第五話 日常はスリルに満ちている?
フォリンたちの仲間の船を助ける手伝いをした翌日。
ボクは昨日のことなんてなかったかのように普通にガッコに登校する。
あの後、フォリンやディアからこれといって何の連絡もなく、助けようとした船がどうなったか、少なからず興味があるボクとしては、ちょっとじれったい。
ボク、あんだけ協力したのに……。 あれからどうなったか? ってことくらい、教えてくれたっていいのにさっ。
いいもん! 今度助けてくれって言ってきたって、手伝ってやんないんだから! ふ~んだ。
そんなことを考えつつ春奈と二人ガッコに向う。
春奈には「今日もお兄ちゃんいい匂いしてるね?」なんて、また突っ込まれ、ボクは何とも答えようもないから笑ってごまかしたり。
そういえば意外なところで、今のところお母さんからは特に突っ込まれることもなく、過ごせてる。 でも、油断大敵だ。
うん、今日も気を引き締めてがんばろー!
「おはよ~!」
教室に入り、挨拶をしながら自分の席に向う途中、何やらタブレット端末を持った晶の周りに、ボクの見知った面子が集まっているのに気付く。
晶っていうのは、ボクの仲のいい友だちで、山下 晶っていう。 小学校4年生のときからずっと一緒で、親友っていっていい仲だ。 見た目、ちょっと女の子っぽいかわいい顔してるけど、頭脳明晰で何でもそつなくこなすし人当たりもよく優しいから、女子にはかなり受けがいい。(ちなみにボクは女の子っぽいっていうより、女の子と間違われて困ってたわけだけど)
背の高さは160cmをちょっと越すくらいであんまり大きくないけど、ちびのボクからすればそれでも十分うらやましい。
そんな晶の周りにいるのは、青山 悠斗に高橋 智也。 どっちも晶と同じように小学校からのくされ縁の友だちだ。
悠斗は、顔はアイドルみたいなイケメンで背も160後半とそこそこあるんだけど、思春期の男の子丸出しのちょっと悪ぶった態度がイタイところで、女子からも残念な子と思われてる。(本人はカッコいいつもりなとこが余計残念……彼のために言っておくと、ほんと顔はいいから黙ってればそれなりにね)
あと、智也はスポーツ刈りの頭に日焼けした肌がよく似合う野球少年。 背も170オーバーと高いし、精悍な顔してて、運動部の女子の間では結構人気があるみたいだ。
「ねぇ、三人で集まって何見てるの?」
当然ボクは気になって晶の席に向う。
「あ、蒼空。 いいとこに来たね。 今、早朝にネットに上がってた画像で、面白いの見つけたから二人に見せてたとこなんだ。 蒼空も見てみなよ、驚くこと間違いなしっ!」
晶がめずらしく興奮ぎみにボクにそう言ってくる。
「お~、蒼空っ! マジすげえから。 見たらお前も驚くぜ。 なぁ、智也」
「だな! すげえから、ほれ見てみ」
悠斗と智也も二人してすごいって言ってくる。 なんだろ?
ボクは晶がこちらに向けてくれたタブレットの画面を見つめ……、
「ううっ……」
お、思わず絶句してしまった。
そこに写ってたのは、白いワンピース姿で……白っぽい髪が腰までのびた、小さな女の子らしい姿。
そしてその背中からは……。
まばゆいばかりに輝く、遠めには白っぽく見える翼が伸びていて……なによりその周りには何もなく、空中に静止している。 ありえない光景だった。
そう。 それはどう見ても間違いようもなく、昨日の……、あの雪山でのボクの姿だった。
な、なんで?
なんでこの画像がネットになんか上がってるの~!
絶句して画面を見入ってるボクに晶が話しかけてくる。
「ねっ! すごいでしょ? まるで天使みたいだってことで、今ネットですごい話題になってて、もうおマツリ状態っていってもいいくらいなんだ」
ボクは晶の説明にも、うわの空で、もう頭の中は疑問符でいっぱいだ。
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?
なんでなの~!?
「他にも数点あるけど……、これこれ、これなんかもっとすごいよ。 ほら、すっごい光をまとった槍みたいなのを持ってる画像だけど、すっごく神々しいくてさ。 もう真偽を巡って、喧々諤々。 ひどいもんだよ」
晶が画像を送りつつ、そう言って笑う。
ううっ、なんか色々バッチリ写されちゃってる。
まぁ、救いなのは遠過ぎて顔まではハッキリ見えないことだけど……。 そ、それにしても音叉の槍(たった今適当に命名した)撃ってるとこまで撮られてるだなんて。 一体誰が、あんなとこに?
「こ、こんなのウソだよね? どうせよく出来たCGかなんかなんでしょ?」
ボクは内心平静ではいられない心境だったけど、とりあえず妥当な意見を言ってみた。
「うん、ネットでもそういう意見も多い。 正直、あまりにも信じがたい映像だしね。 でも、この画像上げた人っていうのが結構有名なアルピニストでね。 そんな人がわざわざウソの映像をあげてなんのメリットがある? って意見も少なからずあってさ」
晶の説明を聞きつつも、ボクはしばし呆然と立ち尽くしてしまってたわけなんだけど……こいつらったら!
「この写ってるのって、女の子だよなぁ? しかも絶対かわいい子だぜ。 オレの勘がそう言ってる! 萌えるぜ~」
「女の子ってのは譲るにしても、かわいいって保障、どこにあんだよ? まぁ、でもサイズ的にはこの感じだと、そうだな……蒼空くらいのもんなんじゃないか?」
智也とバカな話してると思ってたら、いきなりボクにふってくる悠斗。
ううぅ、偶然とはいえ正解だし……。 それにしたって、わざわざボクに例えなくたっていいのに。
「う、うるさい、悠斗。 そんなトコでボクに例えないでよ! 意味わかんないよ。 だいたいボクだって、そのうち絶対背、伸びる予定なんだから。 智也だって抜いてやるから! 見てなよっ」
「うくくっ、言うなぁ? 蒼空。 でもさぁ、おめ~の場合、今のままの方がいいってファンが多いんじゃないのかぁ?」
そう言って、にやりといやな笑いを見せる悠斗。 カチーンときちゃったもんね!
「ほっとい……てっっ!」
ボクは軽く悠斗の足をふんずけてやった。(気をつけないと怪我させちゃうから、ふざけるのも大変だ)
「いって! おい蒼空、何すんだよ!」
悠斗が文句を言う。
でもそこに晶と智也が、
「まぁ、悠斗の自業自得だね」
「ほんと悠斗は懲りねぇよな。 いっつもいっつも」
と、呆れたように言う。
「でも実際、最近……さらに増えたよな? おまえにラブレターとか……、それに直接話しかけてくるやつとか。 蒼空、どっかから変なフェロモン出してんじゃねぇの?」
悠斗が懲りずにまた変なこと言う。 で、でも、これもまた否定しきれない……。
悠斗、バカのくせにやたらするどい。
春奈にもよく追求されるけど、どうもボクからは女の子特有の……なんか色々……男の子がくるものが出てしまってるようだよ。
今までだったら見た目だけだったんだろうけど。
ううっ、み、認めたくないけど……やっぱ、ボクのカラダが女の子になったことで、男子を引きつけちゃう何か、あったりするのかなぁ?
「もう、悠斗! それこそ余計なお世話。 マジで困ってるんだから、そんなこと言わないでよ~」
ボクはマジで、最近増えた変態男子に閉口しまくりだ。 真剣に言い寄ってくる人もいたりして怖いくらいだ。(まぁほんとにやばいときは、どうとでも対処できちゃうけど……)
まぁこんな感じでボクらはいっつもつるんでるわけで……。
朝からショックな出来事だったけど、とりあえず今日も一日、何ごともなく終わればいいんだけど。
ネットの方は、時間たてば治まってくよね? きっと……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今のとこなんとか無難に過ごせてる学校生活の他で、このカラダになって困ったことといえば、やっぱ普段着る服のことが大きい。
だって、見た目は男の子に見えてるとはいえ、実際は女の子のカラダなんだもん。 いろいろ不都合なことだって出てくるわけで……。
そもそも女の子用の下着や服なんてモノは、当然のことながらぜんぜんない持ってないわけで。 今も下着は男物のパンツに、上はTシャツでごまかしてる。
唯一の女の子の服があの白いワンピースだけど……あれはディアがいっつも転移するとき勝手にボクに着せてくるんだよね。
で、戻るとまた男の子の服になってる。
器用だよね? さすが中二コンピュータ。
っと、話しずれちゃった。
で、正直多少とはいえ胸もあるからTシャツだけだと、困ってる……。 特にここ最近、なんだかさきっちょが敏感で痛いくらいなんだ。
パンツも股のところ……あれがない分変に余っちゃうし、お尻は逆にきついしで、ブリーフ派だったボクも、今はトランクスにしてる。 トランクスの方が余裕があって色々楽でいいから。 その代わり見た目はちょっと……色々残念すぎるけど。
ちなみにトランクスに変えてお母さんがちょっと不思議がってた。
そういえばお父さんは、ボクが突然一緒にお風呂に入らなくなったことに、なにげにショックを受けてるようだ。
まぁ、お母さんが「もうそんな歳でもないでしょ」って言って、バッサリ切って捨てちゃってたけど。 ちょっと可哀想だった……ごめんね、お父さん。
いくら見た目はペンダントでごまかしてるとはいえ実際は女の子のカラダ。 なんか一緒に入るの、はずかしい。 それにやっぱお風呂は触れ合う機会も多いし、ヤバそうなんだもん。
はぁ……。
こんな生活、ほんといつまで続けられることやら……。 女の子としてこの先もっと成長するんだとしたら、そのうち限界きちゃうかもしんない。
アタマ痛いよ、もう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
このところ気分がよくない。
このカラダにされてからというもの、体調に関していえば悪いとこなんか微塵も感じなかったから、ここ数日のお腹の下のへんが重く感じるのが気になって仕方ない。
この日もちょっとだるい感じがしてて、調子がいまいちだった。
いつもならペンダントでの偽装時間とか調整してからお家に帰るんだけど、そのことを忘れてしまうほどには具合が良くなかった。
――ちなみにペンダントの性能は多少改善されてて、偽装時間はそのままだけど、再チャージの時間が2時間から30分へと大幅に改善された。 これはもちろんペンダントの性能UPもあるけど、ボク自身のカラダの調整が進んで、安定してきたことも大きいらしい。 なんとかマシンが体中にまわってなじんだから、らしいんだけど……よくわかんない。 っていうか大丈夫なのかな? そんなのカラダにいっぱいいるだなんて……。
まぁ今さらそんなこと言ったってどうしょうもないことだけどさ。
なんにしても30分なら、ちょっとした休憩時間で対処できちゃうから、ずいぶん楽になったのは確かだよ――。
そんなことから気の緩みがあったかもしんない。
ボクはうかつにも偽装時間の調整もせずにお家に帰ってきて、それでもなんとか制服を脱いで、Tシャツと短パンに着替えるまでは無難にこなす。 でもその後、あまりのだるさから、そのままベッドに倒れこむように横になり……、あろうことか眠りこんでしまった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんってば……、大丈夫?」
ボクは春奈に揺り起されて目が覚める。
「うう……お腹いたい」
なんか重く鈍い痛みはまだ治まってないみたい……。 それになんかちょっと……パンツの辺りに違和感が。 も、もしかして、この歳でお漏らし?
ううっ、考えたくない。
「大丈夫? お兄ちゃん。 なんか部屋に来たらお兄ちゃん青い顔して寝てるし」
「う、うん。 まぁなんとか……、ちょっとお腹の下の方が痛いだけだから。 じきに治まると思うし……」
カラダを起こしながらボクはそう答えた。
でも、顔色の変化まで出てるんだ? よく出来てるなぁ……さすが中二コンピュータだ。 ボクは変なところで感心してしまった。
「ふーん……ほんとかなぁ? ま、無理しないでよね。 ダメならお母さんに言って、お医者さんに連れてってもらいなよ? それにしても、なんか匂うような……」
ぎくっ。
に、匂っちゃってるのかな? あれ。 バレないよね、見せなきゃいいんだし。
にしても春奈ったらボクのこと心配してくれてるみたいでうれしいけど……。 だけど、それにしても、こいつったら相変わらず。
「わかったけど……春奈。 おまえ、またボクの部屋に……」
と、そこまで言ったところで、春奈が妙にうわずった声で言葉をかぶせてくる。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん? な、何それ……」
「はぇ? 何それって何?」
ボクはお腹の鈍い痛みをわずらわしく思いながらも、春奈のその言葉に、問い返す。
春奈は驚いたように口を大きくあけ、そのまま固まった表情をしてボクを見つめてる。
何なの? 変なやつだなぁ。 そう思ったボクは、今さら……いつものあの感覚。 ペンダントの偽装が解けるときの、あの転移の感覚にも似た、全身に軽い静電気をまとったような現象が発生してることに……気付いた。
ああっ! し、しまった!
呆然とした表情でボクを見てくる春奈。
きっと今、春奈の目の前でボク、姿が変わっちゃってる……。
ボクはもうわかりきってることとはいえ、恐る恐るベッドの枕元に置いてある小さな鏡を覗きこむ。
そこに写ってるのは、紫がかった白い髪に同じように白い肌の顔。 覗きこむ目は、碧と赤、左右で色の違う変な目をした……そりゃもうどう見たって女の子の姿。 顔つきは変わらないとはいえ、やっぱ雰囲気はだいぶと変わるもので……。
あちゃ~、ま、まずった。
そしてボクはも一度、春奈の方を恐る恐る見る。
「な、何今の? て、手品とか? ってゆうか、お兄ちゃん……なんだよね? ええっ、何その髪の色! うそぉ? 女の子? ええ~!」
春奈はもう混乱しまくりのようで、言ってることが支離滅裂だ。
「は、春奈……。 そ、その、あの……」
ボクはボクで、何て説明すればいいのかわからず、あたふたするばかり。
そしたら、さっきまで呆然としてたはずの春奈が、急にボクのTシャツをがばっとまくり上げてくる。 とっさのことに何の反応も出来ないボク。
(ううぅ、このカラダ。 反応とかも良くなってるはずなのに……)
「うっそぉ、こっちも女の子じゃん……」
春奈ったらボクの小さな、でもきっちりふくらみのある胸をまじまじと見つめ、そんなことを言った。
そして当然の流れでその手がボクの下半身へと素早く伸びてくる。
「ちょ、ちょっと、春奈。 や、やめて~!」
やだっ、パンツ見られたら、あれがばれちゃう~!
ボクはおかしなことに、女の子の部分を見られることより、お漏らし? を見られることに気が向いちゃったりする。
でもそんなボクの気持ちなんかおかまい無しに春奈の手が神技的に動き、あっという間にボクの短パンはおろか、パンツまで一緒にずり下ろされてしまった。
は、春奈。 それ、いくら兄妹とはいえ、女の子としてどうなの?
そしてその春奈はというと……、これ以上ないって真剣な顔をしてボクに言う。
「お、おにい、ちゃん? こ、これって……」
春奈はボクの足の付け根。 はっきりいうと股間をしっかりと見つめ……次にシーツに目をやり、そして最後に今脱がしたパンツと……目を移しながら、信じられないって顔をする。
ボクはもう恥ずかしさを通り越し、あきらめの境地に入ろうとしてたんだけど、その春奈の見つめる先を見たとき、さっきの境地はどこえやら、今日一番の驚きに目をみはってしまった。
シーツは、股間の下あたりのところが赤く染まり、そしてパンツ(もちろんトランクスだよ)も同じように染まってる。
そしてそれは、ボクの大事なところ……。 そこから出たものでそうなってしまったのは一目瞭然だった。
出ていたのは、血だった。
そしてこれがどういうことかだなんて、元男の子のボクにだっていやでもわかる。
「お、お兄ちゃん? こ、これ、どういうこと! しっかり、説明してもらうかんねっ?」
ショックを受けてるボク以上に、混乱の表情を見せている春奈が、ボクの左右で色の違う目を逃がさないよって感じに見つめ、しっかりとした口調でそう言ってきた。
ボクは観念し、これまでのいきさつをはなすことにした……。