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2-14 最後の休息

 魔力でできたゲートを潜ると、のどかな景色が目に飛び込んできた。森の中にある小さな村。ホルン村だ。


「ん。のどか」


「それな。てか、あの砂漠に比べたらどこでも平和だろ。」


「にどといきたくない」


「残念。剣を返しにもう一回は行かないとな」


「うっ」


 フィアが苦い顔をしている。ゼルドにいるときは一周回って楽しそうだったのに、砂漠はダメみたいだ。


 そうやって話していたらエルサさんの家にたどり着いた。


「あ…マモ」


 馬小屋の方を見て、いなくなった友達を思い出したのか、フィアが呟く。


「まぁ…あれは仕方ないだろう。生きてるかもしれないし、またどこか出会えるさ」


「いきて…る…?」


「ワンチャン。あいつも魔物だし」


「…?」


 …まぁ。言いたいことはわかる。俺だって、パセリの葉っぱが刺さっただけで泣いてたやつがあの砂漠で生き残れるとは思えない。でも、死体を確認できていない以上生きていると信じたかった。


 俺は家の扉の前に立ち、ドアノッカーを叩いた。


 カンカンと金属質な音が響いた直後!ドアが勢いよく開いてエルサさんが飛び出してきた。


「おかえり!よく帰ってきた!随分早かったね!」


「まぁ、色々ありまして…」


「ん。むかでにくわれて、エイとはなして、ワープしてきた」


「えっと…どういうことだい?」


「俺が説明しますよ。実は…」


 フィアに変わって何があったかをざっくりと説明する。結構真剣に話をしていたのだが、エルサさんは笑いを堪えるかのようにどんどん顔を歪めていった。


「あっはっはっは!ひー!マジか!”女王”に襲われて?ゼルドに行って?伝説の女帝と話をしてきた?どこのホラ吹きだよ!やばい…腹が…」


 笑いすぎて腹を痛めてしまったみたいだ。正直俺も逆の立場だったら同じことをする気がするので、微妙な顔をしながらうずくまって笑い転げているエルサさんに手を貸す。


「残念ながら事実なんですよ。でもこれでラナを救う手段はできました」


「でも、体は持って行かれるんだろう?大丈夫なのか?」


「大丈夫だそうです。一応”魂の契約”ってやつまでしてくれたので」


「おぉ…女帝サマはガチだねぇ…ま、それなら心配はいらないかな。それより」


 エルサさんは王城の方に目を向けている。


「見てよあの空。王都周辺だけずっと暗い雲で覆われているんだ。あたしも一回中に入ってみたけど、かなり精神を削られたよ」


「せいしん?ってことはせんのう?」


「フィアちゃん惜しいね。あの雲にはそこまでの力はないみたいだ。せいぜいやる気とか元気とかをごっそり持っていく程度かな?王都の住民もどことなく気だるげな人が多くなってたよ」


「そりゃ良かったですよ。洗脳に比べたらよっぽどマシです」


「きずかないうちにやられる。いちばんこわい」


「たしかにそうだね。でも気をつけなよ、王都の中心王城の周辺には濃い霧が漂っていた。あれは得体が知れないからね」


 俺が王城の方に目を凝らすと、以前はきれいだった城に闇色のヴェールがかかっているように見えた。


「そのへんはなんとかしますよ。いや、なんとしてでも突破します」


 だが、その程度で俺の覚悟は揺るがない。


「ここまで来たんだ。ラナは絶対に助ける」


 強い意志を込めて王城を睨みつける。今すぐにでも出発を…と考えていると、エルサさんに止められた。


「あー、はいはい。とりあえず出発は明日にしなよ?今から出てもすぐに夜になるし、休めるときに休んでおくのも大切なことだよ。自覚してないだけで君らめちゃくちゃ疲れてると思うよ」


「あちょ!わかった!わかりましたから襟引っ張らないで!」


「えぐっ。ちから。つよい」


 首根っこを引っ張られて強制的にエルサさんの家の中に連行される。台所ではちょうど夕食の準備をしていたようで、シチューのいい匂いが家中に漂っていた。


 ぐー…


 隣からお腹が鳴る音がした。それに負けず劣らずの音を俺のお腹も奏でてしまう。


「「……」」


「はっはっは!健康優良児どもめ!今作ってくるから椅子に座ってな!」


 俺とフィアは顔を見合わせながら木を削って作られたダイニングテーブルの椅子に座る。


 しばらくしてエルサさんが具がたっぷりのシチューとカゴいっぱいのバゲットを持ってきてくれた。お腹がぐるぐるとうるさい。


「たべたい」


「こら、フィア。でも食べたいです。めっちゃうまそう」


 カトラリーを準備してくれたエルサさんが返事してくれる。


「いいよ。たんとお食べ」


 その瞬間から俺とフィアは獣になった。


 シチューはミルクがたっぷり入っているようで、とてもトロトロだ。控えめに載せ広げられているチーズと絡めると、口の中で濃いめの味付けがいっぱいに広がってものすごく満足感がある。


 具もとても豪華で、大きくぶつ切りされた鶏肉は一口で飲み込めないほど大きいものの、噛むとホロホロに崩れてとても食べやすく、味もしっかり染み込んでいて食べるたびに食欲が刺激された。


 野菜も人参やじゃがいものようなものがたくさん入っているが、元の味が濃い人参はシチュー本体にほとんど溶けるまで煮込まれていて、たまに口に入ってくる小粒が味のアクセントとなるような絶妙な加減だった。対してじゃがいもは、鶏肉ほどではないものの一口サイズほどに大きく切られていて、しっかり味が染み込んでいるものの確かな歯ごたえが残っていたので、噛むたびに満腹中枢が刺激されて幸福感を味わうことができた。


 極めつけはカゴいっぱいに入っているバゲットの山だ。地球で食べたフランスパンに似たもので、硬さとしてはフランスパンよりやや固めと言ったところか。そのまま口に運ぶのは少しためらわれる硬度だった。


 が、シチューにつけてみると評価は一転する。


 カチカチに引き締まったパンにシチューのとろりとしたスープがよく染み込み、程よく食べやすい柔らかさと温度に自動で調節してくれる。外側は焼いたときのままパリッと。内側はシチューでほぐされてふわっと。この絶妙なギャップに思わず夢中になってしまう。


 気がつくと、俺とフィアは鍋いっぱいのシチューとカゴいっぱいのバゲットをすべて平らげていた。


 ……美味しかった。


 意識せずその言葉が口から漏れる。隣のフィアを見ると、満足そうな顔で目を閉じていた。


 それを見ていたエルサさんが声をかけてくる。


「うわー!いい食べっぷりだねー!おばちゃんうれしいよ!」


「すごい美味しかったですよ。すみませんいっぱい食べてしまって…」


「気にしないでよ。そんなに美味しそうに食べてくれるなら作りがいがあるってもんさ!ほら、フィアちゃんもう眠そうだよ?寝かせてあげな?」


 その言葉に再び隣を見ると、フィアが頭を左右に揺らしながら船を漕いでいる。


 まだ日が沈んで少ししか経っていないが、久しぶりに安心できる場所に帰ってこれたことから疲れが出たのだろう。俺は彼女を抱きかかえて立ち上がる。


「お言葉に甘えます。どこか部屋を貸していただけると…」


「あぁ、それなら廊下を挟んで反対側の部屋を使いな。ゆっくり休んでよ」


「はい。おやすみなさい」


 そういって俺は与えられた部屋に向かう。夜は更けていった。


ここからラストに入ります。

どばーっと一気に投稿できたら良かったんですけど、ストックが無いもんで…すまぬ(´・ω・`)

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