第093話〜お願いだからね〜
みんなにジョブ【皇帝】アーツ【税収】【恩賞】の説明をするエータ。
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【皇帝】
すべてのステータス(体力、筋力、耐久力、俊敏さ、器用さ、知力、魔力)に強力な補正がかかる。
【税収】
国民のステータスの一部を自動収集。
統治者として認めた者のジョブ、アーツ、スキルを任意で回収することが出来る。
エータを主と認めた状態で亡くなった場合も効果が発動する。
【恩賞】
エータが持つジョブ、アーツ、スキルを一人につき一回与えることが出来る。
税収で回収した者にそのまま恩賞で還す場合、回数制限が発生しない。
なお、皇帝、税収、恩賞は与えることが出来ない。
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「凄まじい⋯⋯」
ブライが言葉をなくしている。
村人たちも同様。
「建国するのは良いとして、エータ。私たちに何の相談もなく決めたのはいただけないな」
「うっ⋯⋯」
痛いところを突かれ、しょんぼりするエータ。
そんな彼を見て、ブライはクスリと笑った。
「とはいえ、それしか手がないのは事実だね。王国がこのまま引き下がるとは思えない。今度はもっと大軍で来るだろう」
ブライは、決意を固めたように村人たちのほうを見る。
「私たちも覚悟を決める時が来たようだ。みなはどう思う?」
顔を見合わせる村人たち。
すると、ビートが声をあげた。
「俺は建国に賛成だ! つか、俺がエータに頼んだんだ! 国を造ってくれって! 王国が障害になるなら俺がぶっ潰す!」
ドロシーが続く。
「わたくしも賛成です。話には聞いてましたが、今回のことで痛感いたしました。プリース王国はめちゃくちゃですわ。エータが覚醒し、先遣隊をしりぞけた今が攻めいるチャンスだと思います」
珍しく、イーリンも声を張上げる。
「私も! おばあちゃんの仇! 取りたい!」
その言葉に、村人たちは決意を固めたようにうなずく。
「このままじゃどうせやられるだけだ!」
「たった三人で村を取り返したんだろ? 行けるんじゃないか?」
「ダストンとギムリィの敵討ちと行こうじゃないか!」
わきたつ村人たちだったが、
「ちょ〜っと待ってくれるかな〜」
ケイミィが壇上に近づき、手をあげた。
ノバナの件を見ていた村人たちは一斉に静まり返る。
「エータちゃ〜ん、あれだけノバナの復讐を止めておいてそれ〜? ウチの納得いく説明は出来るのかな〜?」
「納得して貰えるかはわからない」
エータはそう応えた。
取りつくろう素振りすら見せないエータに、ブライは冷や汗をかいている。
案の定、ケイミィが「はぁ?」と、怒気を強めた。
「でも、出来る限りのことはする。あくまで狙うのは『王国の腐った部分』だけだ」
「いや、だから〜それなら『ノバナの村を焼いたエルフは殺していい』って事になるじゃん。ふざけないでよ〜」
ブライが「ケイミィ⋯⋯」とつぶやく。
ケイミィは、いつも通り飄々(ひょうひょう)とした口調であったが、前髪で隠れた目からは譲れない信念のようなものを感じる。
「ねぇ〜納得させてよ、エータちゃん。ウチはね、別に国王を討つのを反対してるワケじゃないんだよ⋯⋯」
村人たちはケイミィの表情こそ見えなかったが、その声と身体が震えていることから全てを察し、静かに彼女を見守った。
「ケイミィ⋯⋯俺は⋯⋯」
エータが口を開こうとした、その時だった。
「我々の命を差しだそう」
それは、エルフの現族長ドラシルだった。
ドラシルの周りには、五十人ほどのエルフたちが立ち並んでいる。彼らの目は迷いなく澄んでいた。
「私はエルフの族長ドラシル。一つ目の牛鬼から救っていただき、この村の方々には感謝の念に絶えない。私たちエルフは、この村の長であるエータ殿を月女神バスティ様の使徒として支持したいと思っている」
ドラシルはエルフたちの方を向き、目を合わせながらうなずく。
「使徒様はかならず亜人種すべての往く道を照らしてくださるだろう。我らがその妨げになってしまうのであれば、この命も捧げる覚悟だ。ただ⋯⋯」
ドラシルは目をつむり、深呼吸をして言う。
「どうか、我らの命をもって『エルフ族すべての禊』としていただきたい」
ざわつく一同。
「エルフ族すべての禊⋯⋯。つまり、大陸中のエルフの行いを赦して欲しいということ⋯⋯?」
「さよう。厚かましい願いとは重々承知の上だが⋯⋯どうか⋯⋯」
エータは、
「エルフたちの命を賭けるわけにはいかない」
と、こぼした。
そして、悩んだあと。
「わかった。なら、プリース王国とは一度『対話』をする」
と、言った。
「山を傷つけることになるけど⋯⋯このブバスティスを完全な要塞にして、俺が国王と話をしてくる。交渉が決裂して俺が殺されたら、みんなを危険に晒してしまうからな。話し合ったうえで本当にダメだったら、最終手段として王を討つ」
エータはケイミィに優しく「それでどうかな?」と聞いている。
「エータ!!」
ビートがさけんだ。
「それはお前が危険すぎるだろ! いくら強くなったって言ってもよ、国王とゆっくり話なんてさせて貰えるわけねぇって!」
ブライも続く。
「ビートくんの言う通りだ。十五年以上前とはいえ、私は王城の司書をしていたからわかる。あの国は完全に腐っている。話が通じるような連中なら、私やダストンは国を出ていったりしない!」
ブライはケイミィのほうを向き、
「ケイミィ、君もわかっているだろう」
と言う。
敬愛するブライから迫られたケイミィだったが、それでも引きたくは無さそうだ。
「それでも、ウチは⋯⋯」
そう言って目をふせている。
そんな二人を見ながら、エータはゆっくりと口を開く。
「俺は、責任を持ちたい」
エータは、村人ひとりひとりの顔を見渡した。
人間、鴉天狗、狸人⋯⋯少ないながらも、栗鼠、猫人、狼人なども居る。
そして、もちろんエルフも。
エータは、様々な『人類』の顔を見た。
「俺は亜人種を優先したい訳じゃない、人間をないがしろにしたい訳でもない。様々な人たちが同じ目線で、尊重しあえる世界を作りたい。そう思って動いてきた」
ノバナの顔を思い描くエータ。
「だから、人間のハロルド王とも最後まで『和解』の道を諦めちゃいけないんだよな⋯⋯。例え、大切な人を奪われても⋯⋯」
その言葉に、場は水を打ったように静まり返った。
「私が護衛する」
フィエルが静寂を割くように、凛と言った。
「フィエル⋯⋯」
「エータ、君がなんと言おうと絶対に譲らないからな。最後まで君の傍を離れない」
真剣な表情でいう彼女に、エータは言葉を返せないでいた。
すると、村人たちの間をぬうようにして、一人の女性がエータの元に近づいた。
「もういいよ」
それは、心も身体もくしゃくしゃになったノバナだった。
村人たちに緊張が走る。
クロウガは目線をそらさず、ゆっくりとエータの傍へと移動。
シロウ、ライオはエルフを守らんと目で合図をし、身構えている。
「ノバナ⋯⋯」
そんな事を気にも止めず、誰になんと言われようと、なにを思われようと構わないといった様子で、ケイミィがノバナの肩をそっと抱いた。
「エータ、一つ聞かせて⋯⋯」
ノバナはエータの目を見ず、うつむいたまま言う。
「あなたの思い描く理想⋯⋯私みたいな想いをする人は本当に居なくなる⋯⋯?」
エータは考えた。
耳触りの良い言葉を選ぶべきか、力強く返してあげるべきか⋯⋯。
そして⋯⋯。
「理不尽に命が奪われる世界を変えてみせる。必ず」
と、こたえた。
それがベストだったのかはわからない。
だが、その言葉が、いまのエータに出来る『誠意』であった。
ノバナは視線を落としたまま、両のてのひらを組み。
「わかったわ。なら、もしその時が来なかったら、エータ。エルフを皆殺しにして、あなたも死んで」
と、願うように吐き捨てた。
それは、祈りのようにも聞こえた。
「ノバナ⋯⋯」
エータはまだどこか、平和ボケした元の世界の感覚が抜けないでいた。
しかし、ノバナという存在が訴えかけてくる『これは都合の良い物語では無いのだ』と。
「わかった、約束する。そして、もう一つ約束するよ」
エータはノバナに語りかけるように言った。
「かならず成しとげる。最後まで諦めないって」
その言葉を聞いたノバナは、
「お願いだからね⋯⋯」
と、こぼした。
ノバナの脳裏には、愛した家族、一緒に育った村の人たち、山から見下ろす大好きな景色、風の匂い、やわらかな午後の日差し⋯⋯。
美しい思い出たちが映し出されていた。
「ノバナ、ありがとう。それに、ケイミィも」
エータは、語りかけるように言った。
「二人が居なかったら、俺は正義を盾に、間違いを犯していたかも知れない」
エータは、二人に心からの感謝を込めて言った。
「一人でも多くの人を助ける。その為に最善を尽くす。二人に誓うよ」
目に光が戻り、大粒の涙をこぼすノバナ。
エータの脳内に『ノバナ』の名が表示される。
エータのステータスが、彼女の願いと共に託された。
(ありがとう、ノバナ)
エータは改めて決意を固めた。