君に世界を救えるロボットを託そう
戦火に燃える街の中で途方に暮れているのか目の前の惨状を理解したくないのか。
15歳ほどの少年が壊れた笑みを浮かべて崩れ落ちた燃える街並みを見詰めていた。
“彼でいいか”
鋼の巨人に乗り込んだ青年はそう呟くと街を蹂躙する怪物たちを巨人の目から放った光線で一掃する。
断末魔の叫びさえなく怪物は消え去って、巨人は少年の目の前に降り立った。
それを不思議そうな顔で見上げた彼に巨人から降りた青年は手にしていた何かを投げ渡すと告げた。
“君に世界を救えるロボットを託そう”
困惑する少年を余所に青年は怪物の正体とそれを駆逐した鋼の巨人。
巨大人型ロボットについて語り出し、少年はそれを黙って聞いた。
怪物────異世界からの侵略者「カラミタ」
人とは違う感覚と文化を持つ彼らにとってそこがどこであろうと関係がなかった。
彼らにとって問題となるのはそこがどんな場所でどんな生命体がいるどんな世界だろうが、
自分たちが滅ぼせるか滅ぼせないかの判断基準がすべてであり、彼らにとって滅ぼせた数が重要。
なぜそうなったかまでは解らないがとにかくカラミタというのはそういう種だった。
厄介だったのは彼らのその滅ぼすことへの欲求はついに次元まで超えたこと。
自分たちが生まれた宇宙のいくつかの星を滅ぼしあるいは滅ぼせなかったカラミタは
次の標的を異なる次元の別の宇宙に定めて転移してその宇宙からは姿を消した。
元々彼らの勢力に怯えていたその宇宙の人々は安堵したが同時に他の宇宙の人々を気の毒に思った。
だから彼らに滅ぼされなかった惑星の技術者たちが集まりその知恵と技術を結集させた決戦兵器。
────地球人の感覚でいうなら人型巨大ロボットを完成させてカラミタを追うように出発させた。
カラミタという怪物種を追い払えた技術の結集だったロボは違う宇宙で彼らに襲われていた人たちの力となった。
ただそのロボ──どこかの世界で救世主を意味する「ザルヴァ」と名付けられた──はあくまで知的生命体が搭乗することを前提に作られていたためにそれが存在する場所でしか戦えず、
また何度も別宇宙へ移動するカラミタを追うためにも搭乗者を必要とした。
“それが俺というわけだ少年、俺は俺のいた宇宙の地球を救ってここに来た”
“ザルヴァに定められたルールで俺は自衛以外ではこれを現地のヒトに渡すことしかできない”
“あとは君がザルヴァに乗って戦ってくれ”
半ば一方的とも取れる言葉に少年はいう。他に適任者がいるのではないか?と。
それにこれを渡したらあなたは故郷に帰れないのでは?とも。
“もう権利は君に渡っている。それをより適任だと思う相手に渡すか自分で使うかは自由だ”
“心配しなくても権利を渡した元・搭乗者は自分の好きなタイミングで故郷に帰れる”
“それにはっきりいってザルヴァは無敵だ。それに搭乗者保護システムがある”
ある宇宙の優れた技術の集大成であるザルヴァの戦闘力は一体で惑星を破壊できるほど。
ゆえにいくつものリミッターが設けられ、対カラミタ以外には使えず悪用はできない。
下りているさいの搭乗者の身の安全を守るための保護システムを充実させ、
次の搭乗者を指名制にすることで搭乗者が絶える可能性を回避させた。
他にも幾重にもあるシステムにより搭乗者だけは絶対安全だった。
だから。
“君ひとりでも戦いぬけるほどの力だ、頑張ってみてくれ”
悩む少年の背を押すように青年は語り少年は少し悩んだあと最後の確認だと青年に質問をした。
“本当に、俺が決めていいの。これをどうするか”
もちろんだ。そう青年が頷けば嬉しそうに少年は笑って搭乗者端末を正式に受け取った。
“ありがとうお兄さん。おかげでどうにかなりそうだよ”
“いやこれも元・搭乗者の務めさ”
──愚かなガキめ。
せいぜいこの星のために、家族や友のために戦え。
果たして君は本当の意味でこの世界を護れるかな───
少年の素直な感謝に内心での嘲りを隠しながら青年は何食わぬ顔で頷いてみせる。
彼は何も好意で別宇宙にまで来てザルヴァを届けたわけではない。
ただ、見てみたかったのだ。
ザルヴァを託された者が戦いの中で何もかも失っていくのを。かつての自分のように。
彼の地球での戦いは語った通りザルヴァは無敵で苦戦はしなかった。
しかしどれだけ強力でも一体だけでは限度があって守れないものがどうしても出てきた。
それが運の悪いことに青年にとって大事な人たちばかりだった。ただそれだけ。
腐れ縁の悪友も帰りを待っていた家族も共に戦った仲間も思い出が詰まった故郷も、恋人も。
何もかも無くして、それでも世界を救った英雄となった青年だがそんな賛美も空しいだけ。
だから帰路が確約されているとはいえ別宇宙への旅立ちはむしろ気楽だった。
何もかも無くした場所にいるよりは何も知らない場所の方が彼にとっては安堵できる場所だった。
住みよい場所ならそのまま永住するのもありと考えていたほどに。
どちらにせよ少なくとも彼は少年の戦いが終わるまでは残る心づもりである。
何せ、自分と同じ運命を背負った純朴で正義感の強そうな少年だ。
きっと頑張って戦って、戦って、戦って、戦って、きっと最後にはどこかで崩れ落ちるだろう。
ここに移住するかどうかはそれを見終えてからにしようと暗い感情を隠して青年は笑顔で少年と握手する。
それから青年の攻撃で第一陣をやられたカラミタは一度撤退。
過去の戦闘データからこのあとしばらくは地球人の感覚でいう作戦会議に2週間ほどかかる。
別宇宙の地球でもそうであり地形的にも住む人種、技術力も大差ないなら行動パターンも同じ。
その間少年の、というよりはその家族の好意によって居候することになった青年は
親や兄弟から愛情をたっぷりを受けている少年の生活を見ていた。
驚いたことに少年の家は世界レベルで影響力を持つほどの大富豪だった。
とてつもなく裕福な家庭に生まれ、なに不自由なくそして大きな愛情を注がれて育った少年。
周囲には常に幼なじみや一番の親友だという者の姿があり、学校でも常に誰かがそばにいた。
成績も運動神経も悪かったが誰もそれを気にせず親兄弟たちも大器晩成なのだと慰めている。
その歳で美人の婚約者までおり家同士の政略的な意味があるが彼女はベタ惚れなのが見て取れた。
“けっ、リア充め。せいぜい今の生活を楽しんでおくんだな”
“まあ、うまくやれば全部守れるかもしれないぞ”
かつて自分が失ったものすべて。それ以上を当たり前のように持つことへの嫉妬。
けれど、それでも心底嫌うこともその家から飛び出すこともなかったのは、
家族から向けられた自分への掛け値なしの感謝の言葉が不覚にも胸にくるものがあったからか。
当初、戦いに巻き込んだことに青年はよくない感情を向けられることを覚悟していた。
事実青年の家族は前々搭乗者に怒っていた。うちの子に辛い戦いを押し付けた、と。
ところがこの家族の場合事情が少し異なっていたのだと知る。
優秀な人間を数多く輩出してきた一族に生まれた少年は周囲からの無遠慮の期待と
それと大きく食い違う不出来さから向けられる失望の声に傷ついているのだという。
だがこれで息子が世界を救った英雄になればきっと彼にそんな思いをさせないと。
自分たちの息子ならばきっと世界を救う偉業を成し遂げてくれる、と。
それだけの才能がきっとあの子にはあるに決まっているのだから、と。
子を想う親の感情に触れて、それを亡くした自分の家族と重ねてしまったせいか。
自分の目的が、少年が彼らを失うことだと考えると苦悩するようになった。
彼とて最初は自分の大切な人を守りたいと願ってザルヴァに乗った人物だ。
苦しい戦いでいくらか摩耗しても根っ子にある良心は完全に壊れてなどいない。
暗く歪んだ復讐ともいえない感情に身を任せるかここで思い直すかで悩みだしていた。
──だから青年は肝心の少年と交流を持つことを怠ってしまった
そうして答えが出せないまま過ぎていく猶予期間。
ついに青年が苦悩するなかカラミタの再侵攻が始まった。
襲われたのは彼が世話になった少年の家がある大きな街。
2週間も滞在して、あちこちに出回れば知り合いや顔見知りはできる。
何より少年の周囲にはよく人が集まることもあって少年の同級生とある程度親交を深めてもいた。
“………俺も戦おう”
そのひとりひとりの顔が浮かんでは消えて、そしてかつて自分が失った者たちと重なる。
彼はどこまでいってもやはり世界を救おうと思って戦ったかつての少年だった。
既に搭乗者権利は少年に移っていたが彼はザルヴァの操縦や戦闘については素人だ。
自分がサポートすれば、かつて自分の身に起こった悲劇は回避できるかもしれない。
だからザルヴァの下へと走ったが、そこに少年はいなかった。
どこにいるのかとカラミタの侵略が始まった街を駆けまわる。
前搭乗者は故郷帰還前までは現・搭乗者並の保護システムに守られている。
カラミタの攻撃にさらされる街を走っても彼だけは無事だった。
どんどん壊されていく平和だった街。自分が二週間とはいえ過ごした街。
全員の名前や顔は知らなくてもそこにそれぞれの生活と幸福があったと知っている街。
そのあちこちから助けてくれという叫びと親を探す子供の嘆きが聞こえてくる。
ビルは崩れ落ち、家は潰れ、町は燃え、人はその形を満足に残さず死んでいく。
まさに地獄。青年がかつて体験した地獄を前にして、彼は叫ぶ。
“〇〇〇、どこだ! ザルヴァを呼ぶんだ!”
名を呼ぶがどこにも少年はいない。
散々地獄と化した街を駆けまわって、ついに見つけたのは彼の家の前。
多少崩れていたが原型をとどめていた屋敷の前でよく見知った顔が集まっていた。
“良かった、みんな生きてる!”
少年の家族も友も婚約者も全員いて、口々に少年に向かっていう。
“頼む。ロボットに乗ってみんなを救ってくれ”
“世界を救え、私の息子であるお前ならきっとできる”
“お願い、お父様が見つからないの。〇〇〇助けて!”
“学校のみんながやられたんだ、仇をとってくれ!”
“お前は俺の自慢の弟だ。その勇姿を見せつけてこい!”
誰もが求めた。彼が救世主となることを、彼が自分たちを助けてくれることを。
それに対し少年は無言のままそれを待っていたといわんばかりの笑顔を浮かべた。
“ッッ!?”
地獄を戦い抜いたはずの青年が思わず鳥肌がたってしまうほどの笑みを。
そして同時に───あまりに遅く───気付いてしまった。
彼らと過ごした二週間において、一度として少年は笑っていただろうか、と。
数多の戦闘経験からくる勘のようなものが得体のしれない予感に、ようやく気付いた。
“いやです”
そうはっきりと、しかしどうでもいいといわんばかりの軽さで断る。
顔には変わらず笑みが、青年でさえ気圧されるような凄みを持った笑みが張り付いたまま。
“〇〇〇、なぜだ。街が燃えているんだぞ。このままだと皆死ぬんだぞ!”
けれどそれでも、街から響く爆音と悲鳴に押されるように青年は少年に迫った。
青年に対しては少年は少しだけ申し訳なさそうに顔を歪めながらも首を振る。
“ごめんね、でも好きにしていいといったのはお兄さんだよ?”
青年はそれを自分が戦うか第三者に手渡すかの二択についてだと思っていた。
だが、他にも選択肢はあったのだ───────戦わないという選択肢が。
“なぜだ、なぜ……”
“お兄さんなら分かるかもね、似たようなこと考えてたみたいだし”
なにを、とは互いに口にしなかった。内心を見破られていたのかと青年は絶句する。
同時にわからないとも思った。この少年は何にあんな暗い感情を持ったのか。
少年はこれでも人を見る目だけは肥えていると口にするだけ。
“なにをわけのわからないことを。○○○、戦うのよ。私の子として”
“あのロボットは無敵だ。怖がることはない。戦ってお前の名を世界に知らしめるんだ”
“頼むよ、お前が戦わないとみんなが死んじまう、俺達親友じゃないか!”
なぜ戦わないのか理解できない彼らは口々に言い募るが少年はそれを鼻で笑った。
“イヤだね、お前らを守るためになんか死んでも戦わない。お前達全員でここで死ね!”
そしてはっきりと拒絶の言葉を発して、実に嬉しそうに彼らの背後を指差した。
カラミタそのものといえる巨大な身体を持つ化け物たちの群れがそこにいる。
目の前の異様な存在とその圧力。叩きつけられる絶対的な死の気配に悲鳴さえ上がらない。
響くのはその顔を見て、おかしいと腹を抱えて笑う少年の声だけ。
それに反応してか化け物たちはその口を開いて破壊の光弾を発射しようとしていた。
“やめろ!”
青年は咄嗟に前に立って盾になろうとするが恐怖に耐え切れなかった誰かが逃げ出す。
それは助かるためには正しい判断だったかもしれない。化け物が目の前にいるのだけなら。
“ぎゃっ………○○、○……たすけ、っ”
化け物の巨体に押しつぶされて頭だけが飛んでいく親友と呼んでいた誰か。
そんな光景を見てもなお、彼の笑いは止まらずより激しく少年は笑う。
もはや正常な判断をする人間は誰もいなくなっていた。
我先にとバラバラに逃げ出した彼らはそれぞれ化け者達に襲われる。
一人だけの青年では、盾にしかなれない彼では誰かを守ることは叶わない。
“いっ、いやっ、いやああっ、助けて○○───!”
最後まで少年を呼び続けた婚約者は光に消し飛ばされ。
“ゆ、夢よ……あの子があんなこというなんて。これは夢な、ぎゃっ!!”
恐怖からか目の前の光景を悪夢だと言い張りながら真っ二つにされた母親。
“なぜなんだ!あんなに、あんなに俺達はお前を愛してっ、やめろぉっ!!”
最後までわからないと、なぜだと叫んで化け物に切り裂かれた兄。
青年の必死の抵抗むなしく次々と犠牲になっていく人々。
少年はそれを、目の前で起こったそれを他人事のように見詰めて冷酷に笑う。
“ひっ、いやだ!死にたくない!助けてくれ○○○!”
無残に死んでいく者達の姿に父親が駆け寄って少年に頼みこむ。
少年は気持ちのいい笑みを浮かべて父親が差し出した手を掴む。
“あ、わかってくれたのか○○○!”
喜ぶ父に少年は満面の笑みのまま掴んだ手をいっこうに離さない。
“おーい、こっちだ化け物!こっちにもゴミがいるから燃やしてくれ!”
“おいっ、なにをっ、やめろ、離してくれっ、離せ!!”
少年の声がまるで聞こえたようにカラミタはその視線を一斉に彼らに向ける。
やめろと叫んで青年が駆け出すがバラバラに逃げた人達を守ろうとしたせいで離れすぎていた。
悲鳴をあげる間もなく化け物が放った光に飲み込まれて少年の父は消し炭となって灰となる。
保護システムによるバリアに守られた少年は無傷で、握っていた手だけが無事に残っていた。
それを言葉通りゴミのように投げ捨てて、少年は瓦礫を昇って燃えていく街を見下ろした。
少年の顔からは笑みが消え、感情も消えて、ただ目の前の地獄をじっと見据えている。
まるでその光景を胸に刻むように、ただずっと。カラミタが去るまでずっとそれを続けていた。
───それから一週間もたたずに地球はカラミタに滅ぼされることになる
奴らは滅ぼした星を今度はまるで勲章のように大事に保管する。
正確には表面を滅ぼしつくしたあと星そのものには何もしないだけ。
もはやそこには生命溢れる星だった面影など皆無で、街は崩れ落ち海は干上がり山は燃えた。
人類は必死に抵抗したが地球人程度の技術力では次元を超えられる化け物に敵うわけもない。
その間、ザルヴァは一度も戦いどころか起動さえされずに滅ぼされた街にただ立っていただけ。
青年は少年に対してずっとあらゆる手段で説得を試みたが、彼が戦いに赴くことはなく、
なぜ彼が戦わないという選択肢を選んだ理由でさえ青年は教えてもらえなかった。
ただ、
“これは僕の選択だからお兄さんに責任はないよ”
“仮に他の人に渡していても、あの連中の財力を使って奪い取ってたから安心していい”
少年は青年に対してだけは気遣いを見せてこの星を滅ぼしたのは自分だけの責任だと言い続けた。
それを聞いて青年はよりわからなかった。生まれた時から一緒にいた家族を見殺しにして、
同じ星に生まれた同胞たちを笑顔で見捨て、カラミタが地球から去るまで何もしなかった少年。
けれど少し前に会ったばかりの自分にだけ優しい言葉をかけるこの少年の真意が。
“頼む、理由だけでも教えてくれ。
なぜ君はみんなを見殺しにしたんだ!?
なんであんなむごいことが出来たんだ!?”
だから、もうすべてが終わってしまったあと。
何度目かもわからない問いかけを最後にもう一度だけ青年はした。
それで教えてもらえなくても、もらえても彼は故郷に帰るつもりで。
“そうだね、お兄さんには確かに知る権利があるよね”
心苦しそうに笑う少年は教える代わりにとポンと搭乗者端末を青年に手渡す。
“君に世界を救えるロボットを託します……ザルヴァお願い!”
“なにっ、おい待て! どういうことだ!?”
突如起動したロボットの手に掴まれコクピットに押し込められる青年。
なんとか外に出ようとするが既に大気圏離脱モードになっており内部からでは開かない。
権利を移されたことと星が滅んだことで全システムがカラミタ追跡モードにもなっていた。
なんとかカメラを操作して荒れ果てた地上に残る少年を映し出す。
彼は申し訳なさそうに笑いながら別れの言葉を発していた。
“ごめんねお兄さん。きっとあなたはいい人だから理由を知ったら悩んじゃう。
けど一つだけ言える。この星の人間に救われる資格がある奴はいない。絶対に!
滅ぼされて当然なんだ。だから気にしないでお兄さんは次の星を救ってあげて!”
そのためにザルヴァをこれからカラミタが襲う星へ届けてくれと少年は訴える。
しかしと青年は訴える。それはいま彼を守る保護システムの解除を意味する。
今はまだ前搭乗者扱いだが自分が次の星の誰かに渡せば、それも解除される。
すべてが滅んで有害物質だらけとなった星にいたままそうなれば、死は免れない。
“……困ったね、こんな大虐殺した奴の心配までするなんて。
どうしてこの星にはお兄さんみたいな人はいなかったんだろうね?”
それだけが残念だと泣きそうな顔で笑って、少年は最後の言葉を告げる。
“言ったよね、この星には救われる資格がある奴なんていないんだ。僕も、滅ぶべきなんだよ”
“だからじゃないけど次渡す人は慎重に選んでね。僕みたいな奴がいないとも限らないから”
それが青年の聞いた少年の最後の言葉で、少年が誰かと会話した最後の言葉だった。
ザルヴァが飛んでいく光の軌跡を見上げながら彼は力が抜けたようにその場に倒れる。
本当は真実を教えてもよかった。ここは彼の故郷と同じ地球で同じ程度の技術と文化を持つ。
彼はそれだけで似たような歴史を歩んだ世界だと錯覚していたが事実は少し違っていた。
数年前に世界中を巻き込んだ大規模なテロ事件が起こっていた。
少年はそれに巻き込まれその渦中、その事後処理において家族への嫌悪感の理由を、
何より世界中の人間のあまりに醜悪で身勝手でおぞましい本性を、知ってしまった。
だから、優しくて暖かい勇気ある人たちがその犠牲にされた事に彼は我慢できなかった。
けれどそれを教えてもどの道、彼の苦悩を増やすだけ。悩ますのが変わらないのなら、
せめて少年が世界を憎んでいて滅ぼそうとした程度に思ってくれるならいいと思った。
彼が二週間程度過ごした日々は楽しそうであったからその思い出を汚したくもなかった。
本当にこの星の人間たちがどれだけ醜かったのか知らずにすんだのから。
“ほんとどうして僕って世界を救った人を苦しめちゃうのかな?”
何をどうやっても、結局はそうなってしまうと思わず苦笑する少年。
“きっとあなたたちと同じ場所にはいけないから先に謝っておきます。
あれからずっと考えてたけど、でもやっぱり僕許せなくて、ごめんなさい。
あなたたちが命がけで救った世界を、僕が壊しちゃってごめんなさい!”
けどだからこそ、それだけはごめんと叫んで、大粒の涙を流す。
自分さえ生まれなければこんなことにならなかったのに、と。
例え世界とそこ住む人たちが醜くても優しい人たちが少しでもいれば、それだけで良かった。
そうならきっとこの世界と人類は平和で、青年は新たな苦しむを持つ事も無かった。
けど優しい人たちは誰もが死んでしまって、それは全部少年がいたせいで、
何もかも狂わせたのは少年で、彼はその責任をこんな形でしか償うしかなかったのだ。
“どうして世界を救うより英雄を助ける方が難しいんだろうね?”
“どうして僕は、あの人たちを苦しめることしか、できなかったのかな?”
滅び行く地球で、自らが見殺しにした人類のことなど思い返すこともなく。
ただそれだけを思って、少年は涙が枯れるまで泣き続けた──────
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ザルヴァのコクピットの中で結局青年は訳が分からぬまま滅んだ星をあとにする。
唯一生き残ったその大虐殺を止められたのに止めなかった少年だけを残して。
青年は怒ればいいのか憎めばいいのか泣けばいいのかすら解らないまま。
ザルヴァに乗り続けて宇宙を旅しなければならなかった。
それしかすることがなかった。その間、自然と青年は考えてしまう。
自分は次になにをすべきなのかを。どうして彼があんなことをしたのかを。
前者はともかく後者はどれだけ考えても推論にしかならないが、
それでも考えずにはいられなかった。
───そしてその次の星についたのはおよそ一ヶ月後
人型だが地球とはまるで違う技術を持つ星だったがカラミタには敵わない。
広がる戦火の中で、奇妙な既視感を覚えながら逃げ遅れた少年を見つけた青年。
ビクリと思わず震えた身体にムチうってその顔を見る。そして次にその動きを見る。
必死な形相で、泣きわめく自分より小さな子を庇いながら瓦礫をどかしている。
センサーを見ればその下に生命反応が複数確認して、その行為の意味を理解する。
“彼だ”
いいかげんな選定ではない戦士の直感でそう思った。
思えば自分も似たようなことをしていてザルヴァを託されたのだと自嘲気味に笑いながら。
ロボットを着陸させて周辺のカラミタを一掃すると少年の下へ降り立ってこう告げた。
“君に………世界を救えるロボットを……っ、託す!”
それはその星がこれから救われる物語の始まりにして、
あの少年がいた地球の完全な終幕を意味していた。
だから青年はさらにもう一言付け加えた。
“頼む。君は自分の世界を救う選択ができなかった誰かの分も一緒に、戦ってくれ!”
少年はそう語った青年に何を見たのか端末を受け取って力強く頷いた────────
少年が世界を見殺しにした理由をどこまで示すかで悩んだけど、
この程度がいい塩梅かな、と。
これ以上細かく書くのもまったく書かないのもどうかと思ったので。
実をいうとこれ長編ネタを無理矢理短編にしたやつ。
まあ元のネタからすると「ロボット」ぐらいしか共通点ないんだけど。
感覚的には長期連載するかどうか読み切り漫画で試してる感じである。
人物について蛇足。
少年〇〇〇:ヒーローを救いたかったラスボス
たぶんカラミタこなくても親の財力使って悪の秘密結社首領みたいなポジになる。
内心ヒーロー出てきて俺を倒してくれないかなと思って派手に悪く立ち振る舞うが、
この世界でその要素を持つ人間は既に全滅してるので誰もこない。
あっさり世界征服してすべての核ミサイルのスイッチ押す。
つまりこの話と何も変わらない。根本的に人間を愛せない。
青年:悪ぶってみたけど結局根っ子からヒーロー
本当に守りたかった者だけ守れなかったことからひねくれてしまうが
窮地に陥ったヒトを見ると放っておけない典型的な人。
たぶん最後に出てきた世界が救われたのを見て故郷に帰る。
それから英雄としてその世界で人生の終わりまで頑張る。
けどたぶん死んだ恋人に操たてて最後まで独り身。チェリー。
最後の少年:すべてを受け継いだ未来の英雄
見た目人型だが、強い精神感応能力を持つ。だから青年の言葉に
何かを強く感じてたとか思うと説得力が増すかなとこれ完全に後付。
このあとザルヴァに戦わない選択肢ができないように改造とかしちゃう。
人物的には少年と青年を足して二で割った人。文化的にOKなのでハーレム主。