北都・公爵館 その16 もしもあなたを悲しませるなら、俺は魔王だって退治してきますから
全く聞きたく無かったのに白日の下に晒される美人公爵令嬢が未だに未婚な理由!
・・・長いって言われたけど本当に長かったので要点だけまとめると
・この国の成り立ち。王家と大貴族、そして建国に力を貸した5大精霊様
・精霊様との絆と貴族家の関係
・公爵家と光の精霊様の繋がり
・フィオーラ嬢と癒しの奇跡
ただの歴史の授業じゃねぇかよ・・・。知ってる名詞しらない名詞。
名詞というか名士?古い貴族のことなんて心の底から興味ないからどうでもいいんだけど・・・。
要点だけでも結構長いんだよなぁ・・・。
てなわけで結論をさらに噛み砕くと
『公爵家と光の精霊様の繋がりが最近弱まって来た(精霊の友のスキル保有者の減少、むしろフィオーラ嬢以外全滅?)。そんな中で久々に生まれた精霊様との相性が良い公爵家直系の子孫(フィオーラ嬢)なので同じく精霊との相性の良い相手を探して結婚させて精霊様との繋がりを強化しよう!(身分外見年齢は問わないものとする)』
血統が全ての貴族社会、それも公爵家なんて大貴族にしてはそこそこ思いきった無茶話である。
通常はどう頑張ろうと公爵令嬢の夫になるには『上級貴族(伯爵家の嫡子)』くらいの格は必要だもん。
てか、見つかった精霊の友スキルの高い相手が小太りのオッサンだったら・・・。
むっちゃ腹が立つ・・・想像したらむっちゃ腹が立つ・・・なんかこうモヤモヤする!
「表情筋の運動は部屋でしなさい。どうかしら?理解できたかしら?」
「つまり小太りのオッサンと美少女の薄い本ですね?」
「全く理解できていないことだけはわかったわ・・・むしろちゃんと話を聞いていたかすら怪しいわね・・・」
えっ?『やめて! 私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに・・・エロ同人みたいに!』って話だよね?違うの?違うか。
「そんな状況で、そう、年齢的にそこそこ追い込まれた私の現在の状況で現れたのがハリス、あなたなのよ?」
「お、おう。おう?」
「最初に会った時から私に、公爵家の家名に媚びることも無ければ不必要に怯えることもない不思議な面白い子供だと思っていたけれど・・・まさか精霊様が視えるどころかお話すら出来るなんてね」
・・・「オーオー」言ってるだけのクマ相手に多少の意思の疎通が出来ているのは果たして会話していると言えるのだろうか?
そして最初から見えてたわけじゃないけどね?フィオーラ嬢が精霊の友スキルを持ってたから興味本位で・・・なんだっけ『好奇心は熊を殺す』だっけ?子グマ、逃げてっ!!
あ、熊じゃなく猫だったかな。動物虐待、絶対に許さない!!いや、熊は状況によっては仕方ないか・・・。
「その上に屋敷に来てからのいろいろ。あなた、もしかしなくても自分の火傷痕の治療くらいいつでも出来たのでしょう?光の魔水晶が創れるほどの光魔法の使い手だものね。・・・私、一人で空回りしてただけじゃない・・・」
少しスネたような、寂しそうな顔をするフィオーラ嬢。いや、そんなことない。絶対に。
「そんなことないですよ、あるはずがない。あなたが親身になって俺のこと・・・俺の傷を治してくれるって言ってくれたこと、どれだけ嬉しかったか」
そう、きっと日本でいた頃、勇者をやっていた頃、この世界でハリスとして生きている今、全部合計しても一、二を争うくらいに嬉しかったもん。
「だからそんな悲しそうな顔は止めて下さい。あなたにはいつだって笑っていて欲しいですから・・・。もしもあなたを悲しませるなら、俺は魔王だって退治してきますから」
しっかりと瞳を見つめて、キッパリとそう伝える。
「なら・・・私をあなたのお嫁さんにしてくれますよね?」
「あ、それはいいでーす」
「なんでですか!?!?今、完全にそう言う流れで話が進んでたじゃないですか!!」
それとこれはまた別のお話なんだよなぁ・・・。
「だって俺とお姫さまは友達でしょう?」
「ついでにメルティスも付けますよ?」
「ちょっと真剣に考える時間を頂いてもいいですかね!?」
「よし、あなたを殺して私も死にます」
消えてます、お嬢様、瞳のハイライト機能がオフになっちゃってます!あとそこそこお強いので刃物はお控え下さい、とても危険が危ないです!
だってほら、俺、メルちゃんの事好きだし?
・・・それに。
まぁいいじゃん。
そのうちフィオーラ嬢にもきっと本当に好きな人が出来るだろうし、今くらいはこのままでもさ。
て事で(?)なぜか謝罪と賠償を求められた俺。要求は『お嬢様の私室に洋式水洗トイレの設置とトイレットペーパーの無制限放出』。
何だかんだ言って欲しかったんだ・・・便器。たぶん1度使っちゃったらもう元の生活には戻れなくなるよ?大丈夫かな?
まぁ生産出来るように成れば量産は難しくないから全然いいんだけどさ。
てか何処に設置するのかと思ったら私室に『お手洗い部屋(木製の移動式便器がある)』があったんですね。
この前見せてもらってませんとか細かいツッコミを入れると命に関わるから何もいいませんが。
魔法陣の書き込みスペースや流す水の量の関係で台座部分は大きくなってるのでしっかりしてるけど(形としては一本足で支えている水洗機能だけの便器ではなく多機能な洋式便器タイプだからね?・・・わかりやすく言うとちょっといびつな炊飯器みたいな形?)使用中にコケたりしたら大惨事なので床にしっかりと固定する。こんな時便利なんだよね土魔法。
これで底を叩き壊すか再度土魔法で外す以外にはどうこうならないはず。ちなみに無理やり底を叩き壊したりしたら転移魔法の魔法陣は無効化されるのだ。
まぁこれでいいか、あんまり長居するとまた余計な話が出そうだし!
「では、そろそろお暇いたしますね。また御用がありましたらいつでもお呼び出し下さい。ホントに部屋に来るのではなくお呼び出ししてくださいね?あと合鍵は然るべき人に預けておくべきだと思われます。それではご機嫌麗しゅう」
胸に右手を添えて綺麗な角度でお辞儀をして退出する俺だった。
「まったく・・・あの男は・・・あら?メル、どうしたのボーッとして?」
「・・・いい」
「・・・メル?」
「『もしもあなたを悲しませるなら、俺は魔王だって退治してきますから』なんなんですかあの台詞とあの凛々しい顔は!!」
「お、落ち着きなさい。どうしたのです?壁に頭でもぶつけたのかしら?」
「いたって正常であります。それよりも、先程のあの言葉、むしろあの告白、聞きましたか!?」
「聞いたも何も目の前で言われましたので・・・それに告白じみた言葉を宣っておきながら婚約は拒否とかどうなってるんですかあの男は」
「私・・・あんな事言われたの初めてです」
「待ちなさい、いいですか?言われたのは私であり貴女ではないですよ?そこは間違えてはいけませんからね?」
「初めて出会った時から薄々気付いてはいたのです。私を見る目、そうあれは愛する人に向ける目だと」
「冷静に思い出すのです、出会ってから今までを振り返ってみなさい、どう贔屓目に見ても少しイヤらしい視線と可哀相な人を見る視線しか貴女には向けられていませんでしたよ?だから少し落ち着きなさい、良い子ですから」
「ああ・・・一度は女を捨て武芸に捧げたこの身体・・・なのに今になって・・・」
駄目だこいつどうにもならないかもしれないと護衛の変更を真剣に考慮するフィオーラであった。




