街への道は(5)
「危ない!」
アタシは走り出した勢いのまま、少年と頭の間に入り、少年とリーゼロッテをまとめて腕の中にかばった。
次の瞬間。
アタシの背中を、上から下へと何かが斜めに走った。
それが、男の剣だと分かったとたん、背中が燃えるように熱くなり、切り裂かれた痛みが激しく主張しだす。
「ぐうぅ」
耐えられない激痛が、出口を求めてアタシの口から声となりこぼれた。
今まで経験したことがないほどの痛みの暴流が、身体中を駆け巡る。
その一瞬で、アタシの記憶が揺さぶり起こされた。
そうだ。
アタシはこれ以上の痛覚による暴力を経験したことがある。
それは前世で。
アタシが小田川真の生を終わらせる原因となった電車の事故で。
目の前がチカチカと点滅する。
そこかしこで上がる悲鳴。
誰のものかも判別つかない叫び。
上と下を認識する間もなく、身体が飛ばされた。
いつ終わるかも分からない激痛が四方八方から襲いかかり、アタシはその苛烈な痛みをただ受け入れるしかなかった。
激痛に気を失おうとしても、また新たな激痛が意識を覚醒させ、繰り返す痛いという感覚に、アタシは晒され続けるしかなかった。
今もまた、背中から感じる強烈な痛みが、アタシを現実に引き戻す。
「大、丈夫、かし、ら?」
リーゼロッテと少年の様子を見る余裕もなく、腕の力が抜けたアタシは、少年の背をすべるように倒れ、地面にぶつかる寸前、誰かにすくうように抱き止められた。
そのまま、柔らかくて温かい何かの上にのせられる。
「嫌あぁ!」
リーゼロッテの悲鳴が辺りに響いた。
「まずひとーりぃ」
男たちの下卑た笑い声が聞こえてくる。
リーゼロッテを……。
少年を……。
守らなきゃいけないのに……。
倒れた身体を動かそうとすると、背中がさらに激しい痛みを発する。
アタシは苦痛に顔を歪めた。
「さあ、次はお前だ」
男の声が近付いて来る。
守らなきゃ。
二人を守らなきゃ。
アタシが守らなきゃ!
これから身体に走る、今以上の痛みを覚悟する。
そして、身体を動かそうとした時、轟音が辺りを包んだ。
「ううっぅ」
地面が振動したせいで背中の傷口が揺らされ、アタシは思わぬ方向からの責めに呻き声が出た。
な、何……?
轟音に次いで、誰かが倒れる砂の音が聞こえる。
アタシはいつの間にか閉じていた瞳をゆっくりと開き、顔を横にして目だけを動かして周りを確認した。
すると、男たちが全員、倒れていた。
男たちの身体からは煙が出ていて、少し焦げ臭くもある。
魔法陣も消えていた。
何が起きたの……?
「勝手に遠くに行くなと言っただろう!」
誰?
新たな男の声に、アタシは戸惑う。
「父ちゃん!」
アタシのすぐ上から、少年の喜ぶ声がした。
声の振動がアタシの下から伝わってきて、アタシは膝の上に寝かされていることに気が付いた。
倒れたアタシを抱き止めてくれたのは少年なのね。
その少年の父親ということは、もう安心してもいいのかしら?




