05 見世
托鉢をするでもなく、僧侶は川の水を飲み、そこらの残飯を食らい、くさいにおいをさせていた。
町衆は眉をひそめていたが、そもそもこの時代、町の外に出ればそういう人はちらほらいる。
地獄太夫のいた京の町には、ごまんといた。
「あないな糞坊主、早よ出てったらええのに」
女郎屋は毒づいた。
万が一にも自分の店に入られたら困る、と言う。
「一度でも来たら、そっから難癖つけられて、何度も何度も来る奴や……特に」
女郎屋は地獄太夫を上から下まで眺めた。
このような傾城傾国の女がいるのなら、なおのことと歎息した。
そういうものか、と地獄太夫は首をかしげた。
しかしそれもまた、そういう男の性なのかもしれないと思った。
「綺麗なべべを着て、うつくしゅう紅をさした女なら、さぞかしよかろうという気持ちがあるのかも」
何だ、僧侶というたぐいの者でも、結局、今までの男と同じかと、地獄太夫も歎息した。
*
女郎屋の建物は楼になっている。
すなわち、上の方にいる女はそれだけ上玉で、遠くからでも見えるようになっている。
「まさに見世いうやっちゃ」
女郎屋は堺の町一番の楼を誇る自分の店を鼻高々に自慢していた。
その一番の高みに地獄太夫はいた。
その夜。
夜だが、堺の町は眠らない。
灯火の絶えないこの町の路を。
その影は、ゆらり、ゆらりと動いて来た。
「何え」
地獄太夫は京言葉でその疑問を口にした。
路を、黒い、何か蠢くものがいて、こちらを見ていた。
「……ふうん」
地獄太夫の目が、その「もの」を捉え、正体を明かした。
どうやら、うわさの僧侶らしい。
堺の町で一番の楼の、その高み。
そこにいれば、当然、地上の者たちから、目立つ。
「こういう時は、見せぬが花、なんだろうけど」
大陸や、さらに遠方の南蛮の影響も入ってきている堺には、即物的に見せつけるという方が善いとされる風潮がある。
その方が新しい、という意味で。
「……まあ見せぬも見せるも、みんなみんな、そういう風にした方が、楽しい、という考えだろうけど」
結局のところ、やることは同じではないか。
地獄太夫が如意山で初めてのそれをした時から、それは変わらない。
そう、たとえあの黒い僧侶が自分にそうしたとしても、それは変わらない。
「…………」
地獄太夫はふと、あの僧侶がどういうものか、試してみたくなった。
あの僧侶が女犯をしたいというのなら、それもいいだろう。
しかし。
「それは単に、堺で一番の女なら、さぞいいだろうという気持ちでそうしているのか」




