02 女郎屋
商人は乙星を女郎屋へ売った。
賊とちがって、こちらは商いで食っている。
それゆえ、厳しく乙星の品定めをしたが、「かなりの上玉」とうなった。
むろん、当の乙星からすると、何が上なのか下なのかわからない。
賊はそれを聞くと、喜ぶというより驚いて、「またな」と言って、去っていった。
何が「またな」なのか。
賊としては、女の悦びを教えてやった、与えてやった、というつもりなのだろうか。
乙星からすると、特に頼んでいないし、ましてや愉しかったという思いもない。
さりとて、親や扈従、侍女たちの仇でもある賊に、憎しみを持とうと思わない。
「他人。飽くまで、他人」
また会ったとしても、そうありたい。
賊は初めてであり特別であると思っているようだが、こうして女郎屋に売っておいてそれはない。
……かくして乙星は春を鬻ぐ身になった。
武家の娘としてどうかと思うが、賊にその武家の父親を殺され、扈従も侍女も皆、殺された以上、どうしようもあるまいと思う。
「命があるだけ、もうけものだ」
しかも、好きな時に好きなだけ賊の相手をさせられるという状況から脱した。
少なくとも女郎屋は商品として乙星を買っており、無軌道に男の相手をさせることはなかった。
「もうやっておるのやから、もうええか」
男の相手をするための教えを、もう良いだろうと女郎屋は決めつけたが、乙星は逆に、敢えて聞くことにした。
これから男の相手を商売とし、銭のやり取りをするのならなおのこと、知られることは知っておきたいと思った。
「怪体なやっちゃ」
女郎屋は、賊の相手をさせられたことを気遣ってそうしたのに、それを無用と逆に知りたがる乙星を、好きものと判じた。
ただ女郎屋という商売上、断りはせず、教えてやった。
「それで妾はどうすればいいのですか」
「どうもこうもない。ええ客が来たら逃すな。あなただけが好きですと言え」
「それだけですか」
「そうや。男の女のしくみは教えた。あとはおのれでやれ。相手したいいう奴があらわれたら、好きと言え。それだけだ」
女郎屋は人それぞれやりようがあるし、嗜好もちがうので、奥儀みたいなものはないと言った。
これが料理や茶であれば、まだ多くの目と口がある。
されどまぐわいは多数でやるものではない。
誰かに見られてやるものではない。
少なくとも、女郎屋の廓では。
「せやから、おのれで見つけ。客はなるべく来るようにするさかい」
初めてやからな、と女郎屋は余計なことを言った。
*
女郎屋は言ったとおり、客を周旋してくれた。
何人かが来て、そのうち何人かの相手をした。
あなたが好きですというと相手は喜び、銭を落とした。
彼らは乙星が武家の出であるとなおさら嬉しがった。
「武家の女ぁ、抱いとる。わいが、抱いとる」
主に乙星の客であった商人たちは、そう言って、嬉しがった。
ふだんは武家の者から銭だの何だの納めさせられていて、その鬱憤を晴らしている気分になれるのだろう。
一方の乙星に征服されているとかそういう感覚はなかった。
ただ、特別の技巧を施しているわけでもないのに、妙に気持ちよがっているのは、やはり彼らの心底がそうしたいからなのだろうと思った。




