョークで文字を書けば、消すのにかなり苦労しそうな古い黒板に地図を貼り付け、予め用意していた水性のカラーペンで得られた情報に基づいた線を描く。



「梶谷詩織さんを連れた白河現輝が目撃された方向を線で書いている。恐らく、この線が交わったところにいると思われるが、それも難しいな」



 奏太の書いた線はかなりの数になるが、交わった点が一箇所ではない。そもそも、奏太が得ている情報とは「起こった事実」というよりも「目撃した記憶」である。


 交わった点を1つひとつ確かめていくのも骨が折れる話だ。分担出来るのであれば話は別だが、真悠が交戦した相手のことも考えれば、戦力を分散してしまうのは下策だ。


 奏太は全ての線を書き終えてから沙希の方を見た。ここまでの情報に加えて、沙希が能力を使用し、誘拐された詩織の視界をジャック出来れば場所の特定を出来るかもしれない。


 沙希はその意図を察して目を瞑り、能力を使用した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 薄暗い場所。あるのは夕焼け色の小さな光。辛うじて見えるのは、同じように誘拐の被害者となった少女達。その中には沙希も会ったことがある虹園光里の姿もある。



「ん……」



 どうやら詩織は眠ってしまっていたようだった。沙希が能力を使ってシンクロしているせいなのかはわからないが、今この瞬間目が覚めたようだ。



「あんた、なかなかの大物だと思ってたけど、こんな状況で眠れるだなんてね」


「んん……」



 嫌味っぽくそう言ったのは富永(とみなが)裕里香(ゆりか)だ。沙希と彼女に面識はないので知らないが、詩織の脳内に名前が出てきたので知ることが出来た。


 どうやら4人の少女は拘束されていないらしい。裕里香は壁にもたれかけて座り、光里は出入り口を睨みながら勇ましい表情をしている。そしてもう1人、名前も知らない髪の長い少女は恐怖にどうにか耐えようと光里に抱き付いていた。


 裕里香が3人に問い掛ける。



「それで? 神経の図太い人が起きたことだし、どうやって脱出するか決めようじゃん」



 光里が首を振る。



「そうしたいのは山々ですが、そう簡単にはいかないようです」


「はあ?」



 裕里香は光里の言っている意味がわからなかったようなので、それを教えようと光里が出入り口の扉を叩く。


 その扉は鉄製の重い扉に見えるが、叩いても音がしない。微かに音は聞こえるものの、それは壁を叩く音と変わらない。



「どうやら私達の見ている光景は現実と異なるようです。手分けして壁を叩けば出口がわかるかもしれませんが、無闇に壁を壊した場合と同様、相手に脱出の意図を悟られる可能性があるでしょう」


「ちっ……」



 裕里香ならリスクを承知でやりかねないが、光里がそれに反対する。もし、満場一致であるならば光里もそれをやるだろうが、光里にしがみつく少女がそういった「危険な橋」の話が出るたびに強く光里の服を握ることで不安を訴えるので光里は賛成できないでいた。



「それで? あんたはどう思ってるわけ?」


「……えっ」



 詩織は急に話を振られて驚いた。本人は寝起きのせいだと思っているが、沙希の意識が入っていることによって確かに僅かな違和感を感じており、それで反応に遅れてしまった。


 裕里香の問い掛けについては考えるまでもない。仮にそれが上手くいったとしても、連れ戻されるのが関の山だ。いくら4人が超能力を駆使して戦えるとはいえ、重度の中二病患者による攻撃と干渉できないのでまともに戦うのは難しいし、相手の人数の方が多く、数の力で負けてしまう。



「助けを待った方がいいと思う。虹園さんがここにいるということは、色の能力者達が総出で探しているはず」



 詩織の意見に光里が頷いた。



「ええ。彼等に場所を探知するような能力はありませんが、どうにかしてここを見つけ出すはずです。それを待ちましょう」



 その言葉を最後に4人は沈黙する。そのお陰で、誰かが近付いてくるような足音と話し声が聞こえる。



「ただ捕まえておくだけって勿体なくなーい?」



 女の声だ。不思議と、その話し方と声に色気を感じられてしまう。



「同感だなぁ、おい。ちったぁ、お楽しみがねーと、つまらねーってもんだぜぇ?」



 それに答えた男の声は乱暴な話し方だ。彼の声と話し方に詩織は聞き覚えがあった。真悠と対峙した男だ。



「よせ。彼女達にもちゃんと役割がある。それ以上のことを求めるのは俺達の目的から反しているだろう」



 3人目の男は比較的常識を心得ている男のようだ。といっても、女子高生4人を誘拐して監禁することに加担している時点で「常識人」とは呼べないが───。


 その男の言葉はまだ続く。



「脱出防止を施しているとはいえ、あれだけでは足りない気がする。少しばかりあの部屋を歪ませる必要があると思って俺は向かっているんだ」


「はぁ? おめぇの性格わりー能力に比べりゃ、俺の方がよっぽどまともだろうがよ!」


「それを言うなら、私の方が平和じゃーん? なんてったって3大欲求の1つだしー?」


「はぁ? おめぇは相手が男だろうと女だろうと関係ねーのかよ」


「当然よー」



 そんな雑談をしているかのような感覚で物騒なことを話す3人。ついに詩織達が監禁されている部屋の前まで来たかと思うと、壁をすり抜けるかのように入ってきた。


 乱暴な話し方をする男は常に怒っているようであり、色気の感じる女は20代くらいで、水商売や風俗嬢でも「こんな格好はしないだろう」と思うくらいに豊満な胸部を晒している。


 最もまともそうな男は清潔感のある美青年であり、そこにむしろ底の見えない恐ろしさを感じる。


 光里は服を掴まれる力が増したことを感じ、しがみつく少女が更に怯えていることに気が付き、3人に敵意を込めた視線を向けた。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


今回は休みで、誰の面倒を見る必要もなかったのでちゃんと書けました。


叔父として、甥を可愛がってあげたいので構ってあげている。しかしながら、執筆の時間を割いてまで面倒見るべきではないと、一応は思っています。何故なら、甥は甥であって私の息子ではないからです。


私は親としての責務によって執筆の時間やその他諸々の時間を無くすことのないよう、馬鹿にされたって辛くたって我慢している。自らの3大欲求のひとつを拒絶しながら、日々を生きているのです。


けれども、甥の母……つまり、私の妹はなかなか大人になれない。子を育てることにおいて最低限のことはするけれども、子どもの話を聞かずに携帯ばかり弄っている。だから、甥は私に遊んでもらおうとやってくる。


理不尽だけれども、子どもである甥に罪はない。それが所謂「お人好し」なのだとわかっていても、甥を突き放すことができない。ジレンマというやつです。


明後日にはまた甥がやってくる。なので私は、いつもより早めにコツコツ執筆して対策せねばと思いました。この苦労、意味わからん。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ