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2-19 フィアの決意

投稿されてなかったみたいなので再稿です

わたしがご主人様に会ったのは汚い奴隷市場の檻だった。


当時の私はとても衰弱していてあまり記憶に残っていはいないけど、うっすらとしか見えていない視界の中で温かい光を見つけたような感じだったと思う。


ご主人様が立ち去ろうとしたときは思わず涙がこぼれてしまうほどに。


おかしいよね。わたし。まだ泣けたんだよ?大好きだったお父さんお母さんに捨てられて、知らないおじさんにいっぱい叩かれて。化け物っていっぱい言われて。竜化することもできなくなって。もう涙なんて枯れたと思ってたのにね。


でもね、ご主人様にはそんなこと言えなかったんだ。


だって、とっても悲しそうな目をしてたから。


自分もつらいはずなのにわたしの面倒を見てくれて、美味しいものを食べさせてくれて。


魔法を褒めてくれた。認めてくれた。必要だって言ってくれた。


ご主人様に褒めてもらえて割れてた心が治っていく気がしたんだ。故郷を追い出されてからモノクロでしか見えなかった世界に、少しずつ色が戻ってきてくれた。温かいスープは橙色。静かな森は深緑色。流れる小川は浅葱色。生まれて初めてちゃんと世界を見た気がしたよ。


旅の途中。焚き火を見ながら色々話してくれたよね。旅の目的、魔王のこと、ラナさんのことも。


なんでご主人様はそんなに強いのか分からなかったよ?もうわたしだけつらい顔できないよ…


でもね、話してくれて嬉しかったんだ。信頼してくれて嬉しかった。


だからわたしも頑張ってみるよ。まだご主人様の前では変な喋り方しかできないけど、竜化もできないけど、いつかは本当のわたしで。だからまずは………






「ナターシャ。討伐する!」


わたしは手に持つ剣を彼女に向けて強く宣言する。ただの言葉かもしれない。でも、これはわたしが変わるための。そのための宣言だ。


ナターシャはまだピアノを弾いている。流れるような美しい音。平時なら聞き惚れてしまうようなその音でも、今のわたしには不協和音にしか聞こえない。それに、仕掛けるなら彼女が椅子に座って動きが取りにくい今がチャンスのはず。


そう考えて剣に手を当てる。


「炎をまといて敵を切り裂け。『術式付与(エンチャント)地獄ノ炎(ヘルファイア)”』!」


武器に属性の魔法をまとわせて攻撃の威力を上昇させる”術式付与(エンチャント)”の魔法。付与できる火属性の中の最上級。地獄ノ炎(ヘルファイア)をまとった剣は赤く輝き、敵を切るその瞬間を待ち焦がれているようだ。


息を整え、心を沈める。ナターシャが鍵盤に指をおいたその瞬間!わたしは彼女に向かって駆け出した!


「やぁぁぁあああ!」


長剣であるカーテナーを肩に抱えるように振りかぶり、ナターシャに向けて一気に振り下ろす。切っ先の丸いその刃が彼女のからだに沈むと同時に爆発し、地獄ノ炎によって内側から焼き尽くされる。


……はずだった。


カァァァン!


甲高い音を立てて刃が止まる。ナターシャの頭上。大剣によってわたしの攻撃を防いだのは、ご主人様が追い求める人。ラナさんの体だった。


話に聞いた通りだ。ラナさんの手にある大剣には黒いオーラがまとわりついていて、まるで魂を否定するかのような。そんなおぞましい気配が漂っている。


一撃で仕留められなかった事にがっかりしながら、目的通りラナさんの体をおびき出せたことに安堵の息をこぼす。わたしを無視してご主人様の方に行かれるのが一番良くなかった。


十字に交差していたカーテナーと大剣がしのぎを削る。力で押し合い、お互いの使命を果たそうと剣に思いを乗せる。しかし負けたのはカーテナー。わたしのほうだった。


ガシャッという音とともにわたしの剣が跳ね上がる。そして、がら空きになってしまった胴体に向けたラナさんの横薙ぎ。それをお腹の前で小さな炎の爆発を起こすことで、後ろに飛んで回避する。少しダメージを受けてしまうけど仕方ない。


距離を取って睨み合ってみる。しかし、彼女は手をだらんと下げての棒立ち、剣術で言う無形の位という構えを取っていて、その姿から何かを得ることはできなかった。


「ラナさん!わたしの名前はフィア!ナギサ様に言われて。助けに来たよ!」


出せる限りの大声で呼びかけてみる。でも特に変わっているようには見えない。ご主人様の言う通り、魂を抜き取られて偽物の魂を入れられているみたいだ。だったら……


「”地獄ノ炎(ヘルファイア)”解除。カーテナーよ。その力を示して!」


剣に手をかざして力を込めると、カーテナーの刀身が白い光へと変化する。これこそがこの剣の真の姿。魂だけを攻撃する救いの刃だ。


これならラナさんにも攻撃できるはず。


肉体にダメージを与える可能性のある地獄ノ炎(ヘルファイア)は解除しておく。これで憂いはない。


未だに構えることのないラナさんの体に対して飛び込むと一閃。彼女の肩口から胸の中心を通すような袈裟斬りを放ったが、半身になって避けられてしまった。反撃は大剣による地面スレスレからの跳ね上げ。光となった剣では受けてもすり抜けてしまうので、飛び込んだ勢いのまますり抜けることで回避しようと試みる。


彼女の横を通り抜けた数瞬の後。背後で空気を切り裂いて大剣が通り過ぎた。


大剣は攻撃後にすきがある!


攻撃を避けたことを確信して、左足を軸にしてその場で反転。見てみると予想通り。ラナさんの体は大剣を持っている右手を肩に担ぐような形になって体をのけぞらせていて、絶好のタイミングだった。


「えい!」


狙うは胸元。両断するつもりで刃を振るった。


サァッと刃が触れたところから体が半透明に透けて行く。が、無理やり方向転換したせいだろう。あと一歩踏み込みが届かなかった。


剣を振り抜くと急いで後退して距離を取る。


でも手応えは感じた。剣を体の中に滑り込ませれた感覚。ラナさんの体を見てみると胸のところが一直線に半透明になっていて、その奥に禍々しいオーブが見えた。


多分あれが偽物の魂だ。


「よし!行ける!」


偽物の魂を睨んで剣を構える。狙うは一点のみ。突きの構えだ。


ラナさんの体もまずいと感じたのか大剣を頭の上に持ち上げて迎撃の体制を取っている。


おそらくわたしが飛び込めばあの大剣を振り下ろしてくるのだろう。ピンと立った大剣の刃が笑っているような感じがした。


万が一にも邪魔が入らないように周囲を確認する。回りにいる人形たちは未だにお茶会の真似事を続けており、こちらに参戦してくる気配はない。ナターシャもピアノ椅子に座ってわたしをニヤニヤと見ているが、今すぐになにかしてくるわけではなさそうだ。


……次の一撃で決める。


覚悟を決めて腰を沈める。下半身をバネにして、射出。


右手でカーテナーの柄を握ってラナさんの体に一気に飛び込む。左手は体の後ろに。あるものを握りしめての突撃だ。


大剣の間合いに入った直後。凄まじい勢いで大剣が振り下ろされる。当たれば体どころか魂まで真っ二つになってしまうであろう一撃。それをわたしは、


”鞘”


で受けた。


「やぁぁぁぁああ!」


後ろ手に握っていたカーテナーの鞘を頭上に掲げて、大剣に対して斜めに当てる。木でできている簡単な鞘。しかし、打ち合うならともかく受け流すだけならその鞘は十二分に役割を果たしてくれた!


ギャリィィィン!


体の左側で大剣が地面に突き刺さる。その重みでわたしの方にラナさんの体がよろけてきた!


「!!!!!」


カン!と音を立てて、カーテナーの丸い切っ先が禍々しいオーブを。偽物の魂を貫く。その魂の断末魔だろうか、周囲の空気が一瞬震えて。でもそれ以上は何も起きずに、貫かれていたオーブは砕け散った。


動かしていたものがいなくなったラナさんの体が、ゆっくりと倒れ込む。


わたしはそれを支えながら、無駄に傷つけないようにゆっくりカーテナーを引き抜いた。貫通して半透明になっている場所にはもはや何もなく、無事偽物の魂を壊すことができたみたいだ。


「切ってしまってごめんなさい。少し休んでてね」


横たわらせたラナさんの体にそう声をかけて、わたしは元凶。ナターシャの方を向く。


彼女は椅子に座ったまま、ニヤニヤとわたしの方を見ていた。


フィアsideのお話でした。

このお話を書く上で、過去のお話を少し変更しています

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