プロローグ
「御待ちしておりました。我等が王よ。」
「へ?」
一体どうなってるんだ。
さっきまで学校から帰ってる途中だったはず。
ーーーー
「チキショー。あのクソ教授め。俺にだけ休講のメール回さないとかどんな嫌がらせだっての。」
そう俺こと逢瀬仁晴は、休講になっていることも知らされることもなく、教室についてからようやく休講であることを知るという間の抜けた事態に陥っていた。
「どうすっかなぁ。今日のバイトまでまだ時間あるし。かといって、一緒に暇を潰す奴もいないしな。」
などとさみしい独り言をつぶやきながら、帰ってもう一眠りするかと考えていると、
「よう、仁晴。もう授業終わったのか。」
無視だ、無視。俺は何も見なかった、聞かなかった。そうだ、そうなんだ。
「よう、仁晴。もう授業終わったのか。」
っち、回り込まれたか。逃げるというコマンドは選ばせてくれならしい。流石は腐れ縁なだけはある。俺が逃げようとするのを分かりきっていたらしい。
「よう、仁晴。もう授業終わったのか。」
「うっさい。同じことを三遍も言わんでよろしい。どこの村人だおまえは。」
「強いていうなら、東秩父村かな。」
「どこだよそれ。埼玉ディスってんのか。」
「ま、まさかそんなことあるわけないじゃないか。いやだなぁ、君は。そ、そんなことより、仁晴はもう今日は帰るのかい?今日は講義があるだろう。」
「露骨に話題逸らしやがったな。俺は今日は休みだ。あのクソジジイのせいで時間をもてあましてんだ。っていうか、美晴も今日は講義ある日だろ?」
「今日は僕も自主休講なんだ。じゃあ、仁晴も一緒にどっか行かない?」
「悪い。今日はバイト入ってるんだ。また今度な。」
手を振り爽やかに去っていく遠藤美晴。俺の幼稚園からの腐れ縁だ。基本いいやつだが、優柔不断で優しすぎるきらいがあるけれど、スペックは高めだ。天は二物を与えないってのは嘘だってのはよくわかる程度によくできた人間である。ホント、どうして俺なんかとつるんでるのか不思議な位だ。
「さて、バイトまでどうすっかな。とりあえず買い物に行くか。冷蔵庫にきゅうりしかないってのは、自分でもどうかと思うしな。」
などとつまらないことを考えつつ、帰り道のスーパーによることに決めた。
「今日は何にすっかな。たまには鯵の刺身でも食いたいよなぁ。でも寒いから一人鍋もありか。」
献立を考えつつスーパーに向かって足を進めていた時のことであった。
『・・・ぁえ・・・に・・・よ』
「は?今誰かに呼ばれた気がしたんだけど…誰もいないか。」
辺りを見回しても誰かが呼んでいるということはなかった。そこにいるのはそばの公園でママさんたちが会議してるのと、じいさんばあさんがゲートボールに励んでいる姿しかなかった。
「しかし、アクティブなじいさん達だ。あのばあさんなんてスマホ使いこなしてやがる。うちの母さんだってまだ使いこなしてないってのに。」
『・・・が・・に・・・よ』
「またかよ。俺疲れてるのかな。いや、まだ十連勤だからそこまででもないはず……」
『我が求めに応えよ』
「我が求めに応えよ。じゃねえよ。ヤバイな。今日は休んだほうがいいかもしれん。心なしか頭も痛くなってきた気もしないでもない。」
『見つけたり…我等が王よ』
「見つけたって。ウオッ!なんだってんだ。やばいやばいやばい。洒落になんないって。」
これまでで最高のテンパり具合を見せる俺。でも仕方ないと思うんだ、いきなり地面が光って魔方陣見たいのが出てきたら。いやさ、俺だってこんな風に魔方陣が出て異世界に行って、みたいな想像したことあるし、そういうの好きだけどさ…それは想像であっていざその状況だと絶対渡らないよね、こんな危険な橋。
「よし、目を離さないようにしつつ、相手を刺激しないようにゆっくりと後退すればいいんだ。」
ジリジリと、確実に後退していく。あと少し、あと少しで離脱できる。
そう思ってた時期が俺にもありました。
「よし、逃げきっt…あれ。」
目の前が光に包まれる。逃げようとするのを踏まえたうえで、複数の陣を用意していたようだ。振り返って逃げようとするコースにいくつもの光っているものが見える。
どんだけ俺を逃したくないんだよ。
かくして、俺こと逢瀬仁晴は魔方陣へと消えていったのである。サヨナラ地球。平穏なる人生よ。
ーーーー
「御待ちしておりました。我等が王よ。」
「へ?」