2-6 迫害の理由
目が覚めると、ふかふかのベッドの上に寝かされていた。清潔なシーツ、布団からはお日様の香りがする。外は暗く、夜になっているようだ。
「知らない天井だ……って、前もやったな」
デジャブを感じながら体を起こす。警戒をしながら辺りを見回すと、隣のベッドに寝ているフィアを見つけてほっとする。
「良かった。無事みたいだな。」
そっと彼女に近づき、頭を撫で……ようとした瞬間。部屋の扉が開いて一人の女性が入ってきた。
「お!起きたかい?気分は?だけど、あんまりあたしん家でそういうことはしないで欲しいな。独り身には悲しくなるよー!」
はっはっはー!と、彼女は口を大きく開けて笑っている。どこかで見た笑い方とその雰囲気に既視感を覚えながら、とんでもない勘違いをしてそうなのを訂正する。
「違います。俺はただ頭を撫でようとしただけです。断じてそんなことをしようとした訳では無いです。というか、俺多分あなたのこと知ってるんですけど……」
「おっと少年。ナンパかい?残念だったなぁ…あたしには冒険という心に決めた恋人がいてね。しかもそんなに可愛い彼女さんがいるのに、浮気なんてしちゃダメだよ?」
「違います。彼女じゃないです。というか、ナンパじゃなくて、これなんですけど……」
独特な会話のテンポに飲まれながら、ひょっとして…?と思い、オジサマから貰った手紙を渡してみる。
「んー?ラブレターかい?粋だねぇ。どれどれ?」
「あぁ。もういいんで開けてみてください。絶対あなただ。DNAと筋肉がそう言ってる」
彼女の女性にしては発達した上腕二頭筋は、どこぞの誰かさんのようにぴくついていた。
「おお…兄貴からじゃん。ふんふん?ふーん……。御二方あれっすね。相当壮絶な人生っすね。王女サマ誘拐したんすか。まじぱないっす。尊敬っす」
「してないです!てかどんなこと書いてあるんですか!?」
びっくりして大声が出てしまう。その声に反応してか、眠っていたフィアが目覚めてしまった。
「んゅ?なに…どこ……?」
目を擦りながら声をこぼす彼女を見て、特に異常は無さそうだと安心する。
「お!おじょうさーん。おっは!このお兄さんが君の事、襲おうとしてたよ」
「え……?えっと?」
「してないしてない!!変なこと言わないでください!!」
「えー?どうだか?」
ぎゃーぎゃー、彼女と言い合う。それを見たフィアがポツンと一言。
「仲いいね」
「そうだよー!」「絶対に違う!」
閑話休題
「じゃあ改めまして自己紹介。あたしの名前はエルサ。この手紙の書き主、ジョウンの妹さ」
どうやら手紙を渡す相手は正解だったらしい。さすがのDNAだ。引き締まった体にぴくぴくと動く上腕二頭筋。オジサマ、ジョウン氏にそっくりだ。
「あ。ありがとうございます。俺の名前はナギサ。えっと……冒険者です。」
「フィア。です。えっと。特になし。です。」
二人で自己紹介を返す。それを聞いて彼女、エルサさんは頷くと、話し始めた。
「了解。兄貴の手紙に書かれてたのは君らで間違い無さそうだね。王都から離れる手助けをして欲しいって事だけど合ってる?」
「はい。ちょっと色々ありまして……」
「うん、手紙に書いてあったよ。まあ、深くは聞かないわ、まだ死にたくないし。明日になったら準備をしよう。今日は一旦休みな」
気を使ってくれる。彼女がみている方向を見るとフィアがこっくりこっくりと船を漕いでいた。
「ふふっ、だいぶ疲れてるみたいだね。可愛いじゃん。寝かしてあげなよ」
「そうですね……じゃあ今日は休ませてもらいます」
そう言って横になるとすぐにまぶたが落ちてくる。横にフィアを見ながら、俺は二度目の眠りに落ちて行った。
朝、目覚めて朝食をご馳走になり、泊めてもらっていた家から出る。丸太でできていたオシャレなログハウスだった。
「さてと、ちょっと待っていてくれよー」
そう言ってエルサさんは村の中心の方へと歩いて行った。
家は村の端にあり、森と隣接している。森の木の中にはいくつか切り株があり、うちの一つには真っ白い素材でできた盾と斧が立てかけてあった。
気になってフィアと一緒に見ていると、戻ってきたエルサさんに声をかけられる。
「それが気になるかい?」
「ええ。なんというか、不思議な感じがします。」
「ん。ちょっとこわい」
その言葉に当然だろう。という顔で彼女はドヤ顔をする。
「そりゃそうだ。その武器の素材はセレノアって言ってね。石化した特殊な木から取れる石材を使用したものなんだよ。最大の特徴は”魔法が一切効かない”こと。君ら魔法使いにとっては天敵だろうね」
「すごいな……」
その言葉を聞いてもう一度その武器たちを見直す。確かに、あらゆる魔力を拒絶するオーラを感じた。
そこで俺はあることを思い出す。
「そう言えば昨日の夜、俺たちはある男に襲われたんですよ」
「知ってるよ、それはあいつらのための武器だからね」
「あいつら?何者なんですか?」
謎に満ちた人物。そいつについて何か知っていそうな雰囲気に、思わず疑問を投げかける。しかし、肩を竦めてエルサさんは答えた。
「あたしも詳しくは知らない。この武器も旅の人に貰ったものだしね。ただ、ここからはるか南にある砂漠を越えた先、竜人の帝国で作られたものらしいよ」
俺はその言葉に思わずフィアを見る。フィアも同じくこちらを見ていた。エルサさんは話を続ける。
「あの国はすごい排他的だからねぇ…。どうやら昔魔法使いの国に滅多打ちにされたとかで、今じゃ魔法が使えるってだけで処刑とか追放とからしいぞ」
隣でフィアがコクコクと頷いている。どうやら真実らしい。
「すごい国なんですね。行く時は気をつけますよ」
「普通は行こうとすら考えないんだけどねぇ……。まあいい。これをあげるよ」
そういってエルサさんが口笛を吹くと、立派な馬が幌馬車を引いて村の方から歩いてきた。
馬は栗毛で程よく筋肉の付いた体をしており、とても健康的だった。しかし、背中から鳥の羽のような巨大で綺麗な羽が生えており、普通の馬ではないことがとって見えた。
馬車には後ろ側のみが開いたベージュのホロが付いていて、中は思ったより広く、荷物を乗せても足を伸ばして寝れそうだった。車軸も丈夫で悪路もスイスイと走破できそうなほど頑丈に作られていた。
あまりにも素晴らしい贈り物に驚愕し、思わず彼女を凝視する。
「こんな立派なのいいんですか……?」
「いいってことよ。っていうか、砂漠越えをするならこれくらいのは必要だ。どうせ竜人の国に行くんだろ?全部兄貴からの手紙に書いてあったよ」
……。すげえなオジサマ……。神か?……。
オジサマのとんでもない読みに驚きつつ、フィアの手を引いて馬車の荷台を見る。そこにはいくつかの木箱とひとつの布袋が乗っていた。
「あぁ。あれは旅の必需品だよ。食料とか水の缶詰めとかだな。必要な分は取り急ぎ詰められるだけ詰めておいた。あとは砂漠の手前の街で補給しなよ。」
フィアが木箱の中身を見て感嘆の声を上げる。
「すごい……。水、きのみ、お肉、ぜんぶある。」
「何から何まで、ありがとうございます。」
至れり尽くせりな事にお礼を言うと、あっけからんとした返事が返ってくる。
「いやー!いいよいいよ。兄貴からの指示だし、あたしって兄貴には返しきれない恩があるからさ、これで少しでも返せたって感じ?この話、無事に帰ってこれたら聞かせてやってもいいよ」
「そうですね。是非ともお願いしたいです」
「ん。きになる」
早速馬車に乗り込もうとすると、エルサさんに止められる。
「おいおい!そんなに急ぐなよ、旅には休憩も必要だぜ?今晩はゆっくり休んで、明日の朝の出発にしな」
フィアを見ると、確かに少し疲れた顔をしていた。その表情に気が早っていたと感じ、心を落ち着かせてエルサに頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えてお世話になります」
「お世話。なります」
「ほい。今夜はご馳走だぞ〜?」
底抜けに明るい彼女に元気をもらいながら、フィアと二人でエルサさんに付いて歩いた。
サブタイトルをDNAにしようかとても迷いました。
お助けキャラその2です。
竜人の国はLOLのデ〇ーシアを思い浮かべて貰えばそれです。また正式な国名はまた出します。




