彷徨う一途の不思議 part4
明けましておめでとうございます!
今年も黒山達のような重度の中二病患者達と一緒に突っ走っていきますので、宜しくお願い致します!
「開かずの間」を後にし、黒山、詩織、真悠の3人は荷物を取りに1度教室へ戻った。教室では部活動をやっていないクラスメイトがまだ若干名残っている。夏休み間近なだけあって、しばらくクラスメイトに会えないのを心の何処かで寂しく感じているのだろう。生憎と、3人にはそんな気持ちは共感できないので残ることもなく、荷物を取ってすぐにそのまま下校することにした。
「あ、そーだ!」
玄関で下履きに履き替えている時、何かを思いついたように声を出したのは真悠だ。詩織が「ん? どうしたの?」とその考えを問う。
「このまま帰るにはまだ早いし、久々にアレ、食べない?」
「アレ……?」
「ふっふーん! しーちゃん、わからない? じゃ、付いてきて!」
「はいはい」
詩織が仕方ないと言わんばかりに真悠の後についていく。真悠の「ついてきて」は正直当てにならないが、大体の場所まで行けば自ずと狙いがわかってくるだろうし、もう入学してから1年以上経っている。流石の真悠でも地形を理解できているはずだ。
巻き込まれているのか否かがわからない黒山は帰宅路の途中まで同伴することにした。普段は送っていくが、詩織と真悠、2人だけの時間も大事だ。抜けているところがあるとはいえ、対重度の中二病患者の戦闘に関しては真悠も代表者となっていてもおかしくないレベルだ。襲われた時の応急的な対処は真悠に任せて帰るつもりでいた。
校門を出て、しばらくいつもと同じ帰り道。途中に見えた「とある喫茶店」の看板を見つけて、黒山は嫌な予感がした。
案の定、真悠がそこで立ち止まる。
「うん、ここで久々に───」
「そうか、2人で楽しんでくれ。俺は帰るぞ。また明日」
黒山が無理やり2人を置いて帰宅を続行しようとする。しかし、真悠の右手がそれを許さなかった。汗ばんだシャツの襟を掴む代わりに背中を掴まれた。
「ぐっ……!」
黒山が振り向くと、真悠は笑みを浮かべていた。何も知らぬ者からすれば天使の笑みだが、黒山からすれば、それは間違いなく悪魔の笑みだ。『悪魔』の能力を手にした虹園光輝よりもよっぽど恐ろしく感じられる。
「もちろん、黒山くんも一緒に、だよー?」
「…………」
黒山は観念して少しばかり項垂れた。そこまで嫌がる理由を思い出した真悠は今度こそ天使の笑みを浮かべた。
「あっ……うふふ。今回は奢ってだなんて言わないから安心してよ!」
「…………」
真悠が最初から「奢らせるつもり」でなかったのを聞いた黒山は少しばかりホッとした。しかし、完全に安心できたわけではない。このような話が出た手前、本当に奢らないのも如何なものかと考えさせられる。値段が値段ではあるが、1人の男としてあまりケチなこともしたくはない。
結局、黒山は高い出費の覚悟をしなくてはならなかった。
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店内は冷房が効いていた。「喫茶店を雰囲気から楽しんで貰いたい」という願いがあってのものか、ジャズが流れている。有線放送ではなく店主の趣味であり、独断と偏見によってその日に流れる曲が決まる。
とはいえ、流れている曲のことなど、黒山達の気にするところではない。何故ならBGMは主役ではなく、この店で茶や菓子を楽しむ為の引き立て役にしか過ぎないのだからだ。彼等がせいぜい気にしたのは店内にいるおおよその人数と空いている席くらいだ。
客数はやはり少なくなかった。下校時間だということもあって、この喫茶店は小腹の空いた学生に利用されやすく高校生の割合が高い。真悠達が「目当て」にしているような品を頼まない限り、学生にもそこまで苦とならない値段設定だということもあるようだ。
ウェイターの案内に従って3人は店内の奥に入っていく。若さからアルバイトだということがわかるが、慣れているからなのか接客に戸惑いがない。他の席に座る学生と目が合ったりするが、その中に知り合いはいないようだった。
4人席に案内され、黒山の正面に詩織。詩織の横に真悠……という席順で座った。特に打ち合わせをすることなく自然とこの席順となる。
ウェイターがメニューを置いていくが、詩織と真悠はここに来た時点で注文するメニューは決まっていた。それをまだ確認していない黒山は普通のアフタヌーティセットを注文することを無表情のまま心の中で祈るが、その祈りも虚しい。
メニューをめくる黒山に詩織が問う。
「透夜はどう? 決まった??」
「あ、ああ……」
「すみませーん!」
黒山が決まったのを確認しウェイターを呼んだのは真悠だった。先程のウェイターが忙しそうにメニューを伺い、先に注文することを促された黒山はアイスコーヒーだけを注文した。
そして直後、詩織と真悠が目を合わせて微笑んだかと思うと、真悠が元気よく「トロピカル・エクストラ・サマーエディションを2つ!」と注文をした。その瞬間、黒山は心の中で肩を落としたことは、2人に悟られることはなかった。
注文が以上であることを確認したウェイターが去っていった後、詩織はふと気になったことを黒山に問う。
「透夜は何で、アイスコーヒーだけなの?」
「ん……? 何か変か?」
「いや、変じゃないんだけどさ」
「…………?」
黒山は問いの意味がわからなかった。人にはそれぞれ考えがあるとわかっている黒山ではあるが、それでも意図がわからない。
伝わっていないのが丸わかりだったので、詩織は軽く「むー」と唸ってから迷いを振り切ってストレートに伝えた。
「だってほら? コーヒーの他にアイスだとかケーキだとか頼んだりしない? 透夜はそれで満足なの?」
「ああ、そういうことか」
黒山はようやく質問の意味がわかったようだ。そして正しく伝わる答え方も頭に浮かんでいる。
「俺は甘いものがあまり好きではないんだ。ケーキによっては甘さが控えられているものもあるが、それでも俺は食べない。そもそも間食はしない主義だ」
「へ、へー……」
太らない、もしくは太りにくい体質の者にとって「間食」という言葉はただの3食以外に食べることという意味でしかない。まさに真悠がそういう体質の持ち主であり、基本的にアクティブな彼女は知らず知らずにそのカロリーを消化している。
一方、詩織はそうでもない。食べれば食べた分だけ体重に反映されてしまうので、真悠以上に「間食」という言葉に反応し、嫌気が差してしまう。
とはいえ、頼んでしまった手前、残すわけにはいかない。決して安くないアイスである「トロピカル・エクストラ・サマーエディション」はその量と味の種類が豊富である。大量の同じ味で飽きさせることなく、沢山の味を集めることで総合的なアイスの量を増やしているそのスタイルから、むしろ残すことが躊躇われる。もしも残そうものであれば、上級生から叱られることは避けられないだろう。
「んんっ……くっ!」
詩織は体重が増えることを覚悟で完食することを心に誓った。
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注文したものが揃うまでは他愛のない話でそこそこ盛り上がっていた3人ではあるが、揃ったのであれば必然的に話題は変わる。
詩織と真悠は色とりどりのアイスをつつきながら本題へと移った。
「それで……証明っていったってどうするの?」
そう切り出したのは詩織だ。真悠も何ひとつ思い付いていないようで2人して黒山の方を見ている。
黒山はアイスブラックコーヒーをストローで1口飲んでから静かに答えた。
「何も思い付いていない」
「「えっ」」
流石に2人とも驚いたようだ。伊塚相手に承諾して一時撤退してきたというのに、策が無いのであれば問題の先延ばしにしか過ぎなくなってしまう。
「えー、本当に何も無いのー?」
「…………」
真悠の問いに誰も何も答えることが出来ない。とはいえ、本当に何も考えを持っていない黒山では無い。自信なさげに弱々しく頭に浮かんでいた策を1つ提案する。
「……卒業文集だ」
「えっ?」
「卒業文集なら保管してあれば見ることが出来るだろう。確か、伊塚は今を1966年と勘違いしていたな? その年代の卒業文集が見つけられれば証明となるだろう」
「おー、なるほどー!」
詩織はもちろんのこと、真悠でもその意味がわかったようだ。大抵の学校では何かしらの資料用として卒業文集を保管している。ただ、それでも黒山には懸念事項があった。
「───だが、問題なのはちゃんと保管してあるかどうかだ。存在していない、もしくは管理方法がずさんで残されていない可能性もある」
「んー、流石にちゃんと保管されていると思うなぁ」
黒山の懸念を否定したのは詩織だ。彼女は級長という役職柄、教師の依頼で色んな部屋に行ったりする。そこで1つひとつを見ていくにも気が遠くなりそうな数の卒業文集があるのを見ていた。
そこまで細かい事情があることまでは知らないが、黒山は詩織の否定を信じることにして深く頷いた。
「わかった。明日は終業式だが、放課後に調査することとしよう。針岡には俺の方から話をしておく」
方針が決まったところで一旦、この話は中断された。以降、黒山はアイスブラックコーヒーを飲み干した後もひたすら目の前の女子2人が「トロピカル・エクストラ・サマーエディション」を食べ終わるのを待ち、2人が遠慮している中(心からの遠慮かは不明)おおよそ1年前と同じように少しばかり涙目になりながら黒山は3人分の支払いを済ましたのだった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
前にもチラッとお話をしましたかもしれませんが、私が小説を書いていることはたった1人しか知りません。他の人には教えたくないのです。
ところが、そのせいか年末年始のような親戚が集まる期間においてはなかなか小説を書くことが出来ません。ここ最近では珍しいくらいに短めの内容となってしまっておりますが、楽しめて頂けたのなら幸いです。
今年の抱負ですか?(聞いてない)
新作を書くことでしょうか。何だかんだで書いてはいるのですが、なかなか勢いに乗って書ける作品が舞い降りてこないので悩ましいところです。
完全な新作か、この作品の続編か。その辺りでも悩んでいます。我ながら「重度の中二病患者」というシステムは便利だと思ってしまえるからです。
それではまた次回。来週もよろしくお願い致します!




