表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

目覚め

---異世界編---




ザザッザザッ


木々の擦れる音と、川のせせらぎの音がする。


ぽかぽかと暖かな日差しが体を包み、全身が心地よい布団でくるまれているようだ。


ーーーいい昼寝日和だ。


寝覚め特有のまどろみの中、俺はもう少し眠りたくて寝返りを打った。

が、そこで違和感を覚えた。

ーーー床が堅い?

不審に思って目を覚ますと、俺は森の中で寝ていることに気が付いた。

正確には、森の中の街道といったところか。

木々は両端に並列しており、俺が寝転んでいた真ん中の道路らしき土の上には幾線かのわだちの跡があった。

その轍の先に目をやると、とてつもなくずっと遠くまで伸びている。

見渡す限りに人工の建物はなく、延々とこの道が続いているように思えた。



ーーーここはどこだ・・・?



記憶を探る限り、ここは俺が知っている土地ではないし、ましてこんな景色、TVで見たこともない。

イメージで言えば、中世のヨーロッパの田舎道といったところだろうか。


ーーーあれ?TVとかヨーロッパってなんだっけ?



そこまで考えて、自分の記憶がだいぶあやふやなことに気が付いた。

なんだかもやがかかったように物事が思い出しにくいのだ。

TVもヨーロッパもよくよく考えればわかるが、ぱっとイメージできない。

その癖、比喩には思い浮かぶのだからこの矛盾は到底悩ましいものだった。

同様に、自分の名前が勇で、出身国は日本で、高校3年生であることなども思い出すのに時間がかかった。

どうやら普段の自分にとって慣れ親しんだ事柄も怪しいらしい。

その割に、これは「木」、これは「ベルト」、といった一般常識の範囲は瞬間に考え付くのだから生活に困りはしないだろう。




ーーー俺ってこんなに記録力悪かったっけ?




だが、日頃自分がどのように過ごしていたのかも思いだせないので比較しようもなかった。

生活に関しての一般常識は思い出せるが、パーソナル情報はほとんど思い出せないのだ。

例えば、家族や友達のこと。

例えば、今日の朝食べたはずのご飯のこと。

例えば、どうしてここにいるのか、ということ。


直前の記憶もないのだから、わかるはずもない。

とりあえず、疑問も多々残るが、当面の問題は・・・


「これから先どうするか、だよなぁ」


そう呟いて勇は辺りを見回した。


ザァザァと揺れる木々には、みずみずしい新緑の葉っぱがついている。

その隙間から零れ落ちる木漏れ日を浴びて寝転がれば、心地よい眠りにつけるだろう。

一本一本の木々は大して大きくもないが、自由に枝を伸ばし、穏やかな森の雰囲気を演出している。

その木々の隙間から見える奥には、小川が流れているようだ。

乱反射した水面がキラキラと不規則にちらついている。



「夏だなぁ」



直前まで自分が何をしていたのかは覚えてないが、間違いなく自分の格好は冬支度だった。

思い出したように、ブレザーとニットとマフラーを脱ぎ、ネクタイを緩める。

それでも、中に着込んだヒートテックが効果を発揮し十分すぎるほど暖かい。

それからここのままではいられないので、勇は脱いだ服を片腕にまとめて持ちながら歩き始めた。

真夏の営業のリーマンにでもなった気分だ。


人間の性か知らないが、人は暑いと水辺に自然と足が向かうらしい。勇は道を外れ、森に入った。

森の中は、木々のおかげで日差しが適度に遮断され、心地いい冷たさを保っていた。

背丈に達する草花もなくずいぶん歩きやすい。途中、キノコや木の実を見かけた。

この分なら食べ物にも不自由しないだろう。

勇は今後の身の振り方を考えながら進む。


轍があったということは、さっきの道は馬車道だったのだろう。

未だに馬車を使っているとは随分な田舎に来てしまったのかもしれない。

どのくらいの頻度で馬車が通るのかはわからないが、来たら近くの街まで乗せて行ってもらえるか相談してみよう。

この森は食うには困らないだろうし、親切な人が通るまで待ってみよう。

そのあとは、何かしたらのお礼は用意しておきたいけど、お金もあげられるものもない。

それどころか、記憶もなく迷っているのだから。



ーーーさて、どうしたものか。



目的の小川までたどり着いた。

余りに気持ちよさそうなので、つい泳ぎたくなり服を脱ぎ、水に飛び込む。

さすがに全裸とはいかないので、パンツとタンクトップは着用だ。

ついでに、着るときに枚数を考えて温度調整すればちょうどいいだろう。

いまのままでは暑すぎた。


パシャ


水の跳ねる音が心地いい。

ゆらゆら揺れる波に任せて、体を仰向けにして浮かんだとき、違和感に気付いた。


ーーー太陽の位置が・・・?


自分を中心に半円を描いた時、太陽はの天中に存在した。


勇の考えでは、今は初夏だ。

生い茂る木々の色も風も日差しも。

今まで生きてきた自分の体感が告げている。


なのに、今自分の見上げている太陽は全方位の地平線から90°真上に存在する。

日本は真夏でも南中高度は90°に満たないはずなのだ。



ーーーここは、外国なのか?


少なくともこんな太陽は見たことがない。勇はそっと目を閉じ考えた。


ここが外国でも街に行かなきゃ話にならない。

とりあえず、大きな都市に行って・・・

外国で迷子の場合どうするんだっけ?

領事館に行ってパスポートを再発行してもらって・・・


記憶喪失になって、外国で迷子って厳しいなぁ。



ちょっとだけ、これからの事に不安を覚えた勇だった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ