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2-9 安全とは程遠い場所

翌日、朝から街を出発した俺、ナギサ。とフィアは午後になってようやく砂漠にたどり着いていた。


空気が一気に乾燥し、もうもうと砂埃を立てながら砂漠の中を進む。


「まだ砂漠に入ったばっかだけど、すでに凶悪だな」


「ん。生存競争」


御者台に座る二人の目線の先には、まさに弱肉強食という光景が繰り広げられていた。


紫色の鱗を持ち、体を裂くほどの大きな口を持つヘビ。”子供”と、砂漠に住む狼との争いだ。


”子供”が体で体当たりを仕掛けると、狼はするりと避けて相手の首筋に噛みつく。それに対して別の”子供”が口からドス黒いブレスを打つと、狼は地面から砂を隆起させて盾にする。


一体一体が力を出し尽くしての死闘を演じていた。


お互い群れ同士の当たり合いだったようだが、質、量ともに”子供”たちのほうが多かったらしく、だんだん優勢に。そして少しすると狼たちの姿は、”子供”の大群に飲まれて完全に見えなくなった。


「おわった」


「そうだな、なんというか。自然って感じだな。」


勝利のダンス(?)かのように体をくねらせる子供たちを横目に馬車を走らせる。


それ以外でも、ハゲワシのような鳥型の魔物が砂色の鱗のワイバーンを集団で襲っていたり、コモドオオトカゲをそのまま大きくしたような魔物が、サボテンに吸収されていたり。と、これまで通ってきた穏やかな森とは真逆の世界だった。


そしてそんな世界に入り込んできた異物を、住人たちが見逃すはずはなかった。


一匹の”子供”が馬車へゆっくり近づいてくる。


「なあ、フィア。なんか”子供”がこっち来てないか?」


「ん、にげよう」


「でもあの一匹だけだぞ?さくっとヤった方が早くない?」


「だめ。こいつらは一匹いたら三十匹はでてくる」


「Gかよ。了解、逃げよう。せいっ!」


フィアから聞こえた不吉な言葉に、マモにムチを打って速度を上げる。みるみるうちに距離を取れるが、それを見た”子供”は口を大きく開けて、天へと叫んだ。


キャァァァァァァァァ!!!!!!!


「「ーーー!?」」


あまりの絶叫に思わず耳をふさぐ。しかし、その叫びが終わると、そこから地獄は始まった。


「なぁ……フィア……?」


「……」


「なんか俺達……狙われていないか…?」


「……」


あたりにもともといた者に加えて、地中から追加で紫色の頭が生えてくる。”子供”の大群だ。そこについている目がギラリと音を立てて、ナギサとフィアの馬車へと集中する。


「に…にげ…なきゃ!」


「お、おう!走れ!マモ!」


ドウッ!


待ってました!とばかりにマモが砂を蹴って前に進む。普段は閉じて体に添わせている羽まで開いての全力疾走だ。


かつて感じたことのないほどに砂埃が舞い、周囲の景色が高速で流れる。少しは離れることができただろう。と、俺が後ろを振り向くとそこには見渡すばかりの蛇蛇蛇蛇蛇蛇蛇………。


「いやぁぁぁぁぁ!走って!マモマジ走って!」



わかってる!とばかりに速度が更に上る。手綱を握る手にも自然と力が入り、馬車の振動も一層大きくなった。


ドォォン!ドカーーン!


背後で連続して爆発音が聞こえる。隣を見るとフィアが馬車から身を乗り出して魔法を連発していた。


迫る恐怖から逃げること20分ほど。命を削るかのような爆走の結果、徐々に”子供”たちとの距離を離すことに成功したらしく、最初に見たときより少し距離を取れているように感じた。


大量の”子供”たちが移動するときに立てる地響き。その音がだんだん遠ざかっていくのとともに、いつの間にか体に入っていた力が抜ける。しぶとく”子供”たちは一定の距離を開けたまま追跡してきたが、ある一定のラインに到達すると、急に追いかけて来なくなった。


「ここまで来ると追ってこれないみたいだな…。お疲れ様、マモ。フィアも」


「ん。マモちゃんよくがんばった。にんじんあげる」


マモはその大きな羽をわっさわっさと羽ばたかせて風を送り、火照った体を冷ましている。


砂漠の中にある湖、そのほとりにある木の下で二人と一匹は休憩していた。時刻は夕方だ。


相変わらず500メートルほど離れた場所を”子供”たちが囲んでいるが、今はまだこちらに近ずいてくる様子はない。


息を整えつつ、少しの違和感を覚えながら周囲を見渡すと、水を飲んで休んでいたフィアが首を傾げつつ、こちらを見ていた。


「ご主人様。なにか。へん?かも?わかんない」


「だよなぁ…でも思い出せないんだ。ま、とりあえず休ませてもらって、これからの計画を練ろう」


そう言うと俺は馬車の中からレジャーシートのようなものと、焚き火のセット、薪と火打ち石を取り出して野宿の準備を始めた。


未だに首を傾げているフィアに携帯食料を渡して自分は馬車のチェックに入る。


結論としてはあまり損傷はなかった。とんでもない速度で走ったにしてはだ。車軸が少々歪んでしまったもののまだまだ使えそうだ。


そのことに安心してあたりを見渡すと、近くの木に大きな木の実がなっていることに気がついた。食べられるものかと思い、採取して焚き火へ戻る。焚き火に戻る頃には、あたりはすでに真っ暗だった。


「ん。おかえり」


「おう特に問題はなかったぞ。馬車もまだまだ走れそうだ」


「なにより。…?それなに?」


目を焚き火から起こしたフィアが俺の手にあるスイカ状の木の実(?)に気がつく。


「これはさっき木についてたのを取ってきたんだ。食べてみようぜ」


そう言って俺はその木の実(?)を焚き火にかざす。


すると暗闇に現れたものはまるでカエルの卵。しかし、中にはいっているものはそんな可愛いものではなく紫色の小さいヘビ、”子供”の幼体だった。何十個とついた透明な卵。それが集まってスイカのような形になっており、それぞれ中で”子供”の幼体がぐねぐねと動いている。


「たべ…るの?い、いやだ……」


「食べない!食べない!うっ…」


焚き火から跳ねた火の粉で卵が一つ弾けたらしい。ひどい悪臭が漂ってくる。


思わず俺はその卵を遠くに投げ捨てた。そしてその時になってようやく気がついた。周りの木の幹。草の中、それらにひっそりと隠れるように紫色のツルと花が紛れていることに。


頭が一気に真っ白になる、ホルン村で聞いたエルサさんの言葉が突如頭の中に響いた。


『オアシスには近づくなよ?そこはゼルドへの入口だ』


ここは砂漠の中にぽつんとある湖。つまりはオアシスだ。そしてエルサさんの言葉通り、ゼルドに関係するものも見える。


「逃げないと」そう思い隣のフィアの手を取って急いで馬車に連れ込む。


御者台に座ってそばにあるランプに火をつけながら、思わず悪態をついてしまう。


「くそっ!なんで忘れてたんだ!あいつらは近づいて来れないんじゃない。近づく必要がないんだよ!」


「なになの?なにが?」


「エルサさんが言ってただろ!オアシスは……」


「……入口」


フィアもおそらく思い出したのだろう。顔を真っ白にして出発の準備を始める。寝ていたマモを叩き起こして馬車につなぎ、とにかくここから離れよう。と、馬車をスタートさせようとしたその時!激しい地響きがおこった!


「遅かったか…?どこから来る?何が来る?……下か!馬車を捨てろ!!」


フィアに向けて叫ぶと勢いよく馬車から飛び出す。直後、馬車が合ったはずの場所に巨大な大アゴが地中より噛みついていた。


魔法で明かりを生み出して辺りを照らすと、そこには異形があった。


一対の細長い触角、まるで節足動物の顎肢のようなアゴ。電柱ほどもある大きなキバは何かの液体にヌラヌラと濡れている。恐怖のまま固まっていると、長い触角を高速で動かしながら地中からそれらの持ち主が姿を現した。


「あ……ぁ……」


少し離れた場所からフィアが怯えた声を出している。俺も恐怖のあまり動けずにいた。


鎌首をもたげてこちらを見下ろしているその生き物は、赤い目、沢山の節で区切られた紫色の体、先が赤色で尖っている鎌状の足、そして……ムカデをより凶悪にしたような紫色の頭部…。話に聞いていた”女王”とそっくり。いや、”女王”そのものだった。


彼女は、もはや勝利を確信しているのか、大アゴをギチギチと鳴らしながら面白がるように頭部の触角を伸ばしてくる。暗くてよく見えないが全身を地中から出し切ったのか、地響きは収まっていた。嫌悪感で恐怖を抑え込み、俺とフィアは触角から逃れようと行動を始める。


「フィア!勝てない!逃げるぞ!マモはどこだ!?」


「わかんない!にげた、かも!」


走って”女王”から遠ざかりながら二人で声を交わす。触角は常に付かず離れずのところでこちらの恐怖心を煽って来ており、俺はともかくフィアが魔法を放っても全くこたえた様子はない。


「くっそ!これ以上はだめだ!”子供”にやられちまう!」


「でも…」


進行方向を見ると、昼間の奴らだろうか、”子供”たちが列を作ってこちらを待ち構えており、憎らしいほどに『前門の虎、後門の狼』という言葉がぴったりな状況だった。


後ろを振り返ると触角で遊ぶのに飽きたのか、沢山の足がカサカサと音を立てて”女王”が近づいてきている。


彼女の巨大なアゴは大きく開かれていて、前傾姿勢で地を這いながら”女王”が高速で襲いかかってきた!




"子供"の卵のシーンは食事中に想像するとだいぶグロいです。

それにしてもいい所で終わってしまいましたね?

もちろん 『わ ざ と 』ですよ

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