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そらリゼーション  作者: ゆきのいつき
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第十話 繋がる世界

「ディア、状況はどうなっている?」


 めずらしく焦った口調のフォリンが、難しい顔をしてディアに現状報告を急き立てる。


「はい、さきほどの所属不明のインスタンス船に関しては、残念ながら……現在ロストした状況となっています。 こちらの被害としましては、アレイのインスタンス船、3隻のうち、1隻が航行不能、あとの2隻は完全に機能を停止した状態になっています。 アレイ自体は前回の干渉を教訓に、追加の冗長回路を3重に施したお陰で、問題なしです」


 それを聞いていっそう難しい顔になるフォリン。 そんなフォリンにお構いなく更に話しを続けるディア。


「尚、私に関しては、今回の被害はまったくのゼロです。 こちらとしても前回とったような不覚は二度ととるつもりはありませんので。 アレイ同様、冗長回路を組み込んだことは当然として、更には、仕掛けてきた不明船にリフレクトして差し上げました。 私に仕掛けてきたインスタンス船はさぞや驚いたことでしょう」


「ディア……お前また勝手にそんなコトを! 分かってるのか? 当星域での我々監視船クラスの戦闘行為は禁止されているんだぞ?」


 フォリンがディアの発言に対し、あきれながら苦言を言う。


「そのようなことは当然認識しています。 しかし私の行なった行為はただ単に、反射したことだけ。 攻撃行為でもなんでもありません。 それでもし、相手が何がしか不幸な出来事が起こったとしても……それはこちらは一切関知しないことです」


 ディアはそう言いきると、今度はフォリンに対しこうのたまう。


「そもそも我々の不干渉フィールドを中和し、なおかつ中枢機能にまで食らい込むジャミングをしかけ、完全な機能停止に追い込み……遠隔誘導により我らの自沈を仕組んでくるなど……卑怯千万。 この王家直属ジェネリック船クラスに、こそこそ影から小細工をしかけてくるなど敵にしてもせこすぎます。 こんなものたちを見逃すなど、そこの地球の月が許しても私の矜持が許しません!」


 フォリンはディアの……蒼空が言うところの中二……いや、厨ニ病具合に頭が痛くなってくるのを感じ、思わず深いため息をつく。 ディアのこれ・・は私の趣味の影響もあるんだろうか? そんなことを考えつつ、現実逃避したくなってきたフォリンなのだった。


 が、そうも言っていられないフォリンは確認の言葉をかける。


「ではこれは、やはり所属不明船が、事故を装って我々をこの星系で亡き者にしようとしている……と考えて間違いないところかな?」


「はい、それはもう確実に! そして相手は反ライエル派のお歴々で間違いないでしょう。 ただ、残念なことにちょっとやそっとの状況証拠では、尻尾どころか影すら踏むことはできないでしょう。 今回のこともたとえ十二族長会議で報告したとしても……」


「報告なんて不要です!! まさかフォリン、このままやられっぱなしで、おめおめ引き下がるつもりじゃないでしょうね?」


 ディアの発言の最中、割って入ってきたその声の主は……フェアリン。 そうフォリンの姉だった。 フォリンは今度は、(今ではかなり退化してきている)胃が痛くなってきた気がする。


「ね、姉さん! いきなり転移してくるのはやめてくれ。 ディアも何おれの許可もなしに!」


「フォリン、私にフェアリン様の行為を制限する権限はありません。 あきらめてください。 それよりフォリン。 話の途中ですが……蒼空の落ちた先がようやくつかめました」


「あら、何それ?」

「なに! もう見つかったのか?」


 ディアのその言葉に、フォリンとフェアリンが同時に反応を示す。


「はい。 彼女の体内にはライエルの王宝の一つ、緋色のスカーレットオーブが融合していますから、そのオーブより発する固有発振パターンをサーチすれば、比較的容易に探査することが可能です」


「でぃ、ディア! お前それを言っちゃ……」


 ディアの発言にまたも胃が痛くなるフォリン。 もう穴が開いてしまうかもしれない。


「ちょっと、何それ? フォリン。 あなた、私にそんな重大なこと隠してたわけ? あ、あの娘に、スカーレットを融合させたですって?」


 これ以上にないほどに真剣な表情を浮かべフォリンを追求するフェアリン。


「くうぅ、もうどうとでもなれ! ……そう、そうだよ姉さん。 蒼空の体にはスカーレットが融合してる。 不可抗力とはいえ、こちらの騒動に巻き込み、命を奪ってしまったんだ。 一度消えてしまった命を再生させるには、あの時はオーブの力を使うしか方法が無かった……」


 フォリンの言葉に返す言葉を失うフェアリン。


「あ、あなた。 それ無かったら……もう……継承出来ないのよ? それでもいいの?」


「仕方ないさ。 まぁ、それに、もともと私の柄でもないしな。 継承のほうは弟……それとも姉さん。 あなたでもいいんだよ? どう」


 悟ったような顔をして、フェアリンにそう聞くフォリン。


「じょ、じょーだん。 私はごめんよ。 ま、とりあえずこの話はいいわ。 それで蒼空がどうしたっていうの?」


「はい。 蒼空がちょうどこちらに転移しようとした際、ほんとに間が悪く……先ほどの不明船のジャミングを受けてしまい転移を失敗してしまったのです。 それでも緊急モードに切り替わり、どこか他の地点にはランダムになってしまうとはいえ……転移は完了し、次元の狭間で消滅してしまうことは避けられたのですが。 残念ながら……落ちた先が分からなくなっていたのです」


「なるほどね。 それで次元を超えても伝わる、オーブの固有発振パターンを使って見つけ出したってわけね。 とことんついてる娘ね、蒼空は」


 フェアリンは呆れながらも納得する。


「それでディア、結局、蒼空はどこに落ちたんだ?」


 じれたフォリンが催促するように聞く。


「はい。 蒼空が落ちた先。 それは2世代前のライエル王の時代に確認された……比較的この世界と相似性の高い……第7世界線。 その世界での地球に転移してしまったようです」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 オレたちをあの恐ろしい地竜から……いとも簡単に救ってくれたのは、驚くことに今年で12才になる妹のサーニャと同じか、それよりも幼いくらいに見える……可憐な女の子だった。

 透き通るかのような紫がかった白い髪を腰まで伸ばし、この地方の冬に降る、水分のまったくないようなさらさらの粉雪を思わせる白い肌。 大陸の中ほどの民族を思わせるちょっと低めの、でもすじの通った可愛らしい鼻。 そして春に咲くちいさな花を思わせる淡いピンク色した唇。 美の女神さまが祝福してくれたかのようにきれいで……でもまだかわいらしさのほうが勝る小さな女の子。

 こんな女の子があの地竜を、一撃の下に倒してしまうなんて……この目で見たにもかかわらず、まだ信じられない気がする。


『もう兄さまったら、またこの子の顔、じっと見て……。 いくらまだ眠ってるっていったて、女の子の顔をそんなにずっと見つめるなんて失礼よっ』


 オレが考えごとしながら女の子の顔をつい見つめていたら、部屋に入ってきたサーニャのやつが、そんなオレのことを見てそう言う。

 オレは変なトコ見られたバツの悪さから、もう苦笑いするしかない。


 ――女の子はあのあと、父さんが乗りつけて来てた馬車に乗せ……オレたちの村、フルヤートまで連れてきていた。 いくら怪しいとはいえ、やはり命の恩人をあんなとこに置いてけないし、見た目はほんと、儚げな女の子。 サーニャが意地でも連れてくって言って聞かなかった。 まあ、もちろんオレも賛成だったけど。

 そして、村長むらおさである父さんの屋敷、そしてオレたちの家でもある、この村で一番でっかい屋敷の客室に寝かしつけんだ。


 それにしてもオレたちが無事帰ってきたときの母さんの喜びようったらなかった。 オレもサーニャも思いっきり抱きしめられ、息も絶え絶えになるほどだったんだから。 オレ、もう今年で17歳になるんだぜ。 勘弁してほしいよ、ほんと。 それにしても母さん……胸でかすぎだって……。

 そして母さん、とりあえずソファーに寝かせてた女の子に気付くやいなや、その優しい顔のつぶらな瞳を丸くして……驚ろくやら、慌てるやら、おろおろするやら。


 ほんと落ち着かせるのに大変だった。 それこそ怪我した父さんそっちのけでさ。

 でもそれからの母さんは、家の主人(父さんは家じゃ残念ながら役立たずだ)らしくテキパキと動き、その女の子をあっという間に客間に寝かしつけてしまったのだ――。



『それにしてもなんてきれいで、かわいらしい子なんだろ……。 どうして、たった一人であんな所に……。 一体全体、どんな子なのかしら? あの時この子が使った、雷みたいに光る玉……あれって魔法なのかなぁ? 魔法なんてお話でしか聞いたことないけど……。 分かります? 兄さま』


 結局オレと同じように女の子を見つめブツブツ言いながら、オレのほうを見て小首をかしげ、聞いてくるサーニャ。

 オレから言わせればサーニャだって10人男がいれば10人とも振り向く、この村一番の、美人でかわいい女の子だと思う。

 身びいきじゃないぞ!

 実際、村の学校のやつらはサーニャに近づこうと、手を変え品を変え、色々気を引こうと小細工してくる。 ……だからオレは撃退するのに大変なんだから。


『オレも魔法なんて見たことないからわからない。 父さんは、領主さまの居城で何回か見る機会があったみたいだけど……それでも、とてもこの子が使ってたみたいなことはやってなかったって言ってたし……』


 オレとサーニャは、そんな話をしながら今は落ち着いて眠ってる……まさに天使のような女の子の顔を見つめた。


 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 うう……だるいよぉ……それに……お腹すいた……。


 ……あ、あれ? ここ……って?


 ……ボク……寝かされてる……?



 ボク、ずいぶん長いこと気を失ってたようなんだけど……この心地よい感触。 この感触って……ベッド、ベッドの中?


 ボクはゆっくり覚醒してきた気分の中、薄っすらと目を開き……自分の置かれてる状況の把握を始める。


 ううっ、……体調……まだ全然治ってないや……。


 それにしても……はぁ、いやだいやだ。

 なんかこのカラダになってからというもの、何事にもすぐ冷静になってしまうボクが居る~。


 どうやらボク、どっかのお家の中の部屋で、ベッドに寝かせてもらってるみたい。

 状況から考えると、さっきの三人に関係するところって思っていいよね? たぶん。


 ボクはとりあえず周りを確認してみようと、カラダを起そうとして、みる……けど。


 うへぇ……何これ! カラダ、全然動かせないよ。

 

 かろうじて……アタマが動かせるのと、ほんのちょっと手指が動くくらい。 なんてことなの~!


 ボクは自分の、そのあまりな弱りように、生体エネルギーの確認をしてみる。


 はうぅ……何コレ。


 レベルゲージ残……【2%】……これ大丈夫なの? 死んじゃったりしないよね? ……ま、それは無いか。 にしても、これってやっぱ、さっきのプラズマボールの無理撃ちがたたったんだろうなぁ……? あんときですら、すでにフラフラだったんだもん。 そりゃこうなるよね。


 うーん、こんなわけわかんない、どことも知れない場所でこれって、まずいよ……。

 ボクが動かないカラダでそんなことを考えてると、


『あっ! 兄さま。 女の子……目、覚ましてます!』


 ボクの様子を見に来てくれたのか? そこにはゴカイの化け物に襲われそうになってた……あの女の子がいた。


 良かった無事だったんだ。 ボクの無理して撃った攻撃。 無駄になってなかった……。 ってことは……ボク、あの三人に拾ってもらったのかな?


 それにしても何言ってるか全然わかんない……。 ボクはもう、ただただ困惑するしかない。


『ほんとか? やっとお目覚めかぁ……』


 更に今度は男の子が現れた。 この子、震えながら剣を構えてた子だ。 こうして近くで見ると……もう高校生くらいの歳の男の子だったんだ……。


『ねぇ、君。 具合どう? 大丈夫?』


 男の子が矢次早になんか言ってきたんだけど、マジなに言ってるんだか、わかんない。 ボクはだから、ついキョトンとした顔をして現れた二人の顔を見る。

 うーん、金髪碧眼の……きっと兄妹なんだろうけど、美男美女の兄妹だ……。


『に、兄さま。 こ、この子の目……』

『え? 目がどうした……って、わっ、何この目っ? 左右で色が違う……赤と……それにぼくらと同じ碧だ。 ほんとこの子、何から何まで……マジ変わった子だ!』

『うふふっ、でも、天使さまみたいにかわいらしいよ。 ……それにしても兄さま、この子、もしかして言葉……分からないんじゃないのかなぁ? さっきから私たちの会話にキョトンとした顔してるわ』


 うーん、さっきからこの二人の会話、全然何いってるか、さっぱりだ。 なんかボク見て驚いてるっぽいし。 ま、どうぜ外見が風変わりだから、その辺なんだろうけどさっ。

 どこに行っても、これだからいやになっちゃうよ。


 にしても、言葉わかんないのは不便――。


『えっ、そうなのか? ねぇ、君。 オレの言ってることわかる? 名前なんていうの?』


 うーん、なんか一生懸命話しかけてくれてるけど……。 マジさっぱりだ。


 あっ。


 そういや、こういうときこそディアがボクのアタマに刷り込んだ無駄にすごいデータベースが役に立つんじゃ?

 ボクはなんとか会話をしようと、必死に話しかけてくれてる男の子の言葉をただ耳に入るように聞き、音声として認識するように心がけて、データベースと照らし合わせる。


 あった!


 該当する音節、発音。

 ……ってことは、ここはフォリンやディアたちにとって知らない場所じゃない?


 ……更にサーチ……。


 ボクはアタマのなかで見つけた、言葉、それにこの世界についてのヒントの検索に夢中になり、前の二人のこともほっぽり出して没頭しだす始末だった――。




『ねぇ、どうしたのかな? さっきからこの子、無反応になっちゃったよ? どこか具合、悪いのかな?』

『うーん、っていうより、何か考え込んでるって感じじゃないか? ほらっ』


 そう言って蒼空の目の前で手を振るユーリー。

 それに反応を示さない蒼空。


『な?』


 得意げな表情をするユーリー。


『ほ、ほんとだ。 どうしちゃったんだろ? 大丈夫かなぁ……』


 そんなユーリーとは裏腹に、そのかわいらしい顔を心配げな表情に変えるサーニャ。

 そして二人は、放心状態といっていい、ほとんど動かない天使のような女の子、蒼空をそうやってしばし見つめる。


 そしてどれくらいの間、そうしていただろう?

 いい加減心配になってきたサーニャが、


『私、母さま呼んでくる。 なんだか心配だもん』


 そう言って母親を呼びに、席を外そうとしたとき。



『よ~し、これでバッチリ~!』



 弱々しいながらも、ハッキリとした、それはもうかわいらしい、鈴をならしたような声が……その天使のような女の子の口からつむぎ出されたのだった。



うーん……話しが進まない……。

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