第四話 どきどき二重生活とデビュー戦?
なんとかお家に戻れたボクだったけど、思ってた以上に女の子になったことを隔すのは難しいってことを痛感してる。
まず、ペンダント。
偽装限界、7時間32分42秒……。 これがまずダメ!
短かすぎだよ~!
朝一で男の子に変わったとする。
7時に偽装開始でガッコに行って、6時間目まで授業を受ける。 放課後ソッコー帰ったとしても15時半すぎ。 これだけでもう8時間半使っちゃっててタイムオーバー。
もう無茶ぶりもいいとこだ。
初日、途中でそのことに気付いたボクは、お昼休みにトイレにこもってディアに遠隔感応通信でさっそく文句言ってやった。
<それは申し訳ありません。 そちらの学校というものの存在まで考慮にいれていませんでした。 地球人は不思議な生き物ですね? わざわざそんなことに時間をかけて、しかも大勢が集まって教育を受けているとは。 非効率的です>
そんなふざけたことを言うディア。 更に、
<だいたい蒼空? あなたはそのようなものに行かなくても、どんな地球人よりも豊富な知識をすでにその脳の中に収めているんですよ? なぜ今さらそんなところにわざわざ行く必要があるのですか?>
は、はぁ? 何それ。 聞いてないし、そんなの!
<ちょっとディア、それ何のこと? ボクそんなの聞いてないんだけど?>
まぁどうせ、今さら何されてたって不思議はないけど、とりあえず抗議する。
<おや、そうでしたか? では、今いいます。 あなたの体のことになど関するチュートリアル同様、一般常識から専門知識に至るまで、ありとあらゆる知識をデータベース化してあなたの脳にインストール済みです。 いや、地球人の脳は使われていない領域が数多あるのでその点は有効に活用させてもらいました。 もちろんリスク回避の必要もありますからマージンはきっちりみていますが>
やっぱり。 もういや、この中二コンピュータ。
<で、でも、普段そんな知識とかあるって全然思えないんだけど? 授業受けてても普通に初めて聞くことも多かったけど?>
<それはもちろん、収めた知識を引き出すにはトリガーとなる思考が必要になります。 チュートリアルと一緒です。 漠然と流して聞いてるだけではデータは引き出せないのです。 それを知りたい、調べたいと、意識を脳内のデータベースに向けることで、初めて必要なデータを引き出すことが出来ます>
当然のようにそんなことを言うディア。
<なら、ボクが全然知らないことなんて結局考えもできないから、データ引き出すことも出来ないんじゃないの?>
<そこまで私が面倒みることは出来ません。 努力してください>
あ、こいつ。 放り投げちゃったよ。 ちぇ、まぁどうせ余計な知識なんてあっても仕方ないからいいけど。
まぁガッコの勉強については今ちょっと試しに考えてみたら、ほんとに自然に湧き出すように前から知ってたように情報が出てきた。 とりあえずいい感じかも? ……って、話しがずいぶん飛んじゃった。
<で、結局どうしたらいいんの? 時間延ばせないの?>
<すみません。 とりあえず運用で工夫してください。 時間については延ばせるようシステムのアルゴリズムや、構造を見直してみますし、再充填の時間も可能な限り短縮出来るよう調整してみますので。 とりあえず……そうですね、一度、偽装を解き数分ほどエネルギーを補填、再度偽装することである程度延長させることも可能でしょう>
もう、信じらんない。 何でも出来ちゃう神様じゃなかったんだっけ? ったく。
結局、お昼休みに20分ほど、女の子に姿にもどり、再度偽装をかけることで2時間少々の延長が出来るようになった。
でも、いずれにしてもお家に帰ってしばらくすると、いやでも解けちゃうから放課後、ガッコから出てしばらくはどっかで女の子の姿ですごし、ペンダントにエネルギー補填。 それからお家に帰るっていう、ほんとメンドクサイことをしなきゃいけない羽目になってしまった……。
何この縛りプレイ。
もういやだよ! いっそ家族だけにはホントのこと……。
で、でも、なんていえば?
家に帰ったら帰ったで、春奈からのなにげない言葉にドキッとさせられたりもする。
「お兄ちゃんさぁ、最近なんかつけてる?」
いきなり何いってくるんだろ? 春奈ったら。
「何、突然。 つけてるって何のこと?」
何のことだかサッパリだったので聞いてみた。
「えぇ~、だってお兄ちゃん、最近すっごくいい匂いするんだもん。 色気ずいちゃって、なんかつけてるのかな?って思って」
そうニヤニヤして言いながら春奈ったらボクのカラダに顔を近づけ、匂いをかいでくる。
悔しいことにボクよりアタマ半分くらい背の高い春奈が、整ったかわいらしい顔の中でいたずらっぽく輝く、つぶらな瞳を閉じ、小ぶりな鼻をすんすん鳴らしながら匂いをかごうと思いっきり接近してくる。
近い、近いって春奈! それにそう言う春奈からだっていい匂いがする。 そうか、きっと春奈が言ってるのはこの女の子特有の甘~い匂いのこと言ってるんだ。
うぅ、ボクも見た目は男の子でも実際は女の子。 ペンダントで変身? してるとはいえ、匂いとかまでは変わらないんだ……。 ほんとにもう! やっかいなんだからぁ。
「き、気のせいだって、ボク何にもつけてないし。 ほ、ほら、もういいだろ」
ボクはそういって春奈の肩を軽く押して遠ざけ、匂いをかがれないようにする。
「あぁん、もうお兄ちゃん、乱暴! ほんとなんか怪しいんだから」
春奈が抗議の顔を向けてくるけど、断然無視! 相手してたらキリないもん。
……でもこんなのはまだ序の口で、
お部屋で1人になって偽装を解き、(精神的に)疲れてベッドで横になってたら、
「お兄ちゃん! ちょっと宿題でわかんないことあるから教えて~」
勢いよくドアを開けて飛び込んでくる春奈。
「は、はわっ!」
ボクは慌ててシーツを捲り上げ、アタマからかぶる。
「何してんの? お兄ちゃん」
おもっきり訝しげな声でボクに声をかけてくる春奈。
「もう春奈、入るときはノックくらいしてよ! それにいきなりドア開けないでよ~」
ボクはシーツの中でペンダントを取り、小さな声でキーワードを唱える。 声出さなきゃかダメなんて絶対、フォリンのわけわかんない「設定」がどうのってやつに決まってる。
心の中で恨みながらも何とか男の子の姿に変わるボク。 そして、シーツから顔を出して、再び春奈に抗議する。
「ほんとっ、頼むからよろしくね! 春奈」
「ふふ~ん。 あっやしぃ~」
ふわっとしたポニーテールのアタマを軽くかしげ、その大きくクリっとした目を小憎ったらしく細めながらもニヤリと口角を上げ、ほんとに小悪魔みたいな顔をする春奈。
「ま、お兄ちゃんも男の子だもんね? 見られたくないことってあるかもしんないし?」
なんか勝手にわかったようなことを言う春奈。 な、なにいってんだろ、この妹はっ。
「ううっ、べ、別にそんな……」
ボクが口ごもって、でも反論しようとすると、
「いいからいいから。 これからはちゃんとノックして入るようにするよ~、にひひぃ」
そう言うと話しを勝手にさっさと終わらせ、「さっ、宿題おせーてー」とボクのことなんて置いて、どんどん自分のペースで突き進んでいっちゃう、春奈。
はぁ……、もういいや。
なんか釈然としないけど、とりあえずごまかせたんだし。
ボクはさらに変な疲れを増やしつつも、春奈の宿題に付き合うのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
<蒼空、あなたの力を見込んでちょっと頼みたいことがあるのですが?>
毎日、ひやひやしながら暮らしてるボクに、その元凶たるディアが交感してきた。
<何? ディアがボクに頼みごとなんて。 万能な(中二のね)コンピュータで船、なはずのディアがめずらしいね?>
ボクはイヤミを多少込めて問い返した。
<おや手厳しいですね。 なぜ蒼空が私にそのようなことを言うのか、いまいち理解に苦しみますが? まぁそれは今後の研究課題としておきましょう>
ディアったら、ただのイヤミを研究課題だとか……やっぱわけわかんない。
<それはさておき、お願いです。 まずはとりあえず、現地へ行っていただきましょう>
へっ? 現地?
ボクがそう疑問に思うが早いか、消えたのが早かったのか?
ボクは、何も出来ず言えないまま、こつ然と自分の部屋から姿を消したのだった。
「お兄ちゃ~ん」
そこへタイミングよく? 春奈が部屋にノックもせずに突入を果たすも、そこに慌てふためくはずだった、部屋の主、蒼空の姿はなく……。
春奈はちょっと不思議そうな、残念そうな顔をしつつ、「ちっ、逃げられたか?」っと女の子らしくない舌打ちと、言葉を残し部屋から去っていくのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
いきなり転移させられたボクが出現した場所、それは例によって空の只中だった。
「うわぁ! ちょっとディア。 いっつもいっつも空に放り出すなんて勘弁してよっ!」
ボクはそう文句をいいつつ、もう慣れたものでキーワードを唱え、ささっと翼を展開させる。
やさしい光で輝きながら広がる半透明のきれいな、ボクの翼。
服装が最初に着せてもらった白いワンピースに変わってる。(ディアめ、また勝手にお洋服まで変えて……。 ほんと勝手なんだから)
翼の展開とともに浮遊感を感じると、場所の確認のため辺りを見回すボク。
ちなみに、魔法 ――もう面倒だから魔法って言ってる。 いちいち科学技術のこと言い出すときりないし、どうせわかんないもん―― を使うと男の子への偽装は自然と解け、女の子の姿に戻るしかけになってる。
相当高い山々の上空みたいで、眼下には真っ白い雪が山肌一面に積もった、きれいな山々の尾根が幾重にも連なっていた。
そのきれいな景色にしばらく我を忘れてたボクだったけど、はたと今の状況を思い出す。
<ディア。 いい加減説明してくれる? ボクなんでこんなとこにいきなり飛ばされちゃってるわけ?>
<それは私から説明しよう>
横から入ってきたのは、フォリンだ。 もうどっちでもいいから早くしてって感じだ。
<この連なる山の地中深くに我々の仲間の船が落下し、埋没しているはずなんだ。 蒼空くんには、それを救出する手伝いをお願いしたい>
<はぁ? 何でそんなことボクに頼むの? お得意の転移とかでパパッとやっちゃえばいいじゃん?>
ボクは疑問に思ってそう問いかける。 まぁなんか出来ない理由があるからボクに言ってきたとは思うんだけど……。
<確かに、相手がこちらと同じクラス……指示系統にある船、配下に入ってるインスタンス船であればそれも出来たかもしれないんだが。 生憎、落ちたのは違うクラスの元で稼動してる船、しかもディアと同じジェネリック船でね。 こちらから一方的な転移をかける権限がないんだ。 それに旧タイプとはいえ同系列の船で、他者からの転移に対する防壁もしっかり機能しててね、手が出せず困っているんだ>
ううっ、なんかまた小難しいこといってるし。
ボクはちらっとアタマん中のデータベースから、その辺の情報を覗いてみたけど、あまりの複雑さに嫌気がさし、すぐ読み出すことをやめた。
<よ、要は、ディアじゃその船に手を出せないからボクの力でなんとかしろってこと? でも実際どうやったらいいの? さっぱり検討もつかないんだけど?>
<その点は心配無用だ。 落下ポイントについてはディアの方で落下までの位置情報を逐一モニターし続けていたから、ミリ単位で確定できる。 そして外観だが……デイア、頼む>
フォリンは説明のあとディアになにか言った。
ほとんど刹那、ボクの目の前に突然小さくて滑らかな銀色をした、正方形で厚みが余りない、四角の面にはリング状のかすかな膨らみがある……まるで『○pod』のような形をした宇宙船? のフォログラムが出現した。 フォログラムはボクに全体の形をしっかり見せるようにクルクルと周り、まるでそこにほんとにあるような錯覚を覚える。
自分のカラダで実践してるとはいえ、やっぱすごい。
<これって? もしかして……>
ボクがどちらともなく聞くと、
<そうです。 今回探し出す、というより掘り出す、でしょうか。 捜索対象のジェネリック船です。 外観サイズもこの通りとなりますので、見落とさないようくれぐれもご注意願います>
はぁ? 外観サイズがこの通りって……、これ? こんなサイズで?
<ちょ、ちょっとディア! これ一辺、4センチあるかないかってとこなんだけど? これで宇宙船~? み、ミニチュアサイズじゃないの~っ?>
ボクは思わずそのフォログラフに指を指しながらディアに問いかける。
<そうです。 何を今さら慌てふためいてるんです? あなたも散々私に乗っているではありませんか? ……ああ、そういえばあなたに私の姿を直接お見せしたことはありませんでしたか。 では今いいます>
ディアはもう恒例となった後出し説明を始め出す。
なんでも転移の祭に、ボクとディアの相対的な大きさについて整合をとり、乗船出来ているらしい。 ボクが縮んでるんじゃなく、空間自体のスケール? みたいなのがその船の中と、外とで違うらしくって見た目はこんなに小さくても中はリアルですっごくでっかいらしいのだ。
もうボクの理解の範疇、とうに超えてるよ。 データベース見ようとも思えない。
見た目は小さいけど、中は宇宙船らしく広い。 そう覚えとこ。
なんでわざわざそんなことしてるのか? ちっちゃい見た目の方が色々融通利いたりするのかもね? まっ、どうでもいいや。
そのあと色々注意事項を聞かされ、ついにボクの出番。
空中で翼をめいっぱい広げ、静止した状態でいるボクの手には、かなり長い、まるで槍のような形状をしたモノ。 先端は二股に分かれてて、一見すると音叉みたいな形だ。 音叉の付け根から少し離れたところに、柄の周状に沿うように台形をした、薄いフィンのようなものが4枚出てて、先端にはエメラルドグリーンをした宝石みたいなのが埋め込まれてる。
柄のもう一方の先っぽにも、よくある宝石のダイヤモンドみたいに複雑にカットされた多面体の石がはめ込まれてる。
<粒子収束砲へのエネルギー供給を開始します。 蒼空、リンクスタートしてください>
ディアの言葉に、うなずくボク。
リンクっていうのは、この槍みたいなのを使うとき、ディアとボクの間でエネルギーラインをつなげるための回路をボクが開けるってことだ。 ディアから強制的に開くことは出来ず、ボクが意識しない限りこの回路が繋がることはない。 その逆も同じだ。
ボク単体でこの槍を使えばボクの生体エネルギーだけでは、3秒ともたず枯渇してしまい、生命活動が停止してしまうって脅された。 なんてものボクに使わせるんだよ? 誰得なの? これ。
まあ、そんなことはともかくリンクをスタートするとボクのカラダが、どういう仕組みかわかんないけど、淡く発光し槍を掴む手からエネルギーが流れ出ていってる感覚が伝わってくる。 ボクは右目に意識をちょっと向けると、目の前に色んなデータが写しだされる。 よくある、戦闘機とかで照準をつけるためのディスプレイみたいな感じだ。 まじボク、人間やめてない?
始めは目は閉じてたんだけど、開けててもちゃんと見れることに気付いた。 気付いたのはほんと最近だけど。 ディアのやつ、ほんと細かいトコ全然教えてくんない。 チュートリアルで覚えろばっかだ。 けちくさいんだ、ほんと。
<蒼空、余計なこと考えてないで集中してください。 目標の座標を送りますから、そのポイントに指定のパワーで、それに範囲もきっちり収束させて、指定時間の間のみ正確に……>
<ああん、もう! わかってるから。 そんなにしつこくアタマんなかでわめかないでよ!>
ボクは事細かに、くどいくらいに説明しようとするディアがあまりに煩わしくって閉口してしまう。
<すまない、蒼空くん。 ディアも早くアレイ……アレイというのは今埋まってしまっているディアの類似船の愛称だが……を救出したいと、焦っているんだろう。 許してやって欲しい。 私としても乗員のことも心配なのでね、蒼空くん、よろしく頼む>
ディアが焦る? ボクはコンピュータが焦るってことあるのかな? とちょっと驚きながらも、中二コンピュータならアリかも……なんて変な納得をしてしまった。
「とりあえず了解したよ。 じゃ、準備完了したし、撃っちゃうよ?」
ディアから送られてきた座標を確認し、槍の先端をそこに向けながらボクは、自分に気合を入れるためにも、口に出してそう言った。
<頼みます>
<頼んだぞ!>
二人の言葉にうなずくとボクは槍を脇に抱えるように両手でしっかりと支え、次いで、翼にきっちり意識をやって場所を固定、それに答えるように輝きを増す翼。 きれいだなぁ。
槍の先端にエネルギーを徐々に集中するよう意識を向ける。
暗めの銀色をした音叉がほのかに輝き始め、それが次第に明るくまぶしいくらいになってくる。 銀色だった音叉がピンク色に変わり、それがさらに淡いピンクに変わり、やがて真っ白になる。
四つのフィンの先端の宝石からプラズマ状の光が出たかと思うと、やがて槍の周囲にまるで衛星のように、槍を中心に周状に配置される。 その4つのプラズマみたいなもので出来た衛星からはまばゆいばかりのエメラルドグリーンをしてて、パシッパシって音をたてながら光ってる。
衛星にはフィンからプラズマ状の光がとぎれることなく続いていて、エネルギーが供給され続けていることが伺える。
ボクがさらにエネルギーを注ぎ込むよう意識を向けると、真っ白な音叉の二つの先端からそれぞれ光が漏れ出し、先端から出た光は、中央で収束、まばゆいばかりに輝く真っ白い光の玉となる。 そして音叉の二対の棒の間隔がジワリと広がりだし、それにつられてその間の光玉も大きく、もう凶悪なほどのプラズマの嵐のような玉になっていく。
ボクは、右目に示される情報を見て、ディアの指定した出力になったことを確認する。
「いくよ!」
ボクはディアの示す座標に向い、その暴走してしまいそうなエネルギーの塊となった槍に、
「いっけ~~~!」
思いっきりそう念じるとともに、つい叫んでいた。
声がかわいらしい女の子の声で、ちょっとうわずってしまったのはナイショだ。
周囲の広がっていた四つの衛星から、槍の先の一点めがけてプラズマ状の奔流が放たれる。
それと同時に音叉の中心の光の玉からも同様の奔流が放たれ、それぞれ放たれた高エネルギーの光の玉はその一点で融合し、一瞬、目が眩むほどの光を発したかと思うと、あれほど放たれていたプラズマ状の奔流がなりをひそめ、静かな、驚くほど小さな玉になる。
刹那。
その玉は、ボクがポイントした地表の一点めがけ、すさまじいばかりの勢いで射出されていき、その後には稲光のような輝きが幾重にも尾を引くように続いていく。
そして数秒遅れで、ピシピシッっと鋭い音が鳴り響き、さらにその後にお腹に響くような低音が響き、まるで空気まで震わされているような、異様な雰囲気に満たされた。
我ながら怖くなってくる……何度かディアの中で試し撃ちしたけど……。 やっぱ、本気でほんとの的めがけて撃つと……。
あ、れ? 的っていえば。
ボクがそう思ったのと同時に。
ボクが放った光弾、というかエネルギーの束は山肌に接すると同時に、周囲500m四方に積もる雪、全てを一瞬で蒸発させ、露出した地面に直径3mほどの深い穴を開けた。
その穴の深さはいったいどれくらいあるのか? 伺い知ることは外からじゃ、とても無理そうだった。
ボクは構えていた槍をだらりと下げ、その光景を呆然として見ていた。
自然、高度がだんだん下がっていく。
<蒼空、完璧です。 よくやってくれました。 後はこちらでなんとか出来ます。 自宅に戻ってもらってけっこうですよ>
ディアからそんな声がかかる。
「ちょ、ディア! い、今の、今のって……」
ボクはちょっと口に出すのが怖くなって躊躇してると……。
<蒼空、君が何を心配してるか想像は容易いな。 大丈夫、先ほどの粒子収束砲程度では、我々の宇宙船はびくともしないよ。 エネルギーも相当絞ってるしな>
あ、あれで絞ってるの? びくともしないの?
<まぁ、ディアクラスの船を破壊しようとするなら、こんな惑星大気のなかでは無理だろう。 少なくとも宇宙空間で、エネルギーもさっきの5倍以上は充填しないとな>
宇宙……、5倍……。
な、なんだよそれ? もうわけわかんない。
やっぱボクにこの二人の世界のこと、理解するのは到底無理ってことはよーくわかったよ。 いくら知識もらったって、使えなきゃ知らないのとおんなじだし。
ボクはタメ息を付く。
それと同時にその姿がにじむようにゆがみ出し……まるでそこには始めからなにもなかったかのように、ただ空間だけが広がっていた。
一瞬で蒸発した雪は、厚い雲となり、再び雪を降らせ始めていた。
深く深く穿たれた穴、その深き穴の底近く。
そこには真っ暗な周囲をかすかに照らすように、小さく輝く物体が浮かんでいた。
そしてその様子を離れた山の頂、数多くの登山道具に身を包み、手には一眼レフのカメラを持ち、驚愕のまま目を見開くようにある一点を見つめている人影。
その目は、蒼空が消えたその空間をいつまでも見つめているのだった。
字数ばかりがどんどん増えます。
それに対してお話しは……。
精進したいと思います。