2-8 砂漠の町
ちょっとほのぼの回
一行はのんびりと馬車を走らせながら進んで行った。
昼は馬車を走らせ、夜は焚き火を炊いて馬車の中で眠る。そんな生活をすること四日目。空気が徐々に乾燥してきて、街道沿いの植生も枯れ木や、乾燥に強い多肉植物などが多くなってきていた。
風が吹く度に少量だが砂が舞う。これまでいた森に比べて幾分か埃っぽい気がした。
やがて最後の丘を登りきると目の前から葉の付いた木は消えて、低木が転々と生えているのみの砂混じりの岩場が広がっていた。
向こうには、岩の壁に囲まれた砂色の町が姿を現していた。
「うおっ立派な街だな。てか奥見てみろよ奥!砂漠だぞ!リアルで初めて見た!」
「ん。私は久しぶり。この空気。とてもきらい」
「嫌いなんかい…。どうよ、故郷の近くに来た気分は。なんか感じるものはない?」
「ない。砂。きらい。」
フィアは特に感じるものは無い。とばかりに、砂が入ったのであろう目をごしごしと擦っていた。
「あぁ……擦っちゃダメだから。ほら、目薬さして、ゴーグル付けて。木箱に入ってたから」
「ん」
彼女は手を止めてこちらに顔を向ける。目を薄めに開けている。目薬をさして欲しいらしい。
「はいはい。ほら目ー開けてー」
「いやぁ……」
荷台で騒がしくする二人を乗せて馬車は進み続ける。マモがその翼をパタと一度はためかせると、やれやれといった様子で町へと丘を降りだした。
入口での検問をくぐり、町に入るとそこは砂色の四角い建物が左右に並んでいた。
その建物の天井同士を繋ぐように朱色、翡翠色などの色鮮やかな色が付いた布が掛けられており、その下で商人たちが露店を出して大声で呼び込みを行っていた。
そんな町のメインストリートを馬車を走らせながら、門番に聞いた馬車を泊めおける宿に向けて進んで行った。
「空。カラフル」
「それな。しかも見てみろよ、あいつら綺麗な1枚布だぜ。染めるの大変だろうなぁ……」
「ツボ漬け……?」
「美味しそうな染色方法だな、多分引き染めだと思うんだが。と、着いたぞ。ここみたいだ」
そういうと、目の前には二階建ての一際大きな建物が姿を現した。1階部分は馬車を止めるためのスペースで、ガレージのようにアーチ型の穴がいくつも空いており、既に幾つも馬車が止まっていた。
宿泊場所は二階にあるらしい。まずは一階の端にある受付と思われる場所に、声をかけに行った。
「すみませーん。一泊お願いしたいんですけど?」
「はいはい。ようこそいらっしゃいました。ワタクシここ太陽亭の受付をしております、ハモと申します。以後お見知り置きを……。さて、一泊でお間違いないですかな?」
「はい。一泊を2人部屋で。馬車も停められると嬉しいんですけど」
「はい!停められますとも。当亭はそれが自慢となっていますので。まだ充分に空きもございますよ」
俺の言葉にハモは上機嫌で答える。
どうやら門番の言う通りここはこの宿はそれがウリらしく、どれだけうちの宿がいいかを語る彼の顔はとても自慢げだった。
置いてけぼりになってぽかんとしていると、思い出したかのように話が戻される。
「おおっと、申し訳ありません。ワタクシとしましたことが…ええと、一泊ですと銅貨60枚となります。食事と入浴をご希望の場合はそれぞれ一人銅貨10枚ずつでございます」
「じゃあ、俺たち二人ともお風呂だけつけてもらって。ご飯はせっかくなので外食しようと思います」
「かしこまりました。では銅貨80枚。確かに」
財布の中からざらざらと銅貨を取り出す。
どうやらエルサさんは荷物の中に多少の現金も入れてくれていたらしく、懐はとても暖かかった。
早速鍵をもらって馬車を止め、部屋に入る。部屋はそこまで広く豪華とは言えなかったが、埃っぽい町に比べてとても清潔で丈夫な家具が揃っていた。
丸いテーブルを挟んで部屋の両端に並べられたベッドの上に貴重品の入っているリュックを下ろし、財布を手にフィアへ声をかける。
「よし!町に繰り出すか!」
「ん!」
夕焼けが空を茜色に染めていく。
そんな空の下。俺、ナギサとフィアは町のメインストリートへとお夕飯を求めて繰り出していた。
やはり所変われば食材、調理方法もガラッと変わるもので、この辺りの食材達はとても強烈なものが多いと感じた。
…………。味以外も。
「ね。ご主人様。あれ」
「みちゃいけません。野菜がうつるよ」
視線の先には巨大なナタを肩に担いでパセリの束と睨み合う料理人の姿が……。
どうやらナタの攻撃に葉っぱを大量に飛ばすことで対抗しており、勝負は互角のようだ。
手元の包み焼きに入っている調理済みのパセリを無言で見つめながら、なんとも言えない気持ちになってしまう。
しかし、手元の包み焼き然り、目の前で調理されているスープ然りだが、とても濃い味付けをしていて、フィーラル王国の王都で食べたものよりも味に深みがあるように感じた。
「味は。強さに。比例する。ドラゴンの肉。とても美味しかった」
どうやら隣の彼女はドラゴンの肉を食べたことがあるらしい。食べ物の味が元の生物の強さに比例するならば、魔物の王とも言えるドラゴンの肉はさぞ美味だったのだろう。少し羨ましく思った。
「ん……?ドラゴンって竜?あれ?共ぐ、いてっ!」
手をひねられる感覚と共に鈍い痛みを感じて横を見ると、じとっとした目をしたフィアがこちらを見あげていた。
「共食い。違う。ドラゴンと竜人は別」
謎の迫力がある。コホンと誤魔化すように咳払いをした。
「さーて!次は何を食べようかなー?」
「逃げた」
「逃げてねーし!置いてくぞ!」
「ん!まって!」
二人で夕暮れの町を動き回る。太陽が完全に沈んでしまうまで仲良く食べ歩いていた。
夜……。
風呂を済ませ、宿屋の自室にこもり、荷物をチェックする。
フィアは久しぶりのベッドが嬉しいのか、ぽよんぽよんと、ベッドの上で飛び跳ねている。白い石がふたつ、その手に握られていた。
「食料は買い足したし、水も十分。最悪俺が魔法で出せるか。あとは道具と、アレへの対策だな……」
アレ。とはあの時、ホルン村の前の丘で対峙した彼のような者。ひいてはゼルドに対する対策だ。
町での買い出しと同時に、砂漠の遺跡。シハネサ帝国と呼ばれていた国。についての情報収集も行っていたのだが、そこで聞いたこと。その大半に共通していたのは、
「古代シハネサ帝国は砂に埋もれ。ゼルドに飲み込まれている」
という文言だった。
砂はどうにでもなる。遺跡への入口はまだ地上にあるらしいから、たどり着ければどうにでもなるだろう。
問題は”ゼルド”と呼ばれるものだ。どうやらゼルドとはこの世界に重なるもう一つの世界のことらしい。ここまでは意見を聞いた人全員に共通していたが、その先。どんな場所なのか、どのような生物がいるのかは、言う人によってまちまちな様子だった。
「となると問題は、やっぱりゼルド。もしくはそれに属する者たちか……。フィア。その石一個ちょうだい?」
「ん?ん。いいよ」
「さんきゅ」
投げられた石をお礼を言って片手でキャッチし、眺める。
それは、エルサさんに貰った箱の中に入っていたものの一つ。魔法を拒絶する石、”セレノア”の破片だった。
この石は元々三つあった。しかし、偶然召喚していた短杖が反応していたため試しに吸収させてみたところ、ある武器が開放された。
セレナール・ワンド
所持効果 : 無し
装備効果 : セレノア・サージ
目の前に浮かぶ半透明の説明ウインドウ。その中に一際輝く文章があった。
セレノア・サージ……所持者に対して発動された魔法を、吸収して放出する。
この”セレノア・サージ”という能力。これについての説明が正しいなら、ゼルドに対する絶対的な対応策になる。
「シンプルだけど、それ故に心強いな。フィアも新しい装備はどうだ?」
フィアの装備も更新されていた。
「ん。まんぞく」と声を出しながら彼女は、二本のナイフを自分のバッグから取り出す。
鞘から引き抜くと、白いエレノアによって作成された刀身に、赤色のオーラがまとわりついている。
「なかなかいい。てになじむ」
何度かヒュッと空を切らせると、満足そうにナイフをしまった。
「馴染むなら良かった。これからはそれがメインウェポンになりそうなんだ。大事にしろよ」
「わかった。……やっぱり遺跡には行くの?」
「ああ。行くさ。前に話したことあるだろう?俺が旅をする目的はラナを救うためだ。そのためなら地獄にでも行ってやるさ!」
「むう。そっか。じゃあがんばらないと」
「怖いなら残っててもいいぞ?その分のお金はある」
「馬鹿なこと言わない。ご主人様。さっさと寝て」
行くのに反対なのかと思い声をかけるも、どうやら思いすごしだったらしい。彼女はベッドの上で毛布にくるまってしまった。
帰ってきた返事に心強さを覚えながらテーブルの上のロウソクをふき消す。室内に暗闇が満ちる。
よっしゃ寝るか。と俺も布団にくるまると、そっとベッドに忍び込んでくる気配がした。
「寝るんじゃないのか?」
「くらいとねれない」
そう返され、結局背中合わせで寝ることになる。触れた部分の熱がやけに暖かかった。
宿屋の一室。狭いシングルベッドの上で二人は仲良く眠りについていた。
「戦う食材」シリーズは割とお気に入りだったりします。
次はどんなお野菜が出てくるかなー(っ'-')╮ =͟͟͞͞




