2-18 あと一歩
11月7日。少し文章を加えました
謎の男性の道案内があってからは、予想以上にスムーズだった。
彼はこの迷路のような地下通路を網羅しているらしく、曲がり角などを選択するときにも迷いは見えない。
三十分ほど歩いただろうか。たどり着いた行き止まりの石壁で呪文を使うと、奥から見たことのある豪華な内装が顔を見せた。
王城にたどり着いたのだ。
「ん。ついた?」
「そうだな。でも……」
フィアの言葉に頷く。しかし、王城は以前とは比べ物にならないほど荒れていた。
カーペットやカーテンは引き裂かれ、花瓶は割れ、城全体に薄く黒い霧がかかっている。通路の奥からは人ならざる者の笑い声が聞こえてきて、魔王の城と言われてもわからないほどだった。
「あの日から城は変わってしまった。君が出ていったあの日からだ。ひどいものだろう?」
男が自嘲するかのように歪な笑いを浮かべている。それが本当なら……慰めの言葉が見つからない。
「まぁいい。此処から先は僕は手が出せない。君たちだけで頑張ってくれ」
「え…。どういうことですか?」
男の姿がスッと消えるように薄くなっていく。
「言葉の通りだ。だがそうだな…マモルのところにいけ。そうしたらまた現れることができる」
「マモルって勇者の、ちょ!まだ聞きたいことが!」
「いっちゃった。ざんねん」
男は消えるように姿を薄めて見えなくなってしまった。しかし言葉通りならまた会うことができるのだろう。気を取り直して前を向く。
「フィア。行こう」
「ん。けいかくのとうりに」
俺は、出発前に二人で話し合ったことを思い出す。
「今回の作戦の概要を説明する。最終目標はラナの魂と体の確保。最低目標も魂と体の確保だ」
「もくひょう。いっしょ?」
「当然だ。むしろそれ以外は一旦忘れてもいい。もちろん王族のみんなも助けられたらいいけど、ラナとは違って魂の所在がわからないからな。リスクは犯せない」
「ラナさん。ばしょわかる?」
「ああ。彼女の魂はマモルが持っている。黒髪黒目のメガネをかけて長杖を持った男だ。魂をナターシャとか言う女に抜き取られているせいで、意味のある会話はできないと思ったほうがいい。」
「はなし。つうじない?」
「そうだ。話通じない系男子だ。そのナターシャとかいうやつはセリーヌ第一王女の体に入っている。金髪で目が片っぽしか無い巨乳の女性だ。見たら多分すぐ分かる」
「おっぱい。でかい。むぅ」
「そうだ。でかい。フィアが相手にするラナの体はナターシャが操っているから、必然的にフィアが対峙することになる。その時は巨乳の上に乗ってる黒いブローチを狙え。多分それがやつの力の源だ」
「ものがのる。むぅぅぅ」
ぺたぺた
「話を聞きなさい。隠し通路から謁見の間。王がいるところに行くには、廊下を通る他に一部屋だけ中を通らなきゃいけない部屋がある。そこで待ち構えてるかもしれないから気をつけろよ」
「ん。りょ」
「とりあえずはどれだけ早く謁見の間にたどり着けるかだな……」
たいしたこと話してないな。と苦笑いを浮かべながらフィアと二人で廊下を走る。
魔物がいてもスルー。何があってもスルー。時間こそすべてだと言わんばかりの猛ダッシュ。そのかいがあってかありえないほどの速度で、チェックポイントとも言える必ず通らなければならない部屋。”大宴会場”の前にたどり着いた。
”大宴会場”文字通り大人数での飲み食いやダンス。式典を想定した場所である。
装飾の豪華さは謁見の間に及ばないものの、広さの面では圧倒的なものを持っており、100人が一度に入っても大丈夫なのではないか。というほどのものだったと記憶している。
「うし!入るぞ!」
「ん!」
フィアに声をかけて、大きな両開きの扉に手をかける。
が、中はとても異質な光景だった。
まず、外とは違って部屋の中はとても綺麗だった。調度品やカトラリーはよく磨かれていて、テーブルクロスにもシミ一つない。部屋の中央にはグランドピアノが置かれていて、それを囲むように円形のテーブルと椅子が大量に配置されている。
「まねきんさん…?」
フィアが声をこぼす。そう。きれいに配置されたテーブルには今からお茶会を楽しむかのように、大量のマネキンが席に着いていたのだ。
「不気味だな。でも、ここを抜けるしか道はない。注意していくぞ」
「ん。まほうあげる『ブレイズバリア』」
周囲に炎の半球形のバリアが張られる。周囲を注意して警戒しながら進んでいくと、宴会場中央にあるグランドピアノ。入口からは見えなかったその椅子に一人の女性の女性が座っていた。
金色の髪をボブカットにしていて、目は右側が白い眼帯で覆われている。服装は以前の純白のワンピースドレスとは打って変わって暗色系の色で統一されたゴスロリ風だ。
そう。ラナから魂を抜き取った張本人。ナターシャがそこにいた。
「こいつ!」
予想できなかった登場に俺は驚きつつ短杖を構える。
何をトリガーに魂を抜かれるかわからないので、警戒して距離をとった。
隣を見るとフィアが魔法を練っている。
しかし、ナターシャはそれを一瞥すると、何も無かったかのようにグランドピアノの鍵盤に向かった。
「落ち着きなさい。優雅なお茶会の場でそのような振る舞い。無粋ですわよ」
そう彼女が声を発すると同時に、演奏が始まる。低音域に主旋律を置いたおどろおどろしいその曲は、昔聞いたベートーヴェンの”月光”によく似ていた。
周囲では人形たちが本当にお茶会をするかのように、カトラリーを持って振る舞っているが、食べるふりをしている皿にお菓子は無く、ティーポットに紅茶は入っていない。
とても歪な光景だった。
「ご主人様。さきいって」
フィアにそう言われる。
「うちあわせどおりに。こいつのあいては。わたし」
確かに事前の打ち合わせではそのとおりだった。が、いざフィアを残して先に行くとなると不安が残る。
「勝てるか……?」
「かつ!」
フィアの目はまっすぐナターシャに向けられている。それを見て俺は一気に出口の扉に走り出した。
出口を塞ぐものはなにもない。肩で押し開けるようにして扉を突破しながら、俺は通路へと躍り出た。
ハロウィンですねぇ……
かわいいコスプレをしてくれる彼女が欲しいです




