女剣士は令嬢と共に・終
なんと驚き! ついに100部分目を迎えてしまいました。
「大体の事情はわかったわぁ! この問題、アタシとなっちゃん(奈月)とさっちゃん(沙希)の3人でどうにかしてみるねん。作戦を立てるから、果報は寝て待ってね!」
「はい! よろしくお願いします……!」
嬌華の心強い発言に安心したのだろう。春美は来た時よりも明るい顔で3人の元を去った。
その背中がどんどん小さくなっていくのを確認した後、沙希は1つ気になったことがあったようで嬌華に問いかける。
「陽射先輩。小池先輩にああやって言ったのは良いですが、先輩は進路関係で忙しいのでは?」
沙希の問い掛けは最もなものだ。進路にもよるが、もし就職を選択しているのであれば、受験希望の申請だったり、企業見学の準備をしたりしなくてはならない。
嬌華にとってはまさに耳が痛い話だった。
「あーもう! 進路進路っていい加減に聞き飽きた! ……まぁね、さっちゃんの言うことも確かなんだけど、ちょっと今回ばかりは手助けしたろ、と思ってね」
「と、言いますと?」
沙希は更に「今回ばかりは」という言葉が気になった。
引き継ぎをして以来、ほとんどノータッチだった嬌華が出てきたという時点で沙希は少し嫌な予感がしていた。
「2人とも。さっきの小池サン? の話で気になったことがなかったかな?」
「……妹の秋穂が何やらぶつぶつ言っていた、という点でしょうか?」
「ふむ。なっちゃんは?」
「うーん……帰りが遅かった、とか?」
沙希と奈月が目を付けた点を聞いて、嬌華は笑顔で「うんうん」と頷く。
「……ってことは、どんなことが起こってると思う?」
更なる嬌華の問いに、沙希が直感で答える。
「精神的に病んでいるとか……? 生い立ちからして結構プライドが高いと伺えますので、奈月に対する劣等感が原因で重度の中二病患者になったとか?」
「ふむぅ。その点、なっちゃんはどう思う?」
「えっ。うーん……確かに、秋穂はプライドが高いけど、秋穂なら病むというよりがむしゃらに練習する、と思うかな」
「うんうん!」
沙希の意見に対する奈月の意見を聞いて、嬌華は満足そうな笑顔を浮かべている。
「そういう議論が大事なのよ、2人とも。……じゃあ、結論。一体何が起こってるんだと思う?」
「…………」
「…………?」
嬌華の問いに2人は答えることが出来なかった。
それは2人の推理力が劣っているというわけではなく、単純に経験がものを言っている。嬌華に比べて、まだ様々な事件に遭遇していない2人には「こういう可能性もある」という考え方をする為の判断材料が乏しかったのだ。
そんな2人を見て、嬌華はクスッと笑う。
「まぁ、経験が足りないもの。無理はないとアタシも思うよ? ……今回は多分、洗脳とかが関わってるんじゃないかなぁ。実際、相手を操る効果がある能力だってあるからね。その点、なっちゃんには心当たりがあったりするんじゃない?」
左目を閉じ、右目を開いて推論を語る嬌華に見られ、奈月は「はっ」とした。
それはつい昨日、奈月を襲ってきた男子との共通点。
「そういえば、今日の秋穂が最後にした攻撃……。秋穂は絶対に捨て身の攻撃はしない子のはず。捨て身と言えば、昨日の相手も……」
奈月が気付いた点に、嬌華は「パチン」と右手でフィンガースナップをした。
「その共通点から鑑みるに、黒幕は一緒の人間だと思うよぉ。小池サンの妹ちゃんも誰かの能力を受けているだけであって、重度の中二病患者ではないんじゃない? 昨日、なっちゃんを襲った男もそうだったんでしょ?」
「えっ、ああ、うん……」
嬌華にそう言われ、奈月と沙希は昨日、途中で戦闘を止めにきた黒山に言われたことを思い出した。
「さーて、そんなところでどうやって解決したもんかね」
そう2人に問いながらも嬌華に嬌華なりの策があるのだろう。本気で悩んでいるわけではなく、まるで2人を試すかのような問い方だった。
奈月は答えを出せずに「うーん」と唸っているが、沙希には1つ考えが思い浮かんでいた。
「提案があります」
「おおっ、さっちゃん! なになに、聞かせてよ!」
沙希は小さく縦に頷いてから言葉を続ける。
「昨日の男と小池秋穂の共通点は、黒幕が一緒なのと狙いが奈月だということです。恐らく、他にも標的がいるんでしょうが、他の標的に誰が選ばれているのかはわかりませんし、探るにも時間が掛かります。そこで、敵を誘き出してみましょう。敢えて相手にとって好機と思える状況を作って、相手を捕らえるのです」
「うーん、いいねいいねぇ! それで、具体的に相手が好機と思える状況ってのは何かな?」
「奈月と小池秋穂が1対1で戦える状況を作ります。他にギャラリーがいたりすると黒幕は動きづらいでしょうから、奈月と小池秋穂の2人だけにします」
嬌華は沙希の提案に「うんうん」と頷いた後、右手の人差し指を上に向けて気になった点を指摘した。
「その時、さっちゃんはどうするの?」
「私は外で隠れて待機し、黒幕を確保します」
「うーん、アタシはそれに反対かな」
沙希の中では完璧だと思える作戦だったが、沙希の立ち回りに嬌華はバッサリと反対意見を述べた。
「相手は小池サンの妹ちゃんを『使い捨ての駒』くらいの感覚で扱っているようだし、今回みたいな、捨て身のように予想外の攻撃をされると流石のなっちゃんでも危ないんじゃないかな?」
「……私がそれを防止する為に奈月と一緒にいたとして、確保はどうするんです?」
奈月から見ても、反対意見に対して疑問を述べた沙希の顔は険しいものとなっていた。
その顔を見れば、誰もが沙希のことを「恐い」と思うだろう。実際、嬌華も「おおっと」と今にも言いそうな焦った顔をしていた。
「ま、まあまあ、そう恐い顔しないでおくれよ、さっちゃん。……アタシが思うに、小池サンの妹ちゃんを倒してからでも黒幕が確保は遅くないと思うよ? なっちゃんが小池サンの妹ちゃんを倒すことが出来るのは確実だとしても、消耗は少なくないだろうし、相手もそれはわかっていると思う」
「…………」
「なっちゃんが小池サンの妹ちゃんで消耗したその時こそ、相手にとっては好機と言えるんじゃないかな?」
「ええ、私もそう思います」
「じゃ、決まりね。2人とも、準備と実行、頑張ってねー!」
嬌華はそのまま「いい仕事したー」とでも言いそうな、達成感溢れた顔で2人の元を去った。
その瞬間、昼休みが終了する5分前を告げるチャイムが鳴り、沙希は弁当箱の中に残っているおかずを名残惜しそうに見ながら手早く片付けた後、小さくなっていく嬌華の背中を殺気のこもった目で睨みつけていた。
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狙いはわかったものの、奈月は沙希が提案した作戦の詳細を知らずに学校での1日が過ぎた。
毎週木曜日の放課後もアルバイトの予定が入っている。作戦の詳細を知らない奈月は悶々としながらもいつも通りにアルバイトをこなした。
いつもと違う点があったとすれば、アルバイト先に向かう道中だ。いつもなら、週に3回の一緒に帰ることが出来る日なのだから沙希が途中まで一緒にいる。
しかし、沙希は奈月に「やることがあるから、奈月はアルバイトに行ってきなさい。頑張ってね」と告げられたので、奈月は1人でバイト先へと向かった。
そして午後10時。18歳未満の高校生である奈月は本人の意思に関係なく退勤となるが、住まいのアパートまで歩いて帰っている途中、携帯電話が鳴った。
相手は沙希だ。
「もしもし?」
『もしもし、奈月? アルバイトお疲れ様。疲れているところ悪いのだけれど、今から学校の格技室へ来てもらえる? そこで決着を付けるわ』
「えっ、この時間に? 大丈夫なの?」
『ちゃんと大森先生を通じて学校から許可を得ているわ。もちろん、事情が事情な例外的なものだけれど』
「うん、わかった! すぐ向かう!」
『頼むわね』
奈月は電話が切れた携帯端末を通学鞄にしまい込み、学校の方へと小走りで向かった。
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「はぁ……はぁ……ふぅ」
切れた息を整え、奈月は格技室の扉を勢いよく開けた。
急いでいたとはいえ、汗だらけなのが女子として気になったが「今はそれどころじゃない!」と自分に言い聞かせ、中へ入っていく。
派手な演出もなく、格技室の照明は既に明るくなっていた。そしてその中央では、竹刀を右手に持って天井を見上げている秋穂の姿があった。
「待っていたわ、奈月」
「……お待たせ、秋穂」
奈月も竹刀袋から竹刀を取り出し、秋穂の元へと歩く。そして秋穂の近くに姉の春美がいるのに気が付いた。
「春美先輩?」
「……私は秋穂をここへ連れてきただけ。任せてばかりで申し訳ないけど奈月、妹をよろしくお願いします」
「……はい、お任せください!」
春美は秋穂のことを奈月に託し、奈月の右肩に軽く手を乗せた後、格技室から出て行った。
それも沙希の作戦なのだろう。時間も時間なので春美の危険も気になるが、そこは沙希がちゃんと手を打ってくれていることを信じて、奈月は秋穂との戦いに集中することにした。
「剣を構えて、奈月。今度こそ斬り伏せる!」
「悪いけど、秋穂。ボクも今度は手加減しないよ!」
朝と同様、秋穂は剣道の礼に倣わず、竹刀を上段に構えた。それと同時に、握っている竹刀の気配が刃物と同等のものと変わり、空気もより緊迫したものへと変えた。
一方、奈月も秋穂に対して剣道の決まりを適用させなかった。竹刀を正面で構えると、能力を発動させて竹刀を『輝く剣』へと変化させる。
「やあぁぁぁぁぁっ!!」
先手必勝。秋穂がすぐに奈月へと斬りかかった。
しかし、朝と状況が違う。能力を発動させている奈月は秋穂の上段切りを正面から受け止めた。
金属と金属がぶつかり合う甲高い音が格技室内に響く。
「はっ!」
奈月は右に向かって斬り払うように秋穂の剣を振り払い、返す刃で右から左へと剣を横に振る。
秋穂はそれに反応し、1歩分後ろに下がった直後、すぐに床を蹴って、奈月の喉をめがけて突きを放つ。
一方、奈月は突きに対して左に交わしながら剣で突きを受け流しつつ、秋穂の懐へと潜り込む。
「せぇいっ!」
そのまま秋穂に上段切りを放つ。とても剣で受けるには困難な体勢で、奈月を確信した。
「んぐっ……!!」
しかし、秋穂は斬られまいと右足で奈月の腹を蹴った。
予想外の攻撃に奈月は対応できず、後ろへ吹き飛ばしされた。
「痛っ! ……け、剣道でそれは反則じゃなーい?」
「何を言っているの? これは剣道じゃない。単純な斬り合い、真剣勝負よ!」
不幸中の幸い。どうにか鳩尾は避けられた奈月はすぐに立ち上がり、秋穂の追撃を躱す。
走りと跳躍で秋穂との距離を取り直して、次なる一手を考える。
(参ったな、予想できない……)
今朝のように単純な剣道技ならどうにか対応できると踏んでいたが、ルール無視の攻撃も混ぜられるとまったく予想ができない。
全て五感に任せて対応出来るほど、秋穂の斬撃は甘いものではなかった。
それに加えて、奈月の次なる一手を待ってくれるほど、秋穂の殺意は生半可ではない。悩んでいる間にも容赦なく秋穂は奈月に斬りかかった。
「やっ! はっ! ふっ!」
反撃させまいと、次々に攻撃を繰り出す秋穂。
奈月もただ防御に徹するだけでなく、隙を見ては反撃を仕掛けるが、秋穂には届かない。
「これならっ!」
奈月は秋穂の大振りになった力技を受けるように見せかけ、剣と剣がぶつかりそうになる瞬間で剣をずらし、反時計回りにクルリと回転する。
「どうだっ!」
そのまま秋穂の背中に向かって横に斬り払うと、秋穂もそれに応じて転けるのを覚悟で回転し剣で攻撃を防ぐが、せいぜい直撃を回避するのがやっとで、床に背中を強く打ち付けた。
「くあっ!」
「ええぃやっ!」
トドメを刺そうと奈月は、秋穂の右肩を目掛けて剣先を向ける。
「えっ!?」
しかし、トドメを刺すことに至らず、奈月は咄嗟の攻撃に跳躍で後ろへ下がった。
突如として、秋穂の長い髪が奈月を貫こうと動いたのだ。
そして立ち上がった秋穂の様子も変貌した。
「か、勝ち……かっ、かか、勝ち……ため……に」
「秋穂!?」
「かっ、勝ち……あああああああっ!!」
秋穂は竹刀を床に落とし、頭を抱える。
すると、窓も開いていないというのに格技室に風が吹いた。
「ああああああっ!!」
まるで何かに呪われ、取り憑かれたような悲鳴を上げて、秋穂は奈月に向かって走りだし、何も持たない右手を振り下ろした。
「くっ!」
「やむを得ない」と判断した奈月は、剣で秋穂の攻撃を受ける。しかし、秋穂は「腕を切り落とされる痛み」を受けることなく、それどころか、剣と同様に金属同士がぶつかり合う音が再び響いた。
「あああ! あああっ! ああああっ!」
暴走とも呼べる秋穂の攻撃を前に、奈月は攻撃を受け流すのがやっとだった。それ程、ただの子どもじみた悪足掻きに見えるだけの攻撃が、見た目に反して高威力だったのだ。
「あ、秋穂……一体……!?」
奈月がひたすらに秋穂の攻撃を受け流していると突然、沙希の声が響いた。
(次の攻撃は……)
(……うん!)
2人のそのやり取りは、1人が思考するのと同じ時間でのもの。沙希の能力によって覗かれている秋穂の野生的な攻撃行動の思考が、奈月の脳へと流れ込み、対策を立てる。
秋穂には奈月と「2人だけ」と見せかけて、沙希はギャラリー席に隠れて戦いの様子を見ていたのだ。そして、奈月にとって「予想外の出来事」が起こった場合、能力を使ってサポートしようと考えていたのだ。
『全身が剣』となった秋穂に奈月の攻撃を当てる方法。それも覗いて知った情報を奈月に伝えて、奈月を勝利へと導く。
(関節!)
そしてその弱点は鎧と同様。攻撃行動に取るために動けなければならない箇所を狙って、奈月は攻撃を当てる。
「せぁっ!」
最早、人間の思考で攻撃しているようには見えない秋穂の攻撃を「知っていたか」のように受け流し、奈月は秋穂の右膝裏と左膝裏の順に『輝く剣』で斬りつけた。
「あっ……がっ!」
流石に痛みには耐えられないのだろう。秋穂は膝をついた。
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「何っ!? まさか、ここまで本気の小池秋穂を破るとは……!」
琥珀ヶ関工業高校と似たような制服を着て、軍配を持つ男子生徒は秋穂の敗北を察知して動揺した。
しかし、彼にはまだ用意してあった手がある。
「とはいえ、今がチャンスか。ここで戦力を一気に投入すれば……」
彼は軍配を紅ヶ原女子高校の格技室へ向けると、待機させていた『駒』に進軍を命じようとした。
――――が。
「あっれー? 君は誰かな? 少なくとも、うちの生徒でなければ、女子でもないようだけどー?」
「…………ん?」
そこに出てきたのは1人の紅ヶ原女子。気楽そうな声で、彼に話しかけた。
「何もないよ。俺はただ、ここを通りかかっただけで……」
「ふーん? こんな大人数で? こりゃ、警察呼んだ方がいいかにゃ?」
「……それは困る」
彼は進軍の命令を一時中断して、女子生徒を取り囲むように命令した。
「大人しく、この場を去っていれば無事でいられたのに残念だ」
口止めをするには交換条件を用いた交渉が望ましい。しかし、そんな材料を持ち合わせていない彼は、女子生徒に恐怖を刻み付け、脅すことにした。
やり方こそ褒められたものではないが、手段としては上等だろう。この現場を警察やその他の大人に話すことが出来ない時点で、彼女を脅したことが発覚することもない。
そう、彼女が相手でなければ、だ。
「悪いんだけど、そんなことしたって無駄かなぁ」
「何?」
「だってー、アタシの能力。『多勢に無勢』なんて言葉が通用しないからさ」
「は?」
女子生徒が天に向かって手を伸ばすと、手のひらから小さな光の玉が浮かび上がった。
それを確認した直後、光は周囲に分散して、女子生徒を取り囲んでいた者達の胸を貫き、一瞬にして彼らを気絶させた。
わざと軍配を持つ男子生徒を残し、控えていた残った『駒』も全て気絶させ、軍配の支配から解き放った。
「な、なんだ、その力は……!?」
「アタシの能力『焦がれさせる為の光線』は、相手の心にそりゃもうあったか〜い光線を浴びせて、何かに焦がれさせる効果があるだよね。まあ、その内容は人それぞれなんだけど、ジャンル指定はこっちで出来ちゃうもんだから、今回は平和について思い焦がれさせてみましたよっと!」
「なんだよ、それっ……」
「もち、それ以外でもちゃぁんと効果はあるよん? 例えば、光線で射抜いた相手を言葉通りに焦がしてみたり……とかね?」
「わっ……わあああ!」
再び、女生徒の右手人差し指の先で作られた光の玉を見て、男子生徒は逃げ出した。
「なっちゃんやさっちゃんの話を聞いて、もしかしたらなー、とか思っちゃってたんだけど、まさか本当にこんなことになるなんてねー……ってこら! 逃げるなぁ!!」
光の玉を握って消し、相手が逃げ出したことに気付いた陽射嬌華は彼を追いかけた。
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彼があてもなく逃げた先には、またも人が立っていた。
「そこを……どけ!」
軍配を煽って生暖かい風を送り、そこに立つ人を『駒』に変えようとする。しかし、その人にそれが通用しなかった。
「悪いが、お前のくだらないゲームもここまでだ」
「黙れよ!」
彼は再び軍配を煽る。だが、まるで弾かれるように風が届くことがない。
「…………」
自身の肉体的な限界を『拒絶』して高められた脚力による高速の接近に反応することが出来ず、彼は鳩尾に拳を入れられ、意識を失った。
「まてまてまてぃ!!」
そこに遅れて嬌華が現れる。
「って、もう片付いたカンジか。……ふむ、君が雪消のカタブツの後任者かい?」
「……ああ」
「ふーん?」
嬌華はなかなか人に見せることのない真剣な表情で、彼女を見下ろす黒い存在を睨みつけた。
「まぁ、確かに聞いての通りの実力なんだね、安心したよ。……でもね、1つ警告。あんまり鈍感が過ぎるのもどうかと思うよ? もし、アタシの可愛い可愛いプリティでキュートな後輩2人を泣かせるもんなら、アタシぁ、容赦しないかんね!」
「俺にあんたの能力は効かない。何に対して忠告しているのかも知らないが、覚えておく」
「……こんのガキゃぁ!」
「それよりも、だ。この男のことは紅ヶ原に任せるがいいか?」
「んあ? まあ、君がそれでいいってんならいいけど」
「なら、頼む」
そう言って軍配の男子生徒を嬌華に託すと、そのままあり得ないスピードでその場を後にした。
嬌華は既に見えなくなった背中に向かって「あっかんべー!」と舌を出した。
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紅ヶ原女子高校の活躍で事件が解決した翌日の金曜日。
「通院」という名目で遅刻してきた秋穂は、放課後に奈月と1対1で話すこととなった。
2人は大森が用意した空き教室の席に座り、面と向かった。
「……色々、迷惑かけちゃったみたいね」
「気にしないで! 秋穂も操られていたんでしょ?」
「そうなんだけど、それでも迷惑かけちゃったし……。ごめんなさい」
「ボクの方こそ、きっかけは団体戦の話を勝手に大森先生にしたことだったし。ごめんなさい……」
お互いに謝り顔を上げると、少しバツが悪そうな顔で微笑み合う。
「通院」という名目の遅刻ではあったが、それは強ち間違いではない。
実のところ、暴走の引き金を引いたのは黒幕である軍配の男子生徒ではあったが、全身を剣に変える能力は秋穂自身のものだったのだ。
より正確には、秋穂の能力は「自身と所持している武器の攻撃力を刃物に変える」ことだ。「自分こそ、剣の頂に」と望んだ結果、剣士ではなく剣になってしまった。
「秋穂は今後、治療することになるんだと思うけど、ボクの提案を聞いてくれる?」
「提案?」
「うん。正直、ボクや沙希ちゃんだけではこういった事件の対処が難しいんだ。だから、秋穂にも手伝って欲しい!」
奈月の提案は秋穂を驚かせるのに十分な内容だった。しかし、秋穂は考えることもなく、首を横に振る。
「私は剣道が好き。だから剣道に集中したい。……申し訳ないけど、奈月を手伝えないと思う」
「いつもじゃなくていいんだ! ピンチの時だけでいい! だからお願い!」
奈月は諦めず、手を合わせて頭を下げ、お願いする。
「……どうして、こだわるの?」
秋穂の困ったような顔でされた質問に、奈月は即答した。
「秋穂と肩を並べて戦いたいから! もちろん、剣道でもそうだし、重度の中二病患者との戦いもそう!」
「…………」
「お願い!」
「……やれやれ、わかったわよ。その代わり、本当にピンチな時だけだからね」
「ほんと……? やったー!!」
奈月は嬉しさのあまり、秋穂に抱きついた。
しかし、季節は夏。当然に暑く、秋穂は必死で奈月を振りほどいた。
「ああ、それともう1個提案。……ボクね、団体戦に出てみようと思う」
「え? でも、練習試合は明日でしょ!? 今更間に合わないんじゃ……」
奈月は秋穂の勘違いに笑って横に首を振る。
「違う違う! 次回は、秋穂や皆んなと組んで団体戦をするんだ! だから今度は、味方同士で剣道をやろうよ! ……どうかな?」
「…………うん」
秋穂の剣道に対する葛藤が無くなったわけではない。奈月という好敵手を前に、最強の名を諦めたわけでもない。
しかしこの時、秋穂は「今まで剣道をやってきた意味」を1つ見出すことができたのは間違いない。
「一緒に最強を、目指そう!」
「うん! 改めてよろしく、奈月!」
「女剣士は令嬢と共に」……終。
かなり駆け足な終わりとなってしまいましたが、ようやく終わらせることが出来ました!
あ、読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
正直、もっと内容を盛り込めばもう1部分行っていたかもしれませんが、流石にそこまでの体力がありませんでした。
既にお分かりの方もいらっしゃいますでしょうが、この話の始まりは奈月の過去話「輝くことを願った女剣士」の冒頭とリンクしています。もし「この章の発端って何なの!?」って方がいましたら、そちらの冒頭だけでも読まれることをおすすめいたします。
この話の趣旨は「奈月がメインで、沙希と共に解決する」というもので、サブタイトルというか章のタイトルがこうなっています。
ところが「決着時での沙希の活躍が少なかった」というのが私としての反省点です。
番外編を舐めてました。まさか、ここまで主人公以外の活躍を書くのが難しいとは思ってもみませんでしたので、貴重な経験だったと思います。
さて、次回こそは本編に戻りましょう。またこういった番外編は気が向いた時に書いてみようかと思います。
それではまた来週も読んで下さると嬉しいです。ハッピーニュー元号! 令和の時代もよろしくお願いいたします。




