第三話 家族とボクと言えない秘密
あれから何度かお空の散歩を楽しみつつ、飛ぶ練習をいっぱいした。 まぁ練習っていうより、遊んでたっていった方が正しいかもしんないけどね、えへへ。
それにしても始めて飛んだときは気が回らなかったけど、フォリンの宇宙船の姿はどこにも見えない。 だから未だにどんな姿形をしてるのかさえ、わからない。
そもそも船から出たり、入ったりするのはディアに転移させられてるから見る機会もないし。 ボクが出現してる場所もいったいどこなのか全然わかんないし。
いっつも蒼い空に青い海のおんなじとこだからかなり飽きてきちゃったよ。
でも、最初のあのボクの記憶……、メモリー動画で見たイメージからすると、たいして大きくない? それどころかすっごく小さい気がしてならないんだけど。
けど、ボクやフォリンが中に入ってるんだし……、宇宙船の中でも飛び回ったり、カラダになれるために走り回ったり。 それに、あのバカみたいにすっごい威力の……技。 あれも試したりしたし。 杖みたいなのは使わなきゃいけないのかちょっと疑問だったけど。
ほんとどうなってんだろ? あの船。
それにしても、魔法少女を再現するなんてバカなこと、実際にやろうとして、しかもそれ出来ちゃってるし。 まじ、信じらんない変態宇宙人にコンピュータだよ。
あきれてモノも言えない……。(だいたい、どーやってそんな情報入手……ってこれは考えるだけヤボかな? なんだって出来るよね、この二人なら)
命を助けてもらったことは、とりあえず感謝はしてるけど、納得はしてない。 なんといっても、ボクに落ち度なんて何にもないんだし、こ、こんな、こんな女の子のカラダになんてなってるし!
<そのようなすばらしい体にしてあげたのだから、感謝してもらっても良いと思うのですが?>
「うわぁっ!」
宇宙船のどこか用意してもらった一室。 テーブルとイスだけの、他になんにもないその部屋で、ぼーっとそんなこと考えてた矢先のこと。
唐突にボクの思考の中に割り込んできたディアに、ボクはまじでビックリしてしまった。
「ちょ、ちょっと! ディア。 勘弁してよ。 心臓に悪いったらありゃしない! 止まっちゃったらどうすんのさ? お願いだから普通に音声で声かけてよ~」
「これはまた異なことを言いますね? この私が持てるあらゆるテクノロジーの全てを注いで修復したそのボディが、たかが遠隔感応通信ごときで停止するなんてこと、万に、いや億に、いやいや京に一つもありはしません」
「うぅ、そんなこと言ってるんじゃなくって……」
ボクが説明しようとしたところに、更にかぶせて話してくるディア。
「いえ、言わせてもらいます。 そもそも蒼空。 その体がどれほどすばらしいものかあなたは理解していますか? この地球で作ることが出来ないことくらいはあなたにでもお分かりでしょうが、はっきり言いましょう! あなたほどのボディ、我が銀河群の中に置いてさえ、比肩するものはないと断言できます!」
そ、そんなこと断言されても……。 ぼ、ボクにどうしろと?
「そんなことしてって……頼んだ覚えないし。 ごく普通のカラダで良かったのに」
百歩、ううん、千歩譲って女の子のカラダになっちゃったことはガマンするにしても……あの規格外もいいとこの人外なこのカラダ、ボクにどうしろっていうのさ? まぁ、お空を飛べるのはちょっと、いや、結構うれしいかもしんないけど。
「理解いただけないようで残念です。 まぁ、おいおい理解いただけると確信していますが。 なにしろあなたの頭脳も……」
「おい、ディア! いいかげんにしておけ。 蒼空くんが困っているだろう」
フォリンだ!
良かった~、ちょっとはましな人が来た。 フォリンも変態だけど、ガチガチ理屈づめの中二コンピュータのディアよりはよっぽどマシだ。
「フォリン? どうしたの。 もしかして、ようやくボクお家に帰れるとか?」
ボクはさっきまでのディアとの会話を完全無視でぶった切り、フォリンに今一番気になってることを聞いた。
「ああ、そうだな。 一通りその体の機能の説明は済んだし、それにチュートリアルも君の脳内にインストールしてある。 体の維持・管理にはピコマシンやナノマシンが存分に力を発揮してくれるだろうし、自己治癒や修復、それに増殖能力もある。 そしてなにより、遠隔感応通信を使えばいつでもディアや私と交感出来るからな」
な、なんか前も説明受けたけど、改めて聞かされるとなんかボク、もう色々……。
ボクってまだ人間なんだろうか?
<もちろん、人間ですよ?>
くぅ~、ディアめぇ。 また勝手に人の考えてること読んでるし……。
「あなたの体のベースとなっているものは、地球人である柚月 蒼空 のものですし、外見的にも、内部的にもこの惑星のテクノロジーではまず気付かれることはないでしょう。 ただ、怪我などした際は治癒速度等気付かれないよう、臨機応変に自分で調整してください」
うへぇ、治癒速度の調整……だなんて。 なんか余計人間辞めてるような気がしてきたよ。 だいたい、紫がかった白い髪に、赤と碧のオッドアイ、体も白いしさ……、それだけでも十分変だと思うんだけど……。
「あ、そうそう、もちろん雌の機能も順調に生成出来ていますから、ゆくゆくは子供もしっかり生産することが可能です」
ううっ、こ、子供? ぼ、ボクが? つうか生産ってなにさ、生産って。
「そんな、こ、子供って。 ボク自身まだ子供なのにぃ、それに男の子ぉ……」
……うう、もう言えないんだ。 男の子だって。
「蒼空くん。 別に今すぐ子供は作らなくていいんだからな? それにまだ出来る状態にまでは至っていないらしいからな」
「つ、作りませんっ! 何フォリンまで、ば、バカなこと言ってんですか!」
もういや、こいつら~!
「まぁ、そういうな。 ということでだ、そろそろ蒼空くんには元の場所に戻ってもらおうか」
やっと話しが戻ったよ。
これでお家に帰れる……。 帰れ、る。 帰れる……んだ。 か、帰るのはいいけど。 いいんだけどっ!
「ああ~っ!」
「どうしたんだ? 蒼空くん?」
「ぼ、ボク! 女、お、女の子! 女の子じゃん! お家で、お母さんやお父さんにどうやって説明したらいいのさっ」
ボクは自分のカラダに起こったことでアタマがいっぱいいっぱいで、こんな大事な、重大なことすっかり忘れてた!
「髪の色や目の色だなんて、それどころの問題じゃ、全然ないじゃんか~!」
あ~ん! もう、いやだよ~こんなの。 勘弁してよっ!
ボクは、これ以上ないほど落ち込んでしまった。
フォリンがなんか色々声かけてくるけど……全然耳に残らない……。
「はぁ。 どうしたらいいの?」
途方に暮れてるボクに、しかしディアがこんなこと言ってきた。
「その点は抜かりありません。 ご安心ください」
ずいぶん自信たっぷりだけど、どういうことなの?
「でぃ、ディア? なんかいい解決策あるの? も、もしかして男の子に戻れるとか?」
「しかけは見てのお楽しみというやつです。 どうやって元の場所に戻るのかも含め、詳しく説明しますから、安心して泥舟に乗った気でいてください」
ど、泥舟……。
ボクはディアのその本気だか冗談だかわからない言葉に、一抹の不安を抱かずにはおれなかった。
そしてボクの前でフォリンも、何ともいえない表情で(ボクもだいぶとフォリンの表情が読めるようになったのだ)そのディアの言葉を聞いていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ボクは今、お家の前まで戻ってきてた。
驚いたことに今はまだあの事故から3時間ほどしかたってない、夕方6時前だ。
ボクはあの宇宙船に3日は寝泊りしてたはずなのに。 まぁ、あくまでボクの主観でだけど……。 時計もなかったし。
ディアが言うには、船内の時間の流れを加速することで外部との時間を意図的にずらし、ボクが事故の合った日にぎりぎり戻れるよう調整しながら事を進めていてくれたらしい。
さすがに言葉がでなかった。 ボクらの世界とはまったく、全然、レベル違うよね。
そして問題のボクの姿。
学校指定のカーキ色のブレザーに紺と赤のチェックのスラックス。 白いシャツの首元にはこれも紺に赤のストライプが入ったネクタイ。
ちゃんと男の子の制服だ。 そして肝心のボクの見た目だけど……。
残念な身長140cmのちびボディに女の子にいつも間違われる、悔しいくらいの女顔。 髪の毛は肩に届くか届かないかの長さのナチュラルヘアで、当然、黒髪に黒目、肌はやっぱ色白だけど……真っ白ってほどでもない。 ちびなカラダは華奢だけど、胸も出てないし、アソコも見た目はちゃんとついて見えるのだ。 もちろん男の子のシンボルね。
どうやってこうゆう芸当が出来たのか?
秘密は今も胸に下げてるペンダント。
シルバーの鎖の先に、小さな、角が丸くとれた長方形の、深い吸いこまれそうな赤色をした宝石のようなものが付いたペンダントで、もちろんその宝石みたいなのに仕掛けがされてるみたい。
その宝石を手にとり、『ハリューシネイション』ってキーワードを唱えれば、驚くことに女の子の姿から今のこの姿に。
真っ白だった女の子の姿から、髪も目も黒い、男の子の姿に変わることが出来ちゃう! すごいよね? まるで写真のネガとポジみたい。 白い女の子から黒い男の子。 ほんとビックリだ。
ただ、これにも欠点があるみたい。
ディアがいうには、見た目はホンモノと寸分たがわぬほど、忠実に再現された3Dフォログラムで、目で見る分にはばれる恐れはまずないらしいんだけど。
更にある程度なら、触った感覚も特殊なフィールドを発生させることで、対象に触ってるって認識させることが出来るらしいんだけど……。
残念ながら、しっかり力をこめて握られたり、引っ張られたり、その対象を意思を持ってきっちりどうにかしようとかされちゃうと、どうしようもないらしい。
そりゃそうか。 無い物はないんだ。 掴みようないもんね。 触った感触っていうのとは訳が違うかぁ……。
ボクはふと、お○んちん触ろう、とかされちゃったらアウトだな……なんてバカなこと考えちゃった。 だって今のホントのボクには、それもう付いてないんだもん。
……あと、そういうフォログラムやフィールドを発生させたりさせるために当然エネルギーを使うから使用限界時間があるらしくって、それが7時間32分42秒……なんだって。
なにその中途半端な時間。 でもまぁ、とりあえず電池切れさせないよう気をつけなきゃダメってことだよね。
まぁ、チャージはボクが身につけてれば、ボクの生体エネルギーで2時間ほどで自然とされるらしいけど……。
なんにしても面倒なことこのうえないよ。
はぁ、バレなきゃいいんだけど……憂鬱だなぁ。
「あ~っ、お兄ちゃん、居た~!」
ボクがお家の門の前で入ることにちょっとためらいながら考え込んでたら、面倒なやつに見つかってしまった。
「なにこんな時間までお外、ほっつき歩いてるの~? おかげでお母さんに様子見てきてって頼まれちゃったんだからねぇ。 ねっ? お父さん」
春奈が一緒に歩き回ってたらしく、隣りにいたお父さんに話しをふる。
きっとほんとは、お母さん、お父さんに見てきてって頼んだんだ。 春奈はぜったい、お父さんにひっついて出てきただけに決まってる。 調子いいよ、ほんとに。
「ははっ、まぁそういうことだ。 蒼空! おまえ、もうちょっと早く帰ってこなきゃダメじゃないか? 母さんが心配するだろ」
「えっ、う、うん。 わ、わかってる、今度から気を付けるから」
ボクは素直に謝る。 お父さんに悪い子って思われたくないもんね。 それにしても、お父さん……、
「そ、そういやお父さん、今日はどうしたの? いつもならまだお仕事でしょ? こんな時間にお家にいるなんてめずらしいね?」
いつも残業で帰りが遅いお父さんが、こんな時間にお家にいるなんて奇跡だ。 だから春奈も、うれしくってひっついて来たに決まってる。
「お兄ちゃん、そんなこと聞いて自分が遅くなったこと、ごまかそうとしてるでしょ~? 遅くなった理由、当ててやろっか?」
ぎ、ぎくっ! なに、春奈? ボクの秘密知ってるの? ど、どうして……。
ボクはまだ心に余裕がなかったためか、春奈の言葉にあっさり動揺してしまう。
「な、なに言ってるの春奈。 べ、別に、り、理由なんてないもん!」
「わぁ、お兄ちゃん! すっごく焦っちゃって、お顔まっ赤だよ? にひひぃ、春奈知ってるんだもんね! お兄ちゃん公園で……」
ううっ! な、なんでいきなりばれちゃうの? もうダメ~!
「ラブレター読んでるんでしょ~?」
へっ? ら、らぶれたぁ?
「お父さん、聞いてっ! お兄ちゃんったらね、男の子からいっぱいラブレターもらっちゃってるんだよ、おっかしいでしょ~? 毎週3、4通はもらってるよ。 お兄ちゃんは公園で見て、ばれないようにしてるつもりなんだろううけど、春奈にはお見通しなんだから~」
春奈ったらニヤニヤしながらボクの方を見て、それからお父さんにもボクの黒歴史を事細かに説明してくれちゃってる。 くっそ~、ほんっと、にくたらしい妹なんだから~!
でも。 良かった~、ボクの秘密がばれたわけじゃなくて。 よくよく考えてみれば知ってるわけないんだった。
ドキドキして損しちゃったよ。 まったく。
「でも、仕方ないか? お姉ちゃん、かわいいもんね?」
「は、春奈! お、おまえな~!」
ボクは春奈の「お姉ちゃん」発言に、「ぷちっ」とどこからか音が聞こえた気がする。 そして春奈を捕まえようと、手を伸ばしながら(力を思いっきり加減して)ダッシュをかける!
「キャ~、お姉ちゃんが怒った~!」
「ま、まだ言う? 春奈、こら待て~!」
お姉ちゃん発言してすぐさま逃げ出した春奈は、そのままお父さんもほっぽり出して、お家の中へ駆け込んで行った。
ボクはそんな春奈を追いかけつつ、チラッとお父さんを見る。
背が高くてかっこよくって、いつも優しいお父さんは、ボクの(まぁ、春奈も混ぜてやってもいい)自慢のお父さんだ。 今もボクと春奈の兄妹ゲンカを困ったような、呆れたような、でも優しい笑顔を浮かべながらボクらを見ててくれている。
ボク、帰ってこれてほんと良かったよ~!
っと、感傷にひたってちゃダメだったんだ。
ボクは笑顔を見せてくれているお父さんに、とびっきりの笑顔を返し、お家に逃げ込んでいった春奈の追撃に向ったのだった。
これからボク、女の子であることを隠しながら生活していかなきゃならない。
お家には当然、お母さんっていう強敵が控えてる。
春奈とお父さんはまぁ、なんとかなるだろ。
それとガッコだ。 男友だちの悠斗や晶はともかく、難敵は女子の亜由美ちゃんに優衣ちゃんだ。 特に優衣ちゃんのねばっこさは要注意だ。
あ~あ、ほんと先が思いやられるよ。
やっぱ、ディアの船は冗談抜きで泥舟なんじゃないか?
そんなことを考えるボクなのだった。
さっそく話しのペース、遅れ気味。
どうしても字数ばっか増えて、話が進まないのです。