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使い潰された勇者は二度目、いや、三度目の人生を自由に謳歌したいようです  作者: あかむらさき
プロローグと北都孤児院編

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孤児院編 その18 元気で、頑張ろうね?

 治療終了後、何故かよく分からないがやたらと上機嫌なフィオーラ嬢。


「あなた用の新しい衣服も用意してあげなきゃいけないわね、明日にでも仕立て屋をこちらに寄越すわね」


 と言いたいことだけ言い終わると女騎士ちゃんを連れ立ってそそくさと去って行った。

 残された俺は子供たちに遠巻きに見つめられてるのでそこそこ居た堪れないんですけど?

 特に話しかけられる事もなく見られてるのはいつもの事って言えばいつもの事なんだけどさ。



 いつも通り暗くなってからは特にすることもなくダラダラゴロゴロしてるだけのその日の夜、久々にノックされる物置部屋の扉。

 もちろん鍵なんてものは最初から掛かってないよ?掛かってないと言うよりも付いてもいない。


 倉庫の中から鍵を掛けるような特殊な状況なんてほぼないからね?パンデミックでも起こってゾンビに襲われたときくらいか?

 ・・・ファンタジーな異世界でゾンビに襲われる教会とかご利益無さ過ぎだよな。


「ハリス、その、入っても良い?」

「んん?ああ、どうぞー」


 久々の来客は・・・シーナちゃんでした!

 まぁ今までもこの子以外が部屋に来たことなんてもちろん皆無なんだけれどもなっ。

 部屋に入ってきて俺の隣――ベッド(と言う名のペラッペラの毛布と言う名の布を敷いただけの板)の上に腰掛けるシーナちゃん。


「ハリス、良かったね?」

「ん?何が・・・ああ、火傷痕のこと?おかげで借金が増えたけどね」


 俺的には痕なんて正直どうでも良かったんだけど・・・ほら、治してやろうってフィオーラ嬢の気持ちが嬉しかったのは確かだし?

 頬が少し緩んでしまう俺。うん、ひきつった感覚がなくなって表情が自然な感じに・・・なってればいいな。

 でも基本的にはコミュ障だからね?俺。


「そ、そんな顔、だったんだね?その、カッコいいね?」

「そうなのかな?鏡も見てないし今の自分の顔がどうなのかとか全く分からないけど」


 三年間顔なんて見てないしさ。もちろん鏡が無くても桶の水面とかに映るっちゃ映るけど・・・視えるのは顔じゃなくて火傷痕だったからね?

 でも記憶にあるハリス君の二人の兄貴と似てるなら何方の方向に似ててもそこそこ男前なんじゃなかろうか?


「私の、分も含めると、金貨で2千枚なんだよね?」

「そうだね。あのお嬢様の事だからお金を用意しても素直に受け取って貰えるかどうか分からないけどね?まぁでも1年も有れば返せるかな?」


 幼女、いや少女にお金の心配とかさせちゃいけないから少しオーバーに伝えておく。

 いや、むしろ頑張れば1日でも稼げそうだけどな金貨2千枚。

 全裸のフィオーラ像とかリリアナ像とか造って売れば。その後コメカミをひくつかせた親御さんに笑顔で処刑されそうだけどさ。


「ハリスはすごいね、私はこんなだから」


 この子、何が言いたいんだろうか?そして何をしに来たのだろうか?

 てか自分で『こんな』とか言うのは止めてくれないですかね?・・・少し不快だから。

 俺がどれだけシーナちゃんに助けられたか、俺がどれだけシーナちゃんの存在で救われたか・・・まぁ今更言うことでも無いけどさ。

 他人の彼女口説く気なんてサラサラないし。そもそも俺、ロリコンじゃないし・・・。


「まぁ俺もシーナちゃんも近々ここを出ることになったしお互いに元気で頑張らないとね?」

「えっ、そ、そうっ、だね・・・」


 いや、そんな寂しそうな顔されても・・・反応に困る。

 てかどんどん顔が強張って行ってるんだけど・・・えっ、もしかして俺、シーナちゃんに刺される感じ!?


「ハリスっ!」

「おっと?」


 そして何故かいきなり抱きつこうとするシーナちゃん。思わず避けちゃったけど・・・俺、悪くないよね?


「・・・お互いに、元気で、頑張ろうね?」


 そう、彼女には彼女の選んだ相手がすでにいるし、俺には俺が選ぶ相手がきっと、どこかに・・・居るはず。・・・お願いだから居てくれ!

 現状第一候補は女騎士ちゃんなんだけどなぁ。ポンコツ可愛い。

 フィオーラ嬢?侯爵令嬢に続いて公爵令嬢に恋慕とか節操のないこと口に出しただけでもいろんな所から暗殺者が来そうで恐いわ!


 その後もシーナちゃんと昔話に花を咲かせ――いや、妙に暗い感じだったけども――のんびりと語り合う二人だった。

 もちろんもう一緒に寝たりはしないからね?繰り返すが彼氏持ちにも旦那持ちにも手を出すつもりなんて毛頭ないのだ。


 そして夜は更け朝になり・・・翌日。

 約束通り(?)に仕立て屋が訪れて体のサイズを測られる。

 てか仕立て服って1週間足らずでどうこなるものなの?セミオーダー?と思ったら『死ぬ気でやらせていただきます』って返答が帰ってきた。公爵家の意向、恐ろしや。


 そしてやたらと女の子が絡んでくる。声のトーンが普段より3つくらい高いんじゃないだろうか?なんなの?頭の天辺から声出して喋ってるの?

 うん、君たちの名前も知らないからお付き合いもしないし嫁になんてするはず無いよね?どうかこれからも今のまま強かに生きて下さい。


 最後には三馬鹿――ハリス君に嫌がらせしてたヒョロ、小太り、チビの三人組が妙に馴れ馴れしく


「俺達も一緒に貴族様の所に連れて行ってください!!」

「絶対に役に立ちます!!」

「友達じゃないか!!」


 などと意味不明の供述を3人で繰り返すものだから非常に困惑する。どうなってるんだこのこそ泥連中のメンタルは。

 言うに事欠いて『友達』ってなんだよ。軽々しくその言葉を使うんじゃねぇよ。まとめてぶち殺すぞ?


 少しは世間様ってモノがわかるように一度とことんまで追い込んでおくべきだろうか?いや、わざわざ俺が教育してやる義理もないからしないけどさ。

 ここ(孤児院)を出たらそれぞれの勤め先(あるかどうかは知らないけど)で間違いなくやらかすよなこいつら・・・。

 とりあえず無視してたらあまりにもしつこく付きまとってくるので魔法で焼き煉瓦を1つ作り出して


「知ってるか?人間って煉瓦で殴り続けると・・・死ぬんだぜ?」


 って威圧しながら教えてあげた。

 うん、前に(小銭を盗みに来た時に)土下座してる頭を何度も何度も踏みつけて(ストンピングして)やったのを思い出したのか全員真っ青になってる。

 さすがに警告するだけで本当に殴ったりはしないからね?殺っちゃうほどの値打ちもないもん。

 煉瓦?折角出したしついでに目の前で粉々に握りつぶしてやったさ。


 てか住むところ(職場?)が変わると言っても孤児院でのほほんと住んでただけの俺に引き継ぎがあるわけでもなく荷物があるわけでも――あ、王都土産のペナントが1枚だけあったな、せっかく女騎士ちゃんが選んでくれたモノだし(モノはともかく選んでくれた気持ちは嬉しいし)しまっておこう。

 ああ、下着も一組だけ自分で買ったのがあるな。まぁこっちはいつも着てるから関係ないけど。

 ・・・ペナントだけだし、鞄とか持ってないし、時空庫収納でいいや。


 そんなこんなで特に変わりのない1週間を過ごした後、圧倒的に目立つ大きくて豪華な馬車が教会の前に横付けられる。

 四頭立てで黒塗りの馬車とか金かかってんなコレ。


 大きな馬車の両開きの扉に描き込まれている家紋はもちろん『キーファー公爵家』の物。フィオーラ様直々のお迎えである。

 あ、女騎士ちゃんは綺羅びやかな全身鎧を着け馬に乗っての先導役なんですね。凛々しくてとてもエロカッコいいと思いました。今度ビキニっぽいアーマーとか着てくんねぇかな?真っ赤な顔でこっちを睨みつけてくれたら尚良。


 しかし兜をかぶっているにも関わらず漂ってくるこのエロオーラ、まさに女騎士の鏡やでぇ・・・。

 いろんな感情がないまぜになった子供たちの視線を背中に受けながら(仕立て屋さんが死ぬほど頑張って間に合わせてくれた)新しい衣装を身に纏い、前に進み出て馬車の扉の前で片膝を突き頭を垂れる。


 こう言うのは少し大げさなくらいに動作を大ぶりにして靴音なんかを立てるのがカッコいいんだよね。

 ああ、靴はいつものカランコロンじゃなくて服と一緒に用意されていた革製の編み込みのサンダル(古代ローマの軍人さんとか剣闘士とかを思い浮かべて欲しい)だ。


 さすがに革のブーツを仕立てる(『仕立ててもらう』が正しいな)時間はなかったから仕方ない。

 カランコロン同様にスースーはしてるけどフィット感と言うか履き心地はすごくいい。


 うん、ちょっとした上級貴族様の子弟のような豪華な衣装も相まって今日の俺、そこそこイケてるはずっ!!

 何だかんだでこう言う衣装って着るとテンション上がっちゃうのは男の子だから仕方ないのだ。


 お付きのメイドさんが馬車の扉を内から開いて先に馬車から降り、その後メイドさんの手の上に手を添えて公爵令嬢がゆっくりとした足取りで踏み段を降りてくる。

 こういう何気ない所作の美しさが育ちの違いなんだろうなぁ。

 俺だって生まれも育ちも平民(日本の一般家庭)だけど前の(異)世界で色々と教育されてるから気を入れてさえいればそれなりに上品にふる舞えるんだからねっ!


「御主人様直々のお迎え、まったくもってもったいなく・・・このハリス歓喜により胸が張り裂ける思いです」

「面を上げなさい。あなたは今日から私の側に仕えるのだからいちいちの挨拶はいらないわ」

「はっ!畏まりました」


 顔を上げると相変わらずいい笑顔で微笑むフィオーラ嬢、陽の光を受けて輝く金色の髪の神々しさもあいまってまさしく聖女様である。

 その後は一度教会の中に入り俺の受け取りの書類などをやり取りすればいよいよ俺は自由――ではなく公爵令嬢の私物となるのだ。

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