第095話〜ハーレムを作れ〜
「子孫をつくるんだ」
まさかの言葉に、フリーズするエータ。
「ブライでも冗談って言うんだな。はは⋯⋯」
およそ信じられないエータは、流そうとした。
しかし、ブライの目は真剣そのものである。
「冗談じゃないよ、エータ。考えても見てくれ、もし万が一にでも、君が殺されたらどうなる?」
「ど、どうなるって⋯⋯」
エータは、フィエルやシロウ、クロウガやライオの顔を見た。
そして、事の重大さに気付く。
「あっ⋯⋯」
エータだけでなく、会議にいた面々も「なるほど」という顔をしている。
そこに、あまり要領を得ないビートが口を開いた。
「話の腰折ってわりぃんだけどよ。どーなんだ?」
すかさずドロシーがフォローに入る。
「バカですわね! 亜人のみなさんはエータを慕って集まってますのよ! そのエータが亡くなったらブバスティスが空中分解しますわ!」
「あー⋯⋯かつぐ神輿が無くなっちまうって事か」
そうなのだ。
村人たちの人種を超えた絆は繋がってきた。
しかし、それはエータという存在があってこそ、強く結びついている。
彼が亡くなり『誰がエータの意志を継ぐのか』となったとき、跡継ぎとなる『エータの子』がいるといないのとでは雲泥の差なのだ。
特に、出来たてホヤホヤのこの国では。
ブライは指をさしていう。
「という訳でエータ。ドロシー、イーリン、ディアンヌ、ケイミィの四人と結婚して子供をつくるんだ」
「は?」
「ちょ、ちょっと!」
「えっ?」
「私!?」
呆気に取られるエータ、ドロシー、イーリン、ディアンヌ。
「笑えない冗談だね〜」
ケイミィは笑顔で言った。
しかし、その口角はヒクついている。
「冗談じゃないよ、ケイミィ」
「もっと笑えないよ⋯⋯」
ブライの言葉に心底イラつきながら、ケイミィはぽつりとこぼした。
「あー、わりぃ。ドロシーはダメだわ。俺と結婚すっから」
さらっと爆弾発言をするビート。
「ちょ、ビート!!」
顔を赤らめ、立ち上がり、焦りまくるドロシー。
「えっ? しないのか?」
ビートの真っ直ぐな目に、プシューと顔から湯気が出たドロシーは、
「し、しましゅ⋯⋯」
と言いながら席についた。
「ドロシーちゃん! いつの間に!?」
まさかこの二人がすんなりくっつくと思っていなかったのだろう。
ディアンヌがドロシーを揺さぶっている。
このままでは会議が進まないと思ったブライが、話を続ける。
「まさかドロシーとビートくんがね、おめでとう。⋯⋯ディアンヌ、君はどうだい?」
ドロシーを揺らしていたディアンヌは「あっ、はい!」と言って、ブライの方を向く。
「私は神官という立場上、むずかしいですね。異性と関係を持つと、アーツが弱まって無職になる可能性もあるとか⋯⋯。そうですよね、ブライさん」
ブライはうなずき、口を開く。
「あぁ、そうだね。神聖マクシト国では、神官に就いた者には性行為の制限がかけられているとも言う。それほどデリケートな問題だ」
「ではやはり、私は⋯⋯」
ディアンヌがブライの提案を断ろうとした、その時だった。
「でも、それは普通の人間だった場合だ」
ブライが言葉をさえぎるように言った。
「えっ?」と、止まるディアンヌ。
「ディアンヌ。エータはバスティ様の使徒だ、これはつまり、どういう事か。わかるかい?」
「ど、どういう⋯⋯」
「エータと子孫をつくる。それは、バスティ様の御神徳に報いることになるんじゃないか?」
ディアンヌにピシャンと電流が走る!
「た、確かに⋯⋯」
「わざわざ異世界から魂を呼びだし、彼を若返らせたのはなぜか。それは、子孫を残して欲しいためじゃないかと、私は思ってる」
ずっと疑問だった『エータの若返り』。
実は、ブライの予想は的中しており、バスティは『人間と亜人の確執を無くすには、人間の寿命では足りない』と考えていた。
それで、魂を転送し、肉体を再構築する際。
エータを『バハスティフの結婚適齢期』まで若返らせたのである。
「エータの子供を産むと、むしろ神官としての能力が上がるのではないか、と私は思う。どうかな? ディアンヌ」
「バスティ様は使徒であるエータくんの血を途切れさせたくは無いでしょうね。では⋯⋯」
ディアンヌは意を決したように、
「エータくん、私と結婚しましょう!」
と言った。
「ほ、本気か!? ディアンヌ!」
「はい! 私、エータくんなら良いですし!」
「〜〜〜〜〜っ!!」
前の世界では、月並み程度しかモテたことがないエータ。
こんなにストレートに言われてしまうと弱い。
そんな二人を見て、ブライは次にイーリンに問いかける。
「君はどうかな? イーリン」
「んー?」
イーリンは話の内容がよくわかってないようだ。
「ぶ、ブライ⋯⋯さすがにイーリンはダメなんじゃ」
「いや、彼女も今年で15になる。結婚適齢期だよ」
「この世界ではそうかも知れないけど⋯⋯っていうか、それ以前の問題な気がするし」
エータとブライが話していると、イーリンが口を開いた。
「結婚とか、子どもとか、なに?」
(((そこからか〜)))
集会所にいた全員がそう思った。
「えーっとですねぇ。簡単にいうと、ギノーさんとサクべさんみたいになるって事ですね」
ディアンヌがフォローを入れる。
「家族になるってこと?」
イーリンは首をかしげながら聞く。
「そうですね。エータくんと⋯⋯一応、私ともですかね」
「エータと、ディアンヌと⋯⋯家族」
そういうと、イーリンのちいさな瞳から、ほろりと涙がこぼれた。
「なりたい、独り、さみしいから」
「イーリンちゃん⋯⋯」
ディアンヌは立ち上がってイーリンの頭を抱いた。
その姿を見て、エータはとても悩んでいる。
二人が嫌なわけではない。
イーリンを悲しませたくもない。
でも、これはそんなに簡単に決めて良い話ではない。
エータは意を決してこたえた。
「ごめん、やっぱりダメだ。結婚できない」
ブライは静かに口を開く。
「どうしてだい?」
エータは、テーブルの端でうつむいているフィエルの方を見て言った。
「お、俺⋯⋯フィエルが好きなんだ」