善意の裏切り part3
普通の女子小学生から魔法少女へと変身した女の子。黒山にはそれが重度の中二病によってもたらされた彼女の能力であることに一目で気が付いた。
「奇跡を起こす魔法をあなたに……! 魔法少女ミラクル☆リリカ! ここに参上!」
「…………」
決め台詞までばっちり。黒山は日曜日にテレビでやっている魔法少女の番組を存在だけ知っている。それ故に、能力によって変身したミラクル☆リリカを「テレビに影響されすぎだろう」と白い目で見ることしかできなかった。
当然、ミラクル☆リリカも目の前に立つ男の子からどう見られているのか気付いている。
「むっ。そんな目をしていられるのも今のうちなの! ミラクリウムチャージ!」
変身と同時にキーホルダーから魔法ステッキに変わっていたものの先にピンク色の強い光が集まっていく。
その危険性がどこまでものなのかを今の黒山には判断出来ないが、それでもただ黙って見ているわけでもない。
「行くわよ! スーパーミラクル☆リリカマジック!」
「俺は君の『奇跡』を『拒絶』する」
ステッキの先からピンク色の強い光がビームとなって黒山に放たれた。しかし、黒山は右手のひらをステッキ向けて『拒絶』を使った。
すると、収束した強いピンク色のビームが『拒絶』によって押し戻され、線香花火のように散っていく。その現象にミラクル☆リリカも驚かずにはいられなかった。
「そんな……!」
やがて『拒絶』はステッキの先端までに届き、そしてミラクル☆リリカを短く黒いオーラが一瞬にして包み込んで消える。その直後、ミラクル☆リリカとステッキは元の姿に戻ってしまった。
彼女の顔には驚きと絶望の色が浮かんでいる。そんな彼女に黒山はありのまま事実を告げた。
「強い力だということはよくわかった。しかし、これは自他共に危険な能力だ。使用は避けるべきだろう」
「…………」
無敵だと思っていた自身の能力が負けてしまったショックから立ち直れないのか、彼女は黒山の言葉に反応することが出来ず立ち尽くす。
今の黒山には重度の中二病患を治療する方法など知らない。よって使用を自重するように言うことしか出来ないが、それでも彼女にそれが届いていることを願って、その場を後にしようとした。
「待って」
「…………?」
そのまま何もなく去れるはずが、黒山は呼び止められてしまった。彼女が次に発する言葉を聞く為、再び振り向く。
その表情を窺おうとするが、彼女は顔を伏せたままなのでわからない。その直後、黒山の耳には予想もしない言葉が入ってきた。
「だったら、梨々香と組んで悪者を退治するの」
「───は?」
当然ながら黒山は、梨々香と名乗った少女の言っていることが理解出来なかった。その代わり、疑問の方が次々に浮かんでくる。
「待て。悪者を退治するとはどういうことだ? いやそもそも、悪者って何のことだ?」
困惑した表情で問う黒山に対し、顔を上げた梨々香は「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに明るい表情を見せた。その表情を見た黒山は「失敗したか?」と聞いたことを後悔し始めながら梨々香の話を聞く。
「この世界にはね、不思議な力を持った人がいるの。そんな人達が力のない人や、裕里香ちゃんを狙ったりするから、それを止めるの」
「…………」
黒山はようやく梨々香の話を理解することが出来た。つまりこれは、この地域においても重度の中二病患者が牙を剥き、裕里香に襲い掛かる分は白河が対処し、それ以外は目の前にいる梨々香が対処しているということだ。
しかし、梨々香は重度の中二病患者という名称を知らない。そもそもこれは、世間一般的に広がっている存在ではないからだ。特に守秘義務を課せられているわけではない黒山は、それを梨々香に説明することにした。
「君が言っているのは、重度の中二病という特殊な病気に罹った人のことだ。その症状は自分の理想と異なった形で能力に目覚めるというもの。君はそんな存在と戦っているというのか?」
「重度の中二病……? そんな病気があるんだね。梨々香は魔法少女だから、そんな人達と戦って力を無くさせているの」
「…………!」
黒山は梨々香のやっていることに心から驚いた。彼女の話によれば、力を抑えられない重度の中二病患者を止めた後にその能力を無くすことで、ある意味治療をしていることになる。
にわかには信じ難い話ではあるものの、彼女の能力である『奇跡』の強力さを考えれば、現実味のある話だ。
しかし、問題もある。
「本当にそれをやっているのだとして、それだけ自由がきく能力を使えば代償もそれなりに大きいはずだ」
「───うん、その通り。梨々香は魔法少女として寿命を犠牲にしているの」
「…………」
梨々香という少女は、重度の中二病を発症するのが納得いく程に痛々しい子ではあるが、それと同時に相当なお人好しだと見える。いや、それがある意味では、命を削って人々を守る魔法少女としての在り方を体現しているとも言えるだろう。
正直、黒山としてはそれを止めたいところではあるが、これだけ梨々香の意志が固いとなると止めるのは困難だろう。それに、梨々香のやっていることは重度の中二病患者を減らすという他人では真似の出来ないことだ。彼女の提案を受け入れ、一緒に戦う選択肢は当然あって良いものだと黒山は判断した。
「わかった。君のやっていることは俺にとっても正しい。だから俺は君と戦うことにする」
「本当? やった!」
梨々香は思い掛けない強力な味方を得ることが出来たのに喜んだ。梨々香の『奇跡』で重度の中二病を治療し、黒山の『拒絶』で梨々香の寿命を蝕む代償を『拒絶』する。黒山の代償を除けば、対重度の中二病患者としては最高の組み合わせだ。
「梨々香は小泉梨々香! これからよろしくね!」
「ああ。俺は黒山透夜だ。こちらこそよろしく」
2人は取り敢えず握手を交わし、今日のところはここで別れることにした。
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「───というわけだ」
「えぇっ!?」
児童施設の部屋で、黒山が白河に事情を話したところ、白河もうっかり大声を出して驚いてしまっていた。
黒山が梨々香と話している間、とっくに白河は裕里香を家まで送り届けており、裕里香の家が何処にあるのか知らない黒山が施設に戻ると、既に白河は帰宅していたので、そのままあったことを話すことにしたのだった。
「梨々香ちゃんの能力にも驚いたけれど、それでまさか、梨々香ちゃんと黒が組むことになるだなんてね」
「そうだな。今まではせいぜい戦うことで一時的に止めることくらいしか出来なかったが、これからは完全に重度の中二病患者を止めることが出来る」
「それはまさに虹園家も驚くことだろうね」
「そうだな。───奴らは怒るだろうか」
黒山は懸念した。既に「失敗作」の烙印を押されて虹園家から離れた身ではあるが、それでもこういった今までよりも目立つ能力の使い方をすれば、虹園家が黙っていないかもしれない。
しかし、白河は笑顔で首を横に振った。
「奴らのことなんて関係ないよ。黒はもう、奴らを気にしなくたって良いと思う」
「そうだろうか?」
「そうだよ。それに、それならお嬢を守らなければならない僕としても大助かりだからね」
「ああ」
笑ったわけではない。至って真顔の黒山だが、内心では少しでも白河の仕事を軽減できることが嬉しく感じていた。
「それにしても、もう女子の友達を増やすだなんて、やはり黒は恐ろしい男だね」
「恐ろしい?」
「うん。あまりモテるのもどうかと思うよ」
実のところ、黒山がモテることを白河が知ったのはごく最近だが、本当にそれを目の当たりにすることで白河は黒山を少しながら心配した。当然、その発言は黒山を心配している意味であるのと同時に、からかっている側面もあるのは否定できない。
しかし、ともあれば尚更、黒山が「失敗作」の烙印を押されていることが余計に気に入らない。彼は見知らぬ土地に来て早々、重度の中二病患者と戦えるよう協力者を得られるほどに優秀な男だ。
そして白河は信じている。今は『拒絶』しか使えない黒山だが、必ず『黒』にも目覚めることを。あと少し、何かがあればそれを成せるはずだと思い、その何かを探そうと白河は決めたのだった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
今回はちょっといつもより短めになってしまいましたが、大目に見てくださると嬉しいです。
それではまた次回。来週もよろしくお願いします!




