王都公爵邸編 その1 馬車の旅
あの後遠回しに
『リリアナ嬢の体調が心配になって少し慌てただけで他の雑事は何も気にしてないですよ?』
と伝えるも
『お前は私に告白しておきながら他の女にも色目を使う気か?型に嵌めるぞ?』
と迂遠な表現で返された俺。
いや、告白なんてした記憶は無いんだけど・・・何なの?
本人の預かり知らない所で告白とか夢遊病なのか俺は?
まぁそれなら付いて来いって事で翌日から馬車に揺られること・・・10日間。
当然公爵家の御令嬢が緊急事態でもないのに野宿など出来ようはずもないから宿場間移動になるので、そこそこの時間的ロスはあったけど・・・遠かったようなそうでもないような。
馬車、時速10キロくらいだろうか?もちろん休憩も挟むし同じ速度で走り続けられるわけでもないから1日の移動距離は平均50キロ程度か。
それが10日間で500キロとして単純計算で『東京大阪間または大阪山口間』くらいの距離になるのかな?もちろん直線距離じゃないけど。
今更だけどこの国の領土、そこそこ広いんだな。
ちなみに公爵家の紋章付きの馬車、どこでもフリーパスである。手続きなどは馬上の麗人であるメルちゃんがそつなくこなしてるし。
ホント、見た目はどストライクの怜悧で知的な(意味被ってるなコレ)黒髪美人なんだけどなぁ・・・。
あれ?俺の記憶にはあんなそつなく仕事をこなしてる有能なメルちゃんは存在してないんだけど?
あ、もちろん公爵令嬢の移動に俺とメルちゃん、御者とメイドさん、そしてオマケの精霊子グマの少人数しか付いていないということはなく、キーファ第三騎士団と言うのが護衛にあたっているので総勢では100名を超える。
いや、目的がリリアナ嬢の治療だからオマケじゃなくメインキャストだな精霊子グマに関しては。
ついでにジョシュアじーちゃんも居るんだけど留守の間の北都の色々は大丈夫なの?あ、じーちゃんはフィオーラ嬢付きだから平気と。俺と同じだな!
公爵家の騎士団って言ってもほぼお屋敷と寮を行ったり来たりの引きこもりに近い俺と面識があるような人物が居るわけでもなく、出発初日の昼休憩場所で
『何こいつ?あ、あれか、少しご結婚の遅い御令嬢が趣味で連れている顔だけの愛玩動物的なアレか?護衛騎士だかなんだか知らないけど側にいる女騎士もどきといい良いご趣味だな』
みたいな目でこっち見てやがった。
俺の事はいいけどフィオーラ嬢とメルちゃんを小馬鹿にされるのは非常に業腹である。
そうだな、こう言うのは最初が肝心だからな。メルちゃんに付いてきてくれと目線を送ると察したのか少し離れて後ろから歩いてくる。
これ見よがしに上半身裸になり素振りや打ち合いなどの稽古をする騎士団の特に声が大きい荒くれっぽい顔の連中の近くに本身の剣を二本持ち陣取る俺たち。
「近衛長、さすがに長距離の馬車移動では少々体が鈍ってしまいますので手合わせ願えませんか?」
「ふっ、よかろう」
と声を掛け、剣の片方はメルちゃんに軽く投げ渡す。
ヘッポコなところはあるが決して無能ではない、いや、世間一般からすれば超有能――かもしれないメルちゃん。
俺の思惑は理解してくれているようで獰猛な笑顔をこちらに向けてくる。
そして・・・いつも通りのガチ斬り合いを見せてやった。
怪我をしないのか?ふた月み月一緒に稽古してるんだからお互いの速度にも慣れてるので案外平気。
てか、メルちゃんの速度に合わせてるから言い方は悪いけど俺の方は余裕あるしね?基礎能力値、大切。
いつもとは違い『わざと』メルちゃんの鎧の隅に剣を当てて『ガインッ!!』と大きな音を立てたりもしながら高速で斬り結ぶ。
いつの間にか剣術スキルが3にランクアップしたメルちゃんと能力値だけなら人外の域の俺の稽古、かなりの速度で剣と剣がぶつかり合うので古き良きバトルマンガみたいな光景である。
さらにメルちゃん、恐い、顔が恐い。周りに対する威圧行為としては大正解なんだけどさ、嬉々とした顔でフェイントかましながら致命傷を狙いに来る同僚ってどうなのかな?
こちらに向けられる視線が『なんだ?おままごとでもするのか?』から『こいつら、もしかして本気で殺し合いしてる・・・?』になり『当たったら絶対に死ぬだろソレ、頭おかしいんじゃねぇの・・・』に変わった頃に終了。
最近は体力も付いてきた様で半時間ほどの稽古では息切れもしなくなったメルちゃんなのである。
「ふぅ・・・まだ少し物足りないですね。どうです?騎士様、よろしければ胸を貸して頂けませんか?」
「い、いや、我々はこれから出発の用意があるのでな、申し訳ないが」
顔をヒクつかせ去っていく人相の悪い騎士。話しかける前に威圧スキルまで取ったのは少々やりすぎの気もするが。
でもそれでいい。お前らの上位者が誰であるか(フィオーラ嬢の威光を)心に刻んでおくように。
「あなたたちは二人で何をやっているのですか、休憩時間には休憩をしなさい」
頑張ったのに叱られたでござる。
・・・ちなみに騎士団からの視線などは全てハリスの被害妄想であった事を本人が気づくことはなかった。
てなわけで王都である!第三騎士団の連中も相変わらず目つきは悪いが態度や返事はとても良くなったのではないだろうか?
(※最初から態度などは特に悪くはありませんでした)
「王都よ私は帰ってきた!!・・・まったく何の思い出も思い入れもないけど」
「一応十年は暮らしていたんでしょう?なのに思い出が無いってそれはそれでどうなのかしら」
「だって、あなたと出会ってから今日までの時間が輝きすぎていてすべての過去が色あせてますから」
「そ、そうだな、うん」
「メル、繰り返しますが今のも貴女への言葉ではないですよ?ほら、視線を確認しなさい。貴女ではなく私に向いているでしょう?」
適当に言葉を返す俺。想い出=泥団子しかないんだもん。
そしてフィオーラ嬢とメルちゃん、いつもながら面白い主従である。ちなみに現在地はすでに公爵家の王都屋敷の庭だ。
さすがに公爵家の家紋の入った馬車の窓から顔を出してキョロキョロと周りを見回すなんて出来ないからさ。
家名に傷がついた!などとなれば切腹も覚悟せねばならないのが大貴族。もちろん切腹の風習なんて無いけどね?
でも自死はあるから死ぬことには変わりないんだよなぁ。
北都のお屋敷と言う名の小城と違い、こちらは普通に立派なお屋敷・・・サイズ的には宮殿と言っても差し支えない広さだけど。
お屋敷に到着して最初の俺の仕事。そう、それはもちろん『洋式便座の設置』。もちろん道中も宿に到着する度に出さされていたのだが。
そして
「フィオーラちゃん、やっと着いたのね!道中何もなかった?もし不便があったなら包み隠さず言うのですよ?即刻関係者を粛清しますからね」
「もう、大丈夫ですよお母様、特に何事もございませんでした」
発言に少々恐怖を感じるが・・・美人である。とてつもない美人である。
超美少女と超美人がハグをしている。ナニコレ、ちょっと真ん中に挟まってもいいですかね?!?!




