「動かぬ柩」
あさはやく。ときはいまから
にじゅうさんねんまえの
ことでした。
あるおやしきのつとめにんが
いつものようにごみをすてに
いきました。
そのひはくもりでもはれでもなく、
ゆきどころかあめさえふってなど
いませんでした。
すべてがいつもどおりでしたが、
たったひとつだけちがっていることがありました。
ごみぶくろのなかみが
なかったのです。
しかたがないのでつとめにんは
ごみぶくろだけをすててきました。
めでたしめでたし。
【第一部 あたま】
ちょうどきのうのようなひに
あるおとこのこが
たずねてきました。
かぞくはことわったものの、
わたしははんたいをおしきって
いえにとめてやることにしました。
そしてきょうのあさ。
おとこのこはいってしまったようで、もううちにはいませんでした。
しかもよくみると、いえのなかの
ものがいろいろなくなってしまって
いました。
たんす、せんぷうき、てれび、
ちくおんき、えあこん、ふくなどが
もっていかれたようなのです。
あのおとこのこがやったの
でしょうか。
いやいや、ひとりではむりです。
なかまがいたのでしょうか。
うちにはつまとははとちちと
むすこがいるのですが、
わたしはこういうときにはかならず
つまにそうだんするように
しています。
わたしはつまのしんしつに
いそぎました。
だれもいなくなっていました。
【第二部 やさいくず】
まよなか。もうこのきせつでは
かなりさむくかんじられます。
あるしさんかのもとに、
ごうとうがはいりました。
ひがいがくはすうせんまんえん。
そのごうとうはますくとめがねで
かおをかくし、ほうちょうをもっていました。
あいにく、がーどまんたちにひまを
だしたばかりだったのでかんたんに
うばわれてしまいました。
しさんかはおかねのばんごうを
ひかえていたのですぐにけんしょうきんを
かけました。
みっかご。ふしぎなことにおかねは
かえってきました。
それはあかいけーすにはいっていて
ばんごうもいっしょで、にせものでもなかったので
しさんかはけんしょうをとりさげました。
けいさつはなんの
てがかりもえられず、
そうさはうちきられました。
ただひとつ、しさんかだけが
ふしぎにおもっていることが
ありました。
けいさつにはいちぶのばんごうしか
おしえていませんでしたが、
しさんかはすべてをひかえて
いました。
おしえたばんごういがいがすべて
あわなかったのです。
しかしこれいじょうのさわぎを
おそれたしさんかはこれを
ひみつにしようとかんがえ、
けーすをたんすにしまいました。
【第三部 ほこり】
あめのひ。しとしととあまだれが
げんかんのとをたたくおとが
まどからきこえてきます。
このひはなにごともなく、
ふじんはなにをするでもなしに
のんびりとすごしていました。
おてつだいさんがいたので
わざわざごみすてにいくひつようも
ありません。
さて…すこしばかりひまに
なってきました。こんなとき、
ふじんはしんしつにいってねるのが
しゅうかんです。
べっどによこになったふじんは
ゆめをみはじめました。
いえのしゅじんがかえってきましたが、
ふじんのでむかえはありません。
でも、ふじんが
ねむったままおきてこないのは
よくあることだったので、
しゅじんはきにしませんでした。
【第四部 かみきれ】
よくはれたひ。みちにだれかが
たおれていました。
いのちにべつじょうはないよう
ですが、ぴくりともうごきません。
つうこうにんもきにはしていましたが
はなしかけようとはおもわない
ようすです。
わたしはついかのじょにこえを
かけました。
するとかのじょはきゅうに
たちあがり、わたしのあとについてきました。
たべものにもわたしの
にもつにもきょうみはないようすです。
しかたがないのできょうはいえには
かえらずやどにとまりました。
なにもかもがふつうのやどやです。
あさ、やどやのおかみは
だいぶつかれたかおをしていましたが
やがてたちあがり、
やくばにでかけていきました。
【第五部 からだ】
あるひ、ぼくはまちをあるいて
いた。するときゅうにまちがぼくを
はばんだ。
つぎのひはかんたんにいった。
ぼくがあるいていてもひとはもう
きにしなかった。
そのつぎのひはたいへんだった。
くろいひとがうしろから
おいかけてきてしろいひとにあわなかったら
どうなっていたことか。
そしてきょう。
しろいひととくろいひとはぐるだった。
まちはあいかわらずぼくをはばんだ。
【第六部 袋】
よるおそく。しごとをおえた
つとめにんはいえにかえろうと
しましたが、やはりごみぶくろの
ことがきになっていました。
ごみすてばにいきましたが
くろいふくろはすでにありません。
ふくろだけをもっていくはずは
ありませんからおそらくかぜに
とばされたのでしょう。
めでたしめでたし。
【第七部 ごみすてば】
つぎのひ、おてつだいさんが
いえにかえってみるとなにやら
かぐがふえているもようです。
おしいれのなかはふくで
ごったがえしになっているし
むかしなつかしいちくおんきというものまで
おいてあります。
いや、おいているというよりかは
なげこんだといったほうが
ただしいでしょう。
だいざがびみょうにへこんでいて
ちかくのかべにはこすったあとまであります。
それにしてもきみょうなものです。
たんすのまえによこだおしになった
たんすがもうひとつあるのですから
しまつにおえません。
ほかにもいろいろとものがふえて
やっかいですがひとつうれしいこともありました。
きんこのなかのおかねがかなりの
りょうになっていたのです。
ただひとつ、ほかはさしおいても
とびきりきみのわるいことが
ありました。
つとめさきのやしきでよっかまえ
からずっとすてつづけているふしぎな
くろいごみぶくろがすべてへやの
いっかくにつまれていたのです。
くさったにおいがたちこめて
いました。
【第八部 棺】
動かぬ柩/終