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地獄太夫  作者: 四谷軒
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04 ある僧侶

 かくして地獄太夫は女郎でも格別のあつかいとなった。

 地獄という名乗りも、長者からすると「まさに一興」であり、面白がって、地獄変相の図を縫った衣を贈って着させた。

「心に仏の名を唱えながら、口に風流の唄を唄う」

 そういう謳い文句のもと、地獄太夫は女郎屋の華になった。

 長者は自分が来た時だけ相手すればいいと言い、地獄太夫は長者以外にも男をもてなすこともあった。

 男どもは、ああありがたい、ありがたいと言って地獄太夫を抱き、その場にいない長者に頭を下げた。

 長者が許しを与えたから、こういうことができた、冥土の土産になったと言うのである。

 変わった人たちだ。

 地獄太夫は可笑しがった。

 自分は他の女とあまり変わりがない。

 外面にちがいがあるだけだ。

 抱くとなると、なおのこと、外より中のことになるだろう。

「そも、どうして男は女を抱くのか」

 逆もしかりだが、春を(ひさ)ぐ商売をしていると、そこが気になってしまう。

 女郎屋に言わせれば、気持ちええからだ、ということになる。

 長者に聞けば、好いておるからだ、とささやかれる。

「なかなかに、むずかしい」

 同じ女郎屋の女に問うと、そんなのは知らない、銭がもらえるからだと答えられた。

「地獄太夫はんは、ええなあ」

 銭をたんまりともらえて、と彼女たちは言った。

 しかしそうすると、銭がなくとも抱き合う夫婦者は何なのだろうと思いがいく。

 さすがにこれは長者には聞けない。

 それ以外の男に聞いたところで、白けてしまうだろう。

 地獄太夫は、その疑問を差し置くことにした。

 どうしても答えを得たいというものでもない。

 今のところは死にたいと思えないので、男たちの幻想につきあい、要求にこたえ、銭を得て――そうして生きていくつもりだ。

 そのうち容色が衰えるだろうが、そうなったあとに暮らせるだけの、銭があればいい。

 そういう内面をかかえつつ、ますますその容貌は磨かれ、うつくしくなり、やがて堺どころか三国一のおんなといわれるようになった。



 その僧侶は襤褸襤褸(ぼろぼろ)の墨染の衣を着ていた。

「あんなのが堺の町に」

 当時殷賑を極めた堺は、町人それぞれに至るまで、着飾り、少なくとも、上辺だけは世界でも稀に見る華麗な都市であった。

 それを。

「きったない坊主が居るで」

「何や、けったくそ悪い」

「ほんま、ほんま」

 人間、自分より下の者を見ると、ばかにしたくなるものである。

 地獄太夫は最初、乞食坊主が、堺という銭の生る町に来た、という認識だった。

「生きるために、坊主も必死……ということかも」

 そうまでして僧侶には伝えたい教えがあるのだろうか。

 あるいはそうではなく、僧侶であることすら、生きるための手段で、やはり食うためなのか。

「それとも……」

 女を抱きに来たのかもしれない。

 そうなると面白い。

 女犯を戒めるはずの僧侶が。

「敢えて抱きたいというのは、何でか」

 それを知ることが、できるかもしれない。

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