1-3 残った良心
広間を出て部屋に戻ると、そこにはあの女の子がいた。
俺が戻って来るのを待っていたのだろう。背筋をピンと伸ばして椅子に座り、文庫本サイズの本を読んでいた。
美少女ってのは何をやっても絵になるんだな。と見とれていると、視線に気がついたのか彼女は本から顔を上げて俺を見た。
「お戻りになられたのですね勇者様。王とのお話はどうでしたか?何か浮かないご様子ですけれど……」
「いや、別に大したことはないんだけどさ。ちょっと俺の魔法具が思ってたのじゃなかったみたいで… 魔王?みたいなこと言われたよ」
「魔王ですか?お話を聞かせてください」
できるだけ明るく言葉を返すものの、やはりまだ困惑が強いのだろう。表情には影が出てしまった。
それを見た彼女は心配するような声色で俺を自分の向かいの椅子へと誘導してくれた。
「あらためてまして、自己紹介をさせていただきます。フィーラル王国第二王女のラナ・フィーラルです。よろしくお願いしますね」
綺麗な子だとは思っていたたけど、まさか王女様だったなんて……と彼女 ラナの笑顔に見とれつつ、言葉を返す。
「ありがとうございます。俺は戸田ナギサと言います。えっと、勇者らしいです。」
「わあ、素敵な名前ですねナギサ様とお呼びしてもいいですか?もちろん、私のことはラナで結構です!敬語もいりません!」
「えっ、いいんですか……?」
「ふふっ。はい。もちろんです。ところでやっと顔をあげてくださいましたね。どうしてそこまで暗い顔をしていたのですか?魔王…と仰られていましたが……」
美少女からの突然の名前呼び、というものにドキドキしていると、彼女、ラナは優しく微笑みかけてきた。
どうやら俺は広間の件で相当なショックを受けてしまったらしく、今の今まで俯いてしまっていたらしい。
気を使って心を軽くしてくれたラナに感謝しながら彼女からの質問に答え、広間での出来事を説明した。
「なるほど、ナギサ様の魔法具が短杖でそれを見たお父様達が何か態度を変えてきたと。そういうことですか……」
「そうなんだよ。なんだか人が変わったようにさ、空気も一気に重くなって、なんだったんだろう?」
ラナなら何か知っているかもしれないと思い、聞いてみると、彼女は先程まで読んでいた本を手にしてこう答えた。
「この世界には"魔王"がいるというのはお父様からお聞きになられたと思います。その配下である。魔族、人でありながら悪魔の特徴も持つ者たちの特徴の一つに短杖、ワンドと言われるものを使い魔法を使用するというものがあります。」
開かれた本のページに描かれた挿絵には確かに悪魔の翼を持った人が短い杖を使って魔法を撃つ場面が載っていた。
「でも、それは魔族の話なんだろう?俺は人間だぞ?」
いくら人類の敵と言われる使う武器がおなじだったからと言って、あそこまで拒絶の目で見られることに俺は納得がいかなかった。
しかし、ラナの次の言葉でその考えは崩れることとなった。
「私たち人類も魔族、ひいては魔王になり得ます。そして、今代の魔王はなんとナギサ様と同じ異世界人で魔法具の短杖を使います。私のお母様が召喚した先代の勇者様です」
その言葉に俺は驚きを隠せなかった。と、同時に納得もしてしまった。嫌な前例である。
そして、それと同時にたくさんの不安が浮かんできた。
あの広間の雰囲気からして、俺をこのままこの王城に置いておいて貰えるとは思えなかったからである。
いくら勇者とはいえ、あのような前例が存在する以上は今の俺は要注意人物として見られるはず。そうなれば追い出されてしまうかもしれない。
などと考え込んでしまっていると、ラナが困ったような笑みを向けながら、こう提案してきた。
「この城には私の姉である第一王女様とその勇者様もおられます。今は遠征に行っていて留守にしていますが、戻られしだい交流をするのもいいかと」
「そうだな。同じ異世界出身同士感じるところがあるかもしれないしな。」
「はい!そうですね!でも、今日はもうお休み下さい。お気づきではないかもしれませんが、ひどく疲れた様なお顔をしていますよ?」
転移してからのリアル王族との面談。そして、普段向けられることの無い視線の集中砲火ときて、どうやら俺のキャパはとっくにオーバーしてしまっていたらしい。
そのことを自覚すると同時に酷い眠気が襲いかかってきた。
「ゆっくりお休み下さい。何かあったらこちらのベルを鳴らしていただければすぐにメイドが来るように言ってあります」
ラナに手を引かれ、フラフラと倒れ込むようにベッドに横になると優しく頭を撫でられる。
「明日は一緒に魔術のお勉強でもいたしましょうか。っと、もう聞こえておりませんね」
その言葉に返事をする余裕もなく俺の意識は深い闇の中へと飲まれて行った。
短杖のイメージはハリー〇ッターの杖です。根元に宝玉が付いていて、そこにアイテムを入れると進化していく設定です。ただ、使うかはわからんどす




