第二十六話 春奈の場合
すみません。
力不足で終わりきれず……
地球の衛星軌道上に浮かぶ、巨大構造物。
人類が科学の粋を結集し建造した……宇宙で唯一、生物の存在が許された場所。
国際宇宙ステーション(ISS)――。
今そこに巨体を浮かべている……それは、役目を終え大気圏内に落とされた初代のものと違う第二世代のものであり、その規模も2倍近く大きい、全長150mを越えるものとなっていて、それら軸となるメインモジュールからは多数の方向に大きく翼を広げるように太陽電池パネルが展開され、ISSをさらに巨大なものに見せていた。
内部には常に10人ほどのクルーが滞在し、日夜、ISS参加各国の各種科学&化学実験を行なう巨大実験施設だといえよう。それに加え、まだまだ少数でありサブ的なミッションではあるものの宇宙観光事業などにも力を入れつつあり、富裕層のリタイア後の一風変わった旅行オプションとしてなかなか受けがよいものである。近年など、民間人がISS滞在記録を競ったりして半年を越えることもざらにあり、宇宙飛行士も顔負けである。
とはいえISSのメインミッションが国や企業から請け負う実験であることに変わりはない。
そんなISSのとある実験モジュールで、ロボットアームを用いながら船外活動のサポートをしていたクルーがあることに気付く。
「おい、あそこに見える光、輝きがだんだん増してきてやしないか?」
そう言って、隣りで船外活動をしている飛行士のモニタリングをしている同僚に、光点に向け指を指しながら声をかけると、
「あなたも気付いてた? 私もちょっと気にはなってたんだけど……。こんな宇宙空間に近い場所で星が瞬くってのも変だし……デブリが近づくって観測情報もないし……そもそもそれなら方向が見当違いよね?」
二人はその光点が気になり疑問を交わしつつも、ミッションを疎かにすることも出来ないため、作業に集中しようと意識を船外の同僚に向ける……と、その時だった。
けたたましい警報音がISS内に鳴り響いた。
「「なに!?」」
「ど、どうした?」
オペレーションをしていた二人、そして船外の同僚までもがその警報に驚きの声をあげる。もちろん、それはISS内にいる他のクルーも同様だった。
わずか数秒、ほんの数秒、二人が目を離しただけであった……光点。
その光点であったもの――そのものが今。
ISSからわずか数百メートルの距離……宇宙的スケールでいえば、ほぼ同じ位置。
今まで何もなかったその空間にそれはあった。
あれほど存在感を誇示していたISSが霞む……その威容。
そこには、薄い直方体をした巨大な物体。
にぶい銀色に輝きながらどこまでも滑らかな表面を見せる……美しい姿。
そう、それは、ライエルの星船。
ディアことクラウディアの姿だった――――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
お姉ちゃんが遠い遠い……星の彼方に行ってしまってから10ヶ月と少しが過ぎた。
私は中学二年生になり……お姉ちゃんは、もし学校に通ってたら三年生になってたはずだった。あの日、お姉ちゃんが旅立ったのは夏休みを控えた暑い季節だったけど、今は春が過ぎて梅雨にはまだ早い……さわやかで一番過ごしやすい季節。
私はお姉ちゃんが使ってたお部屋の窓を開け、そのさわやかな空気を中に入れる。部屋の主が居なくなってからというもの私はずっと……、そう、いつお姉ちゃんが帰ってきてもいいようにと、週に一度はこうして空気の入れ替えやお掃除をしてるのだ。
「うん、きれいになった。ったく、こうやっていつ帰ってきてもいいように、お部屋きれいにしてあげてるんだから……たまには顔見せに帰ってきてよね。ほんと出てってからというもの……無事着いたって連絡が入ったきり、それ以降全然音沙汰なしで便りの一つもよこさないし……。
元気にしてるのかな? 弱虫で泣き虫なお姉ちゃんだもん……さみしがったり、体調くずしたりしてないかな? もう、いたいけな妹に心配ばっかかけてさ。さっさとなんか連絡入れろっての……ほんとにぃ」
ううっ、だめだだめだ!
お姉ちゃんのお部屋を掃除してると、つい独り言っていうかグチが多くなってしまう。
私は頭を振って気分を切り替え、なんとはなしにクローゼットを開けて中にかけてある、お姉ちゃんが女の子になってから買った小さなサイズのかわいらしいお洋服を見つめる。
「ふふっ、女の子になったお姉ちゃん……ほんとかわいかったなぁ。今でもまだチビのままなのかなぁ? それとも少しは成長してるのかな? あのグレイみたいな宇宙人さんも成人するまでは体は成長するって言ってたし……。あーあ、ほんと……お姉ちゃん、会いたいなぁ……」
――結局、独り言が尽きない春奈なのであった。
そうやって春奈が変わった容姿を持つ小さな姉のことを想いつつ、蒼空の部屋でまどろんでいると、階下から騒騒しく階段を登る音がし……その音はまっすぐ蒼空の部屋に向ってくる。
「春奈っ! た、大変だ! す、すぐ下に来て一緒にTVを見なさいっ!」
部屋に入るなり大きな声でそうまくしたて、取り乱しているのは……姉妹のかっこよくて頼りになる……はずの父親、雅行だった。
「ちょ、お父さん、いったいどうしたの? そんなに慌てちゃって。もう、カッコ悪い~」
春奈がそうやって突っ込みを入れるも、
「そんなことはどうでもいい! いいから早く一緒に来なさい!」
今にも手を引っ張り、引きずってでも連れて行く、という素振りを見せる父親の剣幕にたじろいだ春奈は、訳がわからないまでもとりあえずその雰囲気に呑まれ、素直に大型の液晶TVが置いてある一階のリビングへと向うことにした――。
リビングに入るとそこにはすでにお母さんもTVの前に居て、何か真剣な顔をして……ずっとその画面を見入っていた。
「お母さん、いったいどうしたの? お父さん、なんだかすんごい剣幕で二階に来てさ、TV見ろって言うんだけど?」
呼びかける私の声にもどこかうわの空のお母さんが、それでも私の方をチラリと見て……そしてその手をTVに向け指差して言う。
「春奈……、その、いいからTV……ご覧なさい」
お母さんのその言葉に私は軽くため息をついてから、ソファーに腰かけてTVを見てるお母さんの横にボスンと座り、見ろ見ろとうるさく言われたくだんのTVを見つめる。
ソレを見て私は言葉を失う。
「な、なにこれ……」
まず最初に目に入ったのは、派手派手しい装飾された文字を使い、画面の1/4近くを占めずっと映し出されてるテロップ。
そこに書いてあるその文字にまず我が目を疑った。
そこには……、
『やはりいた宇宙人! 国際宇宙ステーションが巨大UFOと接近遭遇?』
『本日、米国・日本・他、各国首脳が緊急声明発表か?』
私はしばし呆然とした表情になり……、お母さん、そしてその横に座ったお父さんの顔を覗き見て自分と同じ表情なのを確認、そして再びTVを見る。
流されてる番組では、選挙の報道番組のように大勢の大人の人が集まっていて、有名なニュースキャスターの男の人を司会に、あーだこーだとそれぞれの意見を言い合っていて……誰もがそのとびっきりのニュースにすっごく興奮しているのがわかった。
そんな中、時折り画面が切り替わり、国際宇宙ステーションからの映像が映る。たぶん何度も何度も繰り返し映し出されてるんだろうそれは……私も見たことのある忘れられない形――――。
「く、クラウディア……」
思わず口をつくその名前。
私の言葉にお母さんとお父さんが私を見る。
「……だよね。あれって、あれって、お姉ちゃんを連れてった、クラウディア……ディアだよね?」
「そうだな。あれは蒼空と別れる前に見て、乗せてもらったクラウディアに間違いない……」
お父さんが私の言葉を肯定し、番組を途中から見た私に説明してくれる。
「春奈、どうやらクラウディア、ディアが堂々と国際宇宙ステーションの前に姿を現したらしい。それでな、その、ことはそれだけじゃなく、それを皮切りに地球上のあらゆる政府にその存在をアピールするためか、その姿は各国の主要都市に現れ、ディア以外にも何隻か姿を顕わしたらしい。もちろん日本も例外じゃない」
お父さんのその言葉を補うように、TV画面には次々映像が映し出されてる。
東京……これスカイツリーの上空? アメリカの……これは女神さまのとこね。それにパリの凱旋門……、ロシアのたまねぎみたいな宮殿、etc……。
そんな場所におっきな(確か400m以上あるって言ってたよね? 当の本人? ディアが)UFO?……が浮かんでるのはなんともシュールだ。ほんと、どうやってあんなばかでっかいのが浮かんでられるんだか?
「な、なんて派手な……。こんなことしちゃって……軍隊とか大丈夫なの? っていうか……そんなことより! お姉ちゃんは? お姉ちゃんはどうなってるの? ディアがいるならお姉ちゃんも一緒じゃ?」
私は驚きに始めこそ呆然としたものの、すぐそのことに気付き、お父さんに尋ねる。
「うん、それなんだが……どうやらディア、っていうかあの異星人……たしかフォリンといったっけ? その彼が、地球各国の首脳と会談を希望してるようなんだ。で、その場所を日本に指定してきてるということなんだ。ああほら、ちょうどテロップが出た。それがどういうことか……何か想像できないか?」
お父さんのその言葉に急いで画面を見る私。
『なぜ、日本なのか? 米・露・中の大使からは不満の声?』
『宇宙人が日本での会談を希望! 宇宙人は日本びいき?』
な、なんて間抜けなテロップ……。
でも、あながち的外れなこと書いてるわけじゃないんだよねぇ……。私はディアが日本に居たときのことを思い出し……アキバ好きの異星人の姿を思い浮かべ、苦笑いするしかない。
でも、日本を希望するってことは……そういうことだ。
きっとお姉ちゃんも一緒に帰ってきてる!
なんですぐ私たちに連絡くれないのか……不満はあるけど。
きっともうすぐ会える。
私はそのことに考えが及ぶと自然と頬がゆるみ、笑顔になる。
TVは相変わらず、喧々諤々の大騒ぎだけど……、きっと世界中がそんな騒ぎになってるんだろうけど。
私にとって大事なのはお姉ちゃんのことだけだ。
ああもうお姉ちゃんったら。早く連絡よこせっつーの!
会ったらぜーったい、文句言ってやるんだから。
覚悟しときなよね!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あの騒ぎのあと、すぐに会見が開かれるのかと思いきや……やっぱり色々政治の駆け引きとかあったのか、それともただ単に出迎える準備時間が必要だったのか?
世界中が注目する中、日本での会見はいきなりの襲来から三日たった今日、行なわれることになったらしい。
しかも、なぜか東京ビッ○サイトを会見場所に希望してきたらしく、政府関係者は皆なぜそこなのか? と首をひねっていたらしい。
なぜそんなことがわかるのか? っていえば、それら全ての交渉事は公の元、マスコミ、報道陣をも交えて行なわれていたからで、政府関係者得意の情報操作なんてする余地もなかったみたいだ。
うーん、ビッグ○イトといえば……お姉ちゃんやディアから聞いた……アキバ好き、サブカル好きのフォリンが気にしてた催しがあるとこだよね? ま、まさかと思うけど……そ、そんなことが理由だったりして?
ううっ、ありえ過ぎて笑えない……。
それにしてもこの三日間というもの、世の中のお祭り騒ぎには呆れるばかりだった。その一番の理由……それは当の宇宙人そのものがまだ姿を見せてないからだって思う。
UFOの姿(もうUFO”未確認飛行物体”って言うのは変だっていう人もいっぱいいるけど……まぁ、もう未確認……じゃなくなっちゃったもんね)は世界中の国にいやっていうほどお披露目しちゃってたけど、肝心の中の人が全然現れない。そりゃもう、その間はマスコミの人たちにとって視聴率を稼ぐ恰好のネタになったんだと思う。
TVやネットで……色んな人が、それこそ好き勝手に自分の想像した宇宙人像を公開し、やれ自分のが一番正確だとか、そんな姿ありえないだとか……、実は地球の未知のウイルスが怖くって誰も乗ってないリモコン操作の宇宙船だとか。想像図とかCGもいっぱい出てたし、宇宙人を愛でる歌とか……果ては地球はこれでお終いだとか、突拍子も無いことを言い出す人たちもけっこういたりした。
米国やロシア、中国といった大国の軍隊はどうしたんだ? といえば……あまりのテクノロジー っていうの? その科学力だか技術力の違いを目の当たりにし、はなから無駄なあがきはせず、政治交渉に活路を見出しているらしい。
ま、一瞬で数百、数千キロ離れた場所に移動したり、船のサイズがおっきくなったりちっちゃくなったり……海に浮かんでた空母とかイージス艦とかいきなり陸の上に飛ばしちゃったり、コンピュータだってあっさり乗っ取られたりするらしいし……ほんと好き放題に軍隊をもてあそんだらしい。ったく、あのふざけた宇宙人やディアならマジ嬉々としてやってそうで軍隊の人たちが気の毒に思えてくる。
まっ、早々にあきらめて正解だよ、うん。
で、そうなったらそうなったで、各国が我こそは一番に友好国にってな感じで、他国を出し抜こうと水面下で色々な動きがある。……に違いないって、マスコミはこれも面白おかしく報道してるから、真実はどうあれ、ここでもある種のお祭り騒ぎになってるのは間違いのないとこだと思う。
そんな大騒ぎ、大盛り上がりを見せる中、ビッグサ○トでの会談の時間が刻々と近づいてきてた。当然その様子も全世界衆目の中で行なわれるはずで、秘密なんて一切ないオープンな会談だ。
私やお母さん、それにお父さんもリビングのTVで、そこにディアが現れるのを今か今かと……固唾を呑んで見守ってる。世界の人たちはあの船がクラウディアって名前のことも、中に乗ってる宇宙人がグレイみたいだってこと……それになにより、紫がかった白い髪したオッドアイの小さくてかわい~女の子が一緒に乗ってる(はず)なんてこと知りもしないだろう!
むふふっ、ちょっとした優越感? 一緒に出てくるかな? うーん、お姉ちゃんの性格からしてそれはないか? つうかなんて説明するのかちょっと興味あるな。
私がそんなふうに妄想を膨らませてたとき――、それはいきなり始まった。
『現れました! この三日間、世界中の都市に出現した宇宙人の船。我々の科学技術をあざ笑うかのような……まるで魔法のような現象や技術をまざまざと見せ付けてくれたUFO! 目の前にその巨体が忽然と姿を現しました! 何度見ても驚かざるを得ません!』
アナウンサーがこれまでの報道に次ぐ報道で叫び過ぎたんだろう、かすれた声で……それでも元気良く現地実況を始める。
『おおっ、なんとその隣りにもう一隻現れました! うーんちょっとサイズは小さめで……初めに現れた、いつも現れる宇宙船の1/3くらいのサイズでしょうか? これはこの三日間で見たことのない形です。そう、しいて言うなら……うーん』
形の表現を悩んでる男のアナウンサーの横にいるアシスタントの女性が助け舟を出し、耳元でささやいてる。だよね、女の人ならすぐわかるよ。だって……、
『なるほど~、そう言われてみれば。っと、失礼しました。そう、まるで女性が使う髪留めのような形をした……これまでのどちらかといえば簡素な直方体の船と比べれば、かわいらしい感じの宇宙船が現れました。いやぁ、宇宙人にも色々な趣味嗜好があるということなのでしょうか? 大変興味深いですね~』
ぷっ、なんて軽いアナウンサーなんだろ。
でも……かわいらしい……宇宙船。……かわいらしい……。
それってまさか?
私はなにげにアナウンサーが口にした言葉がひっかかり、はたと思い当たり……思わずお母さんを見る。
するとお母さんも同じだったみたいで、二人して目が合った。
「お母さん! あれってもしかして?」
「春奈、あの髪留めの形のかわいい宇宙船……」
言葉は違うものの言いたいことは一緒。
「「お姉ちゃん(蒼空)が乗ってるっ?」」
そんな私たちにお父さんは、乗り遅れ、ちょっと情けない顔してた。ぷふっ、まぁお父さん男だし、しかたないよ。
お父さんの姿にちょっと気が抜けた私だったけど、事態はどんどん進んでいってる。
『うーん、しかしいつ見ても不思議です。現れた二隻の宇宙船は何も支えるものがないにもかかわらず、まるで飛行船のように上空にぴたりと静止しています。ビッグ○サイトのシンボル、会議棟の逆三角形のわずか上空に静止するその姿はなかなか絵になる光景ではないでしょうか?
おっとぉ、今、その宇宙船の下に各国首脳を乗せているであろう黒塗りの車が近づいていっております! いよいよその時が近いのでありましょうかっ?』
すっごく盛り上がってきてるアナウンサー……、正直ちょっとひいちゃうよね。でもいよいよって思うのは私も同じ。
私、それにお母さんやお父さんももう画面を食い入るように見つめてる。
うーん、じれったい。胃に悪いよ、もうお姉ちゃん……居るならもったいぶらずに早く出てきなよねっ。
私はこの時、お姉ちゃんの姿を見たくて見たくて周りが見えなくなってて。
そこにお姉ちゃんが姿を現すことの意味。その後、どういう事になるか? だなんて、これっぽっちも考えてなかった。
ただただ無事な姿、……元気でいるその姿を早く見たい……そう思ってた。
そんなちょっとだけ切ない気分にひたってたら……
「「「「「「「おおおおおおおお~っ!!!!!!」」」」」」」
いきなりすさまじい、怖いくらいの歓声が沸きあがった。もうTVのスピーカーが割れんばかりの音だ。
『あ、現れました! まずは直方体の宇宙船の方からです! こ、これはっっ!
ぐ、グレイですっ! グレイが出ました~!!』
このアナウンサーあほだ。ばかだ。でも私とおんなじだ……。私もそう思ったんだよねぇ……初めてフォリンと会ったあの日。
『この予想は無かった~! あまりにもベタです。あまりにも世の中の宇宙人像にはまりすぎです! やり直しを要求しますっ!』
それにしても、ま、まじこのアナウンサーあほすぎる! つかこいつ、絶対賭けやってる。やってるよね? この三日間、そこらじゅうでどんな姿してるのか? って、賭け事になってるのネットで散々見たもん。ほんと大人って……ばかだよね。
なんてあきれてたら、TVから……あれほど騒がしかった歓声が聞こえ無くなり……、ビッグサ○トの展示場周りを埋め尽くしてるギャラリーの、あれほどうるさかった声が何もしなくなり……不気味な静けさがただよってた。
なに? なんなの?
私が疑問に思ったとき、TVのカメラが切り替わり、映像がグレイからもう一方の宇宙船へと変わった。
そこには……。
そこには……、懐かしい……、懐かしい家の天使がいた。
その天使は淡く光る、薄い円盤のようなものの上に立ち、どこからともなく現れた。
透き通るかのような白い、あまりにもキレイな半透明の翼を器用に折りたたみ、それでも目立つ……まるで本物の天使のような翼をもつ小さな姿。
その髪は紫がかった白色をした、綺麗でどこまでも滑らかな長い髪。よく見ると耳の上のほうで編みこみがされてて、それでカチューシャをつくるように頭の上にまわしてて、その下の髪は自然に後ろに流され……風が吹いてるのか、さらさらとまるで重さがないかのようにたなびいてる。それはなんというか、すっごく清楚でお上品に見える。
そしてさらにその左右で色の違う目、深い赤と、どこまでも澄んだ碧い目をしてて……その目の間から伸びるすっとした、でもちょっと小ぶりなかわいらしい鼻、ふっくらとしたこれも小ぶりな……ちょっと開きぎみな口。
ん? 額になんか付いてるように見えるけど……なんだろ? アクセ……かな?
そんな……かわいい、かわいい女の子。
そして私の大好きな……お姉ちゃん。
お姉ちゃんは、まるでお姫さまが着るようなどこまでも白い、純白の……肩先がパフスリーブになってて要所要所にフリルが付いたかわいい、でもちょっと胸が大きめに開いた細身のロングドレスを着てて……。ほんと、どこかのかわいらしいお姫さまのようだ。
そりゃこんなのが出てきたらビックリして声も出ないのも納得よね。
それになに? お姉ちゃんの周りにいる黒髪のかわいい女性と、すっごいプロポーションの金髪美女二人……。しかもその三人が三人とも、なんか色は違うけど同じように羽、生えちゃってるし。にしても、いかにもお姉ちゃんをお世話にしてるっていうか守ってるって感じがただよってきてて、お姉ちゃん、大事にされてるんだな……とも思う。
私は変なとこに目がいったりしながらも、久しぶりに見るお姉ちゃんのかわいくて綺麗な姿を堪能してた……んだけど、あっという間にその時間はぶち壊しとなった。
シーンと静まり返っていたのはきっと数秒にも満たない時間だったのだろう……。そのつかの間の沈黙はそれを取り返すかのような歓声で台無しとなった。
そしてその歓声の中、アナウンサーの男の人の言葉に私、そしてお母さんとお父さんは絶句するより他なかったのだった。
『ごほんっ、ただいま入ってきた最新情報です――。えー便宜上、髪留め型と呼ばせてもらいますが……そちらから出てきたとびっきりかわいい……驚くことに背中から翼の生えた天使のようなお嬢さんですが……。なんとあのもう一人の宇宙人、えーまぁグレイとは別の種族の宇宙人であるとのことです。
しかも彼女はその種族の長、要は女王さま!(え、違う? 領主? ま、まぁよく似たもんでしょ? 姫って呼ばれてる? いいじゃん、それいただき)……じゃなく、お姫さま! なんだそうです。ちなみにグレイはそのお姫さまの上で、星自体を治めてるお人だそうです!(まあそっちはどうでもいいけど)』
そのアナウンサーの実況の声に会場はまた地鳴りのようなどよめきが起きてる。
りょ、領主~? それに、なに? お、お姫さまぁ~?
な、なによそれ~!
お姉ちゃんは私の知らない間にお姫さまになっていたのだった。
次こそラスト……だと……思いたいのです。
それにしても……フォリン不憫。




