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キャッキャウフフがしたい

 リーゼロッテは数少ない女言葉を知っている人物で、たまに遊びに来ていた。

 リーゼロッテとはすでに婚約中だ。

 アタシたちが七歳になった時に婚約した。

 好きだからとか両家の仲が良くてとかが理由ではなく、完全に政治的理由。

 リーゼロッテはアルムボルト家の長女で、アルムボルト家は王族の血筋だった。

 王族の血筋といっても微妙な立ち位置で、王位を継げるような家ではない。

 ジークベルトのボルネフェルド家は権力があるものの歴史は浅く、優秀な血統を欲していた。

 アルムボルト家はボルネフェルド家より権力を持たず、ジークベルトとつり合う年齢の女の子がいて、ボルネフェルド家の政略結婚にふさわしい家だったというにすぎなかった。

 この関係はあくまでボルネフェルド家が優位で、リーゼロッテが遊びに来るのも、単なるご機嫌うかがいなだけだった。

 アタシが前世を思い出す前までは。

 玄関ホールの二階廊下に出て、アタシは一階のホールにリーゼロッテの姿を見付けた。

 アタシは階段を下り、リーゼロッテの元へ向かう。

 リーゼロッテは薄ピンクを基調としたふんわりドレスを着ていて、相変わらず可愛らしい。

 アタシに気が付いたのか、背中まである紅い髪を揺らしながら、リーゼロッテはクルリと振り返る。そして、スカートのすそをつまみ、軽くおじぎをした。

「こんにちは。ジークベルト様。ご機嫌いかがかしら」

 リーゼロッテの瞳がアタシを見る。

 その瞳は髪と同じで、燃えるような紅い瞳をしていた。

「こんにちは。相変わらずの生活が嫌になっていたところよ。リーゼロッテが来てくれてとっても嬉しいわ」

 女言葉に眉をひそめないのはマリアンネとリーゼロッテぐらいで、会話に飢えていたアタシはリーゼロッテとの会話を楽しみにしていた。

「そう言っていただけて、私も嬉しいです」

 リーゼロッテはアタシに微笑んだ。

 可愛い!

 なんて可愛いのかしら!

 アタシはリーゼロッテの頭を撫でる。

 すると、少し顔を赤く染めてはにかんだ。

 もう!

 可愛い!

 アタシこんな妹が欲しかったのよ!

 女子トークに花を咲かせて、キャッキャウフフしたいと前世でどんなに切望したか。

 まさか前世の望みがこんな形で叶うなんて、思ってもみなかったわ。

 リーゼロッテとの婚約は死亡フラグに繋がるけれど、死ぬかもしれない人生にだってうるおいが欲しい。

 それに、婚約が前世の記憶が戻ったあとだったら死にもの狂いでどうにかしたけれど、婚約してしまっていてはどうしようもない。

 婚約は家同士の契約。

 しかも、ボルネフェルド家が優位な立場では、アタシがどんなことをしても父が許可しなければ婚約破棄は出来ない。

 そして、王族の血統を求める父は、何があっても絶対に婚約破棄はしない。

 それならば。

 アタシはリーゼロッテとキャッキャウフフするわ!

 そう思いながらリーゼロッテを撫でていると、リーゼロッテがチラチラと上目使いでアタシを見て来た。

 分かってる。

 分かっているわ。

 リーゼロッテが言いたいことは。

 キャッキャウフフするには、少しくらいの妥協にだって目をつぶるわ。

「マリアンネ」

 アタシは後ろに控えていたマリアンネに指示を出す。

「今日もリーゼロッテと遠出をしたいの」

「かしこまりました」

 遠出の準備のため、マリアンネが玄関ホールから廊下へと去っていく。

「ありがとうございます! ジークベルト様!」

 そう言って、リーゼロッテは最高の笑顔をアタシに向けてくれた。

 くっ。

 可愛いわ!

 アタシはこの笑顔に弱かった。

 何でも叶えてあげたくなるほどに。


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