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2-5 森の中で


貰った本に載っている地図によると、ホルン村はここからまっすぐ南、森を抜けた先で徒歩で二日ほどかかる場所にあるらしい。


王都から少し離れ、森の中にある少し開けた場所で二人は休憩をしていた。


「なあ、フィア。さっきの魔法ありがとな。君だろ?使ったの」


隣に座る彼女の肩が「魔法」という単語を聞いた瞬間怯えたように飛び跳ねる。しかし、褒められたのだと気がつくと、不思議そうな顔をしながらこちらを向いた。


「おこら、ないの?」


「怒る?なんで?」


「だって、魔法って、だめで」


小鳥のさえずりが聞こえる。穏やかな空気を感じながら、フィアは独白を始めた。


「わたし、竜人っていう、しゅぞく。竜人は、ブレス以外、つかったらだめ、だから」


「竜人?聞いた事あるぞ。竜に変身することができて、高い身体能力があるって」


「そう。でも、わたし、からだ、つよくなくて。へんしん。できなくて。たたかえなくて」


フィアの顔がくしゃっと歪む。


「だから、まほうならつかえる、って。がんばって、おぼえたのに。おきて、いはんだって」


木々のざわめきの中にすすり泣く声が混じる。


「ごめんなさい。ごめんなさい。すてないで。もうつかわないから。すてないで」


完全に縮こまってしまった彼女のあたまをゆっくり撫でて、優しく声をかける。


「大丈夫。そんな事じゃ怒んないし、君を捨てないよ。むしろあの魔法は助かったし、本当に綺麗だった。これからも使って欲しいくらいだよ」


「ほんと……?」


「ほんとほんと。というか俺が使えるのが初級水魔法だけだからさ……正直マジで頼られてもらうかもね」


「初級水……ふっ……」


「あ!笑ったな!」


どうやら余程面白かったらしい。「ふっ……ふふっ」と小さく笑いをこぼしているフィアを見て、なんとなく悔しい思いをしながら誤魔化すように彼女の頭を撫でる。


わしゃわしゃとショートボブにカットされた髪をかき混ぜ、誤魔化すように声を掛けた。


「ほら!休憩終わり。行くぞ〜」


「にげた」


「逃げてない!もう笑うなー!」


うがー!。きゃっきゃっ。と静かな森の中に仲良く声を響かせながら二人は並んで進んで行った。




夕方。



「おし。あそこにうさぎがいるのは見えるか?」


「ん。見える」


「あれが今晩の食材だ。魔法を使って倒して見てくれるか?」


「ん!」


俺とフィアは森の中を流れる小川。そのほとりにキャンプを建て、その近くで食材を集めようとしていた。


お目当てはみんな大好きうさぎさん。調理しやすく、倒しやすい。そして美味しいと、一匹で三度お得なアレだ。


フィアが集中して魔力を操る気配がする。


「ほのおさん。もやして。『イグニスピラー』」


ゴォー!


…………


お肉が焦げる匂いがする…………


地獄の業火を思わせる炎の柱がうさぎがいたであろう場所に立ち上り、熱風が辺りにたちこめた。


炎は10秒程で収まったが、その跡地には黒い謎の塊になった可哀想なうさぎさんが!


「…………」


「…………」


「これはもう食べられないな……」


「強すぎちゃった……?」


「うん……次行こうか。もっと弱い魔法使える?」


「ん。がんばる」


気を取り直して次のうさぎさんを探す。幸いにもすぐに見つかった。


フィアに目線で合図を送る。隣で魔法が練られた。


「えっと……弱い炎さん。もやして?『ファイヤーボール』」


ボウッ


手のひらサイズの火球がその手から発射され、うさぎさんに着弾する。それは見事目標に命中し、炎に包む。


火が消えた後には表皮のみを焦がした状態で倒れる完璧な状態なうさぎさんが転がっていた。


「ナイス!やったじゃんフィア!すごいよ!」


「えっ?へ、へへ。やった?」


「やったよ!これで今晩の食材は完璧だ。いい魔法だね」


嬉しそうに微笑む彼女の頭を撫でながらキャンプに戻る。


獲物を解体しながら俺は彼女に尋ねた。


「そういやその魔法ってどこで覚えたんだ?呪文みたいなもの使ってないし、何より竜人の国では魔法が禁止なんだろ?」


「ん。この魔法は国の近くにある森で教わった。背が高くてエイみたいなお姉さんが教えてくれた」


「ほー。エイみたいなお姉さん?何それ?」


「さあ?知らない。でも、紫色のからだしてた」


「色んな意味ですごい人だな」と思いながら料理をする。今日のメニューは皮をパリッと焼いてワイルドに骨付きのまま焼いたものだ。生姜のいい香りがする。


「ほら。できたぞ、食べよう」


「ん。いただき」


「ます、な。そこまで言ったなら全部言えよ」


ふぇんふぉふふぁい(めんどくさい)


「お行儀悪いぞ。飲み込んでから喋りなさい……」



焚き火の炎がパチパチと音を立てる。どこかで遠吠えのようなものが聞こえた。


夜はふけていく。




そうして歩くこと数日。二人はホルン村。と呼ばれる場所まで後少し、という所まで来ていた。


「この峠さえ越えれば村だ。ようやく落ち着けるぞ」


「ん。おふろ、入りたい」


「ほんとそれ。やっぱり温水がいいよなー。川はやっぱり寒いし、」


二人で峠を越えようとしていると、峠の上、頂上に一人のフードを被ったマントの男がいることに気がついた。


「フィア。ストップ。追っ手かもしれない。」


「ん。」


フィアを背中に隠してゆっくりと前に進む。フードの男はこちらに背中を向けて俯いており、その表情を伺うことは出来ない。明らかに只者では無い気配だ。


少しづつ距離を詰め、残り五メートルの距離まで近づいた。その時!高速で男が振り向いたかと思うと、頭を上げて顔いっぱいの一つ目を輝かせた!


「ん!『イグニスアロー』!」


先手必勝とばかりにフィアの魔法が炸裂する。上級魔法に恥じぬ、いやそれ以上の威力を持った一撃。しかし、男に届く直前に紫色のバリアによって魔法は遮られ、霧散してしまった。


「「な!」」


俺とフィアの顔が驚愕に彩られる。なぜなら彼はフィアと同じ。詠唱をしているようには見えなかったからである。


[ふむ。詠唱を用いない術式の使用、()()()()。竜人による上級魔法の行使、()()()()。そして異世界の血、()()()()()()()……『グ・オル』]


「うっ!」 「んっ、」


地の底まで響くようなおどろおどろしい声。気がつけば俺とフィアの手足に紫色のツルでできた鎖が結ばれていた。


ツルには小さな薄紫色の花が無数に咲いており、とてつもない強度で引っ張っても伸びる気配すらない。


フードの男は一つ目を輝かせながらゆっくりと空中に浮かんでいく。よく見るとマントの裾から本来足が見える場所に、何本もの触手が覗いていることに気がついた。


[サンプルの回収を実行。扉を展開。座標の固定を開始]


二人の足元に何者をも飲み込むような深淵を思わせる魔力が展開される。あまりの威圧感に声を出すことも出来ない。


フィアも必死に抵抗しているが、やはり、脱出は難しいようだ。


空気が緊張で張り詰める。凍りつくようなプレッシャーの中、耳鳴りが聞こえ、足元に広がる魔力は刻一刻と強大になっていく。相手の正体、目的は未だ分からない。


しかし、その瞬間は突然やってきた。


[…………術式を中断。新たな気配を察知。選定、驚異と判定。今より帰還を開始]


ふっと体が軽くなる。手に絡みついていた紫色のツルがみるみるうちに枯れていき、足元の魔力もまるで無かったかのように消滅した。


プレッシャーも消え、周りの音が聞こえ始めると、謎の男はその身体を渦巻き状に回転させながら徐々に小さくなっていき、やがて消滅してしまった。


そこには何も残らず、まるで何も無かったかのようであった。


「フィア……大丈夫か?……」


戸惑いを持ちながら横にいるフィアに声をかける。


「ん。大丈夫……」


彼女もまだ緊張が残っているようだが、目立った外傷は無さそうだ。


彼女を抱き寄せ、安堵のあまり思わず深いため息をつくと、少し離れた場所から声が聞こえた。


「何者だっ……て、あれ?どこいった?」


茂みをかき分けて、峠の下から冒険者風の女性が出てきた。その手には白い斧と盾を持っている。


「君たちー!ここの辺に変なのいなかったかいー?」


彼女が声をかけてくる。しかし、強大なプレッシャーに晒されていた俺たちふたりの精神はもはや限界を迎えていた。


急激にまぶたが重くなる。抗おうとするも効果はなく、意識は暗闇へと落ちていった。


フード男、何者なんでしょうね。紫色でした。不気味さが演出できてたらな、と思います。


エイのお姉さんも気になりますね。どっちもちゃんと元ネタがあります。LOLの大好きなチャンピオンです。

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