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3−1緋の姫君

 ローゼの口許を隠していた下ろし立ての飾り扇子が、ぱたりと閉じて消えた次の瞬間、彼女の手中にジョルジュの剣が魔法のように不意に出現した。

 顕わになった彼女の口唇は血の色に染められたかのような妖艶さで、凶悪な微笑を湛えていく。




『そうじゃな、控えよディアナ』


『では――!』




 叱責覚悟の進言が受け入れられなければ、ジョルジュはどのような咎も甘んじて受け入れる気でいた。

 だからローゼがジョルジュの言葉を受け入れ、退いたかのように見えたその一瞬、彼の精神は僅かに弛んだ。

 それは自覚すらする事のできない、無意識レベルでの微少な隙。

 その一点を見逃す事なく衝いたローゼの手練手管の巧みさに、ジョルジュはただ口唇を噛むしか為す術がない。

 凶刃と化した己の剣が自らに降り下ろされる一瞬を、息を呑んで待つばかりだった。




「妾を弾劾する口実を作る為、国の礎になるつもりか、ジョルジュ。不遜だが面白い。だが宰相ごときの命では、到底釣り合いが取れぬであろ」




 にいぃ――っと、ローゼの口角が凶悪な角度に吊り上がっていくのを間近に見て、ジョルジュの背筋に戦慄が走る。




「!? レオ――――っ」




 ジョルジュがレオンを振り返えると、ローゼの手から放たれた剣の切尖が空気を切り裂き、レオンの胸に吸い込まれていく軌跡がその瞳に映った。

 レオンの胸には恐怖に引き攣るアストライアが抱かれ、納まっている。

 室内にいる誰もが何の反応もできなかった――否、ただ一人を除いては。

 左腕は雫を強く抱き締めたまま、レオンの右腕が残像すら残さず、神速の動きで剣を鞘から抜きざまに凪ぎ払う。

 だが、ローゼの放った剣がレオンに届く事はなかった。

 部屋中の至る所に舞う定理のリングから放たれた、無数の攻撃的術式の解がローゼの剣を迎撃、これを消滅させた。




「くぅ――――っ!!」




 だが残された流れかいが次に矛先を向けその標的とするのは、射線上にいるレオンと雫であるのが必然。狂暴な牙を剥いて、全方位から二人に向けて一斉に襲いかかる。

 レオンは返す剣の斬撃で攻撃的術式の解をいくつか切断したが、とてもではないが全てに対応できるはずもなく、絶望の苦鳴を思わず漏らす。




「数がっ、多すぎる!!」




 それが合図だったかのように、二重螺旋のリングが無数に乱舞した。

 火、水、土、雷、そして風。

 同時に、全ての攻撃的術式の解が一瞬で四散する。 静寂の空間。誰もが言葉を失っている。しわぶき一つ聞こえない室内に雫の声が響き渡った。




「……お兄ちゃんは、わたしが護るわ」




 唖然とするレオンの腕の中、銀色の瞳に蒼銀の髪を仄かに光らせ、雫が凜と言い放った。

 だが、彼女はそれを最後に再び意識を手放し、糸の切れた操り人形マリオネットのようにレオンの腕の中で崩れ落ちてしまう。




「シズク(・・・)が落ちる! 貸せっ、妾が抱く。危なっかしくて見ておれん」




 いつの間にソファーから立ち上がっていたのか、気付けばレオンの側近くにいたローゼが、奪うようにして雫の躯を腕の中に納めて抱き締める。




「――姫様?」




 誰憚はばかる事なく雫を慈しむローゼの様子に、ディアナがぽつりと漏らした戸惑いの呟きを、ジョルジュは複雑な想いを胸中にいだきつつ、耳にしていた。

 ああっ、百合作家の血が騒いで困ります。

 逆ハー展開のフラグも立てつつ、雫争奪戦がいよいよ始まります。

 ここまで来るのに、長かった・・・。


 いつもご訪問してくださる方、お気に入り登録してくださってる方、冬季休暇で初めてお越しの方、全ての皆様方に感謝の気持ちを。



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