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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「彷徨う一途の不思議」
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彷徨う一途の不思議 part3

 翌日。詩織(しおり)真悠(まゆ)が学校に到着すると、黒山(くろやま)が自分の席に座って腕を組み、考え事をしていた。


 あまりに険しい表情をしているので、詩織が黒山に「おはよう、どうしたの?」と問う。



「ん、ああ。よくよく考えてみるともう終業式なんだな、と思ってな」


「うん、そうだけど……それで考え事をしているの?」


「ああ、これで夏休みに入ると、事件の解明は夏休み明けになってしまうからな」


「あ……」



 詩織はその可能性を全く考えていなかった。というのも「開かずの間」である教室の鍵を校長が預かっているという事態を想定していなかったからだ。すぐに鍵を入手し、幽霊の正体を明かして事件は解決。実に単純な話だったはずが、複雑になってしまっていた。


 ちなみにだが、文化祭を終えてすぐに学期末試験は行われた。随分と無理なスケジュールな気がするが、他校と文化祭の日程が被らない為の策としてはどうしてもそのタイミングで文化祭を開催する必要があった。幸いにも瑠璃ヶ丘高校は有名な進学校というわけではないので、テストの難易度はそこまで高くない。


 そして翌日の金曜日には終業式。鍵を手に入れてからが単純な話の流れだということを祈るしかない。



「夏休み中も学校に来ればいいんじゃない?」



 そう提案したのは真悠だった。鞄を持ったまま、詩織の背中から覗くように顔を出している。こうしてまた、それを目撃していた男子生徒のハートを無自覚に鷲掴みしていたわけだが───



栗川(くりかわ)の言う通り。俺もそうなるだろうなという気がしている。立場上、他の地域へ応援に行かなければならない予定もあるが、この件が終わってからでも遅くはないだろう」


「うーん……」



 黒山と真悠は夏休み中の解決でも問題はないようだったが、詩織にとっては少しばかり困った事態だと言える。というのも、彼女には「アルバイトをする」という予定があるからだ。



「……詩織には色々と予定がありそうだな。では俺達の方で解決をしておく。その後に事の顛末を話すことにしよう」


「うーん! 予定があるなら仕方がないよねー、しーちゃん! でも私としては安心かなっ! これでしーちゃんに危険が及ぶ可能性も低くなるもの!」



 黒山と真悠が2人揃って「うんうん」と頷いている。それに対し詩織は、珍しく「んー!」と悔しそうな表情を浮かべた。



「あー、透夜(とうや)。ちょっといいかー?」



 3人がそんなやり取りをしていると、後ろから針岡が「会話の中に入りにくい」と言いたげな表情をして話しかけてきた。まだ朝のホームルームまでには時間があるにも関わらず、早い時間に教室へ来るのはもしかすると初めてなのかもしれない。


 そのお陰で、この教室にいる誰もが時計を確認してしまった。



「どうした、随分と早いな」


「あー。お前さんが教室へ向かう前に呼び止めたかったんだけどなー? まー、先生にも色々あるってわけよー」


「それはわかった。で、用件があるんじゃないのか?」


「おー、そうだー。これ」


「ん? ……ああ」



 黒山が針岡から受け取ったのは1つの鍵だった。鍵には「どこの鍵か」を表示するためのプレートが付いており、かつてはちゃんと表示されていたであろう痕跡として、何やら剥がされた後があった。


 ちょうど話題になっていたこともあって、黒山はその鍵が何なのかをすぐに理解した。少しだけ表情が柔らかいものになる。



「確かに受け取った。正体に関しては早期に解決出来れば解決後に。そうでなければ、経過報告をする」


「あー、そうしてくれー」



 針岡はそう言って教壇の方へ向かった。教壇には、テスト中やホームルーム前のようなちょっとした時間に教師が座れるよう椅子が用意されている。その椅子は生徒が座るような椅子ではなく、また職員室にあるような椅子でもない。体育館にあるステージの下に収納されているパイプ椅子と同じものだ。その椅子に座ってホームルームの時間を待つついでに他の仕事に取り掛かる。教師は授業だけが仕事ではない。


 普段、黒山達は針岡が真面目に仕事をする姿を見る機会がない。それは黒山達に限らずこの学校の生徒であれば皆、針岡が真面目に仕事をしている姿を見れば驚くことだろう。現にクラスメイト達は針岡の姿を見るなり意外そうな顔をしてコソコソ何か話していた。


 一方、針岡自身も黒山に意外性を感じていた。2人が出会ったのは黒山が『全てを覆う為の黒』に目覚めた後だ。その当時から今まで、黒山が少しでも表情を柔らかくしたことがない。そんな黒山が鍵を受け取った瞬間、少しだけ表情を柔らかくしたものなのだから、針岡は内心、驚かずにはいられなかった。もちろん、その驚愕を表に出してはいないが。



「透夜、その鍵って……!」



 詩織が期待を込めた眼差しで黒山を見る。幽霊の正体に触れる機会を得られた詩織は嬉しそうににやけている。



「黒山くーん?」



 しかし、一方で真悠は黒山にジトッとした目を送っている。真悠の本音としては、やはり詩織を危険の可能性がある物事に巻き込みたくないのだろう。


 黒山は心の天秤に掛けた結果、詩織の期待が真悠の思いに勝った。



「ああ、これがあの部屋を開ける為の鍵だ。栗川、今更巻き込まないで済むようにするのは難しいだろう。詩織が懇願すれば、栗川も折れずにはいられないはずだ」


「うーん、まあ、確かにそうだけどー……。しーちゃん、考え直さない?」



 詩織自身、怖いもの見たさであることは否定できない。しかし、もちろんその一方で危険性もわかってはいる。



「い・や・だ!」



 彼女は真悠に笑顔でそう言った。黒山は真顔でその様子を見ていたが、詩織と真悠の2人は「うふふー」「あははー」とわざとらしく笑っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の放課後。黒山と真悠、そして詩織の3人は再び3年生の教室がある階に向かった。


 他の学年であればもっと人が少なかっただろうが、3年生はほとんどが教室にいる。というのも、部活はもう引退しているからだ。成績が良くて勝ち進めていればもう少し現役だったろうが、瑠璃ヶ丘の運動部はお世辞にも優秀とは言えない成績である。


 ただし、暇であるかというとそうでもない。部活が終わったとなると、次は進路がある。予め2年生の時に就職か進学かを選んでいるとはいえ、これからは具体的な進路先を決めていく必要がある。ましてや就職となれば入社試験まで日がないので準備に取り掛からなくてはならない。故に、黒山達を注目できる生徒はあまりいなかった。



「よし、行くぞ」



 黒山が後ろに控える2人に覚悟を問う。それに応えて頷いたのを確認し、黒山は差し込んだ鍵を回した。


 僅かな「カチッ」という音を確かに聞き、手応えで解錠出来たのを確認する。扉を勢いよく開いて3人は即座に進入。他の生徒が入ってこれないよう、扉を閉めて内側から施錠した。



「「「───!!」」」



 3人は同時に驚いた。噂通り、確かに学生服を着た丸刈りの男子生徒は席に座っていた。御守りの効果で見た幼い黒山や渦夜(かよ)と違ってわかりやすく透けていないので、それが幽霊なのかどうか見た目で判別出来ない。


 窓から夕陽が差し込む教室で、学生服を着た丸刈りの男子生徒は黒山達に気付くと、席を立って優しく微笑み、歩み寄った。



『お疲れ様。それじゃあ、帰ろうか』



 予想外の一言に、状況を理解できなかった3人はそれぞれ違った声を上げた。


「は?」と黒山。「え?」と詩織。「ん?」と真悠。声こそ違えど、疑問に思ったのは同じだった。


 望んだ返答が返ってこなかった丸刈りの男子生徒は表情が優しい微笑みから怒りへと一変させた。目が大きく開き、左の頬が痙攣している。



『───違う』


「……っ! 2人とも、下がっていろ!」



 異変をいち早く察した黒山は詩織と真悠の2人に下がっているよう指示し、自分は前に出た。



『お前は、津田(つだ)じゃない!』


「津田……? くっ!」



 丸刈りの男子生徒は払い除けるように右手を振ると、そこから季節に似合わぬ小さな吹雪を黒山に向けて放った。しかし、すかさず展開した黒山の『漆黒』によって小さな吹雪は丸刈りの男子生徒へ跳ね返る。



『ふんっ!』



 丸刈りの男子生徒は軽く後ろに飛んで、足元に跳ね返ってきた小さな吹雪を躱すと、氷の剣を「武装化」で作り出して黒山に斬りかかった。



「ちっ!」



 舌打ちした黒山は同じく「武装型」で右腕を禍々しく太くなった『漆黒』の腕へと変化させ、氷の剣を殴りつけた。



『何……!?』



 丸刈りの男子生徒は驚愕した。それもそのはず、氷の剣と禍々しい右腕がぶつかった瞬間、氷の剣が爆ぜて消えたからだ。



「落ち着け。俺とお前では勝負にならない」


『お前は一体……?』


「俺は黒山透夜。幽霊騒動に終止符を打ちに来た」


『…………?』



 丸刈りの男子生徒はようやく戦意を抑え込んでくれたようだ。今度は怒りではなく、物珍しそうな表情で黒山を見ると、後ろで警戒している詩織と真悠に気付いた。



『すまない、俺がどうかしていたようだ。何度か人が訪れてきた気がするが……』


「憶えていないのか?」



 丸刈りの男子生徒は黒山の問いにゆっくり頷いた。黒山が想定していた以上に、この男子生徒は苦しんでいたらしい。直後、何かを思い出したかのように謝罪を重ねた。



『ああ、すまない。名乗らせておいて俺が名乗っていなかった。俺は伊塚(いづか)(いさむ)だ。見慣れない服装をしているが、3人とも学生なのか?』



 丸刈りの男子生徒……伊塚の疑問に詩織と真悠はまたも驚かされた。取り敢えず、2人も伊塚に名乗る。



「えっと、私は梶谷(かじたに)詩織」


「私は栗川真悠だよー! よろしくねー」


『ああ、よろしく。それで……?』



 伊塚の問いには黒山が答えた。その問いで黒山は、自分の内にあった仮説が確信に変わったのがわかった。



「ああ、俺達はお前と同じ瑠璃ヶ丘高校の生徒だ」


『馬鹿にしているのか? 俺が着ている制服こそ瑠璃ヶ丘高校の制服だぞ?』


「だろうな。しかし、お前が学生でいた頃から時代が進んで制服が変わっている」


『黒山……。俺にはお前が何を言っているのか理解出来ないぞ』


「それも説明する。まずは座れ」


『あ、ああ……』



 伊塚が自分の席に戻っていく。詩織と真悠の2人にも適当に座るよう促した黒山は、伊塚の前に座り、振り返って伊塚と向かい合った。



「さっきも言ったが、俺達は幽霊騒動を解決しに来た」


『そこだ。その幽霊騒動というのがよくわからない。この学校に幽霊が出るだなんて噂があったか?』



 伊塚が黒山に向かって右手の人差し指を向けて疑問をぶつける。この疑問は黒山でも予想していたものだったが、それはあくまで「最悪の場合」として想定していた内容だ。


 伊塚は自身の存在が何なのかを正確に把握出来ていない。



「伊塚。お前には幽霊がわからないのか? この教室に出るんだぞ?」


『そんなわけがあるか。俺はこの教室にいたが、それっぽいのは見てないぞ?』


「お前はこの教室にいた。……それは一体、いつからだ?」


『は? 何を言ってるんだ、そんなの───』



 伊塚は言葉に詰まった。自分がいつからこの教室にいたのかがイマイチ思い出せない。いや、下校時間になってから生徒会の仕事に向かう恋人を見送ったところまでは憶えている。しかし、随分と待たされているような気もした。



『ああ、そうだ、黒山。津田をどこかで見てないか? ……ってもわからないかもしれないけど』


「さっきも言っていたな。津田とは一体、誰なんだ?」



 黒山の問いに対して伊塚は、真面目な表情から一変させて気恥ずかしそうに横を見ながらボソッと答えた。



『俺の、その、恋人だよ』


「成る程。お前はずっと恋人を待っていたわけか」



 伊塚が首を縦に振る。その時点で詩織と真悠の2人は、伊塚という男に憐れみを感じれずにいられなかった。2人にはとても伊塚に対して現実を告げることなど出来ない。そこはやはり、黒山にしか担えない役割だった。



「伊塚。残念ながら津田はここにいないし、ここにも来ない」


『何?』


「それは、お前が在籍していた時と時代が違うからだ」


『やはりお前は俺をからかっているんだな。今は1966年だろ?』


「残念だが、2018年だ」



 黒山が携帯端末を取り出し日付を見せる。しかし、伊塚のなかでは携帯電話とはもっと大型のものだ。取り出された携帯端末を見たところで、少し厚めの板が光っているだけにしか思えないので何の説得にもならない。



『確かに、この厚い板には2018年と書かれているが、これは一体何だ?』


「携帯電話だ。時代が進むと共に小型化し、色んな機能を持つようになった」


『…………』



 伊塚は携帯端末を訝しげに見ているだけだ。得体の知れない物であることに変わりはないが、それでも「ただの絵」というわけではないこともわかってしまうので、技術の発展は少しばかり認めざるを得なかった。


 そこで伊塚は黒山に信じる為の条件を出すことにした。



『黒山。今が本当に2018年であるならば、俺はとっくに卒業しているはずだ。その証拠を持ってこれば俺はお前の話を信じることにする。ま、俺に卒業した記憶はないけどな』


「わかった。その間、お前はどうする?」


『俺は津田を待ち続ける。津田が戻ってきてくれれば俺は帰るから、ある意味で解決となるだろう』


「そうだな、わかった」



 伊塚に出された条件を達成しない限り、解決には至らないことは3人ともよくわかった。伊塚の恋人である津田も幽霊となっているのであれば、奇跡的に再会の可能性もあるかもしれないが、それは期待できない。


 この事件を解決する為、3人は伊塚に別れを告げて「開かずの間」を後にした。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


なんかこれといって特筆することは無い気がしますので、ちょっと面白い(?)話をさせていただきましょう。


男2人と女1人の組み合わせで、あなたはこの3人がどんな関係性だと想像しますか?

というのも、大体は三角関係を想像するのではないでしょうか。でもそこには色んな中身の三角関係がありますのでもっと掘り下げてみましょう。


例えば、女が二股をしている場合。更に例えば、女がどちらとも付き合ってない場合。他にはどちらかと付き合っているが、付き合っていない方の男は女を諦めていない場合。今日の時代背景的に、女がどちらかを好きだけど、男同士で愛し合っている場合もあります。

ですが、これだけの情報では至って普通に見えます。もっと掘り下げてみますと、付き合ってない方の男が女を諦めてていない場合なんかは、彼氏がいるのを知っていながらアタックする関係が思い浮かぶでしょうが、少し外れた考え方をすると、男と女は恋仲であり、付き合っていない方の男はそのカップルに利用されている場合とかも考えられるわけです。


こういった考え方はミステリー物には必要なんじゃないかと常々考えます。私はミステリー物を書けるほど頭が良くありませんが、こういった関係性の掘り下げを生かした小説が書ければな、と思います。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

それと、メリークリスマス!!



……あれ、来週って年明け? 良いお年を!

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